尋問
雷の魔法陣で昏倒させたテオドロは、空属性魔法で作ったボードに載せてチャリオットの拠点まで運んだ。
テオドロを引き摺って歩いているように見えなくもないのだが、道行く人たちはチラリと視線を向ける程度で、あまり関心を向けてこない。
身元確認が緩く、お尋ね者が多く入り込んでいた旧王都では、賞金稼ぎがターゲットを追い詰めて捕まえる場面も珍しくないのだろう。
拠点に着いたところで、シューレにロープでテオドロの手足を縛ってもらった。
近くで見ていたのだがシューレの手際が良く、しかも特殊な縛り方なので、俺では解くことすら出来ないかもしれない。
物音を聞いて他のメンバーも集まってきて、シューレが縛り終えたところで、ガドがテオドロを持ち上げてリビングへと運んだ。
雑に転がされたことで目を醒ましたテオドロは、周囲を見回した後で手足を縛られていると気付いて毒づいた。
「くそっ、解きやがれ!」
「おー、おー、随分と落ちぶれたもんだな」
芋虫みたいに転がったテオドロを見下ろして、セルージョはレイラと同じ感想を口にした。
「手前……ぶっ殺すぞ!」
「この状況で喚いたところで、恥の上塗りをするだけだぜ」
この二人が一緒にいるところを初めて見たのは、ブロンズウルフの討伐をした前日、三つの冒険者パーティーが集まって打ち合わせをした時だ。
あの時のセルージョは腕利きパーティーの一員で、テオドロは新鋭パーティーのリーダーだった。
同じパーティーとして活動するようになって、だらしない一面も知ったが、セルージョの外見は殆ど変わっていない。
一方のテオドロは、あの頃の鋭い印象が影を潜め、緩んだ体型に狡猾さばかりが目につくようになっていた。
「ジントンとか他の連中はどこだ?」
「残念だったな、今頃は土の下だ」
「なにぃ? まさか崩落に巻き込まれたのか?」
セルージョの問いに、テオドロは勝ち誇ったような笑みを浮かべてみせた。
それを見たセルージョの眉間に深い皺が刻まれる。
セルージョは探るような視線をテオドロに向けた後で、ライオスの方へ向き直った。
「どう思う?」
「信用できんな」
「ふはははは……」
ライオスの返事を聞いたテオドロは、声を上げて笑い始めた。
「だったらどうする? 掘り返して確かめるのか? やれるものならやってみろ、ふははは……」
勿論、崩落現場を掘り返すのは不可能だ。
そもそも、本当に崩落に巻き込まれていたのなら、掘り返せば見つかる可能性があるが、始めから埋まっていなかったら発見する可能性はゼロだ。
勝ち誇るように笑い続けるテオドロに向かって、シューレがポツリと呟いた。
「こいつの体に聞けばいい……」
声を荒げた訳でもなく、威圧を込めた訳でもなく、何の力みも感情もこもっていないシューレの一言で、部屋の温度が五度ぐらい下がったような寒気を感じた。
「フォークス、ちょっと手伝って……」
「お、俺っ……?」
「うん、作ってもらいたいものがある……」
シューレに何やら耳打ちされた兄貴は、魔法の練習に使っている土で頼まれた物を作り始めた。
「て、手前、何するつもりだ!」
テオドロが床に転がされたまま喚き散らしても、シューレは無表情で見下ろすだけで一言も言葉を発しない。
こういう時のシューレは目茶苦茶怖い。
「シューレ、こんな感じでいいのか?」
「硬い?」
「うん、俺が出来る全力で固めてある。でも、薄いから折れるぞ」
「構わない、二十本作って……」
「分かった」
シューレが兄貴に作らせたのは、幅五ミリ、長さ三センチほどの楔だ。
真横から見ると楊枝の先みたいに見えるが、何に使うつもりなのだろうか。
