B047.エイエムイチゴ
機械都市グラハティア。黄銅色で尖った形の建物がそびえ立つ無意味に作り込まれた都市テクスチャは黒ずんだ色のかかった廃墟と化し、今では中立勢力のモンスターが跋扈する無法地帯。ここは更にその東の地の地下、つまる所『天魔のダンジョン』と呼ばれる有名な地下大迷宮の東隣に作られた地下施設。この一見ただの草原にポツンとある地下階段を下るとダンジョンの入り口では無いだろう扉があり、その扉表面にはローマ字で「AM1-5」とだけ書かれている。
エイエムイチゴと関係者から呼ばれているそのダンジョンを基本とした施設の施工主は「竜心から貴方の心までを取り扱います。」というキャッチコピーにしたらしい商会ギルドのマスター、カラシニコブの作品である。
だが、実体はそのドワーフ男の支配下にある施設ではない。この施設を新たに創設したのは確かにカラシニコブの入れ知恵だが、支配者は少し変わった勢力である。その名を『故国奪還隊』と呼ばれている魔王軍や覇王軍に種族ホームを奪われたプレイヤーが集まるギルドであった。
故国奪還隊は元々グラハティアがホームであったテクチャルやエンシェントエーテロイドが主体のギルドであったが、そこからホーム奪還を諦め抜け出す者や滅んだのなら自分はユニークユニットじゃないかと選民意識を持ち始めて離脱する者が増え始め、その後に戦力や経済力及び作戦遂行能力の低下、他ギルドの隷下扱いの待遇を日々受けてきたので新たにホームの滅んだラットマン、獣人、果てはネレイドやマーマンまでもを組み入れ戦力の増強を図る事となった。
覇王と魔王の軍勢で初めて協力一致して活動をするギルドは皮肉な話、祖国ことホームを失った者達が運営する事になった。
エイエムイチゴは敵味方首脳による絶望的な談合戦争と迷走の真っ只中にある故国奪還隊の統制へ一つの楔となった。
「さあ行動しよう!君達が今まで無駄に使った時間を取り戻す時が来た!わしは君達の為に喜んでメフィストフェレスをロールしよう!お代はラヴか、もしくは君達の新しい物語で結構。」と言いながらニコリと笑うドワーフは開業資金も人手も全て用意してくれた。
思うと、悪魔と言う種族が本当にいるのだとしたらこういう人なのだろうと私は回想する。
「ねえ、グネット。本当にお客さんなんて来るのかしら?」と部屋の隅から発せられる暗い赤光に照らされたエンシェントエーテロイドの少女リニアが部屋の隅にあるピアノでマギラシリーズログイン画面のBGMを演奏しながら尋ねてきた。
リニアはエンシェントエーテロイドだがその造形は間接部分以外は人間に近く可愛らしいお人形さんその物である、エーテロイドは人型と、オールドタイプと呼ばれるよくある宇宙戦争映画に出てくる様な無骨なロボットの見た目が選択出来るらしい、リニアは前者だが「性能は同じなのに後者の見た目を選ぶ人は変わり者だよね。」と以前言っていたな。
客席に使う豪華なソファー、そこに座る私の隣のパイスが「リニア、モット明ルイ曲ヤッテ。」とカタコトで喋るが、パイスも人型エーテロイドだがボイス設定をメカモードに設定しているでのこういう声になる。
「分かった!お客さん来ないの曲!作るね!」とリニアがアップテンポの激しい曲を演奏し出すがハンドコンソールでよくあんな演奏が出来るなと感心する。
「リニア~お客さん来たら困惑するからちゃんとそれっぽい曲にしてよ~。」と獣人のユウファイがのんびりした口調でカウンター内から声を掛ける、ユウファイは獣人だがその外見は珍しいパンダ系の獣人だ、パンダ獣人少女なんてマニアックなプレイヤーだがその外見は実にフワフワしてて可愛い。
その横で慌しく動き回るラットウーマンの3匹1ユニットがユウファイと一緒にオツマミの類の在庫チェックをしている、頭に赤いリボンを付けた鼠少女達はイトラというが基本的に「チュー。」しか喋らないシャイな娘だ。
