B046.押し付けられた仮病
戦争は良いけど総指揮官は御免だぜ、という教訓を学んだ俺には三つの道がある。
一つは素直に敵の総指揮官であるアドミラルと講和をして戦争を有耶無耶にする。
これはこちらから講和に望むという形なので面倒な交渉と譲歩が必要になる。
もう一つは唐突な回線切れや「用事を思い出す。」事によって戦場から姿を消す。
こっちの手は全軍が混乱した後に指揮官が別のプレイヤーに代わり戦争がコアタイム終了まで続くが、今後俺の評判がぐっと落ちる。好評は忘れられやすいが悪評は根強く残るのが世の常だからこれも避けたい。
最後の手は予め交代用に定めておいた指揮官に引継ぎを頼む事、これはコネや意思疎通と意識レベルの差が重要になる、候補先としては魔王就任時間の長かった愛微笑を据えてのナイトさんによる傀儡政権か現魔王イゾログ君への全面委任である。イゾログ君は恐らく喜んで総指揮を執るだろうが敵将アドミラル及びマギラ3ちゃんを救う会で結んだ協定の話は知らないのでこれは最終手段になる。
思い通りに行く規模の戦闘と作戦は実に清清しい、目の前で必死に後退を続ける敵の木馬6両を見ながら俺は実感する。全滅させる事には成功しなかったが、敵の奥の手か切り札をまた一枚潰せた訳だ。
ただ問題は切り札は使えば使うほど切れ味が上がるのである、そしてそれは奥の手ではなくよく訓練された特殊作戦群となる。つまり次回の野戦において敵の木馬が更に凶悪化するのは目に見えているがこちら魔王軍の木馬組には得られた物が少ないので次回の野戦は危ない、そもそも魔王軍の木馬は指揮系統のある部隊ですらなかったからだ。
こちらに有って敵に無い物、敵に有ってこちらに無い物が明確に見えた戦いであったが、勝利の道筋が明確ではなかった実験的な戦争指揮がこれ程にストレスとなるのは考えもしなかった。
「ナイトさん!」「やだ…。」と俺は参謀格の一人にキラーパスを送るもその意図と内容を的確に察知されてかで1秒間も無くお断りされる。だがそこで挫ける俺じゃない。
「この愛微笑がどうなってもいいんですか、こいつを指揮官に全チャットで指名して俺はオフライン表示になるぞ!」という仲間を売るという行為をするのには理由がある。
「え?ちょ。まてよください。」と困惑する前々魔王様に俺は駄目元の追い討ちを加える。
愛微笑は興味本位で魔王に就いて在位が一番長かった魔王である。魔王に就任したのだから魔王軍の指揮を取れよという暗黙の了解があったと思うのだが、こいつが戦争指揮を執ったことは一度も無い。
「大丈夫、バッシーさんとナイトさんの言う通りに進めれば勝てるから、俺は疲れたんだ。マジマジ。」
と俺は首を左右にブンブン振って嫌々アピールをする。
「私の様なおっちゃんにはビータ君の様な過激な戦術は実行できませんよ。」とバッシーさんがメガネくいっとして愛微笑も「そーだそーだ。」と続けるが「そーだそーだじゃねえよ、ジュースでもソーダでも奢ってやるから魔王責任をちょっと担ってくれないですか!」と俺は食い下がる。
ぶっちゃけ既に総指揮官が俺じゃなくても戦争は進む戦況なんだよ、そこを理解しろ!他は理解してるからこそ断っているんだろうけどな。
「魔王責任ですかー、それを言われると少し胸が痛みますね。」と愛微笑は声を曇らせたのでこれ以上に魔王責任については追求しないでおく、人は痛い所を突かれると弱い者である。
「では、ナイトさんとバッシーさんとビータさんの決定をアナウンスすればいい、でいいですか?」と愛微笑は初の指揮官就任に承諾をしくてれる。
なんだよ、妙に素直だな、裏でもあるんじゃないかと思い。愛微笑を見ると、その隣でヒソヒソと唇を動かすナイトウィンドさんの姿があった、あれはロクな事吹き込んでないパターンだ。
『魔王軍司令部より総指揮官交代のお知らせです。前任指揮官のビータ君がお腹痛いから指揮官代わってと言うので総指揮官は私、前々魔王の愛微笑が緊急的に交代します。皆様御協力の程よろしくお願いしますペコリ!』
オイオイオイオイ。
