騎士団の仕事ぶり
騎士団長アンブリス・エスカランテは、まず遊覧飛行の三日前から当日までに、王城から出された手紙の差出人と届け先を調べさせた。
その中には、王族からの書簡も含まれていたが、そちらは本命ではない。
本命は、宰相オーレリオ・エルマリートが出した手紙だ。
宰相という役柄上、オーレリオは毎日複数の手紙を出している。
相手は貴族であったり、王城へ納品を行っている業者であったりする。
その届け先は、四日間で十七か所だった。
アンブリスは、この十七か所から、三日前と当日に出された場所を除いた。
残った届け先は十か所に絞り込まれた。
次にアンブリスは、遊覧飛行の三日前から当日にかけて、第一街区から出入りした者の記録を出させた。
第一街区と第二街区の間にある門は、いわゆる貴族と平民を分ける門でもある。
そのため、第二街区から第一街区へ入る者は全て記録され、入っただけでなく出た日時までもが記録として残されている。
同時に、貴族の出入りも記録されていて、どこの家の馬車がいつ出て、いつ戻って来たのかも記録されている。
宰相が手紙を届けた貴族の内、この往来の記録と照らし合わせ、外部との往来が無かった者を除外した。
すると、残った手紙の届け先は七か所に絞り込まれた。
貴族の家が二つ、王城への納品業者が五つだ。
更にアンブリスは、納品業者の中からオーレリオが出仕する以前から王城へ納品を行っていた業者を除外した。
残りは貴族の家が二つ、業者が二つの四か所となった。
貴族の家は、いずれも遊覧飛行の前日に出掛けている。
アンブリスは、遊覧飛行当日に西門の警備を担当していた第三師団に、この二家を含めて遊覧飛行の二日前と前日に、第一街区から外に出た貴族の家に行き先を尋ねに行かせた。
「行き先を尋ねる時は、飛行計画の情報が洩れた恐れがある。当家の疑いを晴らすために行き先を教えてもらいたいと言って尋ねろ。証言の裏付けも取ると伝えろ」
「かしこまりました」
どの道、宰相の協力者だとすれば、騎士団が動いているのは遊覧飛行が襲撃された件だと気付くから、虚偽の証言を出来ないように釘を刺したのだ。
王城への納品業者は、第二師団に店舗の位置を確認させ、陽動で騒ぎを起こした者を連れて行かせ、店に出入りする者を監視させた。
出入り業者、いずれも第二街区と第三街区に店を構えていたが、出入りを見張らせたのは、いずれも第三街区にある店舗の方だ。
店の表口だけでなく、裏口も見張らせる。
騒ぎを起こした若者たちに、指示した人物を見つけ出すためだ。
部下を聞き込みに向かわせている間に、アンブリスは国王陛下に呼び出された。
用件は言うまでもなく襲撃に関してだった。
呼び出された部屋には、国王陛下の他にバルドゥーイン殿下が同席していた。
「アンブリス、調べは進んでいるか?」
「申し訳ございませんが、実行犯の行方は分かっておりません」
「時限式の発射装置が使われていたと聞いたが」
「恐らく偽装だと思われます」
「ほぅ、偽装とな?」
「はい、線香を使った装置では、思い通りのタイミングで発射するのは困難です。私も陛下とエルメール卿が飛んでいる姿を見ましたが、下からでは随分と小さく見えました。しかも動いている」
騎士団長が下から眺めた状況を説明すると、国王陛下も王子たちが飛ぶ様子を見守っていた時のことを思い出していた。
「なるほど、あれに当てたとなると、狙って撃ったねば無理だな」
「おっしゃる通りだと思われます」
「だが、なぜそんな手の込んだことをしたのだ?」
「万が一、近くで捕らえられても、シラを切るためでしょう。本当に時限発射されたなら、犯人はとっくに逃げているはずだ……とでも言うつもりだったのでしょう」
「なるほど……だが実行犯が見つかっていないのでは、その先の捜査も困難ではないのか?」
