B004.エルフを狩る獣達
グループの移動には俺の背中にバッシーとナイトウィンド、アレキシの背中に武器を捨てたマリッド、俺に化けたエリーンの背中にロドリコとレーオレオレオ、ジノーに牽引されながら愛微笑が羽ばたきで浮力を得てフラフラと飛行する飛行部隊が完成した。
牽引用のロープは町のNPCで売っていた、値段が金貨3枚となかなか高額であった為に狼狩りで稼いだ資金はそれに消える。
「マリッドさん、武器無しで申し訳ないです。」と重量の都合上に丸太の様な棍棒を捨てて貰ったが、
「なんの、アタイは素手でも十分いけるよ。」とオーガのお姉さんは豪快に笑った、やっぱり誰かに似てるなあこの人。
「ぶきはげんちちょーたつだ!」とエリーンが余裕そうに軽口を叩くが「そうはいうがな大佐。」と俺は言いながら必死に羽ばたくアレキシとジノーに同情の視線を送る。
「俺っちも大翼と天空神にすりゃよかった!」「エアーマン!」「わ、風魔法の反動で浮力を得られるんですね。」「一瞬斜め後ろを向いて発動しないといけないから結構厳しいですこれ。」
ジノーからは時折、風魔法による吹き飛ばしが地面か自分に向けて発動されているが、ああいう機動力の確保もあるのかと感心。
「あ、やばいでさ。ちと地面歩いてスタミナ回復しまんね。姉御はそのまま乗っててくだせえ。」
「なるほど、重量過多の状態で飛ぶとSPが減るのかい。」
魔都ロンハイより真西に進むことしばらく、ギルド天魔飛行部隊はグリーンジャイアントと表記される大森林へと入る。
「確かこの辺りだったんでさあ。」と言いながらのアレキシ先導で策神の神像を探すもすぐに見つからず。
「こうも広い森だと確かに分からんな…。」「僕等も忘れない内に天空神像のとこにマーカー付けときますか。」とマッピングが如何に重要か教えてくれる。
「さすがに神像位置のアドオンはまだ出来てないしな。」
「神像が分散して隠されているならアドオンは認可されるか怪しいですね。」
「おや、前方で戦闘の音だよ。」とマリッドさんが森の闇を睨む。一同は顔を見合わせた後に小さく頷き、その騒乱の元へ向かった。
戦闘は確かにあったが、
「狼と蜘蛛の殴り合いか。」
「クモがランク2ボス、狼は6匹っすね、いい勝負してるじゃないっすか。」
「普通のRPGなら狼が負けるパターンだが…。」
「ええ、見事に狼がダメージコントロールとタウントらしきスキルで大蜘蛛をかく乱しておりますな。」
「名前の色を見る限り、蜘蛛が中立で狼が敵勢力だな。」
「面倒だからとりあえず轢き殺すっすよ。」
と言いながら狼の集団へチャージを仕掛けるロドリコに各々が続く。
まずはロドリコの包帯とバッシーさんの森林魔法、今作での森林系の魔法はどうなるかと思ったら案の定地味、オークの術師が短い詠唱動作をすると地面から木の蔓が生えて狼の足を絡め取る、ロドリコは両手の包帯を使い、狼二体の動きを封じてお前もう両手使えないじゃんと思ったら今度はその場で尻餅を付いて両足の包帯も射出し狼4体を絡め取る。包帯すげえ、オールレンジ攻撃かよ。
森林魔法と包帯で拘束された狼を一匹ずつタコ殴りにする為に前衛組は更に距離を詰める、前衛は俺、エリーン、マリッド、レオ、アレキシ、愛微笑。
エリーンはその姿を俺のコピーから敵の狼のものへと変え、バックアタックを狙いに行く。
俺とマリッド、レオ、愛微笑は一匹の狼に狙いを定め攻撃を開始する、この中で一番手が早かったのがマリッドさんだった為に、メインアタッカーは彼女だと暗黙の了解が生まれたかと思ったら、アレキシが狙いとは別の狼と「ばっちこいやー!」と言いながらタイマンを張り始めた。
いや、確かにお前なら余裕で勝てるだろうけど、Noobかよ。
狼のLvは4と微妙に高いが、中立であったランク2ボスの大蜘蛛も狼へ向かって攻撃を加え始める。
この大蜘蛛が味方に回らなければ勝つのが厳しいギミック戦闘だと見たので蜘蛛には攻撃が当たらない様に皆が距離を取った。
これで敵の三体を攻撃中になり、残り3匹が拘束中となる。
後方からはジノーによる風魔法が「ウィンドナイフ!」という言葉と共に空を斬り敵を刻む。
