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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
80/95

B043.騎士道が死んだり蘇ったり

現時刻21:00

全体の戦況はまず西部戦線は双方消滅につき異常なし、これはなんとなく分かってた結果だ。

中央戦線、敵覇王軍の艦砲射撃ギリギリの外で戦闘継続、ただし敵味方の木馬と砲兵と航空部隊以外は地下に作ったお互いの臨時ダンジョンでコアや復帰地点の配置を巡り旗取り合戦をしているとの事だが、飛行ユニットである総指揮官の俺には視認出来ずダンジョン内からの報告に頼るのみだ。

「なあ、前々魔王様。ちょっとここの地下戦争偵察してきてくれない?」と俺は一番死んでも心が痛まない味方の愛微笑に駄目もとで頼んでみるも、「嫌ですよ、私が死んだらまた床ソムリエとか言うんですよね?後、私砲兵ですから。」とお断りされる。


墜落しても自爆特攻しても死人の出ない飛行部隊と恐怖を持たず進む砲兵と戦車の様な木馬、第三次世界大戦が起こったら無人兵器でこんな戦いになるのかなと思わせてくれるくらいのロマンの欠片も無い戦いが中央戦線地上の構図だ、ファンタジーとゲームバランスは何処へ行った。

味方空軍は60ユニット、積載ユニットがそれに平均3人でおよそ180プレイヤー。陸上の木馬は10機にそれに搭乗した砲兵が平均で3人、中央地上総兵力は270人、ざっくり計算すると大軍だしエフェクトも派手な戦闘なのだが、実に面白味がない戦いである。

敵の兵力はこちらの半数程度に見えるが、木馬の数は敵の方が多い、敵の特攻部隊は散兵なのでカウントが難しい。


地下ではダンジョン慣れしている天魔のギルドメンバーが敵の部隊とダンジョンコアの潰し合いと遭遇戦を繰り広げている様子だが、その数は敵味方100人程度と当初より歩兵は増えていない。

敵の指揮官であるアドミラルと結んだ条約ではサーバーの負荷テストも兼ねる戦争のつもりだったのだが、地上における戦闘が白熱かつ非人道的過ぎて厭戦えんせんムードが漂い始めていたのかもしれないので地下に潜ったのは苦肉の判断だろう。

まぁ、俺だってこんな爆撃の大地を足で進めと言われたらお断りだが、それを押し付ける形になってしまった陸戦部隊には申し訳ない気分になるし、案の定また晒しスレッドで叩かれるだろう覚悟はしている。

でも現魔王イゾログ君とPvPギルドマスターのイベリウス君は真っ先にどっか行った指揮官だしなあ。

俺だけ叩かれるのは癪だからロドリコに頼んで都合の良い情報操作を依頼しておこう。


この戦争に乗じて天魔のダンジョンに侵入を試みている覇王軍勢力もいるみたいだが、あの迷宮を半日以内で攻略出来たらたいしたものだ、そいつらにはそのままクリアする権利を譲っても良いと思えるので放置。


最後になるが東部戦線、これがすごく、なんというか、古いのである。そっちにも飛行ユニットも砲兵も存在するはずの戦線なのに戦い方が妙に中世じみているのだ。

理由は敵味方にタンクが異常に多いらしい事と、前時代的なロールプレイを好む層が集結した為に前作マギラ2の戦法以上の事が起こっておらず、更には一騎打ちといったおもしろイベントも盛りだくさんだという、ああ俺も普通のイチプレイヤーに戻ってそういう事したいと僻んでもいるが、高速航空爆撃隊なんて近代的な物を組織して絶対に戦争に勝つからと宣言してしまった以上その輝かしい騎士や侍の時代には戻れない。

妬ましいが邪魔をしたら色々な所が怒るだろうなあ、と思いながら俺は東部戦線への飛行部隊介入は避けて敵中央陸上部隊への爆撃及び敵の艦隊撃沈を目指すように中央軍へ指示、東部に自爆特攻を仕掛けようとする敵覇王軍の飛行ユニットは話の分かる身内を使って阻止をする。


自爆特攻は確かに脅威だが信仰レベル10を必要とする為にその他の飛行とか武装とか種族レベルすら上げるのが厳しくなってくるはずだ、なので死神特攻隊は耐久力か飛行速度が低いので空中でCCを与えてからすぐに撃破が出来る。