「リニア、歌える曲を演奏してくれないか?」とピアノの横にあるちょっとしたステージに立つネレイドのお姉さんがそのうっとりする様な美声でリニアに自身の活躍を見せようと曲を強請る。
「じゃあ、著作権怖いから。ニーチェはスカボロー・フェアって歌える?」とリニアはニーチェことニーチュアに古典音楽の知識を確かめると、「ええ、発音が恥ずかしいけど悪くていいなら歌えるわ。」とニーチュアが応えて曲に合わせて歌い出す。
私はアドオンのサブブラウザを開きながらその歌の歌詞を確認する。あーこれは聞いた事あるねと思いながらそのピアノの音と美声に耳を傾けていると自分が従業員では無い気がしてくる。
エイエムイチゴは私ことテクチャルのグネット、ピアノ弾きエーテロイドのリニア、ネレイド歌姫のニーチュア、パンダ獣人少女ユウファイ、とラットウーマンズのイトラ、カタコトのパイスで成り立っている今日開店したばかりのお店である。
私は先日まで海洋ギルド『黄金のシロッコ』の空軍に所属していた兵士であったが、そこのギルドマスターが私達のホーム奪還をする事に消極的だと分かり、今はそこ抜けてこうやって機械の鎧を脱いで普通の人間種族が着る様な肩を丸出しにしたドレスを着ながらお客を待つ接客業になってしまった。
毎日姉妹の様に一緒に戦っていた空軍隊長のニットには申し訳ないが私はもうアレには付き合いきれない。
ドワーフの見た目をした悪魔が言うには「君達の狙いにはその方が効率が良い。」だそうだけれど、宣伝もあっちがやってくれるとは聞いていたから何かかしらアクションはあると思っていたけど時計を確認したらまだ午前1時15分か。さすがにコアタイム直後である開店直後にお客さんが来る事はないのかな、と思っていたら。
重厚な厚さを持つ内側から見ると革張りの扉が開き、最初のお客さんを迎え入れる事となった。
「あったよ!キャバクラ!」「でかしたプル!」「カラシさんが一晩でやってくれましたか。」
長きコアタイムに及ぶ戦いは俺達の心を大きく疲弊させていた、必勝法の陣形で確実に敵のプレイヤー達を戦闘不能に追いやっていくと段々と我々と戦うのを嫌がるプレイヤーが増え始めるのでこちらは戦線を前へ詰めなければならず、詰めると敵のPugZergに「今までの恨みじゃ!」と言わんばかりに集中攻撃を食らう、そうさ俺達ローパーは嫌われ者さ。好かれたらそれはそれで対応に困るけどな。
扉を潜り中を見渡すとそこには動物的に可愛い獣人とラットマン、それにステージ上でネレイドの美声を強調する青髪のすごい髪の長いお姉さんと隣で目を瞑りながらピアノを弾く薄い金髪ポニーテールのエーテロイドの少女。
俺達の姿を見て怯まずに歩みながら「オメシモノハアリマスカー?」「3名様ですね、どうぞ奥でお掛け下さい。」という銀髪オカッパ頭エーテロイドの娘さんと、この茶髪のコビットに似た娘さんでこれはパワースーツを脱いだテクチャル少女か!なんて珍しい。
お召し物が無いのを確認した彼女等は俺達の触手を優しく握りながら奥の席へ誘う。おほほ、ローパーでプレイし始めてこういう待遇されたのは初めてだわ。
ギルドチャットへ変更「内装はカラシさんの趣味だな、あの人ミラーボールとか嫌いそうだし。後は天魔のキャバクラよりも純情路線と見た、ピアノ弾きと歌姫まで用意していて純人間種がいないのもエクセレント!」
「その分、防衛レベルは低いでプルね。オイタしたら制裁がどう来るのかは興味あるプルけど。」
「カラシさんのプロデュースでしょ?ロクな目に合わないからオイタは我慢しましょう。」
オープンチャットへ切り替え。
「いやーカラシさんの紹介で来たけど、本当に合ったとはね!キャバク…。」とがりるんが言い終える前に、「あの、うちはお触り厳禁のお店ですので、普通のバーとして見て欲しいんですよ~。」とテクチャルの娘が牽制を行う、む、訓練されているだと!?
