討伐の打ち合わせ
アースドラゴン討伐の打ち合わせを行うので、チャリオットのメンバーにも参加して欲しいと、ギルドの職員モッゾから要請された。
参加を希望する冒険者ができるだけ多く参加できるように、打ち合わせは連絡通路の旧区画側、かつてはバスターミナルがあったと思われる広いスペースで行われる。
最初にギルドが基本的な方針を提案し、それに対して参加する冒険者たちが意見を出し合い、もっとも良いと思われるものが採用されるそうだ。
不満を抱えたり、意思統一が出来ない状態で討伐に臨めば、全滅させられ兼ねない相手だから、事前に十分な擦り合わせが行われるらしい。
打ち合わせには、ざっと見ただけでも三百人ぐらいの冒険者が集まっていたが、全員が参加する訳ではないようだ。
アースドラゴンに挑むには実力が足りない者、参加は報酬次第と考えている者、自分の案が採用されないなら参加する意志の無い者など様々だ。
「それでは、討伐の基本的な作戦について説明する」
冒険者たちが集まり、定刻になるとモッゾが台に上がって話し始めた。
ギルドから提案されたのは、討伐の開始日時と待ち伏せを行う場所だけだった。
「討伐は一週間後、待ち伏せは最下層の東側で行う」
「なぜ東側なんだ? 南側の方が、こっちへの影響は少ないんじゃないのか?」
モッゾの話に被せるようにして、三十代ぐらいの冒険者から質問がとんだ。
「討伐に失敗した場合の退却ルートを確保しやすいのが東側だからだ」
質問した冒険者の言う通り、ダンジョン北側中央に位置する連絡通路への影響を考えるならば、南側で討伐を行う方が良いのだろう。
だが、南側は上層へと上がる階段と階段の間隔が広く作られていて、退却する場合に複数のルートを確保するのが難しい。
西側は地上へと通じる建物があり、こちらが崩壊すればダンジョンにいる全員が生き埋めになってしまう。
ギルドが選定した東側のポイントは、周囲に四ヶ所、六本の階段がある。
なぜ四ヶ所なのに階段が六本なのかというと、二ヶ所がエスカレーターだからだ。
停止した昇り降りのエスカレーターは、二本の階段として使われている。
今回の討伐には、多くの冒険者の参加が予想される。
退却となった場合、複数の階段を確保できていなければ、人が密集して群衆雪崩が起こる可能性がある。
群衆雪崩にまで発展しなくとも、逃げ遅れればアースドラゴンの餌食となってしまうだろう。
退却する可能性も考慮した場所の選定に、冒険者からは異論は出なかった。
「それでは、場所については東側に決定する。次に、討伐手順について意見を聞かせてもらうが、二つほど注意点がある。一つ目は、粉砕の魔道具は使用を禁止する」
「なんで駄目なんだ! 待ち伏せに使えば、初っ端で大きなダメージを入れられるだろう」
俺が理由を訊ねる前に、別の冒険者が声を上げた。
「ダンジョンの内部で粉砕の魔道具を使うと、周りにいる者が耳をやられてしまう。集団戦で指示が聞こえなくなるのは致命的だ。最初に接触した連中の多くが犠牲になったのは、粉砕の魔道具を使ったために耳をやられて指示が伝わらなくなったせいだ」
アースドラゴンの咆哮が聞え出した直後、ギルドは総勢十五人の調査隊を送り込んだが、戻ってきたのは二人だけだった。
名前を売ろうと無謀にも仕掛けた連中が粉砕の魔道具を使ったために、多くの者が聴覚を失い、リーダーの退却指示が伝わらなかったらしい。
屋外とは違って空間に限りのあるダンジョンでは、音や圧力が籠って鼓膜にダメージを与えてしまうのだろう。
まぁ、粉砕の魔法陣が使えない状況は想定していたので、残念ではあるが割り切れたのだが、続いてモッゾが放った言葉は想定外だった。
「二つ目の注意点として、このポイントの床は濡れて滑りやすくなっている。足下に考慮して作戦を立ててくれ」
「えっ! 濡れているって、どの程度なんですか?」
ダンジョンの内部では、地下水が染み出している所があり、床が濡れているのは珍しくない。
なので、俺が質問するとモッゾも周りの冒険者たちも怪訝な表情を浮かべた。
こいつその程度も想定していないのか……と思っているのだろうが、俺にとっては絶対に確認しておかなければならない状況だ。
「アースドラゴンが暴れ回ったせいなのか、どこからか地下水が洩れてきているようで、深い所ではくるぶし辺りまであるそうです」
「一面水浸し?」
「そう考えておいて下さい」
