(3) ――見守る側の日常
8章(1)と同時刻
(ルミナス視点)
朝は、いつも通り始まる。
光量、気流、結界の安定。
問題なし。
今日も世界は平穏だ。
理由は明確。
大きな歪みが、発生していない。
(……騒がしいな)
視線を上げると、リエルがいた。
いつもの場所。
いつもの距離。
いつもの熱量。
何かを抱え、何かを語り、
途中で別の話題に飛び、
最後はよく分からない満足感に包まれている。
楽しそうだ。
少なくとも、本人は。
「……元気だな」
独り言に近い声。
返事は返ってこない。
それでいい。
リエルは、こちらを見ていないようで、
きちんと見ている。
三歩以上は近づかない。
――たぶん。
(昨日は、少し近かった気もするが)
気にするほどではない。
日常の範囲だ。
今日も判断を下す。
循環に必要な流れを見て、
必要な分だけ、祈りを捧げる。
それは願いではない。
感情を込めるものでもない。
世界が回るために、
欠けてはならない動作を、正確になぞるだけだ。
必要な場所に、
必要なだけ触れる程度に。
視界の端で、光が揺れた。
リエルの衣の隙間から、
わずかに覗く龍鱗が、朝の光を受けてきらめいている。
宝石のような輝きではない。
ただ、そこに在ることを主張する、静かな反射。
静かで、確かな反射。
宝石のような誇示はない。
ただ、世界に馴染むように光を返している。
――綺麗だな、と思った。
理由はない。
意味づけもしない。
ただ、そう感じただけだ。
その感覚は、胸の奥にすっと落ちて、
何も波立たせないまま、そこに残った。
問題はない。
違和感もない。
世界は、今日も整っている。