スキル名を喋りながら打てる様になればある意味一人前だ。
CCをロドリコに任せたバッシーさんは森林魔法だろう植物のムチを集中している攻撃にピシピシと加え始める。これにより狼を一匹撃破、すかさず俺はそこへ噛み付くスキルからの丸呑みを実行。
まだ狼一匹とタイマンをしているアレキシは放置してマリッドは別の狼へ狙いを定め、他もそれに続く。
二匹目、三匹目、四匹目と同じ方法で撃破していくとアレキシ以外のLvがもりもりと上がった。
愛微笑、ナイトウィンドがLv1から3へ。他はLv1UP、ただしアレキシは除く。
戦闘終了後に「何で!?」と喚くアレキシに現実を突きつける
「共闘ボーナスなめたらいかんよ。」
「同じグループに入ってれば貰えるんじゃねえでやすか。」
「駄目でやすっす、せめて一撃与えるか同じターゲットをみんなで叩くかしないと経験に差が出るっす。」
「そう、それに俺達は亜竜だ。丸呑みで敵にトドメを刺さないとLvの上がりが遅い。」
「やはり亜竜同士では丸呑みの奪い合いになるか…?」
「今回みたいに複数の敵を相手にするのが基本でしょうね、亜竜は強いけどソロ職では無いみたいです。」
そんなやり取りの中で放置をされていた大蜘蛛は狼の撃破からピクリとも動かなかったが、攻撃を受けないという事を認識してか。「アリガトウゴザイマシタ。」と言いながら森の闇へと消えていった。
「シャベッター!」
「あ、蜘蛛と友好度が上がったってログが出たぞ。」
「蜘蛛は魔王軍じゃないのですね。」
「あったよ!策神像!」「でかした!」
広大な森を狼や食肉植物を蹴散らしながら彷徨うこと半時、目の前には軍配と団扇を片手ずつに持ち舞う様なポーズを取っている男の大理石像がそびえ立っていた。
「んー、分からん。」「天空神のがなんとなく分かるっすね。」「前作で言う戦神なら強いんだがな…。」
「では、私はこれを信仰しましょう。」「んじゃオイラもこれ!」「アタイもこれにするよ。」「俺っちは天空神って奴のが気になるでやす。」「私もこの神を信仰しよう…。」「私もこれかなー。」と無信仰組は迷うことなく策神信者となった。
「では、地雷一番、信仰魔法Lv1取ります!」と愛微笑は言いながらスキルを割り振ったらしい、すると愛微笑の顔が元々の色より青ざめる。
「どうした、愛?そんなまずい信仰だったか…?」とナイトウィンドさんが心配そうに尋ねると。
「策神Lv1は囮作戦、つまり挑発スキルですこれ。」という発言に周囲は少し悩んだ。
「タンククラスは信仰で取るのか?」
「種族特性にタウントが見つかっていないのはそういうことか。」
「となると回復呪文が見つからない理由もそれか?」
「単純にオイラ達が癒し系じゃないだけじゃないかな。」
「一応信仰は上げる予定だが…早めに他の神も見つけないといけないな…。」
等と考察結果を口々に出していると、いきなりピクリとロドリコ、マリッド、ナイトウィンド、バッシーが動き向きを変えた。俺もその予感を察知出来たのでその先にある森の暗闇に正対する。
森の中からうっすらと見える人影、直後にキリキリという弓のしなるかすかな音。
「オラ!早速行こうか!策神Lv1の囮作戦!」とマリッドさんは叫びながらその森から浮かぶ白い顔に向かい走り、相手を睨みつけるような発動モーションを取り、ピヒュンという音と同時に飛ぶ敵からの矢をその体に受けた。
「俺っちも壁になりやすぜ姉さん!」とアレキシが汚名返上とばかりに敵へ挑発スキルを発動させるも。
「え?10人くらいいませんか?」「やるしかねえっす、包帯フル展開っす!」と全員は戦闘状態へ突入した。
そう、敵はこちらより多い、異常ではある。ただし、問題はそこではない。
「プレイヤーの有無だけ注意しろ…。」とナイトウィンドは呟き、信仰魔法にポイントを振らず取った種族スキルの呪歌を発動させた。
呪歌Lv1はバインシークライ、敵の攻撃力を下げる効果があり、更にそこへ愛微笑のデビル種族スキルの悪知恵が加わり効果が上昇。
ロドリコが「妹さん、いってこーい!」と言いながらエリーンを片手の包帯で絡めとり、もう片方の手の包帯を近場の木の枝に縛り、エリーンを遠心力任せに敵中へ放り込んだ!
