B026.マローダー
大湖から外海へ繋がる境目にある海峡。東の半島には死神のホームがあり、西の半島にはノースマンのホームであるヘヴシンキという港街がある。このノースマンは本作において一番人間らしい種族である、というか人外多すぎゲーのマギラ3で人間でプレイするとなるとまずノースマンか海の民とストライダーくらいしか居ない。コビットや機械装備を剥いたテクチャルについてはマニアックなお友達の趣味な外見をしている為に使う人間はちょっと変わり者が多い。
ノースマンは外見こそ典型的な背の高い金髪碧眼の白人さんスタイルだが、その性能はタンクとしては逸品であり、覇王軍ではチラホラと見かけられる。弱点があるとすればトリッキーなスキルがほぼ無いという事なので、変なスキルラインを持っている方が応用力でPvPを圧倒出来るマギラ3においては弱めな種族であるが、PvEのタンクとしては滅法強い。
「つまり、襲っても勝てるってことでやすね。」と邪悪なドラゴンそのままな外見のアレキシがノースマンについての弱点を大雑把に把握するが、これは少し違う。
「いや、敵を倒す為の決定打や追撃能力及び火力が少ないという事なだけであって、倒し易いという訳でもない。」と俺はそこへ補足を入れると。
「ノースマンにダークストーカーか徘徊のスキルラインがあったらダンジョン内最強説もあるくらいっすから、ローチャー並みにしぶとい覇王軍のユニットだと思うのがいいっす。」とロドリコが恐らく竜の背中の上での旅は退屈だったのだろう、裏タスクを開いてマギラ3のwikiやBBSを虱潰しに巡回している様だ。
眼下には薄雪で飾り付けられた中世西洋風の町並みが広がり、大きな部類の人間ノースマンも小さく見え、NPCが人間の営みの様に動き回り、プレイヤーは忙しなく走り回る。何処にでもある様なネットゲームの町並みだ。
そんな平和そうな町並みを見下ろしながら我等が魔王様である悪魔の少女はしどろもどろに。
「えと、最近私達の威厳が暴落し始めているのでここは一発魔王らしくこの街を襲撃してみませんか?」
とまさに悪魔、魔王らしい提案をしてくるが、これは割りと珍しい。
「ああ、そろそろ我々が持っている魔王位がポイント不足で他ギルドに奪われそうか?」と俺はアライメントポイントのワールドランキングを確認すると、確かに我等がギルド天魔はAP総合1位であるものの2位との差は大きくない、2位のギルドもウチのギルドと同じく烏合の衆ギルドではあるが、魔王位を生かせていない現状なら別に1位を維持しないでもいいと思うんだよな。
「愛ちゃん、PvPで死にすぎるから敵が「魔王討伐実績解除だぜイヤッホイ!」って何度も発言されてるよね。」とエリーンはスワンプマンの変装能力で俺のドラゴンモードに変じた姿をしながら容赦なくギルマス魔王様の御心を傷つける発言を天然で発するが、その姿と声は俺とほぼ同じにコピーされているので俺が言ってる様に聞こえてつらい。
「覇王軍の現覇王は前から変わって、海洋ギルドのギルマスが就任したらしいっすね。そいつらは死神と吸血鬼とゴーストとテクチャルが連動してネレイドホームである岬の『ローレライ』とマーマンホームの『兄弟岩礁』を攻略中との情報っすけど。」
「吸血鬼が参加しているとなると、スワンプマンのホームは完全に占領されて乗り越えられていますね。」とジノーが溜め息を付く。
「わたしレア種族だよやったね!」と故郷を滅ぼされたエリーンは前向きなのかアホなのか自体を深刻に受け止めないし祖国奪還は志さない。
「スワンプマンやドッペルゲンガーの変装スキルは異様に強いから個体数が減ると両軍共に打撃だと思うのだがな…水生で強いネレイドも滅ぼされるとまずいが…。」とナイトウィンドさんは戦略的な種族封じが覇王軍側の方が優位に進んでいる事を示唆する。
