(3)それぞれの人生
理永は何度も生まれ変わった。
人間として。
魔女として。
人間とは違う種族として。
時には。
由良が近づくことさえできない場所で。
ひとつひとつの人生は。
同じものではなかった。
生まれる場所も。
育つ環境も。
身体も。
寿命も。
何もかも違った。
理永の匂いと魂を見つけるたび。
由良は思った。
――今回は。
今回こそは、と。
けれど。
やはり。
前世の記憶を持つ理永はいなかった。
ある時は。
生まれたばかりの赤ん坊だった。
由良が辿り着いた時には。
まだ小さな手を握って眠っていた。
その命は。
数日と持たなかった。
あまりにも短い人生だった。
それでも。
確かに。
理永だった。
由良は。
ただ、その小さな寝顔を見つめていた。
何もできなかった。
その子は。
その短い時間を生きた。
それだけだった。
そして。
また別の人生。
理永は。
マーフォークとして生まれた。
海の中。
人間の世界とは違う場所で。
生きていた。
由良は。
海の上から、その存在を感じていた。
深い海。
どこまでも続く青。
その下に。
理永がいる。
匂いと。
魂の気配。
それだけは分かる。
けれど。
姿を見ることはできなかった。
この時、由良は空を飛べることに感謝した。
焼けるような日差しに由良の黒い翼は焼かれ傷んだが海の上をいくらでも進むことができた。
けれど。
海の中で生きるマーフォークの暮らしを。
由良は知らない。
どこへ行ったのか。
誰といるのか。
何をしているのか。
知る術がなかった。
「…………」
海の上を。
由良は何度も飛んだ。
一昼夜を問わず
海岸から遠く離れた場所まで。
理永の気配を探す。
――いる。
まだ。
生きている。
それだけは分かった。
けれど。
それ以上は。
何も分からなかった。
ある日。
いつものように。
海の上を飛んでいると。
ふと。
理永の気配が強くなった。
由良は。
思わず海面へ目を向ける。
けれど。
見えない。
波があるだけだった。
「…………理永」
届かない。
当然だった。
海の中と。
空の上。
生きている場所が違う。
由良は。
しばらく海を見つめていた。
そして。
静かに目を閉じる。
――生きている。
それが分かるなら。
今は、それでいい。
長い年月が過ぎた。
マーフォークもワービースト同様、長命だった。
人間なら。
何度も人生を終えるほどの時間。
理永の気配は消えなかった。
由良は時々。
海へ来た。
何をしているのかも分からない。
窺い知ることは出来なかった。
どんな顔で笑っているのかも。
誰を愛しているのかも。
家族や子供がいるのかも。
何も。
分からない。
ただ。
生きている。
そのことだけを。
確かめに来ていた。
そして。
ある日。
海の中から。
理永の気配が消えた。
「…………」
由良は。
その瞬間だけで。
分かった。
死んだのだと。
探す必要はなかった。
見つける必要もなかった。
ただ。
分かってしまった。
長い間。
確かにそこにあった魂の気配が。
もう。
ここにもない。
「…………そうか」
由良は。
海を見下ろした。
波は。
何も知らないように揺れている。
その下に。
もう理永はいない。
最後まで。
どんな人生を送ったのか。
由良は知らなかった。
それでも。
その人生も。
確かに理永のものだっただろう。
そして。
また次の人生が始まる。
今度は。
どこだろうか。
どんな姿で。
どんな場所で産まれ。
どんな人たちに囲まれて生きるのだろう。
由良は。
海を離れた。
そして。
また探し始めた。
何度でも。
何度でも。
理永が生まれる限り。
――今回は。
そう願いながら。
―――――――――――――――――――
そして現在。




