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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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地竜殺し

「反貴族派の連中が、ダンジョンで何かやろうとしている。俺も潜り込んで中身を探ってくる」


 元イブーロのBランク冒険者で今はお尋ね者のジントンは、貧民街を仕切っていたガウジョの右腕ワズロに嘘の情報を流してダンジョンに足を踏み入れた。

 行動を共にする、羊人のボレーノ、馬人のフロッキ、犬人のサリキス、ヤギ人のデントナーは全員十代後半の元農民だ。


 ジントンを加えた五人全員が大きなリュックを背負い、左手には小型の盾、右手には槍を携えている。


「お宝が出てダンジョンに出入りする冒険者が増えている。階段の危険度は下がってるから緊張すんな」

「はい」

「ダンジョンの雰囲気を知るために、まずは良く内部を観察しろ」

「分かりました」


 ジントンの指示に、四人のリーダー格であるボレーノが返事をする。

 一見するとベテラン冒険者と指導を受ける若手冒険者のように見えるが、お尋ね者と反貴族派の構成員だ。


「下ばかり見てないで、上にも注意を払え。フキヤグモは上からも来るぞ」

「は、はい……」

「だからと言って、上ばかり見過ぎて踏み外したりすんじゃねぇぞ」

「はい!」


 ボレーノたち四人は傍目から見てもガチガチに緊張しているが、指示を出しているジントンもリラックスしているとは言い難い。

 イブーロを拠点としてBランクまで成り上がったジントンだが、実はダンジョンに潜るのは二回目だ。


 イブーロから逃げ出してガウジョたちと旧王都まで辿り着いた後、元レイジングのリーダー、テオドロと様子見に潜ったことがあるだけだ。

 正直に言えば、ダンジョンでのローカルルールとかは全く知らないし、地形もギルドで売られている地図頼みだ。


「よし、次の階で一旦休憩だ」

「えっ、まだ十階程度しか降りてないですよ」

「ばーか、お前らみたいにガチガチだと普段の倍も三倍も疲労するんだよ。いざという時に動けなかったら死んじまうんだ、疲れて動けなくなる前に休むんだよ」

「わ、分かりました」


 ジントンたちは、地下十階層のフロアに出て息を整えた。


「いいか、今見てきたように目的のフロアまでは、階段が延々と続いているだけだ。壁をざっと確認したら、後は足下やフロアへ通じる床を確認しろ。フキヤグモは俺が始末してやる、ヨロイムカデの倒し方は分かってるよな?」

「槍で裏返して、腹を刺す……」

「そうだ、あんなものは、ただのデカイ虫だ。不意打ちされなきゃ何の問題も無い」

「はい!」

「だいたい、地竜を倒そうなんて思ってるなら、虫ごときにビビってんじゃねぇ」


 この後ジントンは、肝試し的に一人ずつフロアの端まで行って帰ってくるように指示した。

 こんな浅い階層にはレッサードラゴンなどの危険な魔物は現れないし、そもそもジントンが風属性の探知魔法で周囲の様子を確認している。


 ジントンがBランクまで成り上がったのは、この探知魔法とハッタリのおかげだ。

 探知魔法によって的確に獲物を探し、危険を回避することでパーティー内部でも一目置かれるようになった。


 そして、パーティーのレベルが上がれば自信もついて、他人にビビらず体格の良さを活かしてハッタリをかませられるようになったのだ。


「どうだ、やってみれば大したことねぇだろう。俺らは直接魔物と戦う訳じゃねぇ、粉砕の魔道具を使って地竜の腹を破り、死ぬのを待つだけだ。別の言い方をするなら、それ以外の無駄な戦いをする気はねぇ。ヤバイと思えば逃げる、遠回りするで構わねぇんだからな」

