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70 恩返しか…… それなら、私こそ……

 いつものようにルリイアのマンションでミーティング。

 始まるや否や、守衛ライトウェイから着信があった。


 すみません。お休みのところ。

 今、ちょっとお時間、いいでしょうか。

 先生、イオのこと、警察に相談してくださったんですね。

 ありがとうございます。


 と、言い出した。


「刑事が来ましてね。いろいろ話を聞いてくれたんですよ。さすが先生、持ち込まれるところが違うんですね、きっと」

「いえ、そんな大した知り合いはいませんよ」

「ご謙遜を。私らが言うのと、全然、扱いが違いますな」


 もうミーティングが始まっている。

 電話を切ろうとしたが、まだライトウェイは話したいことがあるようだ。


「それで、刑事が何でも話せというものですから、同じことを先生にも、と思いまして」

「はい」

 と言うしかない。


「有休を取ったりしてたんですよ。以前はそんなこと、しなかったのに」

「はい……」


「お稽古事でも始めたのかって聞きましたら、巡礼だって言うんですよ」

「それって」

「いや、ようわかりません。でも、んっと、先生だから言いますけど、どうも、好きな人ができたみたいな感じもあって……」

「……」

「能勢の地酒、秋鹿を土産にもらいましてね。土産とか、そういうの、今までする子じゃなかったですし」

「お酒、ですか……」

「そうなんですよ。夏前ごろだったかな」

「で、それから、見かけてない……」

「記憶はあいまいですけど、学校が夏休みになったんで、それきり会ってないし、声を聞いてないと思うんです」



 本当にご心配ですね。

 としか言いようがないが、胸の中に吐き気を催すものが沈んできた。


 巡礼……。

 なんだ、それ……。

 オカルト? スピリチュアル?

 それを、あのイオさんが……?

 それとも、大いに観光的なもの? それならいいのだが。




 ジンが議題を進行している。


 今日は在学生だけでなく、旧メンバーも勢揃いしている。

 ガリもいるし、前部長フウカやハルニナやメイメイが顔を出し、ルリイアさえ冒頭から参加してくれている。

 不参加はランのみ。


 ガリとフウカは隅に座って静かにしている。

 ガリは細い目を順にメンバーに向け、フウカは黙ったまま目を伏せている。


 きっと、ジンとアイボリーが手分けして、誘いまくったのだろう。

 とても大変なことを話し合うので、ぜひ参加して、助けてほしい、と。


 今、話されているのは、定例の議題。

 すぐ終わらせるつもりか、ジンの進行はスピーディ。

 そのあとのことを理解しているので、メンバーたちも、冗談を言うでもなく、淡々とした報告。



「じゃ、先週言った件に移るよ」

 と、ジンが話を切り替えた。

「みんな、考えてきてくれた?」


 ボクは、先週、こう言った。

 たこ焼き居酒屋のおじさんが自殺した理由、これをブルータグが知りたい、って聞いた。

 信じられない、ってブルータグは言うんだ。

 だから、ほんとうのことを知りたいって。

 ボクは、なんの役にも立てないかもしれない。

 でも、サークルのメンバーがそう言うんだったら、ボクは、できるだけの協力をしたい。

 ううん。

 協力じゃない。

 一緒にやりたい。一緒に調べたい。

 そのお店に行ったこともなければそのおじさんに会ったこともない。

 たまたま、そのおじさんが死んだときに、その場に居合わせただけ。

 でも、それで十分。

 ボクは、あのおじさんがなぜ死んだのか、知りたい。


 だから、みんなには、協力してほしい。



「あてたりしない。意見のある人は言って」


 すぐに声を挙げたのはアイボリー。

「私もジンと一緒。私も知りたい」


 だって、あそこ、このサークルの創設者、初代部長のおうち、というか経営されてるところ。

 ココミク先輩からは、なにも依頼受けてないけど、経営的な打撃になるかも。

 変な噂が広まってしまうかも。

 なにしろ、パワースポットなんだから。そこで人が自殺したなんて。

 そうならないためにも、本当のことを知ってたら、そんな噂に対抗できるかも。ココミク先輩を安心させてあげられるかも。


 ブルータグは涙ぐんでいる。

 その姉の背をピンクタグが撫でている。


「私、やりたいです」

 と言ったのは今春卒業したスペーシア。

「自分勝手な理由なんだけど、サークルに、みんなに恩返しができるなら、したいです」


 そう言うスペーシアをフウカがじっと見ていた。

 そして、呟いた。


 恩返しか……。

 それなら、私こそ……。


 前部長までがそう言いだしたことによって、大勢はほぼ決まったようなもの。

 しかし、何も発言していない者もいる。

 こんなテーマ、全体で決まったことには従いますよ、ではいけない。

 遊びじゃないのだ。

 楽しくもない。

 将来、自分に何の役にも立たないのだ。

 自慢できる話でもない。

 しかも、成果なく、単なるくたびれもうけになる確率が高い。

 自分の心に正直に、前向きに、取り組まなくてはならない課題。


 さあ、ジン。

 どうさばく?


 ジンは黙って他の発言を待っている。

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