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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B001.人外テストの実習生

西暦2037年春、エーテロギア暦第二期960年、狩猟の月16日、ニッチナ村跡地の草原で寝転がる4人。


「そういえばマギラ3のベータ1応募に当選したっすよ。」と唐突にロドリコが自慢げに宣言する。

「俺は落ちたな。」「私もー。」「私もです。」

俺とロドリコとの出会いから約1年、妹達のマギラ2へ参戦から約半年強、俺はマギラ2プレイ開始から2年目と少し。

「おい、それよりも大事な事があるだろ?」と俺は年長者としてこいつらに現実を突きつけてやらなければならない。

「ネットゲームより大事なもんなんてあるっすか?」と素早く答えるロドリコ、こいつは筋金入りのネットゲーマーだな。

「ロド、進級おめでとう。」と俺は真面目に言ったつもりだったが、「ああ、そんなことっすか。先輩も受験生おめでとうっす。」とロドリコは皮肉で返す。

「大学受験か、俺のおつむじゃ良い大学になんか行けないから、身の丈に合った将来を目指すよ。」と俺は正直に現実の厳しさを愚痴る。

「え?お兄さん頭良いじゃないですか。」とジノーはフォローしてくれるが、

「お兄ちゃんは頭の使い方が勉強以外の人だからねえ。」と妹の評価は実に正しいので腹が立つ。

「お前等も高校受験生じゃねえか、他人事じゃないぞ。特に妹君は紅葉と同じ高校へ行けるのか?」

とお馬鹿に育て上げた妹に将来についてここで問い詰めると、「VRMMORPGのプロゲーマーを目指すんだよ!」と夢のある馬鹿アンサーを出す、「そう言って夢の中に沈んでいった仲間が大勢いたって親父が言ってたっす。」とロドリコは無常に呟いた。


「リアルなんていいんすよ、重要なのはマギラ3のベータは一人当選すれば5人までお友達紹介でアカウント作成出来るんすよ?皆さんが落ちても紹介で大丈夫なんすよ。」とこいつはまるでブレ無い。

「良くねえよ。後、落ちても大丈夫って単語は今後禁止な。受験生には落ちる、滑る、よりも悪魔の囁きとなるんだ。」と俺はこのネットゲームの申し子に釘を刺しておく。

「良い学校なんて行かないでも将来は優秀なAIさん達がきっと私達の代わりに働いてくれるよー。」と妹のエリーンが実に他人事の様に口にするが、

「ああ、そういう時代はたぶん親父の世代が絶滅しないと来ないっすよ。所で、マギラ3は感覚HMDが対応してるらしいっすよ。」とロドリコは楽天的と悲哀的な未来から実利の話題へ話を曲げる。

「ああ、ブレインマシンインタフェースか、既に発売されているのはボタン操作が増える程度の奴だな。あれってめっちゃ頭蒸れそうだよな。ユーザーインターフェース次第では欲しいが。」正直に言うとそもそもそれはお高いから買えない。

「重量と空調と長時間プレイの観点でいうと完全密着式と密閉式のHMDはつらいっすね。」とロドリコは親も馬鹿だから性能次第では買いそうだ。

「冷えピタとハッカオイルでカバーするのダメー?」と妹は古典的な冷却方式を提案するが、メカにハッカオイル塗るという発想が出るのが驚きだ。

「プラスチックにそれはちょっとなあ、量産化と人柱を待とうぜ。」と俺は無茶や人柱は避けるように誘導する、冒険は嫌いじゃないし、むしろ大好きだが目に見えた人柱を冒険とは言わない。

「お兄さんは将来、人間工学を学んで快適なHMDを発明して下さいよ。」とジノーが投げやりにキラーパスを送るも、「中学時点での成績は恐らくお前がこの中でトップだぞ、お前が科学者になるんだよ。」とこの秀才少女に未来を託す事が正解だろうと俺は思う。

「私はかつてここに有った村でピュアな物を失った気がします。勉強にまだ打ち込めるか分かりません。」と遠い目と儚げな声で語るジノー、お前のまだ10代中盤で言える事じゃないと思うぞ。

「そういえば『少女村と山賊の戦い』このゲームでの伝説の一つになったっすね。まぁ、マギラ3次第でこのゲームの勢力もまたガラリと変わるっすから、泡沫うたかたの夢って奴だったんすよ。」とロドリコは皆が寝転がる草原の片隅にある焼け落ちた後の建物へ首を向けてから言った。


