B036.不死総合火力演習序章『第一次覇魔大戦勃発』
「はい!内政ターン終了!やってられるか!」と俺は勝利への下積みを半日持たずに切り上げる、なぜベストを尽くさないのか!簡単さ、人は苦痛から逃れたがるからな。
「はー、やっと区切りが付いたっすか、次は信仰取り直しの旅とレベル上げして決戦に備えるくらいっすね。」と横で大量のアクセサリ作成とエンチャント調整をしていたロドリコも疲れ顔である。
ロドリコは金貨を使ってスキルポイントの振り直しをして生産特化型のエンシェントマミーになってから生産活動をして、またスキルを振り直しして戦闘用にスキルポイントを振り直す事になっていた。
スキルの振り直しは変異先も変える全振り直し(フルリスペック)が現在のベータテストでは一回レベル20になった時にサービスで出来る様になるが、後々これは有料サービスになると思われる。
スキルの振り直しは各々の種族ホームにいるチュートリアル開始NPCにお金を払う事で可能であるらしいが、ホームが滅んでいたりNPCが空中にいて見つけ難い亜竜のNPC等は困りものである。
スキル振り直しはしなかったものの、ギルドメンバーで協力的かつ信仰魔法のレベルが高い人には生産活動の手助けをして貰った、信仰が低い人は生産用の物資買占めに回って貰う。
生産専門種族外での生産スキルを可能にする信仰は湖神がそれに当たるので、この神像を拝みに行くツアー道中で多少のPvPは起こったが、一方的に勝ちを収めたので省略する。
装備がギルメンのレベルにマッチした物と少しランク上の武器防具がギルド倉庫に充実したのを確認すると、俺の立場で出来る味方勢力の底上げはこれで概ね完了である。
市場にある素材の価格も高騰した為に覇王軍は今から装備の新調を行ってもコストの面で負担を売り手買い手でお互いに受け合う事になる。
これは売る方も買う方も買占めにより高騰した市場価格を参考にするのでインフレが起こり取引手数料が増大、これにより大体のユーザーは物価の沈静化まで全体的に見れば損をする状況となる。
買占め行動は自軍の国力も落ちる場合も多いが、味方与党に装備を分配し終わった時点でトータルで見れば一時的なプラス要因である。
戦力底上げで一番重要だった資金面はオークギルドの『グリーンボア』がポンと大金を出してくれた事で解決したが、あれは恐らくオークギルドの全資金以上だと思われる。魔王位を目指さないで優位なポジションを確保するならそういう判断もありなんだなあとは思ったが、受け取った金額が明らかにオークギルドだけで稼げる金貨の枚数では無かったのも裏があるのだろうが、裏を考えすぎるよりは正直に行動した方が良い場合もある、今がその時だろう。
いつものメンバーで空を旅しながら色々な神像を巡る、天空神、火神、策神、ラットマン及び獣のホームも制圧した今では光神の神像も狙えるが、それは後回しという話になった。血神を信仰していたヨグとナイトウィンドのお姉さん組は敵勢力下にある血神神像それを囲う防御の厚さを考慮して信仰を曲げずに維持、忘れがちだがスワンプマンホームとその周辺は現在覇王軍に制圧されたままなのでこれの奪還も視野に入れなければいけない、覇王軍が唯一占拠出来ている内陸魔王軍ホームはそこである。
機械都市グラハティア地下にある天魔のダンジョン、ギルドDDDがここより北側のラットマンと獣人のホーム上に要塞を築いてしまたので、戦略的な価値が多少下がったこのダンジョンの最下層のお洒落に作られた大広間で俺はワールドマップを眺めながら悩み続ける。
それを見た周囲のギルメンは口々に「ビータさんはほっといてレベル上げに行きます?」とか「抜け殻でもいいから連れて行こう…脆い指揮官はいざという時に困る…。」やら「内政と外交終わったなら後はマオウ軍ラジヲとか口コミで宣伝して兵力集めるしかないでやすよね。」なんて言うが。
「そうは言うがな、今やオダヤボで言うなら関ヶ原スタート前状態だからなあ。」と俺は呟くと。
「二正面作戦にならないだけ楽だと思いましょう。今回は裏切り者も家康もいない西軍といった所でしょう?」と言いながらバッシーさんはメガネをくいっとした。
「関ヶ原!ってことは布陣考えないといけないじゃないか!ちょっとAFK!」と俺は魔王軍HQのギルドチャットで緊急会議を招集し布陣と信仰の変更要請と戦術について話合いを主催しなければならない!