そう、覇王軍の領土はサーバスタート時点では魔王軍に囲まれた円形の領地だが、今では両軍のバランスの悪い種族間ぶつかり合いによりその形を変えつつある。具体的には覇王軍は大湖、北の外海、3大河川の沿岸部を制空権をほぼ諦めた制海権確保戦略により領土を拡張、水辺に近い地域はその造船技術と物量により魔王軍を圧倒している。
以前、冗談だと思ってた覇王軍の船舶が潜水艦も兼ねるという話は真実だったのも驚きだった。木造船で潜水って出来るのかよ。
逆に魔王軍は三大河川や大湖には手を出せず内陸部への侵攻を目指し、今ではラットマン及び獣人の穴倉も危ういと言われている。そこが陥落すれば次は覇王軍首都への侵攻が魔王軍は可能になるが、ワールドマップど真ん中に位置する覇都の東には大湖に注がれる大河があるので、戦艦からの支援が受けられ全面制圧は難しい。
戦略マニアの間では魔王軍は最東端にある魔都を失地、覇王軍は覇都を東西に分裂させてしまう可能性があるという当初の日の丸型の勢力分布から東西もしくは南北に領土が変わるという見解が主流になってきている。
「そうなると好きな種族が使えなくてゲームに手出ししない人が出ませんか?」とジノーは歳の割りに的確な発言をする。
「逆に制圧されてしまった種族はプレミアが付くのでハマり込む人はいると思います。」とバッシー氏はちょっとニッチな逆説を唱えるがこの人はオークなので価値観が信用出来ない。
「南北に別れたら南側のグリーンジャイアント大森林のエルフ達は大ピンチに陥るっすね。」
「いや、奴等はエルフ族のエルフっぽさを守る為にどんな手でも使ってくるからエルフの里は落ちないだろ。」と戦略議論をしているよりも、まずは目の前の街を襲うことが先決だ。
前提として街を襲うという案には反対ゼロ票で可決している。
「んじゃ、あの作戦でいきますか。」と俺は予め示し合わせていた作戦でヘヴシンキの街へ滑降する構えを取る。
「了解でやす。街を襲う時の空爆マニュアル、手はず通りにしやすね。」とアレキシも構えを取るが。
「あ、ちょっと先輩タンマ。」とロドリコが止めに入る。こいつの提案は大体ロクでもない事なので待って聞いてやる事にする。
「ここから西に魔王軍のスケルトンホームがあるんすよ。」
「ああ、大雪原がなぜかスケルトンのホームだな。」と俺は相槌を付くとそこへ悪魔の少女が。
「大雪原にスケルトンがいるのには設定がありまして、ノースマンは伝統として…。」
と口を挟むが、「いや、設定の話はいいからロド続けてくれ。」とギルマスを黙らせる。
「あいつらに我々が襲うタイミング教えてやってなだれ込ませるのはどうっすか?」と情け容赦ないプレイヤキラーの鑑の様な作戦を提案する。
「これでノースマン滅んだら笑うわ。」と俺はその作戦に承諾、ゾーンチャットでスケルトンへの支援要請を送る事にした。
「空襲ー!」「ドラゴンだー!」「砲兵器用意!」「NPCへのシェルター避難指示を出せ!」
ベータでサブキャラ作ってどうするの?とギルメンに言われたがノースマンでタンクキャラを作ろうとした私はチュートリアルの途中でこの襲撃に遭遇した。周囲には慌しく走り回るプレイヤー、NPC達。
NPC達は死亡した場合にREPOPが一部の名前付きしかしない為に、商人が殺されれば新しい商人が来ない限り買い物は出来ないし、防衛戦に頼れる衛兵NPCも犬死をさせてはいけないので、彼等に回復魔法を当ててやらなければならないという実に面倒な市街戦である。
でも私レベル1なんだよなあ、と心で愚痴りながらギルドやゾーンチャットで近い人への救援要請とレベルに関係しないで有効な攻撃を与えられる防衛用の銃座に座り敵を狙い撃ちにしようとするが、敵さんの飛行速度が滅茶苦茶速い。
なにあれ、ジェット機?飛行機雲できてるよあれ。ヘヴシンキは亜竜のホームから北東にあり、彼等のナワバリとはやや近いので亜竜は割りと見慣れた種族であるが、あれは亜竜ではなくレベル20超えの変異体だ、しかも飛行特化?
