(9)理由
(視点︰少女)
その日の夜もいつもと変わらず、
少女は机へ向かい、今日一日の観測記録を整理していた。
由良との会話。
研究資料。
新しく得た情報。
それらを一つずつ書き留めていく。
やがて。
羽根ペンが止まった。
「……」
紙の端へ視線が向く。
そこには、今日一日の出来事とは関係のない言葉が並んでいた。
『窓を見る』
『由良を確認』
『安心』
少女は目を瞬かせる。
「安心……?」
思わず、その文字を見つめる。
どうして、そんな言葉を書いたのだろう。
少女は今日のことを思い返す。
資料を読んでいた時。
考え事をしていた時。
何気なく窓を見た時。
気付けば、由良の姿を探していた。
そして。
姿が見えた時。
胸の奥の小さな違和感が、静かに消えていった。
「……」
少女は首を横に振る。
違う。
安心したわけではない。
観測対象がいつも通りそこにいただけ。
研究が継続できることを確認しただけ。
それだけのはずだった。
少女は新しい紙を取り出す。
そこへ、一行だけ書く。
『由良への関心』
そして、その下へ理由を書き並べていく。
・金の炎が反応する。
・理論では説明できない。
・理永の研究に空白がある。
・唯一の観測対象である。
書き終えて、静かに頷く。
「……うん。」
これで説明できる。
自分が由良を気にする理由は、すべて研究に繋がっている。
それ以上でも、それ以下でもない。
少女は紙を閉じ、小さく息を吐いた。
「研究だから。」
その一言は、自分へ言い聞かせるようでもあった。
その時。
――ふわり。
塔の奥で。
金色の炎が、静かに揺れる。
少女は振り返る。
炎は何も語らない。
ただ。
穏やかに揺れ続けている。
「……また。」
少女は少し困ったように笑う。
その意味は、まだ分からなかった。




