(1)金色の炎
街から少し離れた場所。
人の気配もまばらな、静かな土地だった。
夜明け前の空気は冷たく、草葉には細かな露が残っている。
その場所で――
ひとつの炎が揺らめいていた。
赤ではない。
青でもない。
暗闇の中で、静かに輝く。
金色の炎。
風が吹いても消えない。
揺らめきながら、ただそこに在り続けている。
やがて。
炎の中心に、小さな光が生まれた。
淡い光はゆっくりと形を持ちはじめる。
小さな手。
小さな足。
そして――
ひとりの赤子。
金色の炎に包まれたまま、静かに眠っている。
泣き声はない。
ただ、小さな胸が規則正しく上下していた。
炎が、その身体を包む。
まるで守るように。
やがて金色の光が少しずつ薄れていく。
炎は赤子の身体へ溶けるように消えていった。
最後に残ったのは、ひとすじの光。
それも夜明けの空へ吸い込まれるように消えた。
静寂。
そこにはもう、炎の痕跡さえない。
ただ――
ひとりの赤子だけが残されていた。
キラキラと輝くアメジスト色の髪。
深みのある同じ色をした瞳は、今はまだ閉じられている。
小さな指が、何かを探すようにわずかに動いた。
けれど。
その手に触れるものはない。
風が吹くと遠くで、街の鐘が鳴った。
ひとつ。
また、ひとつ。
新しい朝が始まる。
それから――
長い時が流れた。
赤子だった少女は、すくすくと成長した。
小さな身体は、少女へ。
少女はやがて――
美しいうら若き魔女となった。
アメジスト色の髪が、朝の光を受けて静かに揺れる。
その瞳は、穏やかに遠くを見つめていた。
彼女はまだ知らない。
自分が何者なのか。
なぜここに生まれたのか。
自分の中に、何が眠っているのか。
何ひとつ。
ただ今日も。
静かな街外れの小さな家で、彼女は目を覚ます。
いつものように。
朝が来たから。
それだけだった。