最初は実にインパクトのある攻撃方法だったが、対策の判明と自爆はクールタイムが長いスキルなので現状はなんとか中央と東部の戦線って500年くらい時代差ありますよねといった戦況は維持しているし当初の目標である敵艦隊までの味方の押し上げは成功している。


しかし、何故か負けた気分を感じる、そのなぜは戦争が想定内に進まなかった事にある。

もしこの戦争で勝利の判定を収めたとしてもプレイヤー間に厭戦えんせんムードが高まれば覇都エルスローンへ侵攻する為の兵力が集まり難くなり勝負に勝って試合に負けたという状況が目の前に見えてくる。

「心の焦土作戦、そのつもりは無かったんだけどな。」と俺は小さく呟くと。

「大丈夫っすよ、次の日にはほとんどの人が忘れてますから。ジョンレノンもエルヴィスももう忘れられているでしょ?」とロドリコがフォロー?を入れるが実に失礼な奴だなあ。


東部戦線は敵からの後方かく乱と激しいぶつかり合いにより西覇王軍が優位、東覇王軍がオークの押し上げにより決壊という状況になりつつある、更にそこへ我が軍の補給路防衛隊がそのまま東部戦線に加わったので兵力差は大きく開き覇王軍が結局不利になった、あのオーク将軍相手によく頑張ったなあと空中から他人事の様に見ていると、覇都の防衛砲台の援護射撃を受けながら戦う覇王軍東部戦線の更に北西より、つまり中央戦線から中集団の陸上部隊が素早く迫りつつあった、あれはイベリウス君率いるギルド砕覇である。

「あ、イベリウス君がいいトコ取りに行った。」と俺は口にすると、「ずっとリスキル狙ってからのトドメ狙いっすね。」「これで一番の功績を上げたと自賛されたらたまったものではありませんね。」「現代社会の縮図でやすね。」と自分勝手に動いていたPvPギルドに対しての身内の評価は厳しい。

「んー、開始から2~3時間で終戦かなこりゃ。」と俺は準備と根回しの割に実りの薄い戦争を悲観的に頭の中で計算する。

「お互いの切り札を一枚見せ合った感じで終わりか…。」とナイトウィンドさんが真っ当な感想を口に出すが、大勝利完全勝利!といかなかったのでもの悲しい。

ああ、イベリウス君の部隊が東部戦線の覇王軍に斜め後ろから突撃を仕掛けたか、どうすっかなあ。



「ああ、邪魔だよ!ぶっ飛びな!」と阿修羅の巨女は重機の様に最初はローチャーやマミーを相手取り蹴散らしながら突き進み、それらの群れを強引に抜けると次には筋骨逞しいオークの集団へ背後から切りかかった。

この頼れる姉御を先頭にして俺達は敵中の突破を試みる、後ろからは足は遅いが面倒臭い敵の精鋭ローパー達が追いかけてきているのだ、悠長に敵にトドメを刺す余裕は無いので駄目元で目の前の敵を攻撃しながら敵の西陣を突き抜ける。

「ぬお!後ろからとは卑怯なり!しかし、このイーベイが居る限りここは通さぬぞ!」と勇敢なオークがチビパンの姉御に立ち向かうが、「お前等暑苦しいんだよ!SIVA!ヤイコ!ジョットストリームアタックを掛けるよ!」と意味の分からない合図を送ってくるが、たぶん同時に殴ればいいんですかね。

敵のオークは一見強そうに見えたが、こちらは毎日同じメンバーで戦闘の実施と訓練をしているチームである、オーク一匹が出しゃばった所で相手が悪かったとしか言えない、その勇敢なオークはチビパンの姉御によるゲーム中一番手数の多い物理攻撃と人間種に対して特化されたライカンスロープのヤイコーによる爪や牙を受けた後に俺のバックスアタックを受けて前のめりに、「武士の風上にも置けん奴らめ!ぐう。」とうめき声を漏らし倒れた


「すまんな、これも仕事なんでね。後、オーク武士は無いだろう。」と俺は倒した勇者に背を向けて更に前進をする、やっと味方の前線が見えた、みんなのりこめー!とそのまま俺達は味方のノースマンのタンクだろう二人組みに追撃者を擦り付けるようにすれ違いそのまま味方後方へ突破した。さらば勇敢なノースマン達、ローパー達の相手ヨロシクネ。


