(15)終焉
(視点:由良)
赤い魔力が、奔流となって迸る。
床を蹴るたび、石畳が砕け散る。
一瞬。
その距離は消えた。
青年――アストラルは静かに由良を見つめる。
「攻撃行動。」
淡々と告げる。
「観測を継続。」
由良は答えない。
もう、言葉は必要なかった。
右拳を握り締める。
吸血鬼として研ぎ澄まされた力が、その一撃へ集約されていく。
「終わりだ。」
低く呟いた、その瞬間。
拳が放たれた。
轟音。
アストラルの掌が受け止める。
だが。
今度は止まらなかった。
「……。」
群青の瞳が、わずかに揺れる。
掌へ、小さな亀裂。
続いて腕へ。
白い外套が裂ける。
「損傷を確認。」
初めて告げられた言葉。
由良は止まらない。
二撃。
三撃。
四撃。
赤い残光だけが研究室を埋め尽くす。
轟音が続き、灰の塔そのものが震えた。
アストラルの身体へ、無数の亀裂が刻まれていく。
「演算。」
「修正。」
「――」
そこで、言葉が止まった。
初めてだった。
あの観測者が、続きを告げられなかったのは。
群青の瞳が、静かに揺れる。
まるで理解できない何かを前にしたように。
その視線は、静かに由良を映していた。
「……未確認。」
その一言だけが零れた。
由良は踏み込む。
もう迷いはない。
もう、二度と。
誰も失わないために。
「終わらせる。」
最後の一撃が放たれる。
赤い魔力が一直線に走り、アストラルの胸を貫いた。
静寂。
青年の身体へ、無数の亀裂が広がっていく。
白い陶器が砕けるように。
静かに。
音もなく。
群青の瞳が最後に由良を見つめた。
「……観測。」
短く零れた声。
「継続――」
その言葉は最後まで続かなかった。
次の瞬間。
青年の身体は白い光となって崩れ落ちる。
光の粒は静かに舞い上がり、やがて何も残さず消えていった。
研究室を満たしていた圧力も、ゆっくりと消えていく。
由良は立ち尽くしていた。
拳を握ったまま。
少女を守れなかった、その拳を。
静寂だけが、灰の塔を包んでいた。




