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(5)処理
(視点:少女)
静寂は、まだ続いていた。
誰も動かない。
青年は完成した術式を見つめたまま、わずかに瞳を伏せる。
「術式。」
短い沈黙。
「記録照合。」
少女には意味が分からない。
けれど、その声が響くたび、胸の奥がざわめいた。
「一致せず。」
「再演算。」
群青の瞳が静かに少女を映す。
まるで、少女自身ではなく、その奥にある何かを見ているようだった。
少女は無意識に一歩だけ後ろへ下がる。
由良がその前へ立つ。
「下がれ。」
低い声。
青年は由良を見つめることなく、淡々と言葉を続けた。
「術式維持核、確認。」
少女の肩が小さく震えた。
維持核。
それが自分を指していることを、本能だけが理解していた。
由良の瞳が鋭く細められる。
「……何をするつもりだ。」
青年は答えない。
ただ、事実だけを告げる。
「世界記録と不一致。」
「逸脱値、許容範囲外。」
静かな沈黙。
そして。
「修正処理を開始する。」
その一言が落ちた瞬間だった。
研究室を満たしていた空気が、音もなく変わる。
床に描かれた術式が微かに震える。
金の炎が揺らぎ、空間そのものが軋み始める。
少女は思わず息を呑んだ。
「……っ。」
由良の姿が消える。
少女を庇うように、その前へ躍り出る。
だが――。
青年の群青の瞳は、一度も由良を見なかった。
見つめているのは、最初から最後まで。
少女、ただ一人。




