(2)両親という記憶
主視点:ルミナス
両親のもとで育った弟と、
自分は、同じ時間を生きていない。
それを、ルミナスは幼い頃から知っていた。
生まれてすぐ、
彼は“見られた”。
祝福ではない。
期待でもない。
ただ、価値を量る視線。
エルピス。
星層に近い存在ほど、彼の存在を早く嗅ぎ取った。
そしてもうひとつ。
もっと厄介なものが、彼を狙っていた。
――アストラル。
理由は分からなかった。
理由を問う前に、
命が危ういという事実だけが先にあった。
だから、彼は教会で育った。
父と母の手を離れ、
守られるべき場所で、守られる理由として。
会えなかったわけじゃない。
愛されていなかったわけでもない。
ただ、
同じ屋根の下で、
同じ朝を迎えることが、許されなかった。
祈りの声が壁越しに響く夜、
剣の訓練音が遠くで鳴る朝。
それらはすべて、
「知っているけれど、触れられない記憶」だった。
弟は、両親のもとで育った。
笑って、甘えて、叱られて。
当たり前の時間を、当たり前に重ねていった。
――それを、羨ましいと思ったことはない。
思ってしまったら、
自分が守られていた理由まで、揺らいでしまうから。
それでも、煉獄に立つ今、
ふと浮かぶのは、
父と母が並んで立っていた背中だ。
あの人たちは、選んだのだ。
ひとりの子と共に在る時間と、
ひとりの子を世界から遠ざける決断を。
どちらが正しかったかは、
今も分からない。
ただ――
その結果として、
自分はここに立っている。
落ちてくる魂を受け止め、
循環を繋ぎ、
壊れないように踏みとどまる場所に。
幸福だった記憶は、
彼を救わない。
だが、
選ばれていたという事実だけは、
今も胸の奥で、重く、確かに息をしている。
ルミナスは、立ち続けていた。
煉獄の底で。
世界が落とすものを、すべて受け止めるために。
彼は、知らなかった。
同じ時刻、
別の場所で、
世界を保つために、
ひとりの少女が、
自分を削っていることを。