「AFKて、キーボードはどこいったんすか。」とロドリコが突っ込みを入れるが気にしてはいけない。
「わちはちょっくらDDDの要塞を見てくるでありんす。」「あたしも行くよ!」とPvP狂いのお姉さん二人はブレなく最前線へ突き進む発言をして退室すると、他のメンバーも続いて「お兄ちゃん、私もいってくるねー。」とか「お兄さん、あまり頑張りすぎないで下さいね。」とか「先輩、あっちで終わるの待ってるっすからね。」等の発言をしながら皆立ち去っていく。これが上に立つ者の孤独か…え、違う?
魔王軍HQでのギルドチャットにはなんだかんだいってバッシーさんとナイトウィンドさんがフォローをしてくれたので大まかな陣容は完成した。
戦場の花形、正面主力はギルドDDD。「お前等自前でやんじゃねえの!?」とマスターのイゾログ君から突っ込まれたが、「貴方達が頼れる軍団と見込んでお願いします。」と言いくるめる。
西側左翼、ドワーフとコビットのホームが近いのでここにはあの人達が居そう、なので魔王軍PvPギルド砕覇にお任せしたかった。彼等は現在も絶賛どこかでPvP中らしいがこのお願いを快く承諾して貰った。現状魔王軍でレベルの高い集団はここか天魔の一部廃人である。
東側右翼はオークギルド主体の野良連合。理由は敵の首都に近い為に敵味方が野良同士になりそうなのでここを泥沼の戦場とする。味方野良プレイヤーに覇都侵攻の為に地形特性も覚えて欲しいのもある。
それにオークの頭領、アルカントス将軍は俺なんざよりも遥かに歴戦かつ勝率も高い。
ギルド天魔は後備え、後詰とも言いますが、補給路の確保という一番重要なポジションだ、ここを攻めてくる敵は間違いなく手だれかつ狡猾な勢力なので守りに付くのは一番損な役回りだが、そこは身内に堪えて貰ってやるしかない。
案の定この話をすると「やだやだー。」「分断狙い狩りをすればいいのか?」という的外れな声が多数出たので困ったものだ。
「装備とか用意したんだからその分手伝って欲しい、マジでお願い。魔王お願い権1個目を行使します。」と俺が言うと、身内中の身内が「そうですね。いつもお世話になってますからね。」「勝てば官軍ですよー。」「このゲームでの歴史的な大勝負を影で支えるのも悪くない。」等といったサクラ発言でこれを完封。古今東西リアル過去問わず、見え透いていてもサクラと根回しは大事なのである。
これはネットゲー師匠のドワーフから授かったスキルで、なんでも『サクラで大戦』というネーミングの手法なのだが、その説明を嬉々としてするドワーフに対しての身内からの視線(特に高齢者組み)は冷たかったのは何故だろう。
最後に作ったのは特殊部隊、これは亜竜とスケルトンの組み合わせと空対空護衛ユニット、シルフやアーリーマンのみで構成された部隊でスケルトンの方々には機械神信仰を全員に取って貰い、亜竜の方々は天空神を信仰して貰う。信仰の自由とスキル構成を大幅に変える事になるので面倒な作業と困惑の声は上がるが、運用方法を説明すると飛行系魔王軍ギルド『スカイマスター』のマスターのスマグウさんと、スケルトンギルド『骨骨骨』のマスターであるシャンコさんは快く承諾してくれた。
