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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B014.OMOTENASHI

「へっへっへ、旦那方。このダンジョンに挑むおつもりですか?」と人波廃れた機械都市グラハティアの中心、そこにぽっかりと空いた大穴の前でドッペルゲンガーの男に声をかけられた。

最初は敵のスワンプマンが化けたドッペルゲンガーみたいな手の込んだ罠かと思ったのだが、どうやら彼はここで知り合いに作って貰った薬草やポーションを売って歩く自称商人らしい。その証拠に商売と平和の神である湖神の魔法も見せてもらった。

湖神信仰魔法は他の信仰魔法とはちょっと変わっている。具体的に言うと周囲を強制的に非戦闘状態にしたり、敵陣営とトレードやNPCの買収等を出来る、商人プレイをしたい人が好む戦争には向かない信仰に思えるが、戦闘中に後一歩で勝てるという時にこの魔法を使われると結構めんどくさい。

「湖神信仰取って安全アピールするよりもっと良い騙まし討ち方法はあるわよねえ。」とアマゾネス男のラニが相槌を付くが、「ベータでちくざいなんてしてどうするの?タダでよこすか割り引けよ。」とコビットの少女ノムラは顔に似合わないがめつい所を見せる。

「お安くしますから買って下さいよ、こっちも仲間の装備をユニグロから買わないといけねえんです。」とドッペルゲンガーはこの世界の経済事情の一端を語る。

エルフギルド『ユニグロ』に所属している里里サトリからしてみればこの話は知っていて当然であり、この発言は嫌味にも思えてきたのか、彼女は顔をそらして何やら考え事をし始めた様子だ。

「んだな、薬草の2種類を一人20個ずつ貰おうか。」「毎度、ありがとございます!」と言いながらドッペルゲンガーより薬草の類を受け取る、念の為に買った物をその場で使って毒見をしてみたが、ちゃんとした薬草の様だ。

「商売は信用第一です旦那、はずれの薬草や毒草なんて入れてはしませんよ。」とドッペルゲンガーは困った顔で俺を見た。

 俺ことグンベイとコビットのノムラ、アマゾネスのラニはこの商人から薬草を買ったが、エルフの里里サトリは「いえ、結構です。消費命令が出てますので。」と自前で用意したポーションをチラリと見せて薬草売りからの営業を逃れる。

「消費命令ってなーに?」とノムラがサトリに質問をすると、「ギルドの生産力が拡大して在庫の処分に困った物が結構あるんです。しかし、それらを無責任に市場へ流すと魔王軍にも流れてしまうので自作自消がギルドで推奨されているんですよ。」と世知辛い市場の話を呟いた。

「あのギルドはいいもん作りますが、秘密主義ですからね。私も一枚噛みたいものです。では、またのご利用をお待ちしております。」と言いながらドッペルゲンガーの薬草売りは廃墟の影に消え去った。

商人がいなくなったのを確認してから、「あいつ、絶対魔王軍相手にも商売してるよね。」とノムラが毒を吐くが、ラニが「ノムちゃん、もっと馬鹿っぽく喋るの、没個性は冒険者の死よ、分かった?」と諭すと「わかったのだー。」とノムラは個性を取り戻しにかかった。


サトリからダンジョンに入る前に忠告を数点聞いたが、どれも合点いかない話ばかりであった。

エーテロイドとテクチャルの故郷はこのダンジョンにより封印された。ならば覇王軍は必死になってこのダンジョンを破壊しなければならない。それなのに未だにこのダンジョンは残っている、その理由が分からない。

ファンタジー世界なゲームとはいえ、これはMMORPGだ。いくら強力な魔物やボスがいた所で、規格外の者はいない。以前にノムラが言っていた「夢も希望も絶望も無い。」という言葉はMMORPGにおいて真理であろう。