「あーばよ、とっつぁーん!」と俺は叫びながら晴れやかな気持ちで覇都の援護射撃内に入ってそのまま前進しながら、「またコビ庄経由でリスキルするー?」と身内に尋ねた瞬間、目の前に2時間位前に見かけた戦闘集団を確認、「げぇ!PvPギルド!」と俺は顔をしかめるが、「やんのかコラ!ああ!?」とチビパンの姉御がその集団にメンチ切りつつ切りかかりに向かう、すると敵からも「うわっ、またこいつか。」と嫌悪する様な声が聞こえたので、「あ、『反歌』と『雷影』連打で。」と素早くボイスチャットでいつもの作戦を指示、この場合の作戦とは前回と一緒、お互いにスルーである。

お互いが強敵であると認識が即座に判断出来る集団は大体戦闘は長引かないか起こらないかのどちらかだ。なぜならそんな戦闘は時間の無駄だからだ、そんな時間合ったら弱い敵を狙うのが普通のPvPギルドの動き方だ。

「あ、どうも、さよならー。」と敵とすれ違い様に敵に挨拶をすると、「良い狩りをー。」と返事が返って来るのは実に清清しい程の利害の一致である。

その後味方の覇王軍が覇都へ大挙して逃げ込む状況に陥ったのは言うまでもない。



「城前へ後退します!」とノトーが叫びを上げる、状況は最低だ。前方からは新手の異様に強いローパー達と後方にはPvPギルドが攻撃を開始し始め味方東側のエルフと野良の混成部隊はオークの精鋭部隊に蹴散らされた。

「完・全・包・囲!」と隣でバギーラが笑いながら叫んでいるがこいついつも包囲されてるよなぁ。

んー、貧乏くじ引きまくりなのはいいんだけど、ノトーから連続で押し付けられるのはちょっと御免やなあ。「ソミュア隊、城内へ退却、もう一度言うで、ソミュア隊城内へ退却。」と私は味方の犬死を避けるように指示を出し、策神の加護を受けながら覇都の門前まで後退を開始した。しかし、時既にレイドの半分は戦闘不能である、残っているのはしぶとい奴等である元ヘヴシンキ防衛隊。

「いやー逃げるのだけは得意だわん。」とゴンタさんが真っ先に城門の下へ逃げ込みながら追撃する敵の攻撃をうまくかわし、「誰か油注いでくれー!」「あいよー!」と共に門の上から熱した油が降り注ぐ。

それに続いて私とバギーラも門の下で盾を構えて敵の引っ張り攻撃を警戒しながらスケベ根性で突出して来た敵に味方の兵器が当たるように誘導する。フレンドリーファイアがONになったら即死モノである。

追撃をしてきたローパー達が血神信仰魔法の『血の誘惑』や死神魔法で動きを誘導されて「あふんあふん!」と妙な声を発しながら味方の砲撃を受けてその数を減らして行く、首都の砲台もたいしたもんやな。


備え付けられた対空銃座もハーピーや亜竜、アーリーマンやシルフに火線を浴びせ掛け撃墜を目指す。

覇都の対空砲は4連砲というファンタジーあるまじき砲門を有している、流石に追尾ミサイルの様な兵器は存在しないが、その4連対空エーテル砲や炸裂エーテル砲に怯まない敵はいなかった。

「ソミュア隊、なんで城内まで下がったの?」とまだ門の前方にいるノトーから苦情が来たが、「明らかにもう無理だったやん、戦って死ねとかゲームでも言うんか?」と私はきつく反論する。

元々メインヒーラーの譲り合いで人間関係がこじれていたノトーと口ゲンカになる前に、敵の指揮官だろうオークの将軍からシャウトチャットで、「覇王軍の勇者達よ、一時停戦し仕切りなおしをしよう!こちらは攻城をする気は無い!」としわがれた声が響いてきた。

それに対してノトーが「騎士道精神は死にました!そちらが軍を引くならば我々は助かりますが!貴方からはずれた指揮下のプレイヤーがそれを許しますか?」と都を背にした戦いを続けようとする。

