79 もの言いたげな黒い瞳
第四限、三年生向けの授業。
演習課題には今日も居残り組がいる。
示し合わせたのか、その中に競馬サークルのメンバーたちは全員いる。
一人去り、二人去り、残るは競馬サークルメンバー含め八名。
もう、まともに色鉛筆は動いていない学生が多い。
誰が先生と一緒に下校するか、我慢比べモード。
ブルーピンク姉妹はせっせとペンを動かしているが、スズカはティファニーカラーの数珠のようなブレスレットをいじっているし、ミカンは眼鏡をはずしてしまっている。
ンラナーラはと言えば、ローポニーテールを束ねなおしている。
「十分経った。できた人は提出して」
と、声をかけても、立ち上がる素振りなし。
「じゃ、集めるね」
と言って、ようやく我慢大会は終了したものの、ここからが本当の勝負。
どこかで待つか、この場でアピールするか。
果たして、ブルータグとピンクタグが、教壇の横で、これ見よがしに他の学生が提出したプリントを見始めた。
わ、この子、すごい書き込み量、とか言いながら。
サークルメンバー以外は、じゃさよなら、と少し恨めしそうに言って、出て行った。
本当に困る。
なにかいい方法はないものか。
何年も考えているが、妙案はなし。
「さあ、ブルータグとピンクタグは、机を整列させろ。黒板消しはミカン。あ、ンラナーラだ。ミカンはこの教材をそこになおす。スズカは、窓を閉めてブラインドを下ろせ。んで、みんなでごみを集めろ」
ええー、私たちがしたんじゃないのに、などと言いながら、学生たちは動き出す。
と、そこへガリが顔を出した。
「まあ、あなたたち、感心ね」
「ガリさん、何とか言ってくださいよ。居残りした罰、やらされてます!」
「いいじゃない。さっさとやっちゃいなさい」
ガリは昼間の話の続きをしたかったのだろう。
しかし、事情を察して、ちょっと覗いてみただけですから、と出て行った。
あえて呼び止めなかった。
学生たちに寄り添うことが優先。
スズカのもの言いたげな黒い瞳と目が合った。
きっと、あの話だ。
大学正門前。
ピストン輸送の大学バスを待つ学生たち。
友達を待ちながらスマホをいじっている学生や、彼氏の車に乗り込む彼女。
いつもの光景。
穏やかで平和な日常。
正門前のクスノキ並木の下り坂。
いずこからか、モクセイの香り。
学生数人を乗せたタクシーが追い越していく。
スズカ、ブルータグとピンクタグ、ミカン、そしてンラナーラ。
だんだん涼しくなってきたねー、などと言いながら一緒に下校。
例の件なんですけど、とスズカが話し出した。




