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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第9章 | 『ルミナス』
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(5) ――引かなかった理由

(ルミナス視点)


龍神殿の会議室は、静かだった。


「……じゃあ、現地を見てくるね」

リエルは、いつも通りの調子で言った。

軽く、明るく、散歩にでも出るように。


彼女は椅子から立ち上がり、わずかに身体を揺らす。

その瞬間、青藍が反応する。

迷いはない。

リエルも、迷わない。


その腕が向かった先は、自分ではない。

青藍だった。

「お願い」

短い一言。

説明も理由もない。

日常の延長。

リエルは彼の腕の中で、少しだけ姿勢を整え。

無邪気に、楽しそうに笑う。

「いってきまーす」

その声は、いつも通り明るかった。


―――――――――――――――――――


ルミナスは、その一部始終をいつもの様に見ていた。


呼ばれなかったことに、驚きはなかったし

彼女が誰に身体を預けるか

それを決めるのは、いつだってリエル自身だったから。



かつて、空を覆い、

煉獄の均衡すら揺らした存在が、

今は、彼の腕の中にすっぽりと収まっている。

その事実に

ルミナスは、視線を伏せる。


理解はしていた。

これは異変ではなく、

続いてきた結果だということを。


削れた身体以外はいつも通りだった


すべて――


だからこそ――





この瞬間が、

皆が――

動いている彼女を目にした、最後だった。


―――――――――――――――――――


世界は、まだ回っている。

均衡も、保たれている。

それでも――

何かが、確実に、引かれなかった。

それが、

この日、止まらなかった理由だった。


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