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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第19章 卵の欠片

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全権大使

デグ視点です。

 自分達が夕食会前の腹ごしらえを終えた半刻後、[魅惑の伯爵夫人]の前に馬車が停まった。そして先程訪ねて来た聖騎士二人を従えて聖王国の大使殿が店に入ってくる。


 その他に大使殿の護衛と思われる兵士が数名店に入って来たが、店員の蒲公英たんぽぽさんに隅のテーブル席に誘導された。あくまでも非公式の客として扱うらしい。


 大使殿は階段下で聖騎士二人に護衛兵士の隣のテーブルに行く様に指示すると、胸に右手を当てた仰々しい礼をしてから階段を昇り始める。聖騎士の女の方は僅かに顔を顰めた。


「聖女様。初めてお目にかかります。わたくしは……」


 階段の踊り場に着き、自己紹介を始めようとした大使殿の姿は凛々しい男装の女性。歩き方には隙がない。しかもその隙の無さは騎士と言うよりは仲間だった茶渋の歩き方。密偵や盗賊に類するものだ。


 と、名を告げる前にレイカ様が声をかけた。


「初めましてじゃないよね?確か……[茶色い雪兎]の隊長さん。クーアさんだったっけ?」


「はい。以前はクーアと名乗っておりましたが、今はクーアハーゼ。ゼルトナ家のクーアハーゼと名乗っております」


 そういうと、苦笑いする。後に食事が始まってから聞いた話では、世話になった老男爵の養女となり、貴族籍を得たそうだ。


「クーアハーゼさんね。取り敢えず食べながら話そうよ」


 デポ姐さんが前菜を持った簡易ゴーレムを連れて階段を上がって来た。一階の冒険者達には見慣れた光景だが、護衛兵士や聖騎士達は驚き目を見張っている。


「やはり飾りの兵では駄目か……」


 その様子を見た大使殿が小さく呟いた。


☆☆☆


「それでクーアハーゼさんは聖王国の国書を携えて来たんでしょ。聖王国の依頼は何?」


「表面上は[石化病]を癒やした[聖女]冷夏様を王国に一度お招きしたいと大臣達が。」


 クーアハーゼ殿の肩書は[聖女招聘全権大使]との事。国書は大地母神殿に渡したそうだが、教団は返書を待てと対応だったらしい。


「うーん。知っての通り[石化病]の解明は私じゃないよ」


「はい。本音は[石化病]の原因である魔獣バシリスクへの対応です。我が国では[石化病]が未だ猛威を振るっております」


 レイカ様の質問にクーアハーゼ殿は臆面もなく告げた。魔獣バシリスクが原因で[石化病]が聖王国に蔓延している事は公然の事実ではある。が、それでも、なるべく隠したいはずだが……。階下で聖騎士二人が唖然としてこちらを見上げている。


「軍事大国の[聖王国]が魔獣に手こずるとは意外っすね」


 タイミング悪く口をモゴモゴさせているレイカ様に代わりチャガラが声をかける。


「魔獣討伐は合戦と変わらぬ国力を使います。その意味では我が国は合戦に度々敗れて国力を損耗している状態ですよ」


 話によれば軍務省の正規軍と近衛省の聖騎士によるバジリスク討伐は魔獣バシリスクを発見すら出来ず失敗。同時に実施された典礼省による冒険者への討伐依頼はリスクの測れない少数のパーティが受注するも全滅か依頼破棄。


 軍務省第1傭兵隊によるバジリスク討伐は[巻狩り作戦]により魔獣バシリスクを発見するも多数の死者、石化者を出し失敗。内務省軍による対応に緊急事態省が絡み今回の[聖女招聘]計画が持ち上がったそうだ。


「前にクーアさんから聞いた縦割り体質は、相変わらずなんだね」


「お恥ずかしい限りです。各省の利権と貴族達の特権等がからまり、国難にさえ一枚岩になれないのが今の我が国の現状です。」


「下で聖騎士殿が固まってるっすよ」


 クーアハーゼ殿のあまりに正直な物言いに護衛のはずの聖騎士が今にも抜剣しそうな雰囲気をみせている。確かに窮状を隠さず話すのは、慈悲深いレイカ様には有効な手には思えるが……。


「うーん。クーアハーゼさんにも思惑はあるんだよね?」


「私は外務省に出向して大使に任じられていますが、所属は緊急事態省です。緊急事態省は冷夏様を聖王国に取り込むか亡き者にするかなら、取り込む方を選びます」


 そう言うと階下の聖騎士に視線を一瞬向けた。亡き者にする選択肢もある。やはりデポ姐さんの分析は正しかった。レイカ様を聖王国に行かせてはいけない。


「そういえば、私の妹弟子のロカの手紙だとクーアさんは恐らく亡くなっただろうと聞いてたけど?」


「あの娘は無事、ケリー女史の弟子になってるのですね……。私は緊急事態省に拾われ命拾いしたのです。ロカの件ではお世話になりました。」


 クーアハーゼ殿は立ち上がると、深々と頭を下げた。レイカ様はデポ姐さんの方を見るも、デポ姐さんは首を横に振る。


「うーん。私は先約があるから聖王国には行けないけど、私の弟子なら派遣しても良いよ」


 すると踊り場に向け二階からレイカルさんが降りて来た。その妖艶でいて清楚な姿に、店内は静まりかえる。そのせいか一階の女聖騎士の呟きが聞こえた。


「魔族……」


 レイカルさんは椅子を引くと微笑みながら座った。



「伝説の傭兵隊長と呼ばれた傭兵が、男爵位を下賜されたのがゼルトナ家です。私は縁あって、その傭兵の養女になりました」

「そして緊急事態省に入り、正魔術師になりました。まあ色々ありましたよ」



私の黒歴史がまた1ページ。

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