その直後に飛び交う『前魔王が腹痛で病臥!お大事に!』『ポンポンペインDeathか!お大事に』『なんだよー正露丸かストッパでも飲んでやれよー』とか『腹巻がオススメですよ。』等の心温まるメッセージが大量に届いてくるが、なんか、すごい、居た堪れない。
いや、確かに誰も傷つかない指揮官交代方法だけどさ、その、俺のクールな指揮官イメージを目指していたつもりがこう砕かれると本当にお腹が痛い気がしてきた。
『所でよー、地下空洞がもう覇都の城門下くらいまで進んだんだがこれって攻めていいんだよなあ?』とさっそくイゾログ君が秘密協定違反を行おうとするが、「止めてくだされ、止めてくだされ。」と早速新しい総指揮官殿に口ぞえする。
すると愛微笑は「覇都は攻めはまだ無理だそうでーす。えっと理由はなんでしたかね?」と尋ねてくるが実に不安になってくる。
「んー、飛行部隊からの援護が不可能。敵の艦隊がそちらに向かっている上にこちらは攻城を想定していない。って伝えて。」と俺は愛微笑に伝えてから大急ぎで外部チャットツールで敵将アドミラルへ『地下戦闘、覇都目前、戦艦と熱油用意されたし。』とショートメッセージを送ると素早く『承知した。』と返事があった。売国?いいえ、協定通りの戦争維持ですよ。
次にやる事は味方飛行部隊の引きつけであるが、これは訓練という形で「敵の艦砲射撃を避けながら木馬を爆撃する練習をしてくれませんか。」と爆撃隊に告げると疑う事をしないまでの信頼を得た彼等は「了解Death!」「訓練に励みます。お腹大丈夫ですか?」と素直に応じてくれるのが罪悪感をマシマシさせてくれる。
「後は東部戦線か、また一騎打ちしてるよあいつら。あそこはほっといていい、アルカントスさんの方が俺等よりうまくやるし。」と砲台の無いオーク族模様らしい装飾のされた木馬の上で仁王立ちするオークの将軍の背中を見に行って確認したが東部戦線異状なし。
よし、俺の出来る事はもう無くなった、後は何して遊ぶかだな、と考えていたら。
「先輩、まるで仮病を使って学校休む小学生っすね。」とロドリコがまた皮肉を口にするが、「なんで詳しいんだよ、常習犯か?」と効果的に切り返しておく。
現時刻22:00コアタイム終了と言われる時間まであと2-3時間か、急病により戦線離脱という形になっているので最前線で目立つことは出来ないからどうすっかな。
俺は背中に乗っているレオさんとマリッドの姉御とロドリコを陸地に降ろしてから、「じゃあ、トイレとその落書きでも見てくるか、ちょっと遊びに行ってて。」と伝えマギラ3からログアウトをすると外部チャットツールを使いマギラ3ちゃんを救う会にリアルタイム接続をしながら匿名掲示板晒しスレッドを確認する。
うん、めっちゃ誹謗中傷されてる。でも罪状が「無意味な戦火の拡大。」とか「今日の戦争は方向性が無い。」「総指揮官はドラゴンの癖にチキン野郎。」といった内容なので目標の達成は出来ている事を確認して満足。
そうだよ、亜竜は死なない事こそが大事なんだよ。亜竜のドロップアイテムが竜炉や竜心爆弾の材料だから出来るだけみんな死なない動きをして欲しい、その代わり経験値を丸呑みで稼ぐという設計なのが亜竜と竜人では常識になっている。
「なんじゃ、やっぱり仮病か。」とカラシさんからチャットが届く、正解であるが不本意である。
悔しいので「お腹痛いって設定作ったの俺じゃないですから。」と反論するも、「錦の御旗を手放した時点でこうなる事は分かっておったろうにのう。」と嘲笑う様に茶化される。
「新指揮官なりの嫌がらせですよ。」と応えると、「私にはナイスフォローだと思いますが。」とエールート氏がコメントを挟む、「んじゃエルフにお腹痛い状況はあんのかよ。」とカラシさんがどうでもいい事を口にするが「は?エルフに腹痛なんて起こる訳ないじゃないですか?」と相変わらずどうでもいい掛け合いを続けている。
その様子を見ているはずの敵将であるアドミラルは始終無言だ、俺はその重圧か貫禄かをかもし出している提督さんに尋ねてみる。「アドミラルさんは今なにやっているんですか?」と敵の作戦を聞き出す?いや、単純な好奇心だよ。とワクワクして待っていたら、「あ、すまない。マンガ読んでました。」と俺から見たアドミラルのイメージをぶち壊しな返答が来た。