「なので、陽動のための騒ぎを起こした者たちから、調べを進めております。同時に、飛行コースが事前に漏れていた可能性がございますので、そちらの調べも進めております」
騎士団長は、情報が洩れたと推測するに至った経緯を説明した。
「なるほど、ニャンゴを足止めしているのは、その疑いがあると思っているからか」
「いいえ、エルメール卿は疑っておりません」
「では、なぜ旧王都へ帰るのを止めているのだ?」
「我々が狙いを絞りきれていないと思わせるためです」
「ほぅ、では犯人の目星は付いているのか?」
「はい、まだ何の証拠もございませんが……」
アンブリスは、特定の人物の名前を出さず、その者が怪しいと思うに至った理由と動機を説明していった。
説明を聞いた国王陛下は、バルドゥーイン殿下と視線を交わした。
頷いたバルドゥーイン殿下は、国王陛下に代わってアンブリスに尋ねた。
「その者から事情聴取はしているのか?」
「いいえ、まだ行っておりません。まだ何の証拠も揃っておりませんので……」
「証拠が揃うのか?」
「さて、全てを揃えるのは難しいでしょう。ただ、どのように事が運ばれたのか、裏付けができれば、二度とふざけた真似はするなと釘は刺せるでしょう」
「罪に問わぬつもりか?」
「その判断は陛下にお任せ致します」
「この狸め……」
「お褒めの言葉と受け取っておきます」
アンブリスは、その後について国王陛下、バルドゥーイン殿下と打ち合わせを終えると、騎士団へと戻った。
一方その頃、顔を蒼褪めさせている男が二人居た。
一人は宰相オーレリオ、もう一人は協力者であるセルドロ・フロンデールだ。
オーレリオは騎士団が王城から出された手紙の届け先や、第一街区からの出入りを調べていると知り、その意図を読み取った。
同様にセルドロは、騎士団が遊覧飛行前日の行動を調べに来たことで、その意図を読み取った。
二人は、自分の所にまで騎士団の調べは及ばないと思っていたのに、予想を超える速さで肉薄してきた事に驚いたのだ。
驚いたが……何も出来ない。
既に自分は騎士団の監視下に置かれていると考えるべきだし、下手に動けば更にボロを出すだけだ。
そして、露見すれば自分だけでなく、一族郎党の命が失われるのだ。
思い上がった自分たちの行動が、どれほど重たい代償を伴うものなのか、今更ながらに思い知らされているのだ。
騎士団に戻ったアンブリスは第三師団からセルドロの立ち回り先の報告を聞くと、騒ぎを起こした若者を連れて行かせ、ガウラルア商会に出入りする人間を調べるように指示を出した。
同時に、宰相から手紙を受け取った二家のうち、観劇に出掛けたという家を容疑者から除外した。
捜査の輪は、着実に絞られている。
一方その頃、騎士団の宿舎に足止めを食らったニャンゴは、日当たりの良い庭の芝生の上で昼寝を楽しんでいた。
へそ天状態で長ーく伸びて、一見すると無防備そのものだが、周囲は見えない盾で覆われ、更にその周囲には接近を察知するための探知ビットが撒かれている。
だが、緊張感の欠片も感じられない。
理由も聞かされず宿舎に足止めされて、何もやる事が無いのだ。
昼食時すら食堂にも行けず、運ばれてきた食事を食べる軟禁状態なので、ちょっと拗ねてもいる。
この時点でアンブリスは、オーレリオからセルドロ、セルドロからガウラルア商会という流れが本筋だと見込みを付けた。
陽動騒ぎを起こして捕まった八人の証言から、過去に嫌がらせを仕掛けた商会を割り出し、その大半がガウラルア商会の同業者だったからだ。
そして、ブレンナーという男を捕らえたという知らせを受けたのは、アンブリスが夕食を食べに食堂へ足を運ぼうかと考えている時だった。
直ちに、ガウラルア商会の第二地区、第三地区の二つの店舗に向かわせ、関係者全員を捕えるように命じた。
「本格的な取り調べは、明日だな……」
アンブリスは捕らえた者を牢に入れたら、部下にも休むように伝え、自らも食堂へと足を向けた。





