B044.創られた地獄での戦い
策神には『木馬』という信仰魔法がある、これはゲーム開始当初は「え?破城槌みたいなもんでしょ?」と大多数のプレイヤーが思っていたし実際運用はその通りに行われていた。しかし、この木馬には発動条件として必要とされる数の木材及び金属資源をプレイヤーが任意で割り当てれる事が判明していたが、城攻めの機会がまったくと言っていい程に今まで起こらなかったマギラ3においては装備作成に使えない最低ランクの木材やいらない金属を消費する為のスキルだと思われていたのだ。
しかし、木馬は木材と鉱物の質により強度が増し、更には砲兵及び大砲を配置出来るスロットが3つに霊炉や竜炉を配置出来るスロットが確認されていた。
策神のレベルを上げていた人は悩んだ、「なんでこんなスキルがレベル8なんて上位にあるのだろうか。」
たかがラムの変種である、ラム自体は実はNPCから買えるがこれは本当に暗黒時代ヨロシクな基本的な破城槌であった為に木馬の真の意味はつい最近まで不明だった。
海洋ギルド『黄金のシロッコ』が亡国の身となったテクチャルを集めて戦艦の推進力を得る為に霊炉を量産し始めた頃、その貴重な霊炉をこっそりちょろまかした奴が居た、その名を『ダン』という。
ライカンスロープタンクという魔王軍にいる人間種族のみに強いタンクという変わった構成の彼はまだベータの時期なのに周囲から「馬鹿じゃねえの?」と言われていたくらいの変わり者だが、そのちょろまかした霊炉を自身の策神スキルで召喚してみた木馬に搭載した所、彼の世界は開かれた。
木馬自体は中に3プレイヤーが居れば普通に進む。だが、霊炉という推進装置を備えた木馬はその移動速度を高めた、その速度はプレイヤーが歩く速度から走る速度くらいに上がったのだ。
これを見てダンは「いける!」と叫び、同志を求めながら霊炉の量産と砲兵及び大砲の確保に全力を注いで、今その晴れ舞台が訪れている。
敵からの爆撃攻撃は対歩兵がメインの対人地雷魔法ばかりが振ってきたので木馬にはそれ程脅威とはならない、木馬の敵はそうなると敵の木馬である。
敵の木馬は霊炉を搭載していない木馬10両前後、対するこちらは木馬20両だが、霊炉を搭載した物が12両。その選ばれた12両に搭乗するのはギルド『ロンメルファントム』の志同じくする木馬乗り。
敵味方の対人爆撃により周囲陸上は既に人の気配は無い、彼等は地下での戦闘を開始したらしいがこれは好都合である。
木馬の弱点は衝撃属性の攻撃なので近接されてハンマーで殴られるのが一番つらい、木材だけを使用した木馬は火属性にも弱いが、我々の12両は木材と金属で半々に分けている、表面装甲は金属で内部は木材になるという親切設定である、ニレの木の温もりを感じる内装の中でダンはギルドチャットによる連絡を他の11両と連絡を取り近況を報告し合う。
「アルファ、百足手より各車両状況どうかー?」とダンは指揮木馬から各々の被害状況と侵攻状況を確認する、各々の木馬の損耗は搭乗員にしか分からない為に一々確認を取らないといけない、これは面倒な連絡ではあるが、この臨場感がたまらなく好きであるダンは好んで状況確認を細かく取る。
「ブラボー、ぐだーりあん。異常なし。」
「チャーリー、カーリー。敵木馬からの集中攻撃を受けている、後退後修理を予定。」
「デルタ、タイタントリオン。カーリーの支援に回る。」
「エコー、オブイエクト。対空メインに回る。」
「フォックストロット、散る葉。同じく対空メイン。」
「ゴルフ、コベチェンコ。左翼の支援に入る。」
「ホテル、セルバンデス。左翼の支援同じ。」
「インディア、ハザール。現在敵中央木馬と交戦中。」
「ジュリエット、ウーラン。ハザールを後方より支援。」
「キロ、テキロ。対空メインで味方を支援。」
「リマ、リスキーロマ。テキロに続く。」