銃座から発射される弾丸か魔法弾かわからない曳光を気持ちが良いくらいにすり抜け急降下してくるドラゴン達が最初に街へ放ったのは、毒ガスブレスだった。
緑色の霧がドラゴンの口から街へ篭るように広がっている様が目に見える。
「ガス!」「状況ガス!」「マスク着用!」と周囲のプレイヤーがガスマスクを着用しているのを見て、私は急いぎ銃座を離れ銀行へ行き、まだ生きている銀行NPCからメインキャラの予備で保管していたガスマスクを受け取りそれを装着する。
マスクをかぶると視界が少し狭まった上に精製の甘いガラスで曇り、呼吸が「シュコーヘコー」と言った音に変わる、こうなると視界とボイスチャットが制限される為にかなり不便になるが、毒ガス攻撃はシャレにならないので被らない訳にはいかない。
毒攻撃自体は魔法やスキルで解除出来るが、毒ガスは地形ダメージなので回復が出来ずにマスクなしでは広範囲で甚大な被害を受ける、風魔法でガスや幻惑の吹き飛ばし効果のある魔法は存在するが、風魔法を得意とするエルフは遠い南東の果て、世界の正反対。
しかも最大手エルフギルドはとても良い質のガスマスクを作るという噂だが、その技術は身内である覇王軍にも漏らさないし物流もしない。
獅子身中の虫、夢見る獅子と揶揄される彼等の頑固さは80年くらい昔のエルフ感を崩さない超硬派エルフであるらしいのだが、そういうプレイはちょっと憧れる。
ドラゴン達は銃座の砲火を恐れてか、ファンタジー世界の悪竜の様に屋根に陣取ったまま街にブレスを吐き続けるといった、「人間、オラ!今が攻撃のチャンスやぞ。」といったロマンあふれるナメプはせずに、奴等はブレスを吐きまくったらクールタイムの都合上だろうか、すぐに空へ戻りまた急降下を開始する。
しかもドラゴンの背中に乗せている敵からも遠距離攻撃スキルが飛んでくるがこれの火力も高い。
当たれ!墜ちろ!墜ちろ!と私はマスクで見え難い視界から銃座によりドラゴン達を狙い撃ちにするが、今度急降下してきたドラゴン達が取った行動はファイアブレスの一斉射。
ファイアブレス、勿論火属性であり、乾燥したこの北国では雪に薄化粧されていようとも、木造建築はよく燃える。あ、やばい、街めっちゃ燃えてる。
しかし、ドラゴン達の攻撃は完全に制圧戦ではなく、こちらの国力を裂きに来る嫌がらせの類だ。効果があるかないかと言われればめっちゃあるんだけど、やってる方はそこまでメリットあるのかなーと思っていたら丁度ノースマンの宿敵と噂される奴等が西より雪崩れ込んできやがりました。
「スケルトンの軍勢が攻めてきたぞー!」「海軍に支援を要請しろ!」「このタイミングでか!」
と私は今居る銃座を放棄して街の西門へ走る。周囲には毒ガスが漂い、木造の家屋は勢いよく燃え広がり、要領の悪いNPCやプレイヤーは倒れ、西門の大きな扉には硬いものを打ち付ける音がリズミカルに響く。
スケルトンに兵器攻撃があるかないか、答えはある。というか兵器の神様である機械神の神像が魔王軍に占拠されている為に信仰魔法によりスケルトンも兵器攻撃が可能だ。それにノースマンとスケルトン、そこにやや南から来るハーピーはサーバ開放当初からの宿敵だそうだ。
ということはハーピーも来るじゃん!と私は急ぎ空いている銃座に座り、炸裂信管の魔法か弾丸か分からないランチャーをスケルトンへ水平射撃し、炸裂から逃げ惑うスケルトン達が射程範囲外に逃げたら今度はハーピーが迫ってくる方角へ牽制射撃するも、銃座が熱で「シュウウウ」という音を立てて発射不能になる、こんな寒くても銃座のクールタイムは早く終わらないんだね、これ修正要望に書いておこ。
隣でも私と同じく銃座に座って敵を射撃しているノースマンを見つけたが、よく見るとレベルは17と結構お高い。そんなレベルで銃座?それ初心者救済兵器やぞ?と頭に血が上った私は、
「このアホタン!そんなレベルとベベしょってなんで前線にでーへん!」と隣の銃座に座る男を一喝し、うろたえて銃座を立った男その隙にその銃座を奪い敵への射撃を継続する。
一般的にこの行為はノーマナーと扱われるし運営がアカウント毎に設定されていると言われる『隠しカルマ』の値は悪化するだろう、ネットゲームは結構昔からユーザー毎に保険やカード会社みたいに格付けがされている。
無理やり銃座を奪い、一人で2個の銃座を回して敵迎撃に貢献する。これは負けたらマイナス勝てばプラス貢献だ、勝てば官軍負ければ賊軍!これは世の常だが、いつも勝ててるはずのスケルトンとハーピーの対策はばっちりされている、けどドラゴンズからの地形攻撃が本当につらい。PvP慣れ過ぎた人って本当に人の嫌がる事見抜くのうまいよね、あいつらまさにそれだわ。