「いってきマース!」と笑顔で言いながらエリーンは空中で姿を変え、エルフの群れに混じる。
そう、敵はエルフの集団だ。エルブンスカウツという名前表示が遠目に確認出来た。
敵の集団は全員が緑と茶色でまだらに染め上げられたフード付きマントに身を包み、顔もドーランで緑や茶色に塗られエルフの眉目秀麗な顔立ちも尖った耳もその森林迷彩スタイルのストイックさに隠されている。
「森は我等の物!」と叫びながらエルフの戦士達5人が突撃をしてくるも、それを阻むようにマリッド、アレキシ、レオ、愛微笑は早速手に入れた策神信仰魔法を使い味方の盾となると同時に剣にもなる。
「人間種がオーガに勝てると思うんじゃあないよお!」とマリッドさんは叫びながら新たに取得したスキル、人食いLv1の喰らい付きを発動させる、あれはMPの回復も出来る近接攻撃らしい。武器の無いマリッドさんは素手技とその人食い攻撃を主体にするつもりだったらしく、人型のエルフが相手なら完全にマッチした構成だろう。
ロドリコとバッシーさんは敵のCCに専念、ナイトさんは呪歌Lv0スキルの呪いの囁きにより敵魔術師の詠唱の妨害、後方からの射撃攻撃はジノーが担当。
俺はというと、射手のターゲットが前衛に全て向かったのを確認してから一人空中へ飛び立った、狙いは敵の魔術師二体、射手四体に守られるように配置されたその魔術師に対し俺は上空より急降下しブレスLv1のポイズンブレスを振り撒きながら敵の術師を一人鷲掴みにする、そして空へ舞い戻った。
それを見たもう一体のエルフ魔術師は俺が鷲掴みした味方に向かい森林魔法の足止めをかけた。
なるほど、足止め魔法を味方にかけて重量を掛けるのか、敵に対してのCCは耐性持ちの可能性があるからな、賢いAIだが。
「いまだ、エリーン、やれ。」と俺は呟くと「はーい。」と言いながら射手の一人に化けていたエリーンが地上に残った敵のエルフ術師を背後から大剣の様に変化させた右腕でズブリと貫いた。
「やったよお兄ちゃん!」と喜ぶ妹に「すぐに味方の元へ戻れ。」と俺は言いながら上空から爪で掴んだままの暴れるエルフを望み通り開放してやった。
エルフには滞空能力があるか?答えはNOだった。
ボキキッと鈍い音が地面から聞こえた気がするが、このゲーム本当に倫理審査通ったのかなと思う。
経験値ログを見ると経験値はあまり増えてはいないので上空からの落下殺害はあまり効率が良くないな。
「ああ、まどろっこしい!敵の前衛はアタイとアレキシで全部持つから他は射手を倒しにいきな!」
「ここは姉御と俺っちに任せていってくだせえ!」とタンク職は誰か確定した様だ。
「んじゃオイラ達は奥へ向かうぜ!」と言いながらタンク職を辞めたレオと愛微笑は敵の射手に襲い掛かる。それに合わせて俺もエリーンも機動力や変身スキルを駆使して敵の後衛撃破に加わる。
もう少しで勝ちだな、と思ったその時に。今度は森の奥からザ・エルフです、みたいな集団が五体追加で走ってきた、咄嗟に名前表示を見ると全員に名前がある。「まずい!北からプレイヤー5人追加!」と俺は叫びながら新手の集団へ全速力で飛翔突撃をし咆哮のスキルを放ち敵を恐怖状態に陥れる。
「ドラゴン!?」「亜竜だ!敵のプレイヤーだ!」「INC!敵Roam!」
正直に言うと敵のプレイヤーの初動はNPCに劣ったがプレイヤーは基本ステータスは高い。
俺は時間稼ぎをした直後に仲間の元へまた全速力で飛翔するが、背中に矢が数本突き刺さるのを見た。
さすがにプレイヤーからの攻撃はダメージも大きい。
もう少し時間を稼げば良かったか?と思いながら味方の元へ戻るとまだ敵の戦士4人を処理できずにいた。
NPCエルフのLvが6だったから時間がかかるのは仕方ないが、問題は俺を敵のエルフが追ってくるかどうかだな。と思っていたら案の定追いかけてきた。
「敵Zerg!?」「NPCのFOEと交戦中だ!仕掛けるぞ!」とプレイヤーエルフ達は交戦の構えを見せる。