覇王公認の木馬隊指揮官であるダンはこれらの数の木馬を指揮しなければならない、木馬はその場での旋回と前進か後退しか出来ない為に回避運動は難しい、よって激しい損耗を受けた木馬は味方の木馬で敵の射線をカバーしたり思い切り後方に下がらなければならない。現在は野良の木馬8両を囲むように身内12両が展開している。
「アルファより、キロ、リマはその場から真西に向かって最右翼に付いてくれ、その移動が完了し次第に木馬群に一斉突撃を仕掛けてからこれを撃破し、すぐに後退せよ。」
木馬に有効な攻撃は土魔法、衝撃属性攻撃、機械神魔法の地雷はほぼ無効なので霊迫撃砲と機械弩に注意すれば良い、モーターは空中から発射すると着弾に時差がある上に精密射撃をする場合には砲兵を搭載している飛行ユニットが空中停止をしなければいけなくなるのでこいつは対空砲である程度牽制を与えれる、マシンボルトは射程が短い為に敵の亜竜やハーピーが接近しなければいけなくなるのでこれも集中砲火で対処は出来る。
敵木馬からの砲撃は主に土魔法が飛んでくる、理由は土魔法と物理攻撃が得意なトロルがこの戦場に一番向いているからである、奴等は木馬の中から土魔法を連打し、木馬が炎上すると飛び降りてから巨大なハンマーを構えながら砲撃の嵐を突進しこちらの木馬をハンマーでガシガシと壊しに来る、こちらも取り付いたトロルに対して当初は搭乗員が降りて迎撃をしていたが、今では木馬同士が張り付いたトロルに向かって砲撃を相互に加える事で被害を防いでいる。
「ダン、キロとリマが位置に付いたぞ。」と対空砲手のラットマン、ソラチが連絡をくれる。
「よし、ブラボー、キロ、リマ、敵の横腹へ向かって突撃開始、他車も敵の要塞砲の射程ギリギリまで追撃し陸の王者が誰か知らしめてやれ!」
「「了解!」」と『変わり者のダン』と呼ばれた彼は今最大の花形を迎えようとしていた。
ロンメルファントムの木馬隊は魔王軍の木馬を包み込むように火を噴き、その黒ずむ大地を謳歌する様に進み続けた。
「え?中央抜かれてるじゃん、木馬で?木馬だぞ?」と俺は爆撃部隊へ確認を取る、
「敵さんの木馬が異様に速いんDeathよ、あれはドーピングしてますわ。」と爆撃の爆弾指揮担当のシャンコさんから返事が来る。ううむ、正直に言うと亜竜飛行特化天空神信仰の俺には分かり難いが確かに敵の一部木馬が速い気がする。
「前線の押し上げ失敗してるじゃないっすか。」とロドリコが背中の上で皮肉を口にするも、ごもっともなのでグヌヌと堪えるしかない。まさか当初からいた木馬部隊の差で戦況がひっくり返るとは誰も思わないだろ。
「対木馬部隊を新たに作りますか?」とバッシーさんが提案してくれるが、やってくれそうな味方はみんな地下に潜ったからなぁ。味方の木馬もやる気無くしたかもだしな。
と、そんな時に魔王イゾログ君が「おい、状況どうなってんだよ!」と今更になって復帰してきたが、これには「今更ジロー!」と半世紀以上昔より次世代へ引き継がれているジョークで対応。
「西部戦線消滅、中央地上が敵の木馬により後退、DDD要塞間近。味方主力は地下でダンジョンを作り合い戦闘中で東部戦線は紳士協定を結んで騎士道ごっこ。イベリウス君は、やってられるかと一言告げてから音信不通。この状況説明でいいか?信じられるか?」と俺は早口で説明する。もうこいつを混乱させて煙に巻いた方がいいんじゃないかと思える惨状である。
「俺も用事があって落ちていたと身とは言え、酷いもんだなあオイ。」いやはや返す言葉もありませんが、あえて返しますね。
「イゾログさん、魔王なのになんで落ちていたんですか。魔王不在は士気に関わりましたよ?」と責任転嫁をするも無論ハッタリである、魔王が居てもどうしようもない状況だったからな。
その詰問に対しイゾログ君はウウ、とちょっと呻いた後に、「今日が母ちゃんの誕生日だって忘れてたんだ、だから皆で誕生会してたんだよ。」と驚きの返答に俺の心が汚れているのではないかと思えてしまう罪悪感を感じる。「お母さんのた、誕生日なら仕方ないね。」しかしこいつ、よくそんなカワイイ言い訳が素直に出来るもんだな、ギルドマスターの素養ってそういうとこなの?