だが、その道理をねじ伏せる何かがこのダンジョンにあるんだろうな、と俺は内心ワクワクしてきた。

「ではダンジョンに入ります、約束その1を思い出してください。」

「はーい、ダンジョンの中では驚いたり恐怖した顔はしてはいけませーん。」

「はい、その通りです。彼等には塩対応をして下さい。やるとしても笑顔で対応しましょう。」

「人の恐怖や苦悩をログインぢからの源にしている変人の巣窟か、ダンジョンボスの顔が見てみたいな。」

と俺は溜め息と呟きを漏らすと、「すぐに見れますよ。」とサトリはきっぱり言った。


ダンジョン入り口はただの縦穴にロープがぶら下がってるだけである。これを伝ってB1Fまでいくらしいが、「なあ、この時点で襲われたら飛行ユニット以外アウトじゃね?」と頼りないロープにぶら下がりながらサトリに質問するも。

「いや、ないですよ。」と根拠の無い返事が機械的に返ってきた。

地下1階、広めの通路は横幅が2ドラゴンくらいの広さである、「ドラゴンが並んで穴掘りでもした様な造りだな。」と俺は呟くと「まさにその通りですよ。」とサトリが小さく呟いた。

暗い一本道の通路は突然開けた空洞になり、眼下には浅いか深いかわからない暗い断崖が広がった。

「横道を使います。」と言いながらサトリは崖沿いにある狭い道を通ろうとするその瞬間に、崖の対岸が原色色とりどりの光を放ち出し突如として地面から一体のドラゴンが光に照らされてせり上がってきた。そう、アイドルとか舞台役者が登場するみたいな仕掛けで対岸に巨大なモンスターがテカテカと光を浴びながら登場したのだ。

俺は咄嗟にその赤く表示された名前を確認する名前『ビータ』階級『ダンジョンボス』。

その怪物の後ろには光を受けたプラカードが『ようこそ天魔のダンジョンへ、冒険者様ご一行。』とでかでかと日本語が表示されている。

「おあ!」「う!」「冷静に!驚いてはいけません。」戦闘体勢を取ろうとする俺を真顔のサトリが小声で叱咤する。

「ねぇ、今この状況であっちからこーくーこうげきかほーげきされたらやばないんー?」とノムラが笑顔で当たり前の発言をするが、サトリは「こっちがしなければして来ません。」と真顔を崩さない。


「お兄ちゃん!スターステージ作戦失敗だよ!全然受けてないよ!」

「あのな、これをやる方の身にもなれよ、危険とかそういうんじゃなくて、素直に恥ずかしいんだから。後、受けてないのは発案者の責任だ。」

「そもそもどういう効果を狙った作戦っすかこれ。」

寝不足のハイテンションと大人達の悪知恵が加わりダンジョンは凶悪化の一途を辿った。

作る方と壊す方、どちらに情熱があるかと言われれば簡単だ、答えは前者だ。

『ぼくがかんがえたさいきょうのだんじょん』はトライアンドエラーの繰り返しでもはや意味不明な難易度となった、攻略が難しいとかそういうレベルではない、作るほうも攻める方も頭がおかしくなってしまったのだ。ワープゾーンには数種類の移動先がランダムに設定出来て、計算されて配置されたダークゾーンと移動床からの回転床は的確に敵を分断と各個撃破に導く。

もう駄目だ、これ以上罠が思いつかん、そもそも地下3階より下に来たパーティーがいねえ。どうしよう。

その結果に出来上がったのがダンジョンのテーマパーク化であった。RPGマニアのバッシーさんは子供の頃に見たテレビ番組を真似た要素にダンジョンメイクの方向性が曲がり、ナイトウィンドさんはそのクソ真面目さから欠点と言う欠点を埋めていく、戦闘大好き組みはダンジョンの特性を生かした勝利に飽き、最近ではダンジョン作りに加わるも、作るのは闘技場やら一本橋みたいなガチのバトルフィールドを増築し始める。