「うっす、分かりやした」


 四人がいつもの調子を取り戻したのを確認して、ジントンは下層に向けての出発を命じた。

 実際、ニャンゴたちによって新区画が発見されて以後、ダンジョンに潜る冒険者の数は飛躍的に増えている。


 ちょくちょく下層から上がってくる連中と擦れ違うし、ジントンたちを追い抜いていく者すらいる。

 それだけ冒険者が動き回っている場所には、フキヤグモもヨロイムカデも姿を現さないし、見つかればすぐに討伐される。


 現在のダンジョンの階段は、地上の通りと大差ないほど安全なのだ。


「よし、フロアに出ろ」


 ジントンは、新区画への連絡通路がある階層よりも一階上のフロアに出るように指示した。

 一階下のフロアは、今や綺麗に整備が進み、連絡通路までは明かりも灯されている。


 だが、ジントンたちが足を踏み入れたフロアは埃が積もり、明かりも灯されていない。


「ジントンさん、やっぱり下の……」

「なんだ、もうビビってんのか?」

「いや、そういう訳じゃ……」

「他人を出し抜いて大きな儲けを掴むには博打が必要だ。すごすご尻尾を巻いて、いつ自爆させられるかビクビクしながら生きる生活に戻るか?」


 ジントンの言葉を聞いて四人の表情が変わった。

 反貴族派は粉砕の魔道具を用いたテロ行為を行っている。


 最近は魔導線を使って遠隔で爆破するのが主流だが、自爆攻撃が無くなった訳ではない。

 それに組織に属している以上、自爆でなくとも死地に送り込まれる可能性はある。


 狂信的に反貴族の思想に染まっている者ならば、喜んで死地に踏み込んでいくのだろうが、貧しい村から出て外の世界を知り、生への未練を持った者にとっては地獄のような状況だ。

 ボレーノたち四人は、その地獄から抜け出すためにアースドラゴンの討伐という博打を打つ決意をした。


 自分たちの目的を思い出させられ、足を踏み出す闘志が蘇った。


「いいか、俺が探知魔法を使って大物は先に見つけてやる、あとは雑魚なんだからビビるな」

「はい」

「いくぞ」

「はい!」


 ジントンは、前衛二人、後衛二人の中央に陣取った。

 探知魔法を使っている間は、自分の周囲への警戒が疎かになる……というのが表向きな理由だが、実際には単に自分の身を守るためだ。


 ジントンたちは、ダンジョンの西側から南側へと進んでいく。

 アースドラゴンの討伐は、人目に付きにくい南側でやる予定だ。


 西側のエリアを南下し、南側のエリアの中央まで辿り着く間、ジントンが探知した大きな生き物は別のパーティーの冒険者だけだった。

 最初はおっかなびっくり進んでいたボレーノたちも、目的の階段に着く頃にはリラックスしていた。


「三階下、最下層の一つ上のフロアに出ろ」

「ジ、ジントンさん、ヨロイムカデがウジャウジャいるぞ」

「なにぃ……げっ、何だこりゃ!」


 最下層の一つ上のフロアには、たくさんのヨロイムカデが蠢いている。

 ただし、ニャンゴたちがスロープの封鎖に来た時の半分から三分の一程度の密集度だ。


「お前らの中に土属性の奴がいたよな?」

「はい、俺とデントナーが土属性です」

「ちょっと土を取って来て、階段とフロアの間に壁を作れ」

「でも、走り抜けちまえば……」

「馬鹿野郎、討伐に失敗して逃げる時のためにやるんだ、グダグダ言ってねぇで進めろ!」

「は、はい!」


 ジントンはフロッキとサリキスにも土運びを手伝わせて壁を作らせ、自分は索敵に集中すると言って手を貸そうともしなかった


「ジントンさん、終わりました」

「よし、こっちに集まって休め。飯にするぞ」


 ジントンは四人に休憩するように言い、自分は出来上がった壁を確かめにいった。

 かつてパーティーを組んでいた冒険者が作った物に比べると壁は硬化が甘く、ちょっとした魔物に突っ込まれれば崩れてしまいそうだが、一時的にヨロイムカデを防ぐ程度は出来そうだった。