「そうですよ、いる内に親孝行してやって下さい。」とバッシーさんが優しげな声でイゾログ君のフォローを入れるがそれめっちゃ重いフォローです。
「そ、そうだよな。所でその地下での戦況は不明なんだろ?」とイゾログ君が協力的な態度に変わったのは何かのフラグが進んだのだろうか。
「それが教えてくれないんですよ、最前線の人がキレちゃってさ。後から侵入した補給線防衛隊とローパー達が言うには、殺戮の嵐が吹き荒れています、しばらくは血の雨が続くでしょう。ってな感じで具体的に教えてくれないんだ。」と俺も申し訳なさげに説明する、つまり身内の天魔ギルドチャットでは言えない状況なのだろうから、むしろDDDから情報を拾った方が正確だろう。するとイゾログ君が。
「ああ、オタク所属のア・ヨグってプレイヤーが物凄い暴言を口にしながら敵中への突撃を繰り返しているらしいぞ。怖いから近寄りたくないってさ。」と教えてくれた。
「え?姉御オコなの?」と天魔のギルドチャットで尋ねてみると「ガルルル!」みたいな音声と「なにあれちょー怖いプル。」といった言葉の波が押し寄せてきたのでうるさいなと思った俺はそっと天魔ギルドチャットの音声をOFFにして、「駄目みたいですね、ごめんね。」と素直に謝ることにした。
そこへ「ああ、色々あるよな、お互い。」ともっとムキムキしてる性格かと思い込んでいたイゾログ君が同情のコメントを寄せてくれた、なにこれ新たに育まれる友情?
「ピーー!XXXXぁぁぁぶちこんでやるぁぁぁぁピー!コビット出てこいやあああ!」と地下の戦闘は咲き乱れる血花と巻き上がる赤風に晒されていた、爆撃地獄の地上も地獄であったが、新たなパライソとしてお互いに作り上げた地下世界はまさにモンスターと言わんばかりのアラクネの上位、更に上位であるレベル40『フロウラ』のア・ヨグにより新たな地獄を作られている。
「戦え!戦え!ピーー!野郎共!殺して死んで殺して殺せ!!」「姉御、抑えて!」「お姉さま!落ち着いて下さい!」とその殺気立つ怪物を周囲の女怪は必死に宥め様としている。
「怖いプル。」「姉御は怒りっぽいけどこんなんキレてるの初めて見たわ。」と後から参戦してきたローパー達はその惨状にドン引きする。ローパーの矜持は獲物を生かさず殺さず弄ぶである為にこの殺戮の嵐は趣味では無いのでイソイソイソギンチャクの様に岩陰へ潜み冒険者を待ち受ける事にした。
この地下空洞には大きく二つの戦場がある、覇都の辺り地下からDDD要塞地下へ真っ直ぐ続くメインストリートでの大戦闘とその周囲に張り巡らされた遭遇戦様の迷路である。噂によると地下4階まで実はもう作られているという話である。無論、ローパーは迷路を好む。
「奇襲、爆撃、戦車戦、姉御無双、もうなんでもありだな、でも俺達はそんな時代に流されずにローパーの道を歩むのだー。」「おー。」「ぬちゃー。」とローパー達はいつもの如く冒険者を狙いに行く。
「む、足音、数は7以上。軽い2、普通3、重い2。」「了解、ステルス開始プル。」とローパー達は闇へ溶け込む。目の前に人影が差し掛かるが浮遊状態のゴーストと死神が多い、足音が少ないのはそういうことか。
「後方から狙う、カウント、3.2.1.アクション!」とがりるんはカウント直後にその暗黒の体から繰り出される触手で敵の最後列にいた冒険者を絡め取ろうとするが、なんと敵はこれを察知して緊急回避。
お、やるじゃなーい。と思いながら別の冒険者も絡め取ろうとするも、他の奴等もきっちり回避してくる、直後に光神信仰魔法の曳光弾が発射されてこちらのステルスが看破される。
触手による一斉分断にかかったのは小柄な女エルフと眼帯をした白髪ポニーテールのドワーフであった、がりるんはそれを見て「あ、それ捨てていい。回避した奴等へ毒攻撃開始!」と指示を出す。
「「ぬわー!」」と放り投げ出されたエルフとドワーフの名前はマグミ、カラシニコブと表示されたいた。こいつらの脅威度は最低限だ。問題は最初に触手を回避して死神の姿から隣の阿修羅の姿に化け変わったドッペルゲンガーとその周囲の戦士達。
「ちっくしょ、カラシさんチかよ。」とがりるんは少し顔を強張らせる、カラシニコブを放り投げようとしたホミミンさんの触手が一閃の元に切り飛ばされ、その開放されたドワーフの影の様に纏わり着く死神は跳び陽炎。強さで言うなら俺と良い勝負をするかもしれないプレイヤーだが、カラシニコブに集中攻撃をしない限りあまり積極的ではない奴だ、マグミさんはすっとろいエルフな上におばちゃんなのでこれも放置。
