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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第7章|煉獄の底で
27/201

(2)両親という記憶

(主視点:ルミナス)


両親のもとで育った弟と、

自分は、同じ時間を生きていない。

それを、ルミナスは幼い頃から知っていた。


生まれてすぐ、

彼は“見られた”。

祝福ではない。

期待でもない。

ただ、価値を量る視線。

エルピス。

星層に近い存在ほど、彼の存在を早く嗅ぎ取った。


そしてもうひとつ。

もっと厄介なものが、彼を狙っていた。

――アストラル。

理由は分からなかった。

理由を問う前に、

命が危ういという事実だけが先にあった。

だから、彼は教会で育った。

父と母の手を離れ、

守られるべき場所で、守られる理由として。

会えなかったわけじゃない。

愛されていなかったわけでもない。

ただ、

同じ屋根の下で、

同じ朝を迎えることが、許されなかった。

祈りの声が壁越しに響く夜、

剣の訓練音が遠くで鳴る朝。

それらはすべて、

「知っているけれど、触れられない記憶」だった。

弟は、両親のもとで育った。

笑って、甘えて、叱られて。

当たり前の時間を、当たり前に重ねていった。

――それを、羨ましいと思ったことはない。

思ってしまったら、

自分が守られていた理由まで、揺らいでしまうから。

それでも、煉獄に立つ今、

ふと浮かぶのは、

父と母が並んで立っていた背中だ。

あの人たちは、選んだのだ。

ひとりの子と共に在る時間と、

ひとりの子を世界から遠ざける決断を。

どちらが正しかったかは、

今も分からない。

ただ――

その結果として、

自分はここに立っている。

落ちてくる魂を受け止め、

循環を繋ぎ、

壊れないように踏みとどまる場所に。

幸福だった記憶は、

彼を救わない。

だが、

選ばれていたという事実だけは、

今も胸の奥で、重く、確かに息をしている。



―――――――――――――――――――



ルミナスは、立ち続けていた。

煉獄の底で。

世界が落とすものを、すべて受け止めるために。

彼は、知らなかった。

同じ時刻、

別の場所で、

世界を保つために、

ひとりの少女が、

自分を削っていることを。




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