(4)残り続けるもの
(視点︰由良)
気づけば、同じ場所に戻っている。
小屋の中。
変わらない景色。
そして、手の中の箱。
それが、当たり前になっていた。
「……」
指先で、触れる。
それだけで、呼吸が整う。
乱れていたわけでもないのに、自然に落ち着く。
もう、確かめる必要もなかった。
そういうものだと、分かっている。
「……」
ゆっくりと、息を吐く。
何も問題はない。
不安も、焦りもない。
静かで、穏やかで。
――空っぽのまま。
「……」
視線が、わずかに揺れる。
頭の奥で、何かが引っかかる。
消えない違和感。
けれど、形にならない。
「……」
箱を、少し強く握る。
それだけで、思考はすぐに静まる。
深く潜りかけたものが、浮かび上がる前に止まる。
「……楽だな」
ぽつりと、零れる。
理由は考えない。
考えなくても、分かっている。
これがあれば、大丈夫だと。
それだけでいい。
手放す、という選択は浮かばない。
考えようとしたことすら、ない。
最初から――存在していないみたいに。
「……」
立ち上がる。
少しだけ、外に出る。
風が当たる。
空気が動く。
それでも。
何も、変わらない。
「……」
しばらく立って、また戻る。
自然に。
迷いもなく。
最初から決まっていたみたいに。
小屋へ。
箱のある場所へ。
座る。
同じ位置。
同じ姿勢。
そして、同じ動きで――
箱に触れる。
それで、完結する。
「……」
目を閉じる。
静かだ。
何も浮かばない。
何も思い出さない。
何も――必要としない。
ほんのわずかに。
引っかかる。
何かを忘れている感覚。
大切なものだった気がする。
「……」
けれど。
それ以上は、続かない。
箱に触れている限り、そこには届かない。
「……」
ゆっくりと、息を吐く。
落ち着いている。
安定している。
崩れない。
それでいい。
それがあればいい。
指先の温度だけが、確かなものとして残る。
それだけが、自分を繋いでいる。
「……」
もし、これを手放せば。
どうなるのか――
考えない。
考えたくもない。
静かに、時間が過ぎていく。
変わらないまま。
変わらないことを、選び続けるまま。
気づかないまま。
もう、戻れない位置にいることにも。
「……」
それでも。
手だけは、離さなかった。
最初から、そう決まっていたみたいに。
ずっと。
――それが、理由になっていくとも知らずに。
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