「がりるんか!」と阿修羅女チビパンの姿に変わったSIVA君が問いかけてくるも「左様!触手間へようこそ!」と応えてやる。相手から舌打ちの音が響いてくるのが分かったが、こちらはイベリウス君の所とは違うから君達の相手はきっちりするよー。
「八方触手の陣!」とがりるんはローパー達に指示を出すと、洞窟内で三次元的に待ち伏せしていたローパー達は各々お互いを触手で繋ぎあい、直後にその禍々しい口から毒攻撃を連射する。
「反歌!血神!火神!後はBC兵器用意!」とSIVA君が素早くこちらの対処にかかる、BC兵器かあ。
ローパーは毒性を持つから毒には強いけど病気には強くない上にガスマスクが無いんだよねえ、敵にラットマンはちゃんといるのかあ。
「フォーカス!あのラットマン!」とがりるんは素早く集中攻撃先を指示するも、そのラットマン自体も触手攻撃をきっちり回避してくる、名前を見るとアット君か、カラシニコブ徒弟衆はどいつも優秀だから困る。
「放浪熱!」とアット君が伝染病の魔法スキルの発動を宣言するが、こちらもそれの対策はしている。
「ムスペルヘル!」と味方の火神信仰魔法が病毒を焼き払い周囲を火事状態にする、火事状態は炎上している箇所に触れると持続ダメージを受けるので待ち伏せ固定フォーメーションを取るローパーにはマイナス効果だが、それは敵も同じ事である為に『天変』の魔法ですぐに地形は濃霧状態に変更された。
敵が近接戦を得意とするなら濃霧はまずい、こちらに天空神持ちはいないので更に優位な地形は用意出来ない。
八方触手の陣により味方がどこに集中攻撃を受けても集中攻撃を受けたローパーを他のローパーが引っ張るので即死は免れる、何より濃霧状態なら遠距離攻撃ははずれやすくなるので物理攻撃に強いローパーにはデメリット過ぎるという事も無いが、敵とのゼロ距離での毒や触手を放つしか打つ手がなくなる。
現状、このゲームでは守りに徹したローパーとエルフは無敗だと言われている。最優秀防衛種族がローパーとエルフになると個体差の数に差が出来すぎるんじゃないかと思われるが、そもそも魔王軍で待ち伏せや防衛戦術を行うプレイヤーはまずいない。
「ドラララァ!」と阿修羅のチビパンさん二体に切り刻まれている同志セルフバンジーは「あぎゃぎゃぎゃ!」と叫び悶えて見えるがあれは絶対喜んでる、あの人が一番ローパーでは性癖曲がってるからな。
集中攻撃を受け瀕死に陥ったセルフバンジー氏を周囲のローパーが引き寄せられ安全地帯へ運んでいく。
そして、敵を囲むように毒と触手で八方陣は穴を埋めるように狭めていく、これは言うなれば三次元的なクルマガカリの陣である、今では女キャラとして定着してしまった上杉謙信ちゃんお得意の戦術をローパー的に研究した結果がこれである、それに対して敵は元々二次元的な戦い方しかしないPvP集団。
平地で戦えば恐らく負けるが、ダンジョン内ならこちらには五分か勝ちの答えしかない、さあどうするSIVA君。
「氷神発動、退却するよー。」と敵から無難な掛け声が聞こえてきたのでこちらもそれに深追いせずにギリギリの距離まで毒攻撃で追撃を企てるが、氷神信仰によるブリザードは視界を完全に塞ぐ上に遠距離攻撃を減衰させる。あいつら三次元戦闘は慣れていないけど地形効果の扱いと撤退方法は完璧なんだよな
と思いながら周囲を見渡すと、ブリザードのエフェクトが切れた後にエルフの少女が一匹取り残されていた。
「あれ、マグミさんまた逃げ遅れたの?」とがりるんは声を掛けると、「まただねえ。」とのほほんとした答えが返って来る。「やったー!玩具だー!」と瀕死の状態から回復しかけているセルフバンジーさんがそのエルフに触手を伸ばそうとするも、「あ、その人60歳超えてるよ?」とがりるんは念を入れておく。
それに対してセルフバンジー氏の触手はピタリと動きを止め、ローパー達で激しい議論が巻き起こった。
「人間で60歳はちょっと、でもエルフで60歳は事案ではないプルか?」
「元々エルフの成人っていくつくらいだったかな?」
「そもそもその人いたぶられ慣れてる常連さんだよ?」
「提案、リリース。」「ケー、リリース同意。」
そう合意がなされると、「あ、マグミさん戻っていいよ、お疲れ様ー。」とがりるんは触手を振りながら別れを告げると、「本当に失礼な子達だね。」と言いながらエルフの少女はダンジョンの奥へ消えていった。
・バーサク状態と無双モード
MMORPGでもFPSでもある謎の状態である、なぜか奇跡的な強さを発揮する場合が多いので人間ってすげえなと筆者は見て思う。




