B012.ダンジョンドラブル
「ぐわー眠いー!」「もう駄目です。」「よく頑張った方ですよ。」「おつですー。」
エリーン、ジノー、女子中学生二人脱落。「私も若くはないので失礼しますよ。」とバッシーさんも就寝。
時既に午前8時。残りメンバーは7人、7人もいるのかよ。
ダンジョンを作りこみ、ギルドアライメントポイントを使いまくり通路の迷路と回転床と同じフロア内へ飛ぶワープゾーンと視界の遮られるダークゾーンもきっちり嫌な場所に用意した。
おきまりのRPGではダークゾーンではモンスターと戦えるけど現実にやったらどうなるんだろうね、と思っていたら両者から「こんなん戦いになるか!ふざけんな!」という心温まる囁きチャットが両陣営から有ったのでダークゾーンは有効であると判明した。
回転床は敵のキャラがまとまってかからないのと、方位磁石がシステムに内蔵されているのでイマイチ役には立たず、これには方位磁石を使用不能にするギミックが必要だとベータテスターらしく開発へ要望メールを出す。
ダークゾーンに回転床を配置すればいいという案も出たが、これにも苦情が出るだろうという事なので保留した。最下層には作ろうかなとは思っている。
ワープゾーンも迷路が拘れば拘るほどこれまた強い。
しかし、ゲームの都合上でワープは高低差を利用してはならないという事で、敵を高い所にワープさせて転落死を狙う事も出来ないし。
壁で囲まれた部屋に封殺したり、*石の中にいる*、みたいなワープ先はどうも作れない。
というよりも、ダンジョン作成時に「このダンジョンはダンジョンとして成立しますか?」と言う事が恐らく専用のBotでチェックされているのだと思う。
ダンジョン審査会みたいなAIの技術進歩が進んでいる訳だ、生まれ続けるダンジョンを人力でチェック出来るもんでもないしな。
手作りのダンジョンはゲーム内のマップが機能しないので、今日日珍しいガチで先が分からないダンジョンとなる為に、マッピング係りが必要となるはずだ。
このダンジョンはノリや感覚でクリア出来る程に甘い設計ではない。
ワープゾーンは確かに高低差は利用できない。だが、もし分割されたフロアに複数の階段が存在し、例えばB2FのAの階段からB3FのA階段へ下った後にB4Fへ進む階段が無くて、B2Fへまた昇るBの階段を使用してまたB2Fの別フロアを彷徨いB3Fへ向かうCの階段を探さなければならない道中でいきなり最初の位置にワープで戻されたらどうする?それが連続された場合は?答えは簡単だ、頭がおかしくなって死ぬ。
設計にはジノーとナイトウィンドさんが討論し合い、古典RPG大好きおじさんのバッシーさんが人生で一番嫌だったダンジョンギミックを紹介する。
身内が迷子になったらマヌケなので、本業が設計の仕事であるマリッドさんにダンジョンマップをマギラ2にもあったアドオンのお絵かきソフトに書き込みシェアをする。
「HMD付けながらペンタブ使う日が来ると思わなかったよ。」とマリッドさんは語るが、設計の仕事は3-4枚のマルチモニタで作業をするのが効率的らしい。
完成された地図は流石に本職が作る物だけあって素晴らしい出来であった。
このダンジョンの極め付けは触手トラップ部屋だ、この部屋は次の階層へ到達出来るのが確定したら確実に存在する。
全世界のローパープレイヤーは50人いないと言われているが、現在最高難易度であろうとBBSで言われ始めているこのダンジョンにほぼ全てのローパーが集結している。ぶっちゃけ一時期、天魔のギルメンの半分がローパーになったくらいだ。
「流石に我々の個体数ではオークの様な専用ギルドは作れない。」とセルフバンジーさんはしなっとしたポーズを取りながら語ったが、天魔のギルマスこと愛微笑は
「触手ギルドに認定されたぁ↑ああ"あ"あ"↓!」と女子が出してはいけないデスボイスを発した。女の子ってそういう声出せるんだな。
触手部屋の評判はすこぶる悪い、曰く。「素直に気持ち悪い。」「妙に強いのがむかつく。」「男キャラは素通りさせる。」等の評判であり、ゲーム中で最悪のダンジョンとギルドの名を不動の物とした。
