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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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結末の裏側

 遊覧飛行が終わった翌日から、俺は騎士団の宿舎に足止めを食らっている。

 王族に対する襲撃を行った人間を捕まえるために、関係した者は全員所在を明らかにしておかねばならない……という理由だそうだが、そもそも俺は襲われた側だ。


 その俺が、食事も宿泊のための施設も整っているとはいえ、騎士団の監視下に何日も足止めされるなんて、精神的に耐えられる訳が……あるに決まっている。

 だって、俺は猫人だもの……何もしないでダラダラしていられるなんて、しかも数日限定だろうと見込みがついている状態なら、そりゃあ謳歌するしかないだろう。


 朝、目が覚めたら、騎士団の職員が運んできてくれた朝食に舌鼓を打つ。

 目玉焼き、炙ったベーコン、サラダ、ミルク、メニューはありきたりなのだが、全ての具材が新鮮で質が高い。


 普段、旧王都の拠点で口にしている朝食がコンビニメニューだとすると、まるで高級ホテルの朝食を食べているようだ。

 しかも、食後には新鮮なフルーツと香り高いお茶まで出る。


 まさに至れり尽くせりなのだ。

 朝食を済ませた後は、体が鈍らないように運動する。


 宿舎の管理人さんに許可を取り、庭の芝生の上でジョギングをした。

 と言っても、庭は走り回れるほどは広くないので、空属性魔法でハムスターの回り車を大きくした物を作り、それに乗ってジョギングをしたのだ。


 ハムスターとか、なんで必死になって回り車を回すのか不思議だったが、やってみるとなかなか楽しい。

 というか、これスピード上がり過ぎなんですけど……止めてぇぇぇぇ!