 ジントンが戻り、五人でビスケットのような携帯食と干し肉を齧っていると、アースドラゴンの咆哮が響いてきた。


「グォォォォォォ!」


 地上で聞くのと、二階層しか離れていない距離で聞くのとでは迫力が違う。

 体を揺さぶるほどの音量に、ボレーノたち四人はブルブルと震え出した。


「ジ、ジントンさん……」

「ビビれ、ビビれ、あいつはヤバい奴だ。大丈夫なんてイキがって突っ込めば、プチっと殺されちまうぞ。ビビっていい、だが動けなくなるな」

「はいぃ……」


 ジントンは、アースドラゴンの気配が遠ざかるのを待って、慎重に行動を開始した。

 最下層と一つ上の階層の間の踊り場でボレーノに明かりを持たせ、一人で最下層まで降りて風属性の探知魔法を使った。


「ちっ、広すぎて端まで探知できねぇか……」


 ダンジョンの東西の幅が広すぎて、ジントンでは端まで探知することができなかった。

 ジントンは少し迷ったが、ボレーノたちに粉砕の魔道具の設置を命じた。


「俺がここで魔導線を持っていてやる。お前らは一人一枚埋めて来い。間隔は腕一本分で一ヶ所にまとめろ」

「もっと離した方が当たるんじゃないんですか?」

「馬鹿、一発当てたぐらいじゃ効かねぇからまとめて設置するんだろうが、頭使え!」

「はい、すみません……」

「ここからは、なるべく離して。ちゃんと目印を立てておけよ」

「分かりました! いくぞ……」


 ボレーノたちは明かりの魔道具を片手に、粉砕の魔道具の設置に向かった。

 ジントンは束ねた魔導線を握った状態で、階段室から首だけ出して見守っている。


 魔導線が伸び切ったところで、ボレーノたちが設置作業を始めた時だった。

 急にジントンの探知魔法に大きな反応が現れ、あっと言う間に距離を詰めてきた。


 ジントンたちは、アースドラゴンが明かりに反応するのを知らなかった。


「お前ら……」

「うわぁぁぁぁ!」


 ジントンが警告を発し終える前に、アースドラゴンの接近に気付いたボレーノたちが悲鳴を上げた。

 恐怖に顔を引き攣らせて、体を硬直して立ち尽くし、腰を抜かして座り込む。


 逃げ出すという選択をできたのは、犬人のサリキスだけだった。

 貧しい農村の生まれで、ゴブリン退治ぐらいしかやったことがない若造に、襲い掛かるアースドラゴンを前にして機敏に動けという方が無理な相談だ。


「馬鹿、逃げ……」


 逃げろと言いかけたジントンの頭の中で悪魔が囁いた。

 これは願ってもないチャンスだと……。


 硬直したままのボレーノ、フロッキ、デントナーの三人に向かって、アースドラゴンが牙を剝いて噛み付く瞬間を狙い、ジントンは魔導線に魔力を込めた。

 ズドーン……っという大音響と共に爆風が広がり、吹き飛ばされたサリキスがジントンの目の前を吹き飛ばされていく。


「がぁぁ……耳が」


 ジントンは耳の奥に激しい痛みを感じると同時に、平衡感覚を失って立ち上がれなくなった。


「グァァァァァ!」


 顎の下からボタボタと血を流しながら、怒りの咆哮を上げてアースドラゴンは暴れ始めた。

 痛みと怒りで我を忘れ、頭を振り上げて天井を突き破り、尾を振り回して柱を薙ぎ倒した。


「ヤ、ヤバい……立てねぇ……」


 ジントンは討伐に失敗したら、ボレーノたちを置き去りにしてでも一目散に逃げるつもりでいたが、三半規管にダメージを食らって立つことすらできずにいた。

 地下深い最下層なのに床が揺れ、バラバラと崩れた壁が降って来ても、ジントンは音の消えた世界でそれを見上げるしかできなかった。


 ズズーン……っと、これまでで一番大きな揺れがダンジョンを襲った。


「グアァァ……グェ……」


 複数の柱が薙ぎ倒されたことで床が崩れ、ダンジョンの南側が崩壊を始める。

 地下四階、地上七階の建物に加えて、積もった土砂の崩落に巻き込まれ、ジントンはアースドラゴンと共に圧し潰された。


 ジントンたち五人は地竜殺しの偉業を成し遂げたものの、富も、名声も、地位も手に入れることなく、誰にも知られずに地下深くで永遠の眠りについた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] マジか!! [気になる点] 反貴族波とはいえこの引退はポカーンとするので生き延びてほしい。
[一言] 手負いのドラゴン相手にしなくて済んだのだけは不幸中の幸いですが ダンジョン自体の被害がどの程度なのかが心配ですね。
[一言] 討伐隊が戦ってる最中に余計な事する要因と思ってたけどこういう結末になったか 文面からアースドラゴンは倒せたみたいですが遺跡の南側が大幅に崩れちゃったのは技術的にも学術的にも痛い損失だなぁ こ…
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