最下層の地下8階を飾り終えた女子勢は全フロアの改築には面倒なのか手出しせず、バッシーさんと一緒にふざけたギミック開発に傾き始める。

「過去の怪物たちは葛藤しただろう。ゲームクリエイターは難易度に悩んだろう。」俺はブツブツと呟きながら輝くステージから退場をした。


「なぁに、あれ?」「みんな狂ってしまったんですよ。」「なんとなくだが分かったよ。」「やだわぁ、アミューズメント施設なら最初から言ってくれれば良かったのに。」

崖沿いの横道が終わり、石の扉を潜るとそこには前方に4方向に枝分かれした道と、道それぞれにレバーが手前に配置されている。

「この部屋はー?」「ここは通称、音ゲーの間と言われています。」「なにそれ。」「私ちっちゃいころにやったことあるけど、あの音ゲー?」

「私はあまり知らないジャンルなのですが、部屋の中央線を通るとご覧の通り、モンスターが向かってきますね。」とサトリが言うと暗闇の奥からカタカタと音を鳴らして迫るスケルトンの軍団が目に映る。

「ちょっと多くねえか?」「やだー、もう全滅の危機?」「ギミックあんでしょー?」

「はい、あの敵が一番手前のマスに来た時にレバーを倒すと、こうやってこうやって。」とサトリは左右に走りながらレバーを動かす。すると向かってきたスケルトン達が奥の方へスーっと滑るように戻っていく。

「こんな感じでレバーを倒す係りがスケルトンの攻めて来る量を調整して、他のメンバーがスケルトンを掃除していきます。ちなみに、レバー無視して全スケルトンを同時に相手すると怖いお姉さんが出てくるそうです。」

「一本の道に全員で突撃するってのはどうだ?」と早速スケルトンと戦いになったが右左に忙しく動くサトリに声をかける余裕は俺にある、あっちにはあるか分からんが。

「ダンジョンのMobはこちらを発見するとダンジョン入り口まで追いかけてきます。そうなると対処できないので、ダンジョンの雑魚は常に掃除しなければなりません。」

「なんかレイドダンジョンみたいだねー。」とノムラはスケルトン相手にうまく立ち回りバックアタックを決めながらぼやく。ラニは「ダンジョンが無いとか色々抜けてるって設定、少し分かった事があるらしいわ。」とそのアマゾネスによる種族性能で正面からスケルトン数体を蹴散らしながら風聞を語る。

「なんでも、マギラ3には運命と時間と精神の神様が見当たらなくて、地名も前作や初期作とも違う。でも種族は踏襲している上に2で滅んだとされる種族が残っている。」

「余裕あるならスケルトン増やしても大丈夫ですか?これ疲れるんですよ。」

「俺は勘弁して欲しい。」と正面のスケルトンへ盾で殴りつける。

「つまり、設定的にはマギラ1から2より大昔のお話という事になるらしいわ。」

「まー、三作目に原典を持ってくるのは王道だからねー。」

「スケルトン増やしますね。」


音ゲーの間のスケルトンを処理しきると、次は4本の道のどれを進むかという事であるが。サトリ曰く、「全部行き先はワープタイルですよ。」との事らしい。

「あ、ワープした直後には一歩も動かないで下さいね。今回のワープ先は1のCか。」とサトリは呟きながら東西南北をくるくると見回した後に歩き出した。

その行き先には暗黒の空間が広がる、ダークゾーンだ。ここは視界が本当に遮られてしまうらしい。

「いいですか、ダークゾーンの約束です。」

「10歩前に歩いてから10歩戻って今度は全力で前進して次のダークゾーンまで走りぬける?だったわね。」

「はい、ダークゾーンは敵の集団を分断と各個撃破する為に用意されています。基本的に襲ってくるのはプレイヤーと見て良いのですが、我々を探知する方法は音しかありませんです。」