ローパー達が掴まり易いオブジェクトを部屋中に配置し立体機動が可能な様に改造した部屋。
自衛用の防衛装置もそれに合わせてスライムやらそれっぽい奴を大量に用意して触手部屋にサービスとして置いてやったが、火属性で一網打尽だろうその部屋に火属性が来た事は一度も無い。
その理由は信仰魔法にあった。ワールドマップの最南西に火神の神像があるらしいのだが、それを我々とは別のギルドが要塞化してしまい覇王軍からの信仰を不能にしてしまったのだ。
「やっぱこれ、前作よりガチな陣取り合戦だったんすね。」とロドリコが触手部屋を突破した勇者の男達を包帯がらめにしながら言う。
「火と基本砲撃は封じたが敵は回復2柱神を保持か、超回復と薬草持ちみたいなキャラが重宝されるな。」
「陣地の変化によりスキルラインを右往左往させてスキルリスペックで運営が稼ぐスタイルっすね。」
俺は勇敢に戦い倒れた獣人を丸呑みにしながら考える。
「次に必要なもんはなんだ?」「生産じゃないっすかね。今の装備って全部敵からはがした奴っすよ。」
「生産か。それに砲撃ユニットで忘れてたけど覇王軍のラットマンが大地の魔法持ってるんだよなあ。」
「厄介っすけど、人間勢力でラットマン選ぶってローパーよりいないんじゃないっすかね。」
「よく見ると可愛いって評判で、メスラットマンが増殖中。だとさっきゾーンで聞いたぞ。」
「砲撃ユニットは味方に欲しいけどラットマンで開始はしたくないっていう人間のステマじゃないっすかね。」
「皆さん、朝が来ます!」と愛微笑がもう午前8時回っているのから当たり前の事を言うが、それはそういう意味ではない。それはコアタイムとは違う、この時間のみ発生する特殊な時間帯。
名前を付けるなら夜勤明けタイムである、夜勤の仕事をする社会人の眠る時間は大体正午から午後6時くらいと言われている。帰宅時間から副交感神経のずれた彼等は眠くなる正午までゲームをする。
そこに通常時間で起きたプレイヤーが加わり、午前9時から正午までは割りと大きな戦いが起こる。
「お客さんが来るぞー。」「おはようでオーク、エルフは俺達に任せるでオーク。」
「ああ!?エルフなんざゴボウ種族は最近こねえんだよ!」「マジでかオーク、探しに行くわ。」
そういいながらオーク達はエルフを求めて旅立った。
「我々もエルフを触手攻めにはしたいですが。」「ローパーは客を選んではいけない。(戒め)」
ダンジョンの入り口から影が迫る、覇王軍は人間主体の勢力なはずなのになぜ不死者系ばかり来るのだろうか、死神、ドッペルゲンガー、ゴースト、獣人、ライカンスロープ、竜人、ウータン。
お互いが人ならざる種族で争い合う、その戦いは魔王同士の抗争に見えなくもない。
「ウータンじゃねえか!」「今作ではゴリラギルドは成立しないから脅威でもないな…。」
「では、作戦通りに、ダークゾーンの直後に待ち伏せと。ワープゾーンの直後での戦闘を心がけて下さい。正解の道に来た敵はローパーの方々でお願いします。」
敵集団は警戒をしながらダンジョンを詰めてくる、道中にNPCや宝箱があるのでそれに気を取られている隙に勝ち馬乗りにきた野良プレイヤーが妨害に加わる。そうだ、もっと争ってくれ。
ダンジョン内で戦闘が起こり、支配者側の勢力が勝てばその上がりの経験とポイントがダンジョンマスターやギルドに入る。つまり、俺は戦わなくてもダンジョンをひたすら凶悪に増築していけばLvは上がる。
もう少しでLv20なんだよぉぉ、と心で呟きながらウキウキ気分で死なない程度に敵の嫌がらせに徹する。
とはいえ、出来る事は敵に突っ込んで竜の咆哮を放ってから死なない様にヨグさんから貰った薬草を早食いしながら敵射程から逃げるだけである。肉弾CCがお仕事です、空輸と敵中突破にスキル全振りの俺に気の利いた攻撃方法なんてものはない。
なぜファンタジーのドラゴンは空を常に飛ばずこんな暗くて狭い洞窟に篭りたがるのだろう。
実に不思議である、ドラゴンが実在したら先人の意見として真面目に聞きたい。
