表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/151

第3話 新陳代謝⑤

降恒10時14分  場所:シンの自室


 その日の夜、僕は自室のベッドにうつぶせになっていた。手には、アルフレッドさんから受け取った二人のLOINEアカウントの二次元コードが印字された小さなメモがある。掌に収まるフレモを取り出し、コードにカメラを向ける。すると、“コポリ”という音とともに、目の前に鮮やかなホログラフィックが起動し、二人の名前とアイコンが瞬時に現れた。僕は迷わずメッセージ作成表示を開き、指先で丁寧に文字を紡ぎ始めた。まずは、簡潔ながらも礼儀正しい挨拶と自己紹介。アルフレッドさんからコードを受け取った経緯と、近いうちにゆっくりと話をしてみたいという気持ちを込めた一文を添えた。送信ボタンに触れる直前、僕はディスプレイに映るメッセージをもう一度、じっくりと確認した。小さな誤字や、相手に誤解を与えかねない表現はないか、隅々まで目を凝らした。初めての繋がりだからこそ、相手に与える印象は大切にしたかった。

 指先がそっと送信ボタンをタップすると、端末から控えめな電子音が響き、打ち込んだ文字が浮かび上がった。


 ——これで、デニーさんとアルフレッドさんの元へ、確かに僕のメッセージが届いたはずだ。


 僕は返信が返ってくるのを待つ間、天井を見上げふと、過去を振り返る。個人的にメッセージングアプリで友人を登録したのは、何かの組織に属した時や、試験勉強で知り合った仲間とグループを作る時くらいで、本当に久しぶりの感覚だった。まるで、待ち焦がれていた恋人からの返信を心待ちにするように、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。彼らがどのような言葉を返してくれるのだろうか——期待と、ほんの少しの不安が入り混じった、複雑な感情が胸の中で静かに渦巻いていた。


 ——すぐに返信が来るかもしれない。あるいは、数時間後、もしかしたら明日になるかもしれない。


 ふいに見た窓の外は徐々に暗さを増し、室内の蛍光灯の光だけが、僕の手元の端末を照らしている。返信を待つ間、僕は落ち着かない気持ちを持て余し、何度も無意識に端末の表示を点灯させては確認してしまっていた。

 そんな焦燥感に駆られていると、数分後、予想外にも早くメッセージが届いたことを知らせる通知音が、静かな部屋に響いた。僕は待っていましたとばかりにLOINEを開きメッセージを打ち込んだ。一度、メッセージのやり取りが始まると、その後は驚くほどスムーズに会話が続いた。


 ~アルフレッドさんに対しては~


 アイラブ愛しのマイハニーから誘われました


    デニーの部屋 

 プロフィールを見る


 僕:はじめまして、シン・ヨハン・シュタイナーです。よろしくおねがいします。

 ア:よろしく! いつでもいいぞ

 僕:はい、よろしくお願いします。

 ア:いつでもいいぞ?


 ——この人、本当にこれで会話が成立していると思っているのだろうか?


 ~デニーさんに対しては~

 僕:はじめまして、シン・ヨハン・シュタイナーです。よろしくおねがいします。

 デ:アルフレッドさんから聞いているよ、よろしくっす!

 僕:よろしくお願いします。早速来週に向けての話しなんですけれどデニーさんから何かアドバイスありますか……?

 デ:今のところは混沌だな! よろしく!


 ——は? あんなに熱いことをジェイコブさんに言っていたのに……?


 おそらく、この人は理屈ではなく、感覚で動くタイプなのだろう——だからあんな芸当ができた。僕はそれも踏まえた上で考える必要がある。結局、僕一人で大まかな戦略を考えることになりそうだ。アルフレッドさんのアドバイスとデニーさんの感覚を信じて取り組むしかない、と僕は確信した。

 しばらく思考を巡らせていると、頭の働きが鈍くなり、眠気がせり上がってきた。僕はベッドに身体を横たえると、自然と窓の外に目が向かった。以前にも増して、部屋から見えるアメリア軍の巨大な六角柱の本部は、ひときわ大きく、そして頼もしく見えた。その存在が、まるで静かな守護者のように、僕を包み込んでくれるようなそんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