 よく考えたら、自分の魔法で作った回り車なんだから、ジャンプしたタイミングで消してしまえば良かったんだよ。

 それに気付くまで、必死になって走っちゃったよ。


 ジョギングどころか、かなりハードなランニングになってしまい、汗だくになってしまった。

 ここまで汗だくになったなら、ついでにトレーニングもしてしまおう。


 最近凝っているのが、前世の知識を活かしたマシントレーニングだ。

 ヒンジとバーで構成されたトレーニングマシンを作り、ウェイトは空属性で空気を弾力を持たせて固めたラバーを使う。


 ベンチプレスとか、スクワットとか、うろ覚えのトレーニング知識を実践で補って、筋力アップを目指している。

 何しろ、自分でトレーニングマシンを作れるから、ここを鍛えたい、こっちを鍛えたいとか、自分の要望にあった形にできるから便利なのだ。


 これで、タプタプなお腹とはおさらば……出来れば良いにゃぁ。

 休憩を挟みつつ、全身のトレーニングを行い、入念にストレッチをした後、シャワーを浴びたら昼食だ。


 提供される食事は、騎士団の人たちが食べているメニューと同じなのだが、やっぱり調理のレベルが高いし、良い素材が使われている。

 ちなみに聞いてみたところ、訓練所の食堂はここほどは上質ではないらしい。


 それと、訓練生は毎日厳しい訓練をしているので、とにかく量、それと濃い目の味付けになっているそうだ。

 それでも、平均的な庶民の食事よりは良い物を食べているようだ。


 なにしろ、騎士候補生の中には貴族の子息も混じっているから、あまり下手な物は出せないようだ。

 でもまぁ、それだけ良い物をたらふく食べさせてもらっているなら、オラシオがあんなにデカくなるのも納得だ。


 昼食の後は再び庭に出て、芝生の上に空属性魔法で作ったクッションを敷き、思う存分昼寝を楽しむ。

 襲われる心配は要らないのだろうが、念のために周囲には薄いシールドを展開しておいた。


 これで風も防げるし、シールドで囲った内部はポカポカだ。

 仰向けに寝転んで、思いっきり体を伸ばして、そのまま寝落ちする。


 秋の日差しが心地良くて、夕方までぐっすりと寝込んでしまった。

 レイラに抱き枕にされるのも嫌ではないのだが、こうして一人で気ままに昼寝を楽しむのは最高だ。


 夕食は肉と魚のどちらかを選べて、初日は魚、二日目は肉を選んだ。

 食事を終えたら、ゆったりと風呂に浸かり、その後はフカフカなベッドを独り占めして眠る。


 最高の休日は、三日目の午後には終わりを告げてしまった。

 その日も昼寝を楽しんでいたら、バルドゥーイン殿下が訪ねてきたのだ。


「こんな所に閉じ込めてすまない……と言うつもりで来たのだが、なかなか楽しんでいるようだな」

「三食昼寝付きの生活は、猫人にとっては最高ですよ、殿下」

「いや、そんな生活ならば、誰しもが楽しめるのはないか?」

「どうでしょう、思い切り体を動かしたい人では楽しめないと思いますよ」

「そうかもしれんな……さてニャンゴ、襲撃犯の捜査も大詰めを迎えているようだ。今夜は少し手を貸してもらえるか?」

「俺に出来ることでしたら、なんなりと……」


 バルドゥーイン殿下に連れて行かれた先は、騎士団の食堂の奥まった一室だった。


「今夜、ここに二人の人物を招く、その者たちの会話を別室で聞き取れるようにしてもらいたい」

「それならば、その二人の近くに集音マイクを設置した方が、確実に会話を拾えます」

「では、受付の影に待機してもらい、その人物が来た時に知らせる」

「殿下、その二人は、どなたなのですか?」

「一人は、フロンデール伯爵家の三男セルドロ。もう一人は、エルマリート伯爵家の当主オーレリオ。この国の宰相だ」

「えぇぇぇ……宰相が襲撃に関わっているのですか?」

「さて、それは捜査段階なのでハッキリとは言えないな」


 ハッキリとは言えないということは、襲撃に関係していると言葉を濁して言っているということだ。


「俺は、宰相から嫌われていたのでしょうか……」

「ふむ……まぁ快く思われていなかったのは確かなようだ」

「殺してやろうと思うほど嫌われていたのですか?」

「いいや、そこまでではなかったようだが、ニャンゴが活躍するのを目障りだと思っていたようだな」

「もう一人の……セルドロでしたっけ、そいつが実行犯なんですか?」

「いいや、実行したのはセルドロが手配した者だろう。奴は自分で手を下すような男ではない」

「では、直接手を下した者は捕まったのでしょうか?」

「一応、騎士団の方で確保したようだが、そちらは証拠硬めが難航しているようだ」


 詳しい話は、後から来る騎士団長を交えて聞かせて貰えることになった。

 食堂の受付近くの物陰に潜み、合図をもらった男に探知ビットを複数貼り付けておいた。


 一ヶ所だけだと、万が一外れてしあった場合、集音マイクを設置できなくなってしまうからだ。

 最初に現れたのはセルドロ・フロンデールだった。


 年齢は三十代前半と聞いているが、顔色が悪く落ち着かない様子だった。

 セルドロの近くに集音マイクを設置して、別室に居るバルドゥーイン殿下の手元に置かれたスピーカーと魔力の糸で繋ぐ。


 これでセルドロの会話は殿下に筒抜けになる。

 二人目の目標である宰相オーレリオは、しばらく後になってから姿を現した。


 オーレリオにも集音マイクと複数の探知ビットを配置して、バルドゥーイン殿下の手元と繋ぎ、俺も殿下の待つ部屋へと移動した。

 食堂の一室には、バルドゥーイン殿下とアンブリス騎士団長がスピーカーから聞こえてくる会話に耳を澄ませていた。


 聞こえて来るのは、醜い仲間割れだった。

 どうやら襲撃の首謀者は宰相オーレリオで、指示を出したセルドロを何時でも切り捨てられるように手を打っていたらしい。


「殿下、宰相をどうされるのですか?」

「まぁ焦るな、ニャンゴ。事の成り行きを聞かせてもらおう」


 殿下と騎士団長は、落ち着いた様子で二人の会話に聞き入っていた。

 そしてそれは、事態が緊迫度を増しても変わらなかった。


『だ、誰か! 乱心だ! セルドロ・フロンデールが乱心した!』


 宰相が身の危険を感じて叫んでも、二人は顔色一つ変えず、動こうともしなかった。

 争うような物音が続き、宰相の断末魔の叫びが響いてきた。


 やがて集音マイクを通して聞こえてくるのは、セルドロのものと思われる荒い息だけになった。


『フロンデール家に寛大な処分をお願いいたします! ぐぅぅぅ……』


 セルドロの一言を最後に、スピーカーからの音は途絶えた。

 暫しの沈黙の後、バルドゥーイン殿下が口を開いた。


「ニャンゴ、王家のやり方を軽蔑するか?」

「王家といえども法には従わねばならず、その法を潜り抜けるには、こうした方法もやむを得ないのではありませんか」

「我が国の法では、王家に弓引く者は、一族郎党を処刑するとなっているが、伯爵家を二つも一度に失うのは困るのだ。それでなくとも取り潰しとなった家が増えて困っているのに……」


 撮り潰しになった家とは、グラースト侯爵家とホフデン男爵家のことだろう。

 どちらも、俺とバルドゥーイン殿下が関わっている。


 ここに加えて、伯爵家が二つも一度に潰れるのは、望ましい状況ではないのだろう。

 二つの家には、これによって太い釘を刺したことになる。


 これでも納得せずに文句をつけてくるならば、その時は容赦しないということなのだろう。

 思わぬ形で王家の裏側を垣間見ることになり、この日の夕食は呑気にうみゃうみゃ言えるような雰囲気ではなかった。


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― 新着の感想 ―
2人を連れていく部屋は取り調べる側が決めるのだからマイクは事前にその部屋に仕掛ければいいのでは?
それとなく知らせるのかと思ったらきっちり特等席で拝聴させてもらえるとは・・・
 こうして『貴族教育』が進められていくんだな。
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