「そりゃ戻れるなら序盤の状況に戻りたいわな。」とバギーラが隣で呟いた。



「緊急召集を要請します。案件は東部戦線の維持です。」とアルカントスさんは魔王軍HQのチャットチャンネルで会議の開催を要請してきた。

「そちらの状況はお察しはしますが、一応議題提出をお願いします。」と俺はアルカントスさんの意図を汲もうとする、俺だってそっち行きたいもん。

「はい、議題は東部戦線における戦闘の限定化です。」と案の定紳士協定を敵と結ぼうという提案である。現在の総指揮権は言いだしっぺの俺にあるが、問題は魔王イゾログ君が音信不通なのとイベリウス君が、「ビジー(忙しい)。」と言ったきり対応してくれない事である。

「総指揮権限でアルカントスさんの提案を承認しても、それを妨害する勢力に対する罰則規定と権限が無いのが問題ですよね、悪評流して村八分にするとかそういうレベルの低い制裁しか出来ないからなあ。」

と俺はネットゲームの指揮における本質を愚痴る。

「いえ、それは無理でしょうから、官軍のラッパだけ鳴らして頂ければ結構です。後は戦術レベルで調整しますよ。」とアルカントスさんは言うが、「同情票を拾ったほうが楽に進みませんか?」と一応フォローの姿勢を崩さない。

「とりあえず話の分かる戦力である補給線防衛隊とローパーズを東部戦線から中央に戻って貰いますね。それ以上出来る事は特に無いので申し訳ない。」と確実に勝てる戦場から身内を勝てるか分からない戦場へ引きずり戻す選択をする。

「お気遣い感謝します。条件としては敵のこちらへの補給線分断を外交努力で止めますので、補給線の心配はせずに敵の艦隊や地下戦闘をメインに中央は動いて頂きたい。」とアルカントスは口にする、現在補給路を分断しにくる敵部隊はSIVAさんとこだから、その上位のカラシさんを丸め込めば確かに補給線の分断は来ないわな、色々貸し借りとかあるんだろうなあ。

「となると、問題はイベリウス君とこですね。」「PvPギルドはプライドが高いので意外と誹謗中傷に弱いですから、官軍のラッパには逆らえませんよ。」「そういうもんですか。」とこれにて魔王軍HQ緊急会議は東部戦線の紳士協定に同意を不参加過半数の賛成二票により可決。



さっきのおっちゃんオークがまた出てきてこちらの砲撃をタンクを壁にし受け、ヒーラーの回復魔法を受けながら、「魔王軍司令部は紳士協定による東部の当初戦線の復活に合意しました。こちらは後退しますが、この挑戦を受けるかはそちら次第です。」と威風堂々にオークのおっちゃんは宣言した。

ノトーはその発言に困惑の表情を示す、そりゃどう見ても罠にしか見えへんからな。

そこへ馬鹿な冒険者達がじりじりと後退を始める魔王軍に対してツカツカと歩みを進めた、ノースマンのバギーラ、アマゾネス男のカシヲ、エルフのフィートス、各レイド部隊の指揮官であり重装備を身に纏った彼等は味方を鼓舞するように迷わず歩みを進める。それに続いて恐る恐る前進を開始するヒーラーとその更に続くDPS達、こいつらはみんな馬鹿だ、馬鹿だから勇者と称えられるのだ。

後方にいた敵の中集団も今では姿を消していた、魔王軍は統制が取れているのだろうか?と思い西の空を見るとそうでもない事が分かる、つまりあのオークが余程の人物なのだろう。

私は急いでバギーラの隣に走り寄り共に歩みを進めると、バギーラはこちらに首を向けてパチクリとウィンクをした後に「言っただろ、騎士道は不滅だって。」と言い出したが、「いや、そんなセリフ出てなかったやん。」と突っ込みを入れておいた。


・謎の紳士協定と抜け駆け

大規模PvPにおいて最前線で小学生のサッカーの様にわいわいと紳士協定を結んでいるかの様に戦う傍らで補給線を分断したり敵の主要地点を落としに来る抜け駆けガチ勢がいるのは対人ゲーの常であるが、この状況が10年以上も変わらず起こっているMMORPG業界には意識の固定があるとしか思えない。


・床ソムリエ

よく戦闘不能になる人物に投げ付けられる中傷、床ペロリストとも言われる。FF14で有名になった単語だが10年以上前から存在するワードである。

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