(2)与えるもの、削れるもの
(主視点:リエル)
与えることに、疑問を持ったことはなかった。
世界は整い。
今日も世界は、澄んでいる。
――
ルミナス様は、今日もあんなに綺麗
最高だ。
「これで、よし」
リエルは小さく息を吐き、掌の上の宝飾を見下ろした。
淡く光る宝玉。
色は一定ではない。
蒼、翠、紫、金――
どれも微妙に異なり、同じものは一つとしてない。
それは、龍鱗だった。
剥ぎ取る瞬間の感覚は、もう覚えていない。
痛みは、あった気がする。
でも、それ以上に――
「役に立つ」という確信の方が、ずっと強かった。
龍鱗は宝玉になり、
宝玉は装具になり、
装具は、ルミナス様を守る。
杓子。
十字架。
護符。
祝福の媒体。
「鱗のままだと、扱いづらいでしょ?」
そう言って笑ったとき、
止めた声があった。
「リエル、もう十分だ」
穏やかな声だった。
命令ではなく、願いに近い響き。
「君が削れる必要はない」
その言葉に、リエルはきょとんとした。
「……削れてる?」
自分の身体を見下ろす。
まだ立てる。
歩ける。
手も、足も、視界もある。
「大丈夫よ。ほら、ちゃんと見えるし」
見えるのは、ルミナス様だ。
視界にはルミナス様が映る、幸せだ
それ以外は、重要ではなかった。
「それに――」
リエルは一歩、近づく。
その距離は、いつもより少しだけ近かった。
「ルミナス様が綺麗でいてくれるなら、それでいいの」
その瞬間、彼の表情が揺れた。
怒りではない。
拒絶でもない。
困惑と、痛み。
そして――
どうしようもない、理解。
彼は知っている。
リエルが、犠牲だとは思っていないことを。
与えることは、喜びだ。
尽くすことは、当然だ。
守ることは、本能だ。
ドラゴンは、光るものを集める。
綺麗なものを囲い、
汚れを嫌い、
澄んだものを守る。
ルミナスは、
リエルにとって
世界でいちばん、澄んでいた。
「ねえ、見て」
リエルは煉獄の方角を指差す。
遠く、見えないはずの場所。
「今日も、ちゃんと均衡が保たれてる」
誰かが落ち、
誰かが耐え、
誰かが祈っている。
その全てが、
ルミナス様に辿り着かないように。
「少し削れるだけで済むなら、安いものよ」
言葉は軽い。
けれど、身体の内側で
何かが、確実に欠けている。
それでも、リエルは気にしない。
鱗は、まだ残ってる。
宝玉は、まだ作れる。
世界は、また整う。
――ルミナス様が、そこにいる限り。
彼が立ち尽くしていることに、
リエルは気づいていなかった。
与える者は、振り返らない。
削れる者は、減った数を数えない。
そして、
受け取ってしまった者だけが――
その重さを、後から知る。