「ギルド骨骨骨、惨状Death。」「ハーピーゎみんな仲良しだからギルドとかないです。」
とゾーンチャットで味方の参戦を確認したが、これは実に頼りない。
スケルトンはそのプレイスタイルから昔のゾンビ映画のゾンビみたいな単調な戦い方を頑なに崩さず、ハーピーゎぁたまがゎるい。頭いいハーピーはみんなヨグの姉御が引き抜いたかハッチマンの様に別の種族とコンビを組んだ方が間違いなく強いからなあ。
「スケルトンはなんで門の正面からぶつかるの?」とエリーンは彼等の矜持に水を注す発言をするが、回答は案の定「スケルトンとゾンビが賢くてどうする!」というエルフギルド並みの馬鹿馬鹿しい結果であった。
「走るゾンビとスケルトンはOKなのですか?」とバッシーさんがその不死者の軍団に困惑の一打を加える、味方なんですからあまりいじめないでやってくださいよ。
この質問に対してはスケルトン同士で内輪もめになったらしい。結果はゾンビは走るな、スケルトンはオッケー、というご都合主義であったとか。
このゲームにメインゾンビ種族いないしな、スワンプマンの変異であるけど。で、思い出した。
エリーンはレベル20達成の変異先をスワンプマンからニューロジカルゾンビへの変異を強制させた、本人は「チェシャ猫がいいのー!」と駄々を捏ねたが、チェシャ猫は幻惑魔法特化だ、こいつが幻惑魔法を使った所は一度も見た事が無い、大体変装してばかりだ。
「いいのか、ゾンビの方がニンジャだぞ。」と俺は自分でも何を言っているか分からない理屈で妹を誤魔化した結果、ゾンビ妹が誕生した。ぱっとみ外見は変わらないんだけど、首とか腕とかがロドリコのマミーみたいに取れる様になったらしい。実妹の首がもげる、夢に出たら怖いからこいつは常に誰かに変装していて貰おう。
ちなみにジノーはシルフからエアエレメンタルという順当な変異を選択したが、もう一個の変異先の最終変異である空風麟、見たかったなあ。
ノースマンの街?ああ、絶賛炎上中だね。そんな燃えいく街の上空でふと呟く。
「しかし。」「しかし、どうしたっすか先輩。」
「このゲーム最初はファンタジーだと思ってたんだよ。」と続けると、大人組みが少し反応。
「ああ、言いたい事は分かるぞ少年…。」
「分かる、そもそも空戦が入った時点で古典ファンタジーは成立しませんからね。」
「箒に乗った魔女が空戦は?」「いいですねえ、でも古典じゃないんですよ。」
空襲、ガス、砲撃、潜水艦、威力の高い対空兵器。
「これ戦闘システムが第一次世界大戦くらいですよね、中世異世界ファンタジーじゃなくて。」
「ファンタジーは変わった。」と一番高齢なバッシーさんは遠い目をしながら呟いた。
・設定
ノースマン
呪歌 AoE補助及びCCスキルを覚えます。
マッスルボディ 物理攻撃と一部状態変化に耐性を持ちます。
最北の民 氷属性に高い耐性を得る、特殊なスキルを獲得する。
戦士の誇り MPが減るほど防御力が向上します、最前線にいる時にボーナスを得ます。
武装 装備品の幅が広がります。
変異先
スノーファイター→フユショーグン(呪い歌と最北の民が強化。)
クリムスコッツ→ホワイトウォッチ(敵ステルスの看破能力拡大、戦士の誇りが強化)
※最初は変異先を山親爺にしようとしたのは秘密。
スケルトン
暗黒魔法 闇属性の魔法を覚えます。
骸骨 刺氷毒病出血攻撃に高い耐性と特殊なスキルを獲得します。
徘徊 ダンジョン捜索にボーナスを得ます。
ダークストーカー ダンジョン内や夜、曇り空の時にステータス向上。
不死者 状態変化に耐性を得ます。
変異先
スケルトンメイジ→プロメテス(信仰魔法の効果にボーナスを得る)
スケルトンウォリアー→テスカトリポカ(暗黒魔法を武装へ変更。)
・雑談
今朝10時、堕落した私が目覚めるか目覚めないかの時間帯に珍しく電話がかかる。
「ちっ、またセールスか同期の顔出せ要請だろ。」と思って出てみると、かかってきたのはカード会社から。曰く、春と8月に入ってから海外より不明な請求が来ているのですがこんな注文しましたか?というとてもありがたい電話でした。
おいおい、あっしはアマゾンとスチームとオリジンとDMMしかクレカ使いませんぜ、と思っていたが割られたのなら割られたのだろう。リアルお外もそんなに出ないからスキミングもないだろうしなあ。念の為にパソコンのウィルスチェックもしたが穴は発見できず、ハックされたアカウントも無し。
となると上記各社のどれかから漏れたかなと思ったので、ネットでクレカ使う人は気をつけてくださいね。