魔王軍HQギルドチャットでああだこうだ言いながらギルドDDDの要塞に皆と遅れてフラフラと到着すると、「魔王がいるぞ!討ち取れー!」といった声が聞こえて来て敵プレイヤーからの集中攻撃を受ける、これを緊急回避連打や天空神信仰魔法で素早く回避しスケベ根性を出して突出してきた敵プレイヤーを味方がタコ殴りにするという魔王様囮作戦2の効果により敵を着々と撃破、すかさず経験値を得る為に俺は戦闘不能になった敵へ丸呑みコマンドを実施する。
丸呑みをプレイヤーが食らうと蘇生が不能になるのでこれは地味だが強力なスキルである。丸呑みをした後にその亜竜が倒されると口から戦闘不能になったキャラが出てくるというギミックもあるらしいが、本当に無駄に凝ったゲームだな。
このゲームはNPCですら的確な蘇生行動をしようとするAIを積んでいるからFoEやワールドボスといった強力なNPCよりも頭の弱そうなプレイヤーを狙ったほうが遥かに儲かる。進みすぎたAIはゲームにおいても人間同士を争わせたのだ。
俺は「小賢しい人間共めー、貴様等の運命をその血で書き留めてやるわー。」みたいな魔王っぽいサービス発言をしながら低空を飛びつつ敵を引きつける。背中からはDDD要塞からの砲弾が援護で飛んでくるのでまず負けない。
しかし、その中で敵複数のドッペルゲンガー達が同時に俺に対して変装スキルを使用し魔王大分裂時代が訪れる。ギルドやオープンチャットが使えなくなると俺はボイスチャンネルを外部チャットツールへ切り替え「本物は一番逃げてる奴だから!」と宣言しても名目上部下であるはずの魔王軍は容赦なく本物の魔王と偽魔王に殴りにかかる。
まさか!魔王軍も魔王を撃破した時に実績があるのか!?と気づいた時には遅かった、でかいメイスを振り回しながらウッキウキの顔で突進してくるオーガと真っ先に俺に足止め魔法かけるマンイーターのお姉さん達。
「貴方達絶対本物だって分かってやってるよね?」と確認をするも無言でタコ殴りにされて俺は実績解除の生贄となった。
現実の世界を斜陽が包む頃に「ライチー、マロンー、お風呂入ってご飯食べなさいよー。」という母の声をマイクが拾いやがりました。
勿論その声は俺や変身したエリーンのアバターであるドラゴンのそれっぽいボイスに変換されグループチャットに駄々漏れになる。
「ご飯よー。」「ご飯でやすよー。」「ご飯ですか。」「お風呂の時間差どうしてるんすか!まさか一緒すか!」と冷やかしを受けるのも最近ではもう慣れた、
新規発売されたマイクの集音性が良いHMDとか密閉式フルフェイスディスプレイとか感覚操作HMDとかお金があればそっちに変えるんだけどなあ。
いや、素直に部屋の扉を改造して防音にして、ご飯等の呼び出しは無線ブザー式にして貰う様に頼むか。ウムム、年頃の男の子のプライバシーには全力を注がねばならないのだ。
スリムフォン経由で連絡してくれる程に母上はマメでもないしなあ。
「やかましい、お風呂は長風呂しない主義だから別に一緒に入ってる訳じゃないぞ!落ち!」と俺は念を入れてログアウトし、「お兄ちゃんお風呂先わたしー!」と出遅れた妹を無視して脱衣所に駆け込み施錠。
許せ妹よ、お前の一番風呂より今日の戦争の方が大事なんだわ。
カラスの行水が如く早風呂を済ませた俺に下着姿の妹がすれ違うがそんな古典的なラッキースケベイベントに構ってる暇はないんだ!母上、お味噌汁に氷入れたら駄目ですか?駄目ですか。
「ただいま!」と俺はギルドチャットで帰還宣言をすると、「21分でやすね。」「僕の予想が一番近いっすね。」「親御さんが大変ですな。」と残念扱いされてるチャットが流れるが無視!