「じゃあ、紳士的にお隣に座ってお酌をして欲しいプル。」と触手を使いながらメニューを器用に開くクラゲの怪物が豪華なソファーへ腰?を落ち着けた。
「ホミミンさん!真ん中陣取るのずるくね!」「ふふふ、ステルス性能が落ちた分位置取りはうまくなったプル。」
とテクチャルの娘さんとエーテロイドの娘さんを挟む様に三匹は大きなソファーにその不定形な体を沈めた。
「んなー。まぁ、金貨はたっぷりあるからドンドン頼もう、俺もリアルで良いシャンパン開けて来るわ。」
とがりるんはテクチャルの少女の隣に座った直後にAFK表示となり動かなくなる。
「私はお医者先生に酒を止められているのでゲーム内で楽しむ事にしますよ。」とセルフバンジーは口にすると、「大変なんですね、お体を大事にして下さい。」とテクチャルの少女がオツマミをすすめてくる。
「いやあ、無理はするものじゃないプルヨ、沈黙の臓器は突如壊れますからね。」とホミミンさんは口にするも何気にこいつはリアルで医者だ。
「ただいま、今やゲームも酒無しではやっていられない時代!」とがりるんが大きく声を上げる。
「オカエリナサイマセ。」
「よし、注文はこの亜竜排骨とユニグロ製レアクラスシャンパン3本にユグドラ恩寵豆を頼もうプル。」何気に注文したこれらの品は現時点のマギラ3では最高級品である。
「すごーい、皆さん太っ腹ですね!」とテクチャルの娘がヨイショしてくるがコアタイムが終わって眠る時間を逃した人にとってこの時間は酒が無くてもハイテンションである。
「いやー、君達もジャンジャン注文していいよー。金貨はいっぱいあるからね!ローパーは腹が太いのさ!見ての通りだな。」
「スゴーイ。」「聞いちゃ駄目かもしれませんが、どうやって稼いでるんですか?」と娘達は尋ねてくるがリアルバーチャル問わずお金の稼ぎ方は話題のネタになる。
「いやー、僕等は単純にPvPが多いからお給料が振り込まれるプル。戦闘スタイルから使い道もまー…。」
「ローパーの基本装備である指輪を揃えるのに金貨はかかりますね、お陰で最近は上位の指輪が高騰しています。魔王軍では装飾品を作れるマミーは希少ですしね。」とローパー達は己の境遇を語り始める。
「大変ナンデスネー。」「あ、私もユニグロのレア頼んでいいですか?」とテクチャルの娘が上目遣いでがりるんの触手をちょこんと摘みながら尋ねてくるとがりるんは。
「う”まれ”るのが30年くらい遅かっだあ”あ”あ”!」と嘆き崩れた。
この突如奇行に陥ったローパーに流石のテクチャルとエーテロイドの娘達ははオロオロとする。
「どういうことですかね。」とセルフバンジーさんやれやれと肩?をすくめると。
「ああ、30年後位には脳みそに直接データ送信が可能になるフルダイブ型のVR世界が出来ているんじゃないかって話を以前にしたんでプル。」とホミミンは補足を入れる。
「いいじゃないですか、今でも私は楽しいですよ。」「デスー。」と自身に不備が無かったのを悟って娘達は安堵している。
「がりるん触長、長生きしてその時代に辿り着けばいいんでプルよ、夜更かしとお酒と輸入タバコ止めたらどうプル?」とホミミンは真っ当な事を口にするが、「酒とタバコとお姉ちゃんと博打が無い人生は死んでいると思わねえか?」とがりるんは俯きながら呟く。
「いやー、人によりますよ。」とセルフバンジーさんが言うもこいつは性癖がおかしい以外は至極真っ当な人間である。
「お待たせしました~、こちらシャンパンと恩寵豆になります。亜竜排骨はもう少々お待ち下さい~。あ、お酌させて頂けますか~。」とパンダみたいな見た目の獣人がお盆に載せたシャンパンとオツマミをテーブルに並べてからセルフバンジーの横に座る。
セルフバンジーは筋金入りの変態なので「ムムムッ!」と言いながら獣人の娘さんを単眼で舐めるように観察する。
「あまり見つめられると照れますよ~。」と顔を抑えながらあっちを向く獣人の娘さんは実にモフモフしている、「ああああ!生まれるのが30年遅かったですねええ!」とセルフバンジーも嘆きくれるが、「まぁ、フレーバーですけど飲んで現実なんて忘れて楽しい時間を過ごしてください。」とテクチャルの娘は言いながらエルフの作ったシャンパンをグラスに注いでいく。