「アドミーは意外とマニアックなマンガを知っているぞ、昔廃刊になった月間誌や隔間誌のマンガの話を振ってもちゃんと知ってる。」とカラシさんはアドミラルさんを既に愛称で呼ぶくらい話かけているか。
「そもそも海賊や艦隊ごっこする様な人間がマニアックじゃない訳がないじゃないですか。」とエールートは言うがあんたが言うなら間違いない。
「で、戦況はどうなんじゃー?動きが無いから実況映えしねえんじゃよ。東部戦線の前時代的な戦闘は評判良いけどな。地下はスプラッタだし。」とカラシさんが情報の収集に
かかるが、「特に無いです。」「無いですなあ。」と俺とアドミラルの見解は一致。
「木馬とか竜心爆弾運用とかあるじゃろ!」とカラシさんは食い下がるが、盛り上げたいなら貴方が指揮を執ればいいのにと思ったが、この人はベテラン過ぎるので口には出さない。
「んー、木馬の運用は魔王軍では駄目です。やっぱり搭載する大砲の方が魔法よりも強いですし、大砲も霊炉も魔王軍は用意出来ないのでモンスターらしい空爆訓練と部隊拡張をするしか無いです。」と俺は正直に伝え。
アドミラルも「こちらの木馬がなかなか良い働きをしたのは私の想定外だ、霊炉や大砲は出来るだけ戦艦に回したかったのだが、木馬での運用も馬鹿には出来ない事が分かった、6機の霊炉と砲台18門をそちらの統合攻撃で失ったのが実に痛いですが。」とこちらの想像に裏づけをしてくれる。
「ふむ、霊炉、竜炉、大砲の増産が強い生産要素じゃな。後は爆撃がちょっと強すぎるから修正くるんとちゃう?」「そうはいいますが、こちらも信仰の強要とメンバーの固定化及び装備やスキルのビルド研究をしているのであっさり修正されるのはちょっと困ります。」と俺は世界の修正力に対し抵抗の意思を見せる。
「木馬及び戦艦が手軽になればバランスは取れると思うのですが、問題は歩兵ですかね。訓練や財力がモノを言うならば現状の歩兵の扱い、つまり前時代的な戦闘方法を優遇するのは甘えでしょう。」とアドミラルは妙に身内びいきはしない。人間が出来ているのか次は魔王軍でも楽しみたいかのどちらかだろう。
「来るでしょうね、低きに流れた人々を救済するパッチが。」と自称エルフは溜め息を付く。
「要素の進歩はゲーマーを楽しませるか?という議論になれば、結果は多数決とカネを払う層の統計で評価が決まるからなんとも言えんわい。」「世知辛いですな。」「MMOに芸術性みたいな物は求めてはいけませんよ。全てが量産品と多数決です。」と口々に言うがどうしようもねえ。
俺はその会合をそっと閉じ、マギラ3へまたログインをし戦況を尋ねてみると。
『おい、支援はあくしろ!』とイゾログ君が唐突に苦情を入れてきたが、なんでお前そこまで覇都落とそうとするんだよ、明らかに無理な戦術だろと思える地下ダンジョンから覇都への土竜攻めを行うがダンジョン出口の上に敵が素早く設置した熱油によりダバーっと熱い油を注がれて犠牲を増やすだけである。その直後に敵の死神による特攻自爆攻撃が決まって清々しい程の戦術敗北を繰り返している。
「魔王軍ファーム。」と俺は小さく呟くと自爆後に瀕死になった死神を引き寄せて倒すマシーンとなっているロドリコの横でそれを丸呑みにする機械と化してコアタイムをやり過ごしにかかった。
・オナカガイタイ
同僚にいたフィリピン人が日本人相手に「スミマセンスミマセン!」と「オナカガイタイ。」という単語をジョークか本気か分からないがよく使っていた。この呪文を唱えると日本人は深く訴求して来ないから便利という事らしい。前者の意味は分かって使っていたらしいが、後者は4年間日本人と働いていてもその意味を知らずに使っていたらしい。そこへ私が「オナカガイタイ イズ ストマックエリア ペイン オア ハーツ。」みたいなインチキ英語で教えてやると「リアリィ!?」と真顔で聞いてきたので「せいむせいむ。」と応えてやると「OH。」みたいな事を言っていたので腹痛で苦しむと許されセーフ判定が出るのは日本くらいなのかもしれない。




