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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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不意な遭遇

 ようやくダンジョンの崩壊が収まってきた。

 崩壊が始まった十日前には一時間に数回のペースで揺れを感じていたが、徐々に間隔が伸びていて、今日はまだ一度も揺れを感じていない。


 ただ、ダンジョンへの立ち入りは禁じられたままだ。

 地上の街でも、崩落した穴の周囲への立ち入りは禁じられたまま……というよりも、日を追うごとに広がっている。


 一度揺れが起これば、少ない時でも一メートル、大きい時には十メートル程の範囲が崩落する。

 当然、その崩落に合わせて規制線も移動しているという訳だ。


 崩落が広がっているのは最初の崩落の現場の東側と西側で、南北方向には広がっていない。

 南側は海上都市であったダンジョンが存在していない海の部分、北側は吹き抜けとなっていた部分なので、これ以上崩落する可能性は低いのだ。


 俺たちチャリオットの拠点は、ダンジョンの吹き抜け部分の上なので、崩落に巻き込まれる可能性は低い。

 ただ、将来的には拠点を移動する可能性が出て来た。


 新たな地下道の建設計画が、正式に発表されたのだ。

 建設予定地はダンジョン崩壊の影響が少ない旧王都の北側で、街道に程近い場所から西に向かって傾斜を付けながら掘り進めるそうだ。


 街道の東側には、大公家の屋敷や役所などの建物が多く建っている。

 建物の真下は通らないが、それでも地下で破壊工作などが行われた場合には影響が出る可能性はある。


 そうした事態を防ぐために、地下道の新設は西側に向かって進められるらしい。

 この地下道が完成すれば、発掘現場近くまで馬車が下りられるようになるので、発掘品が運び出されるペースも早まるだろう。


 地下道が完成したら、ギルドもダンジョン入口近くの現在の場所から、地下道の出入口近くに移転させられる予定だ。

 ダンジョンの入り口、それにギルドまで移動したら、旧王都の街並みも大きく様変わりするだろう。


 ダンジョンへの地下道入口を中心とした再開発が行われる予定で、新しい町並みでは治安対策が強化されるそうだ。

 人類の英知、世界の宝と言っても過言ではなくなった発掘品が、得体の知れない人物や団体の手に渡らないように、身元確認が徹底されるらしい。


 地下道が整備されれば、発掘現場との往復も楽になるだろうし、そうなれば拠点で過ごす時間も増えるだろう。

 再開発される場所に新たな拠点を構えられるように、ギルドには日当たりの良さそうな土地の確保をお願いしてある。


 街の区割りすら決まっておらず、土地の利用に関しては何の発表もされていないが、ダンジョン新区画発見の功績や、名誉騎士&学士の地位も利用させてもらった。

 今の拠点から新しい地下道の入口までは少し距離が離れてしまうし、新しい町並みは間違いなく発展するはずだ。


 今のうちに土地を確保しておけば、将来冒険者を引退した時には売却して老後の資金に……なんてセコイ考えもちょっとあるのだ。

 発掘品のおかげで、将来遊んで暮らせるぐらいのお金は手に入っているけれど、現金だけでなく多角的な資金活用は大事だよね……たぶん。


 新しい地下道の建設が発表されて盛り上がっている一方、身元確認の厳格化の影響が出始めている。

 過去に違う土地で罪を犯し、旧王都へと流れてきた後は真面目に暮らして生活基盤を築いて来た人が摘発されるケースが散見されるようになったのだ。


 俺たちが関わった魚屋の女将さんは、無事に身元確認をパスできたそうだが、そうした例は稀のようだ。

 店の大黒柱を失って休業している店もあるそうだし、残った者で店を続けているケースもあるらしい。


 ただ、旧王都が普通の街とは違うのは、そうした店に対しての差別のようなものが少ないのだ。

 仮にアツーカ村のような小さな村で人を殺せば、犯人の家族までが村八分にされるだろう。


 イブーロのような街であっても、店を続けていくことは難しくなるだろう。

 ところが旧王都だと、大変だったね……とか、頑張れよ……といった励ましの声を掛ける方が多いそうだ。


 過去の行状を問わずに人を受け入れてきた街らしい懐の広さを感じる。

 それが良いことなのか、悪いことなのかは分からないが、恐らくこの先は失われていくことになるのだろう。


 年の瀬を迎えている旧王都には、新しい時代が訪れようとしているようだ。

 夕食の材料を買い出しに行く途中で、カイロ代わりに俺を抱えたレイラから訊ねられた。


「ニャンゴ、里帰りはしないの?」

「うーん……考え中」


 シュレンドル王国では、一番長い休暇期間は『巣立ちの儀』が行われる春分の日の前後二週間で、年末年始は六日ほど休みになる程度だ。

 俺一人ならば、アツーカ村まで楽に往復できるけど、兄貴やレイラも連れてとなると微妙なところだ。


 それに、里帰りをするならラガート子爵の所にも挨拶に行かないと駄目だろうし、エスカランテ侯爵の所にも挨拶した方が良いのだろうか、それなら王家にも……なんて色々考えてしまったら面倒になって来てしまったのだ。


