表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/247

78 ミリッサ、私、どう、思う?

 ンラナーラ、とは変わった通称だ。

 当て字はないのだろう。

 出席簿には名前と読み仮名の欄があるが、両方にカタカナで印字されている。


 少しドキッとするほどの赤い目。シナモンカラーの長い前髪が左目を隠し、大きめの右目が上目遣いで見つめてくる。

 いつも俯き加減で、巻き肩。背を丸めている。

 小柄な体を、抹茶色やグレージュ系といった彩度の低い服が包み込んでいる。


 昨秋、二年生向けの授業は受講していなかった。

 三年生からの入学かもしれない。よくあることだ。


 物静かな娘である。

 低い独特の鼻にかかった声でゆっくり話す。

 日本語に慣れていないのか、たどたどしい。

 こちらから話しかけないと、自分から話しかけてくることはない。



「どう? 機嫌よくやってる? 大学生活、楽しい?」


 妙な振りだが、それほど、この娘の印象は薄い。

 誰かと一緒にいるのを見たことはない。教室でも学食でも、一人座っていることが多い。

 なぜ、競馬サークルに入ってくれたのか、その時の記憶さえ、すでにあいまいだ。

 その薄い唇から白い歯が覗いた。


「機嫌、いい、ですラ」


 それだけ。

 話題は続かない。


 と、思っていた。


 が、急に饒舌になったンラナーラ。


「ミリッサ、私、どう、思う?」

「ミリッサ、食べる、何が、好き?」

「ミリッサ、結婚、してる? 好きな人、いる?」

「教えること、おもしろい?」

「映画、とか、見る?」


 などと連発され、面食らってしまった。


「あ? 私、変なこと、言った?」

「初めて、ミリッサと、話すラ」

「ミリッサ、眉毛、変。そこだけ、一本、伸びてる、いつも」

「それ、お守り、見せて」


 前も、足元さえ見ていない。

 赤い特大の右目が、見つめて放さない。


「ダメ」

 お守りは見せられない。

 それだけ答えるのが精いっぱい。


 が、

「それ、ミャー・ラン、の」


 おお?

 知ってるのか。

 話したことはないと思うが。


 声のトーンを上げ、畳みかけてくるンラナーラ。

「そこから、ミャー・ラン、呼ぶ、する?」


 えっ?

 そこまで知っているということは。

 それに、ランと呼ぶのではなく、フルネームのミャー・ランと言ったぞ……。


「ンラナーラ、君はもしかして」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