「オッス、ただいまでやす。なんかすごい事になってるでやすね。」とバイトから戻ったであろうアレキシさんが戦線へ復帰する。
しかし、敵の全然ダンジョン侵攻が全然捗らない、硬く作りすぎたかな。
「よし、ステマ作戦だ。」「うっす、先輩。覇王軍を煽ってお客さんを増やすっすよ。」
『テクチャルとエーテロイドが増えないと覇王軍はジリ貧で敗北確定だぞー。』と、敵を煽る工作を匿名BBSで開始すると。
あ、Lv上がった。
「先輩おめでとうっす。」「おめでと!」「おめでとうございます!」「おめでとうでやす!」
自称無職と無職予備学生の次の番でクラスチェンジか、複雑な心境だが。
「変異先は下法竜と邪竜、か。」「どっちもダーク属性まっしぐらですね。」
「悩む必要なんてねえんだよ、ぱぱっとかわっちまえ!」
「振り直し(リスペック)も一回出来る様になるから大丈夫っすよ。」
周囲の後押しもあるが、そもそも先にクラスチェンジした奴等は悩むような人種じゃないしなあ。
この苦悩はわかるまい、では下法竜へ変異ぽちっと。
すると、視界と周囲が光の柱で包まれた。巨大な竜がクラスチェンジするのだ、その姿を包み込む光も大きく神々しい。
眩しい光から視界が回復すると、視点がおかしい事に気づく。低いのだ、まるで人間だった頃の高さだ。
挙動不審になっている俺、クラスチェンジを見に集まった周囲の仲間達が口を押さえるモーションを取る、それは驚愕?否、ロドリコの眼を見る限り、あれは笑いを堪えている顔だ。
自分の体を眺める、右手?左手?足?なぜある?胸元の盛り上がりで真下がよく見えない。
「少年、居た堪れないのでこれを見てほしい。」とナイトウィンドさんは水魔法の水鏡を使い、俺の姿を反射させる。
おいおい、屈折率おかしいだろ?物理法則仕事しろよ。と水鏡に映るのは体格のがっちりして起伏に富んだ体つき、髪は濡烏の如く光の輪を持ち、目は鋭いが大きく、瞳孔は血の様に赤い。
服装は鱗のビキニアーマー、そのアーマーに包まれない肌は青白く艶かしい。
大空を駆け巡った大翼も今ではデビル種程度の大きさに縮小している。
「ぶははははは!」「ひょー!これまた美人になったでやすね。」「ビータさん、美人さんですよ、フフフ。」「こういうダンジョンボスの方が受けはいいっすよね。」「クラスチェンジにもすごいのがありんすなあ。」
と周囲が冷やかす中で俺は膝を付くコマンドを入力した。
キャラメイク時に顔面読み取りがあった時点でおかしいとは思っていたんだよ。
絶望しているだろう顔で俺はもう一度水鏡を見つめる、顔の特徴は妹に近い。妹をちょっと目つきを鋭くして体格と身長を伸ばして、人生に色々あったらこういう姿になるんだろうなという見た目だ。
「オイラも妹さんに似て可愛らしいと思うよ。」
「ドラゴンのビータさんもいいですけど、こっちの姿もいいですね。」
というフォローも今では追い討ちにしかならない。
「リスペーーーーック!即リスペックだ!」と俺は叫びを上げると。
「待った先輩、まずは性能を確認してからにして欲しいっす。」とロドリコは真面目ぶった声で言うが目元は笑っている。
「畜生、脱畜生とはいえ、こんな姿を衆目に晒したくはない。」
特に妹と味方から敵となった人にだけは見られたくない。
しかし、よく見ると腰のラインは悪くないな。
雑談 マッパー
筆者が子供の頃にフォーチュンクエストという小説を読んでた頃、そんなん必要あんのかね。と思っていたがあったが、後年マップ表記の無いダンジョンのRPGゲームがわんさかプレイしてマッパー必要だわ、うん。と悔い改めた事があった。犯人は大体アトラスのゲーム。
種族
ウータン
森林魔法 森林魔法を覚えます。
野生 モンスター属性の敵へ高いボーナスを得ます。
自然崇拝 地形効果を大きく受けます。
獣皮 衝撃、斬撃、氷属性に耐性を得る。
鉄拳 物理攻撃に最低ダメージ保証。
変異先
ショウジョウ→エンペラーコング(物理攻撃力、跳躍力上昇)
ヒヨシシ→ハヌマーン(鉄拳を信仰へ変異。信仰と地形特化)