(4) ――与えられていたもの
(ルミナス視点)
与える、与えられる、という行為に
これまで疑問を持ったことはなかった。
世界は循環する。
流れは滞らせてはならない。
過不足が生じれば、修正する。
それが役割であり、当然の営みだ。
だから、目の前で起きていることも
最初はその延長として見ていた。
リエルの掌にある宝玉。
淡く、しかし確かに光を宿すそれは
一つとして同じ色を持たない。
龍鱗
加工され、形を与えられ、
装具として機能するために最適化されたもの。
循環の一部として見れば、合理的ですらある。
(……合理的、か)
言葉が、思考の内側でわずかに引っかかった。
「これで、よし」
リエルは軽く息を吐き、
満足そうにそれを見下ろしている。
その表情に、躊躇はない。
誇示も、悲壮も、自己憐憫もない。
ただ――
「役に立った」という安堵だけがあった。
「リエル、もう十分だ」
気づけば、声が出ていた。
命令ではない。
制止というより、調整に近い言葉。
「君が削れる必要はない」
彼女は、きょとんとした顔でこちらを見る。
「……削れてる?」
その反応が、
胸の奥に、静かに沈んだ。
彼女は自分の身体を見下ろす。
手足を確かめ、視線を巡らせる。
「ほら、ちゃんと見えるし」
見えている。
立っている。
歩けている。
機能的には、問題はない。
――問題がない、はずなのに。
「それに……」
リエルは一歩、こちらへ近づいた。
いつもより、ほんの少しだけ。
「ルミナス様が綺麗でいてくれるなら、それでいいの」
その瞬間、
何かが、理解として形を結びかけた。
怒りでも拒絶でもない。
感情として分類する必要も、まだなかった。
ただ――
こちらに向けられたものの量が、
想定を超えていた。
与えることを、
彼女は疑っていない。
削ることを、
損失として認識していない。
それは犠牲ではない。
交換でもない。
契約ですらない。
ドラゴンは、光るものを集める。
澄んだものを囲い、
守り、
自分の世界に置く。
ドラゴンが、そういう生き物だという知識はあった
ルミナスは、
彼女の世界において
最初から“そこに置かれていた”。
「少し削れるだけで済むなら、安いものよ」
言葉は軽い。
だが、内側では
確実に何かが欠けている。
それを――
彼女だけが、数えていない。
(……これは)
名前は、まだ出てこない。
循環ではない。
暴走でもない。
誤差とも呼べない。
ただ、
自分が知らないうちに
受け取っていたという事実だけが、
静かに残った。
世界は、今日も整っている。
煉獄は管理され、
均衡は保たれている。
それでも。
彼女が背を向けたまま
次の宝玉に手を伸ばすのを見て、
ルミナスは一歩も動けなかった。
与える者は、振り返らない。
削れる者は、減った数を数えない。
そして――
受け取ってしまった者だけが、
その重さを
後から理解する。
今は、まだ。
ただ、胸の奥に
静かな違和感として沈めるしかなかった。