「5対5で分けて戦うしかあるまい。」とバッシーとナイトウィンド、俺とロドリコとジノーは敵対プレイヤーの迎撃に向かった。
こちらは強敵と戦闘中な為にリソースにかなり負荷がかかっている、もし敵がこちらと同格の腕前とLvだとしたら敗北が見えてくる。
すると、そこへ丁度良く味方の後ろから更なる影が加わる。
「オークックック!」「おいエルフがいるでオーク!」「取りあえず脱がそうぜ!」
と粗野な笑い声と共に三人のオークプレイヤーがこちらに加勢してくれる構えを見せた。
「ご助力感謝します!」
「ええで!エルフはPCが6匹か!やったるでオーク!」「あ、敵は5体ですよ。」「おう?」
「わ、フィートスさんが二人いる!?」「え?え?」「両方に攻撃判定があるぞ!」「そいつは偽者だ!」これは恐らくエリーンの発言だろう。エルフのプレイヤーに紛れたエリーンはフィートスと呼ばれたエルフに変装したらしい。音声もマネ出来るというらしいが、技術革新すげえな。
しかし、亜竜やオーガもそうだが、スワンプマンも結構壊れ性能だと思う。
「この偽者野郎!」と本物のフィートスさんは泣きそうな顔でエリーンに斬りかかる、気持ちは分かるぞフィートスさん。
「うわ!襲ってきた!こいつがモンスターだ!」とエリーン迫真の演技にエルフ達は激しく動揺する。
「チャンスだ!敵は動揺している!タンク以外で総攻撃だ!」「「おおー!!」」
魔の軍勢は容赦の無い攻撃をエルフの四名に加え始めた、ターゲットからはずされたフィートスとエリーンはお互いに必死な顔で殴り合いをしているが、心なしかエリーンの方が口元に笑みがあるのでよく見るとどっちがどっちだか分かる。
妹よ、修行が足りぬがそういう方向に育てる気はワシはないぞ。と俺は思いながらエルフ達にポイズンブレスを放った。
「勝ったな。」「ああ…。」
オークの三人の加勢が助かったのもあるが、決定打はエリーンの変装スキルであったと思う。
「妹さん、立派な忍道を歩んでるっすね。」
「なにこれ!変装して騙すのちょーたのしいよ!」
「装備を剥ぐコマンドはないオークか…。」「オークの楽しみが半減したでオーク。」
「俺っちに丸呑みさせてくれよう!」
「ありがとうございました、オークさん方。もしよろしければその腕を見込んでウチのギルド、天魔に加入しませんか?」とギルマスは積極的に勧誘を続ける。
「おう、俺達はオークギルドがメインだが、1枠そっちに加入しても良いオーク!」と新たにメンバーが3人増えた。
「語尾がオークなのはどうしてなんですか?」
「これはギルドルールなんだオーク。なんでも神性不可避なオークの誇りがどうとかギルマスが言ってるでオーク。二つ目の戒律はエルフは見つけ次第襲え。だオーク。」
「変わったギルドですね。」
初のプレイヤー戦では無いものの、今回も勝利を得ることが出来た。しかし、敵の口から出たFOEという単語が気になるし、それよりも重要な案件が今回の戦いで発生した。
「みんな、よく聞いてくれ。」「どうしたー?」「なんだ?」「どしたの?」
「提案、覇王軍の変装ユニットであるドッペルゲンガーの対策の為に符丁を用意しよう。」
新しい世界では新しい戦法が生み出されていく、世界に飲み込まれ負ける前に対策は色々練らないといけない。
・設定
フィートス エリーンに変装されて初見殺しを食らったエルフ。
後に彼は偉大なスワンプマンスレイヤーとして名を馳せたという。
エルフLv2(人間種)
森林魔法Lv1 森林魔法を覚えます。
風魔法 風魔法を覚えます。
妖精 エーテルにボーナスを得ます。
自然崇拝 Lv1 地形効果を大きく受けます。
武装Lv1 装備品の幅が広がります。
変異先
アールヴ→アースルヴ(CC補助特化)
ハイエルフ→ヴァンエルブ(攻撃特化)
備考、ギルド『ユニグロ』のメンバーでもある。仲間の名前はヤーズ、マイルズ、センチメル、サトリというらしい。