(4)約束
(視点:由良)
淡い金色の光は、空へ溶けるように消えていった。
由良は、その行方を静かに見つめていた。
追うことはできない。
呼び止めることもできない。
ただ。
見送ることしか、できなかった。
「……」
やがて視線を落とす。
そこには、少女が眠っている。
もう、その身体に魂はない。
それでも、不思議なくらい穏やかな表情だった。
まるで。
長い旅を終え、ようやく眠りについたように。
由良は静かに膝をつく。
震える指先で、少女の手へ触れた。
もう温もりは失われていた。
それでも。
その手を包み込む。
「……ごめん。」
小さく零れた声は、静かな研究室へ溶けていく。
「守るって、約束したのに。」
返事はない。
それでも。
由良は言葉を続けた。
「また……間に合わなかった。」
理永の時も。
少女の時も。
手を伸ばした。
届くと信じていた。
けれど、その指先は最後まで届かなかった。
「……俺は。」
唇を噛み締める。
自分の無力さだけが、胸を締めつける。
あの時。
少女は笑っていた。
自分を見て。
安心させるように。
「大丈夫」
そう言いたかったのかもしれない。
けれど。
その答えを聞くことは、もうできない。
「……ありがとう。」
自然と、その言葉が零れた。
守れなかった。
それでも。
最後まで自分を守ろうとしてくれた。
その想いだけは、確かに届いていた。
由良は少女の手をそっと胸の上へ戻す。
乱れていた前髪を静かに整える。
眠りを妨げないように。
優しく。
「……ゆっくり休め。」
その声は、とても穏やかだった。
ベラトリスは何も言わない。
静かに、その姿を見守っている。
由良はゆっくりと立ち上がった。
蜂蜜色の瞳は、まだ悲しみに揺れている。
それでも。
その奥には、ひとつだけ消えない光があった。
「……必ず。」
小さく呟く。
「今度こそ、お前を見つける。」
いつ生まれるのかは分からない。
どこに生まれるのかも分からない。
何年。
何十年。
何百年かかるのかさえ分からない。
それでも。
探し続ける。
それだけは、もう迷わなかった。
由良は胸元へ手を伸ばす。
そこには、小さな箱がある。
千年前。
理永が遺した、金色の種。
理永を失ったあの日から、一度も手放さなかった宝物。
箱をそっと握り締める。
「……また会おう。」
その言葉は、誓いだった。
別れの言葉ではない。
巡る命を信じる者だけが口にできる、未来への約束。
灰の塔へ、静かな風が吹く。
その風は、どこか懐かしく。
まるで遠い場所から、優しく背中を押してくれているようだった。