シューレは楔を手にして戻ってくると、また無表情でテオドロに向かって呟いた。
「残りの連中はどこ?」
「だから、土の中だって言ってんだろう。さっさと掘り返しに行けよ」
「分かった、話す気は無いのね……」
「手前、何しや……むぐぅ」
シューレはテオドロを足で転がして腹這いにさせると、手早く手拭いで猿轡を噛ませた。
そのまま膝で背中を押さえ付け、左手で縛り上げたテオドロの右手を掴み、親指の爪の間に楔を突き入れた。
「むがぁぁぁぁぁ!」
くぐもったテオドロの悲鳴がリビングに響き渡った。
「フォークス、次……」
「あ、あぁ……」
兄貴がブルブルと震える手で、シューレに二本目の楔を手渡した。
「フォークス、気持ちを乱さずに魔法を使う練習だと思って……」
「わ、分かった……」
震えながらも頷いた兄貴に、シューレはふっと笑みを浮かべてみせた。
うん、このギャップは反則だろう。
兄貴が作業に戻ったのを確認すると、シューレは再び表情を消してテオドロに向き直った。
「むぐぁ! むごぉ! むぐぉぁぁ!」
テオドロが聞き取れない言葉を洩らして藻掻いても、シューレに背中の支点を膝で押さえ込まれて起き上がれないようだ。
精一杯首を捻ってシューレの動きを確かめようとするテオドロは真っ青で、冷や汗にまみれた顔を必死に振って許しを請うているようだ。
シューレは手にした二本目の楔を見せつけた後で、テオドロの右手の人差し指の爪の間に突き入れた。
「むがぁぁぁぁぁ!」
再びリビングに悲鳴が響き、テオドロは陸に打ち上げられた魚のように足をバタつかせる。
テオドロを見下ろしていたセルージョが、台所へと立ち去った。
シューレによる拷問を見るに耐えられなくなったのかと思ったら、セルージョは酒瓶と小ぶりのカップを手にして戻ってきた。
テオドロに見せつけるように栓を抜き、カップに注いでくいっと一息に煽った。
「かぁ……効くねぇ」
「むがぁ! むぐぅぁ!」
「テオドロ、お前も一杯やっか?」
てっきり官憲に引き渡す前に、最後の一杯でも飲ませてやるのかと思いきや、セルージョはカップに注いだ酒を楔の刺さった爪に振り掛けた。
「むぎぃぃぃぃぃ!」
「悪い、悪い、手元が狂っちまったぜ。どうだ、喋る気になったか?」
セルージョが猿轡を解くと、テオドロは早口で喋り始めた。
「アジトが崩落に巻き込まれたのは本当だ。俺は外に出ていたから巻き込まれずに済んで、他の連中がどうなったのかはマジで分からねぇ。特にジントンの野郎は反貴族派の所に送り込まれていたから、どうなったのか知らねえ」
「ちっ、反貴族派なんかとツルんでやがったのか」
「ガウジョが決めたことで、俺は知らねぇ。待て、本当に知らねぇんだ」
「反貴族派のアジトはどこだ?」
「知らねぇ、マジで知らねぇんだ。あっちはガウジョの右腕のワズロって奴が交渉してて、俺は場所も知らされてねぇ……むぐっ、むがぁぁぁぁぁ!」
セルージョが再び猿轡を噛ませると、シューレがテオドロの中指の爪に楔を突き入れた。
テオドロは悲鳴を上げ、涙を流しながら足をバタつかせる。
兄貴も、ミリアムも、たぶん俺もテオドロの悲鳴を聞く度にイカ耳になっている。
「反貴族派のアジトはどこだ?」
「マジで知らされてねぇんだ。そうだ、ジントンなら知ってる。あの野郎、髪を刈りこんでるから別人みたいになってるぞ。あいつを探せば反貴族派のアジトも分かる、本当だ、信じてくれ!」
この後、五本目まで楔を使って尋問を続けたが、テオドロからこれ以上の情報を引き出すことはできなかった。





