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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第6章 商隊護衛

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朝までの時間

人によっては気分の悪くなる展開があります。


仲間がドワーフ産の蒸留酒を煽る。


「ロバート、追い詰められても冷静にしないとだめよ。」

忠告めいた指摘をする。

あの後、高額な宿にそのまま部屋をとった。

部屋まで食事と酒も注文どおり運ばれてきている。


「わかっているさ。」

言葉とは裏腹に仲間は蒸留酒に手を伸ばす。

その手を抑えて指を絡める。

「状況を整理しましょう。ロバート。」

互いに目を見つめた。


冷静に対応すれば切り抜けられそうだが、仲間は冷静さを欠いている。

仲間が無言で私を抱き寄せる。

欲望を吐き出せば男は大抵冷静になる。

少し好きにさせてやるしかなさそうだ。

黙って仲間に口付ける。


多少荒々しくはあったが赤毛より、ずっと良かった。



「改めて状況を整理しましょう。ロバート。」

服の袖に腕を通しながら声をかける。

「ああ、そうだな。」

仲間は起き上がり、ベッドに腰をかけた。


・荒れ地に30名近くの山賊が関所を勝手に設けていて、防衛設備もある。

・領主は兵を出さず、冒険者も、すぐには雇うつもりがない。

・領主は冒険者を雇う代わりに商隊に情報を流した。

・商隊は既に契約済みの冒険者に護衛依頼の一環として山賊討伐を命じる予定。

・少なくとも補給面で妖魔と通じている。


「冒険者6組で何人になる?」

グラスを手に取りつつ、仲間が確認してくる。

「たしか、30名ぐらいになるはずよ。」

グラスに蒸留酒を注ぐ。

到着7組の内1組はこの街が目的地で契約終了していたはず。


「追加の手当もなしに、山賊討伐に従うと思うか?」

仲間はグラスに口はつけず手に持って揺らす。


「契約をたてに迫れば従わざる得ないわ。」

「新米冒険者は違約金請求されるリスクは取れないもの。」

正直、契約上は灰色だが、冒険者の店ギルドへの申し立ては時間も金銭もかかる。

訳あり組には降りる選択肢すらない。


「でも、士気は最低でしょうね。」

私は自分のグラスにも蒸留酒を注ぐ。


このグラスも酒もドワーフの技術が作り出し、ダークエルフが流通させている。


「金貨を見てごらん。世界は既に一つ。」

養父が言っていた。

「問題は誰が手に入れるかだけだよ。」

なら、哀れな生き物が手にしても良いはず。


「ゴルツは、改めて冒険者を募れば損はない。新米レベルなら、いくらでも集まる。」


「ジェフリーも、俺らが負けても損はない。山賊が削れたらそれで良い。」


「時間があれば、妖魔の森の兵站を潰すんだが……。」

仲間がグラスをもてあそぶ。

一人呟く様はまるで、転生者のよう。

思わず笑ってしまう。


「ミケ?」


「まるでレイカみたいだと、思って。」

もう一度笑う。

「策があるわ。ロバート、聞いてくれる?」



「策でも、何でもないなミケ。しかし、本当なのか?」

私はうなずく。

仲間は暫く黙っていたが迷いはないようだ。



「しかし、ジグに何て言ったものかな。」

仲間がぼやく。

困った様子はないが乗ってみせる。


「一度ぐらい、貴方が黙っていれば、いくらでも言いくるめられるわ。」

「もし縒りを戻したいとかなら別だけど。」

私がそう答えると、仲間は肩を竦めた。


「俺は黙っていることにするよ。ただ、まだ朝までもう少し時間がある……。」


「そうね、そちらの方が問題だわ。」

私達は、もう少し夜を楽しむ事にした。

それで問題は解決する。

人によっては気分の悪くなる展開があります。

人によっては刺さる展開があります。

というのが難しいところです。


私の黒歴史がまた1ページ。

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