「分かりました」
この時点で雷の魔法陣は使えなくなった。
アースドラゴンを感電させるつもりで雷の魔法陣を使えば、周囲にいる冒険者まで感電させてしまう。
黙り込んだ俺にセルージョが声を掛けてきた。
「どうした、ニャンゴ」
「セルージョ、雷の魔法陣が使えない」
「何でだ?」
「雷は水を伝ってしまうから、周りの冒険者まで巻き込んじゃう」
「マジかよ。砲撃も駄目、粉砕も駄目、雷も駄目、あとは……フレイムランスか」
「うん、そうなんだけど……突き刺さる前に避けられたり、本体を壊されたら終わりだよ」
「何言ってやがる。避けられたら当たるまで、壊されたら何度でも作り直せばいいだけだろ」
「あっ、それもそうか……」
何度でも作り直せる空属性魔法の特徴を、俺が忘れてどうするんだ。
「それによぉ、甲羅や鱗の硬い連中ってのは、そこは攻められても大丈夫だって思い込んでるもんなんだぜ。前に、ロックタートルを討伐したよな?」
「俺の砲撃とシューレの風の魔法で倒した奴だよね?」
「あいつら、水辺にいる時には素早く水の中に逃げるけど、陸で敵と遭遇した時には甲羅に閉じ籠るんだ。自分の甲羅は破られないって思ってやがるから攻撃し放題だ。まぁ、それでも倒すのは大変なんだけどな」
「そうか、アースドラゴンも自分の体の硬さを過信して、背中への攻撃は警戒していないかもしれないのか」
「そこに、鱗も貫通するような攻撃を食らわせてやれば……」
「なるほど……倒せるかも」
警戒していない背中に、一度に何本ものフレイムランスを突き立てれば、かなりのダメージを与えられるだろう。
それに、脊髄にダメージが通れば、アースドラゴンの動きを止められるかもしれない。
その後の話し合いでも、色んな冒険者から様々なアイデアが出された。
中でも面白いと感じたのは、土を使った足止め作戦だ。
事前に待ち伏せのポイントに土を入れ、なるべく分厚く敷き詰めて硬化させておく。
そして討伐の当日、アースドラゴンが土に乗った時に一気に軟化させて足を沈め、直後に硬化させて足止めをする作戦だ。
足止めのために硬化させる時には、水属性の魔法が使える者も水分を抜いて硬化を手伝うらしい。
足止めを土属性と水属性の冒険者が担当し、風属性と火属性が攻撃を担当するようだ。
攻撃を行う者達は、足の付け根を集中的に狙う。
とにかく、アースドラゴンの機動力を奪い、動けなくしたところで集中攻撃を加えて止めを刺す。
「エルメール卿には、討伐現場の照明を担当していただきたいのですが……」
「構いませんよ」
ダンジョンの内部は、照明が無ければ真っ暗闇に近い。
光を放つ苔やキノコが生えている場所もあるが、討伐予定の場所はアースドラゴンが歩き回っている場所だし、これから土も入れるので真っ暗だ。
明るい場所では、こちらの居場所も見つけられやすくなるが、それよりも互いの位置や撤退するためのルートが見えている安心感を得られるメリットの方が大きい。
俺としては、使える魔力のリソースを照明に取られてしまうと、フレイムランスの複数同時発動ができなくなってしまうのだが、全体の安全を考えたら引き受けざるを得ない。
討伐に参加する冒険者が生還する確率を上げることは、チャリオットのメンバーが生還する確率を上げることでもあるのだ。
討伐の打ち合わせは、半日以上に渡って続けられて作戦の骨子が固まった。
明日からは土属性の冒険者たちが、討伐を行うポイントで下準備を始めるらしい。
そして討伐に参加する者は、事前に参加の届け出を行うそうだ。
その時に、討伐に際してはギルドの指示を遵守するという誓約書も提出させられる。
これは、自分勝手な行動によって統率を乱し、作戦全体を危うくするような者を出さないための措置だ。
もし誓約書に反し、ギルドの指示を無視した行動をとって作戦を失敗させたり、他の冒険者を危険に晒した場合にはペナルティが課せられる。
被害の程度にもよるが、ランクの降格や一定期間の利用停止、最悪の場合には登録取り消しもあり得るそうだ。
チャリオットからは、アニキとミリアムを除いた六人が討伐に参加する。
普段とは違って、別々のポジションでの参加となるので少々不安もあるが、自分のできることをやるだけだ。
粉砕の魔法陣も、雷の魔法陣も使えなくなったが、打合せに参加している間に思いついたこともある。
あとは当日までに準備を進めて、アースドラゴンを仕留めるだけだ。