なお、そのシュワシュワと良い音を立てる液体はエルフ界ことギルドユニグロにおいてイメージ的にワインはOKだがシャンパンはグレーゾーンの品な為に希少性が高い。
「それじゃあ、戦争の部隊的勝利を祝ってかんぱーい。」「カンパーイ。」と触手に巻かれたグラスが掲げられる。
「あれ?戦争全体はどうだったんですか?」とテクチャルの娘が尋ねてくる、「ああ、ええと。」「あ、私はグネットと言います、近すぎて名前表示見えないんですね。」とグネットと名乗った少女は戦争の話を聞きたがっている、「んー、勝ち負けが曖昧だったよねあれ、結局領地は安定して奪えてないからさ。」とがりるんが言い、「訓練としての観点なら一部では大成功、一部で大失敗ですかね。」とセルフバンジーが言葉を繋ぐ。
「へー、じゃあお祭り騒ぎみたいなものだったんですね、私達も行けば良かったかなあ。」とグネットちゃんは口にするも「何で来なかったの?」とがりるんが尋ねる。
「このお店の準備と、覇王にうんざりしてるって言っちゃっていいのかな。それで通じます?」と答えが返ってくると、「ああ、分かるよー。戦略単位で物事を考えている人はあまり人道的じゃないからねえ。」とがりるんは相槌を打つ。
「亜竜排骨上がったでチュー。」と厨房の方から声が聞こえ、それに合わせて獣人娘のユウファイが「お料理お持ちしますね~。失礼します~。」と言いながら席を離れる、それを見てセルフバンジーが名残惜しそうな顔を作った。
そこへピアノを弾いていたエーテロイドの少女が代わりに座り。「私がお酌してもいいですか!」と元気そうに接客へ加わる、そのエーテロイドピアノ弾きのリニアをまた舐める様に眺めてからセルフバンジーは「メカ娘に囲まれるのもいいよね!」とご満悦の感想を出した。
そんな中で、「あ、そういえば皆さんは天魔ダンジョンの防衛隊で有名なお方ですよねー。」とグネットが話題を振る。
それに対してローパー達はピクリと動きを止めてから、「そんなに有名なの?」と尋ね返してきた。
彼等の表情はローパーという種族もあってかとても読み難いが、この一言が故国奪還隊による攻撃の一発目だとローパー達は気づいたろうか。
・ハニートラップ
現在でも何気に起こっている古来より続く古典的な作戦。
自衛官が外人さんの嫁を貰うと一生出世出来なくなるというのは有名な話。
なお筆者はお姉ちゃんの出てくる店の酒に一服盛られた事が今までに二回あるので日本国外で酒を飲む時は注意されたし、シロップで甘くしたテキーラにバイアグラ辺りを入れるのは東南アジアでは古典的なやり方である。
強精剤は一通り試した経験があった為に味や体調の変化で分かった、その時は同僚を無事ホテルまで引き摺り合って撤退に成功。
強精剤に頼らざるを得なくなった経緯はまた別のお話。
・メフィストフェレス
その昔、黒澤明の「生きる」という映画を観てから「人生つまんねーな」という知り合いを見かけては「私が貴方のメフィストフェレス役を務めます。」と口にし行動する事が増えた、自身周辺と元ネタの世代差が大きい為にキモイと言われた事は一度も無い。
大体の人間が「どういう意味だよ。」と困惑をするだけである。
クソ真面目な人には退廃的な遊びをススメ、お馬鹿な人間には分かり易くなおかつ感動的な文学を押し付け、普通の人とは共に地獄を覗きに行き。見聞広い人と出会えば教えや物語を乞い、その人の人生を脚色してネタ帳に書きとめる。
未だに悪魔見習いである。
・エイエムイチゴ
午前1時から5時までしか開かないバー、命名の経緯は以下から出た。
2015年の冬にPS○2にログインしてフレにGJだけして落ちる日々が続いて1年目になった頃、フレの一人から『VA-11 HALL-A』という洋ゲーが日本語に来たらやりたいという話題が情報交換センサーにかかったので期待して待っていたら最近、日本語版がPSPで出ると聞いた。ううむ、3DSはあるがPSPは持っていないから困った。スチームの奴を日本語化してくれるといいんだけどなあ。SFガチ勢としては見逃せないゲームであろうが、舞台である50年後くらいの未来では酒とかもう禁止されてそうだと思うんだよね。
知り合いの元バーテンダーを主人公にした小説も書いてみたい。