「でも、帰りたいんじゃないの?」

「うん、カリサ婆ちゃんには会いに行きたい。でも、春には帰る予定でいたし、手紙も出したばっかりだから」

「前にエストーレから帰ってきた時みたいに、ビューンって飛んで行けば良いんじゃない?」

「それもそうか」

「お貴族様への挨拶なんて、春にゆっくり戻った時でいいでしょ。それに、会いたい人には会える時に会っておきなさい」

「うん、そうだね。やっぱり里帰りするよ」


 全力で移動すれば、アツーカ村まで何とか一日で帰れるだろうし、往復二日なら四日ぐらいは村で過ごせるはずだ。

 お土産を沢山持って……とはいかないけど、カリサ婆ちゃんに会いに行こう。


「うん、決めた、帰る」

「じゃあ、今日の夕食のメニューは?」

「今夜は熱々お鍋!」

「いいわね、具は何にする?」

「お魚……貝……カニ?」

「買い物しながら考えましょう」

「うん、そうだね」


 十字路を魚屋のある方へと向かおうしたら、逆方向から来た男と出会い頭にぶつかりそうになった。

 すっと体を開いて避けたレイラは、一瞬足を止めた後に歩み去ろうとする男に声を掛けた。


「随分と落ちぶれたものね」

「なんだ……と」


 苛立たしげに振り向いた男は、こちらに視線を向けた直後に目を見開いた。

 見覚えはあるが一瞬誰だか分からなかったが、男が踵を返して逃亡を図った瞬間に思い出した。


「テオドロ……シールド!」

「がはっ!」


 走り出そうとしたテオドロは、俺が展開した空属性魔法のシールドに顔面を打ち付けて転倒した。


「いやぁぁぁ!」

「騒ぐな、ぶっ殺すぞ!」


 無様に転倒したテオドロだったが、転がった拍子にぶつかった通行人の女性に組み付き、持っていたナイフを首筋に押し当てた。


「くそっ、ちょっとでも動いたら、この女を殺すぞ!」

「ニャンゴから逃げ切れるとでも思ってるの?」


 目を血走らせて喚くテオドロに対して、レイラが憐れむような口調で答えた。


「うるせぇ! 動くなよ、ちょっとでも動いたらブスっとやるからな」


 テオドロは、人質にした小柄な犬人の女性を左手で抱え込み、右手に握ったナイフを首筋に突き付けたままジリジリと後退りしていく。


「周りの連中も動くな! 動くなよ!」


 そんなに念を押されなくても動くつもりはないし、既にテオドロの髪の毛には空属性魔法で作った探知ビットを貼り付けてあるから見失う心配は無い。

 こうして向かい合うのは、ブロンズウルフの討伐の時以来だが、当時に比べるとテオドロは血色も悪く、不健康に太った感じがする。


 チャリオットにスカウトされてイブーロで暮らすようになってからも、一度ボーデと一緒にいるのを見掛けたぐらいなので、咄嗟には分からなかった。

 出会い頭にぶつかりそうになった一瞬で、よくレイラは気付いたものだ。


 ジリジリと後退りを続けていたテオドロは、人質の女性を引き摺るようにして脇道へと入って行った。


「レイラ、上から追い掛けて捕まえて来る。人質の女性は離したから大丈夫だと思う」

「分かったわ。私はお鍋の材料を買って拠点に戻ってるわね」

「うん、任せた」


 人質の女性が脇道から走り出て来たのを確認して、ステップを使って街並みの上まで駆け上がる。

 テオドロは、裏道をグルグルと走り回ったり、店の中を通り抜けたりしながら、人通りの多い市場へと入り込んだ。


 姿は目視できていないけど、探知ビットの反応を頼りに追跡は出来ている。


「あれっ、どこ行ったんだ……?」


 反応は追えているけれど、市場は人が多すぎて、上からではどれがテオドロなのか良く分からない。

 少し高度を下げて近付いたところで、テオドロが市場から脇道へと入った。


「うわっ、いつの間にか着替えてるし……」


 市場で買ったのか、それとも盗んだのか分からないが、テオドロはさっきとは違う上着を着ていた。

 見つからないように屋根に隠れながら追跡を続けると、テオドロは旧王都の北側まで走り続け、裏通りにある井戸の所で足を止めた。


 釣瓶を落として水を汲み、貪るように喉を潤したあとで大きく息を吐いた。


「はぁぁ……へっ、ざまーみろ。にゃんころを捲くぐらい訳ねぇぜ」


 顔を洗って釣瓶を戻したところで、テオドロを空属性魔法で作った壁で閉じ込めた。


「なっ……」

「お前程度を捕まえるなんて訳ねぇぜ」

「くそネコ、手前ぇ、出しやがれ!」


 テオドロは、空属性魔法で作った壁を殴り、蹴り、ナイフを突き立てて壊そうとしたが、その程度ではビクともしないのだよ。


「ジントンやガウジョはどこにいる?」

「けっ、手前なんかに話すと思うのかよ」

「それじゃあ、話したいと思ってもらうしかないか……雷!」

「うぐぁぁぁ……」


 官憲に突き出す前に、仲間の居場所を聞き出すために、テオドロは拠点に連れて帰ることにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 逃走してから久しぶりの遭遇だね。 まぁ本人は大した事無いからアッサリ捕まりましたな。
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