「生命探知や曳航弾みたいなスキルは使えないのか。」「はい、実証済みです。」

「では行きますよ、絶対に最初から走り抜けて突破なんて考えないようにして下さい。」


ダークゾーンの切れ目に顔だけ出して待ち構えるオーガとデビルとシルフと亜竜とオークとスワンプマンが居た。

「エルフがいたでやんすが。」「戦力的にはこちらの方が圧倒的ですから、私は下がりましょうか?」「愛ちゃんが一番Lv低いんだから稼がないと駄目だよ!」

「はい、私は天魔で一番Lvの低い魔王です…。」

「そう卑屈になるなよ、ほら、足音が聞こえてきたよ。そろそろ来る、ん?」

「来ませんね。」「あ、この歩き方、符丁ですよ。」

「クッソ、コネ持ちかよ、下がって他のパーティー潰しに行くよ!」

「まぁ、ダンジョン探索で時差が出来るから常にどっかで戦いはありますからね。」

と言いながら今や立派なモンスター集団と化した一群は闇の奥へと消えた。


「止まらないで次のダークゾーンまで走ってください!」

「スタミナがあぶやい!」「高機動持ちは楽よー。」「機動力は大事だな。」

暗闇から抜けて明るい通路に出たと思えばまた暗闇に突っ込む。その暗闇の中でサトリは全員の安否を確認する。「皆さん脱落者はいないようですね。」「へーい。」

「後は下り階段がありますが、すぐにまた昇り階段を見つけて、それからまたワープゾーンとダークゾーンが続きます、回転床と移動床もありますので、はぐれない様に移動してくださいね。」とサトリはドンドンと道を進む、道中に宝箱を見つけてもサトリ以外のメンバーは期待に胸を膨らませるが、サトリは渋い顔で周囲を素早く見回す。

「やったー!レアランクの指輪と精霊銀の片手剣だよ!」「噂通りに頭一つ二つ抜けた物が出るな。」

「お宝いっぱいあつめるわよー。」と、

サトリ以外はドキドキワクワクの冒険を満喫しているがサトリは思う。なんでいつもこんな事になるんだろうと。まるで自分は見えざる手により薄幸の地位を押し付けられているのではないかと。

「皆さん、次は地下一階最後の難関です。」「うわさのー。」「触手部屋か。」「やーねぇ。」

「はい、今から言う通りの行動をしてください。反論は認めません。…まずは服を脱ぎます。」


「しょーくしゅっしゅっしゅ!」「ぬっちゃぬっちゅ!」「ぴっちょんけ!」

「履歴書。しゅぞく、しょくしゅ。しょくぎょう、観光客狩り。」

今日もローパー達は井戸端会議の如くに群れをなし冒険者を絡めとらんと待ち伏せる。

マニアックな趣味を持つ彼等はローパー同士で趣味も合うしアウトドア派でもない、三次元戦闘の出来ない陸上に出たらあまり強くないのでこのダンジョンに同志と篭るのが楽しい一時らしい。

その魔界より酷いだろう光景の扉がスッと開いた、新しい獲物だ!ローパー達は所定位置にフォーメーションを取り、目配せで襲撃のタイミングを見計らう。

「新しい獲物がき、え!?」「う。」「おおう?」「ええ…。」

彼等の巣穴に侵入した冒険者達は全員が倫理委員会に出したら怒られる場所を布で隠した状態。

つまり、全員が下着姿で堂々と、しかも真顔でその部屋に入り、スタスタと何事もなかった様に直進をする。

そして、冒険者ご一行は彼等の巣穴を素通りして次の扉を潜っていった。

呆気取られたローパー達は正気に戻り目配せをしてから会議モードに移行した。

「最初からマッパは有りなのか?」「いや、無いだろ、だってはがすもんないんだぜ?」

「無課金アバターが来たでござるの巻き。」「でも攻撃は出来るよな。」

「元々下着姿のエルフとコビットの娘を触手攻め、その状況でポリスがチャージしてきたら俺等がローパーされちまうんじゃね?」「今更過ぎるけど、ハラスメントでBANされてないのが奇跡なんじゃないか俺等。」「まぁ、次があるよ、うん。」「そうだな、でももう一回来たら困る。」


「嘘だろ。」「おいろけこうげきー!」「やだー、勝負下着で来るんだったわ。」「ラニはなんでブラジャーしてるんだよ。」「アクセサリ、大胸筋サポーターよ。」

そんな感じで最大の危機を乗り越えたサトリの表情は死人に近いものになってきた、本来は明るく純朴でエルフの中では健気ガール枠を獲得しているはずなのに、今日は案内とはいえこのざま、何が悲しくてゲームとはいえ半裸で触手達の巣穴を真顔で横切らなければならないのだろう、この虚しさは何だろう。

適当な所で全滅しとけば良かったかな、とサトリは思いながら服を着た後にフラフラと先へ進む。

私は時より、RPGについて考えます。

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