現時刻は19:15、残り45分なら出遅れてはいないが戦争準備時間としてはギリギリの時間だ。ちゃっちゃと予め決めておいたレイドリーダー達にヘータイの集まり具合を確認すると、動員プレイヤー数は現在130名と決戦時間前の割には多い。
理由は単純にDDD要塞周辺での小競り合いが継続していた為にその延長だろう。
「所でビータさん、指揮陣営は後詰で良いのですか?」と参謀担当のバッシーさんが確認を取ってくる。
今度は大戦争、とは言え今まで指揮らしい事は常に最前線で行ってきた俺だが、これはこのゲームにおいてそれが悪手であると既に判明している。
それはこのゲームが中世ファンタジーという曖昧な区分ではなく、ファンタジー近代戦という区分と判明している為である、そもそも無線通信でどこでも連絡が取れるチャットシステムがある時点でネットゲームの戦争が中世的より進むのは致し方ない。
指揮官は前線に出ずに味方全体を見回さなければならないのだ、今や敵となったドワーフのおっさんも天空神なんて信仰を取っていたのがその理由だ。
「指揮所は後詰位置の上空を予定したいのですが、今結集している人員で戦線を押し返し…あちゃー。」と俺は北の果てを大空から見下ろし呟いた、その目に留まってしまった物は今まさに南下を開始せんとする覇王軍の大軍であった、その数はこちらの約二倍。
「んー、アドミラルが時間差付けて募兵してたのは知ってたけど、思ったより動員が多いな。20時までどうしたものかなー。」と俺は途方に暮れる。
「いやーきついっす。」「どうすんだよ!奇襲攻撃受けてるじゃねえか。」等の心温まる発言がもりもりと入ってきますが。奇襲予知しても奇襲返しってコアタイム前には難しいんですよ、なんだかんだいってみんなリアルがあるし、結局数が集まるのはふつーの人なんですよ、ノリもいいしね。
自分のいる位置の真下に当たるDDD要塞がその大軍に向かい長距離砲撃を開始した。これによりゴールデンウィークの三日目19:25、第一次覇魔大戦が勃発した。
・設定 AFK
キーボード無くなっても残りそうな単語だけど、最近の外人さんはBrBって言う様になってる。
・設定 スキルの振り直し ギルド枠
過去のネットゲーム達はこのサービスを有料にするか、ゲーム内貨幣でいくらくらいにするかで悶々としているのが現状である。
本作では種族変更は不能で、変異先の変更とスキルポイント振り直しを有料、スキルポイントのみ振り直しをゲーム内貨幣にする事で貨幣のインフレを抑える方向にする。
キャラクター作成スロットは過去のMMOの統計とロールの多さから基本9枠としたい。
問題はアカウント毎に勢力を固定しないでキャラクターが作れるのでギルド枠がアカウント連動で3つでは足りないかもしれない。ギルド加入枠を増やす有料コンテンツはまだ見た事無いから採用してみようと思う。
・プロットが逃げた
最初は真っ当に火力演習になると思ったら、アドミラルが独断して奇襲攻撃を敢行した。理由は思ったより兵力が時間内に集まってしまった為、どうしてこうなった。
・コアタイム前と後
廃人とふつーの人を見分けられる確実な時間である。このコアタイム前の時間帯と早朝にログインしていたらその人は廃な人だと思っていい。廃人とて睡眠は必要なのだが、それはコアタイムの終わった直後から早朝までの間であるのが多い。理由はその時間が一番睡眠効率が良い為である。
昼夜逆転生活は健康を害す為に廃人ライフには向かない。
そうなるとコアタイム直後の時間は遅番や夜勤組みの天下になる。コアタイム過ぎて寝ぼけまなこでゲームをするプレイヤーは大体この時間帯にカモられるので寝る時間と言う引き際は大事である。