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『救済ではなく、継承の物語』― アストラル継承記 ―  作者: 龍の末裔
第49章|金の火の影
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(6)過去の記録

(視点︰少女)


机の上に、見慣れない紙の束が置かれていた。


いつもの記録とは違う。

紙の色も、質も、少しだけ古い。


「……これ」


手に取る。


端が擦れている。

何度も開かれた形跡。


「見ていい」


背後から、ベラトリスの声。


少女は一瞬だけ振り返り、すぐに視線を戻した。


「……はい」


ゆっくりと、最初の一枚を開く。


『対象:金色炎反応

 発現条件:不明

 持続:安定せず』



少女の指が止まる。


「……金色?」

小さく呟く。


自分の手元を見る。

同じ色。

同じ揺らぎ。


ページをめくる。


『対象:非生体(石)

 変化:表面の整合

 再現性:低』


「……」

さらに、めくる。


『対象:植物

 変化:状態回復傾向

 限界あり』


見覚えのある内容。


いや。

「……同じ……?」


少女の眉が、わずかに寄る。


紙の上の文字。

記録の形式。

観察の視点。


どれも、自分と似ている。


「……これ」


もう一度、紙を見る。


「誰の、記録ですか?」



背後で、少しだけ間があった。

長くはない。

だが、意図的な沈黙。


「……過去の研究記録だ」

それだけが返る。


少女は納得しない。

けれど、問いを重ねる前に、視線を落とす。


続きを読む。


『対象:生体(小動物)

 反応:一時的活性

 不可逆領域には干渉不可』


「……不可逆……」


小さく繰り返す。

その言葉が、少しだけ引っかかる。


ページをめくる。

手が、少しだけ速くなる。


『特異反応確認

 条件:感情変動(大)

 結果:――』


そこで、途切れている。

書きかけのまま。


「……?」


少女は目を細める。

続きがない。

それ以上、何も書かれていない。


「ここで、終わってる……?」

思わず、声に出る。


「終わっている」


ベラトリスの声は、変わらない。

感情は乗らない。


少女は、もう一度その行を見る。


空白。


書かれなかった結果。


「……失敗、ですか?」


振り返らずに、問う。


「――成功だ」


短く、返る。


少女の手が止まる。


「……え?」


振り返る。


ベラトリスは、いつも通りの表情で立っている。


揺れはない。


「成功……?」

「記録としては、そう分類されている」


その言い方に、違和感が残る。


「……でも、結果が書いてないです」



「……書けなかった」


――沈黙が落ちる。

少女は、もう一度紙を見る。


成功。

でも、記録できなかった?


「……そんなこと、あるんですか?」

小さく、呟く。


「ある」

ベラトリスは迷わない。


「観測できない領域に干渉した場合、結果は残らない」


「再現もできない」


少女は、言葉を整理する。

理解しきれない部分が残る。

けれど。


「……それを、再現するってことですか?」


「そうだ」


簡潔な肯定。


少女は、ゆっくりと息を吐く。

視線を、もう一度紙へ落とす。


同じ金の炎。

同じような現象。


そして――

記録されなかった“成功”。


「……」

胸の奥に、小さな違和感が残る。

理由は分からない。

けれど。


「……これをやった人って」

言いかけて、止まる。


聞くべきかどうか、一瞬だけ迷う。


「……知りたいか」

ベラトリスの声が、先に落ちる。


少女は、少しだけ目を伏せた。

考える。


「……少しだけ」

正直に答える。


ベラトリスは、ほんのわずかに間を置く。


「……優秀な魔女だった」


それだけを言う。


それ以上も、語らない。


少女は、その言葉を受け止める。

納得はしない。

けれど。


「……」

紙を閉じる。


「……続き、やります」

小さく言う。


ベラトリスは、頷く。

それでいい。


少女は机へ戻る。

ペンを取り、紙を開く。


手の中に、金の炎を灯す。

ゆらり、と揺れる。


さっきまでと、同じはずの光。

けれど。


「……」


ほんの少しだけ。

見え方が、変わっていた。


過去の誰かが、触れていたもの。

そして。

自分が、今触れているもの。


それが同じだと、証明はできない。

けれど。


「……」

指先の火を、見つめる。


消えない。

揺らぎながら、そこにある。


まるで――

何かを待っているみたいに。


少女は、ゆっくりと息を吸う。


研究は続く。

過去に触れながら。


まだ見えないものを、追うために。






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