「お兄ちゃん、この「お頭ぁ!考えても見てください!高いお金出さないでJCをポリス沙汰無しで泣かせられるでやんすよ?最高じゃないっすか。」「お前の趣味は最低だな。」「へへ、フェーダ住民冥利につきまさぁ!」って山賊側の発言の意味がわからないけど、私の国語力不足かな?」と突如エリーンがその最近作られた物語の内容に疑惑を持つが、

「お前はそのままでいいんだ、ロドやジノーとは違う道を歩む事に問題はない。むしろ良い事だ。」と俺は諭し、そのままぐだぐだと4人でどうしようもないチャットを続けた。


一週間後の外部ボイスチャット上。

「ふふふ、この日の為に新学期からは無遅刻無欠席だったんすよ。」

「んじゃ、今日から遅刻欠席の日々にする気だったのかよ。」

「キャラメイク♪キャラメイク♪」

「まずは勢力を選んでください、って出ますね。覇王軍と魔王軍?」

「今作は過去の3勢力から2勢力の戦いになるらしいが、どうせその内に勢力が3つになったり混ぜこぜになったりするさ。」

「MMORPGの歴史は引きずるっすね。最初から決め打ち一本で世界は作れないもんですかね。」

「別のVRMMORPGでは初期開始からフェーダワールドみたいなゲームもあるが、日本では流行ってないな。」

「で、どっちの勢力にすればいいのかな?」「どっちも物騒な名前ですよね。」

「あ、勢力の前に種族レースも見れるっすよ。オークとトロルは魔王軍堕ちっすか。」

「覇王軍にエルフとストライダーを確認、エルフとオークの蜜月は終わりを告げたな。」


「魔王軍は…アラクネ、ネーレイド、ハーピー、ケンタウルス、アーリーマン、デビル、シルフ、スケルトン、ローチャー、亜竜、ゴーレム、トロル、オーク、ゴブリン、オーガ、マミー、リザードマン、マーマン、ローパー、スワンプマン。20種類もいるんすか…しかも人型じゃないのがいるっす。」


「覇王軍は、ノースマン、エルフ、ダークエルフ、ストライダー、コビット、ドワーフ、テクチャル、エンシェントエーテロイド、海の民、竜人、ラットマン、アマゾネス、ウータン、獣人、ドッペルゲンガー、死神、阿修羅、ゴースト、ヴァンパイア、ライカンスロープ。獣人とラットマンとウータンはなんで区別されるんだろうな。しかし、後半は明らかにモンスターだろ。」


「かわいいキャラが多いのはどっちー?」

「魔王軍にもちゃんと女の子キャラが用意されているのはバランス調整でしょうかね。」とジノーは言うが、たぶんそれは大きいお友達用の種族だ。

「アラクネ、ネレイド、ハーピー、デビル、シルフは明らかに萌えキャラっすね。イメージで言うと勝ち馬乗りは覇王軍ですが、今回はベータっすよね。」とロドリコは覇王軍大正義みたいな発言するが、俺からすると覇王軍という語感がイマイチ善良さに欠けるのでピンと来ない。

しかし、「ああ、そうだな、ベータだからこそな。」と俺はロドリコの言いたい事は大体察した。

「つまりどういうことだばよー。」と妹はネットゲーム慣れしていないので分からないだろう。

「Wipe(消える)データなら不人気になりそうな方でプレイして後で後悔しない様にする。」と俺はロドリコが望んでいただろう答えを口にする。

「うっす、賛成っす。日本人はモンスター萌えな人が少ないっすからね。」とロドリコは言うが、実はモンスター萌えな男子はかなり多いのが現代社会の闇だ。

「いや、海外でもマニアックだと思うぞ。」と俺は一応他人事の様に答えておくが、実は悪そうなモンスター系は萌えじゃないにしてもかなり好きだったりする。

「じゃあ、魔王軍から選べば良いのですね。では私はこのシルフで。」

「あー、もみっちゃん!私もそれが良かったー。」と妹とその幼馴染はキャラメイクで早くも衝突。

「同じ種族にすりゃいいだろ。」と俺は口に出すが、同じロールが被ると実は困るかもなぁとは言わないでおく。

「アイデンテテーの問題なのですよ!わかった!スワンプマン(女)、君に決めた!」と妹のアイデンテテーとやらが強くて助かったけど…スワンプマン?

「後ろの方にいる種族程マニアックだと思うんすけど、妹さんなかなかやるっすね…。じゃあ僕はマミー女で。」とロドリコも変なスイッチONになるのを俺は察した。

「お前等色物キャラ選んで敷居を上げるなよ、じゃあ俺はこのローチャー…。」と選んでアバターの調整画面に入ると、「こいつゴキブリだ!」と俺は割りとガチに悲鳴じみた驚きの声を上げてしまった。

「「やめて!」」と異口同音の非難に俺の種族ローチャーという選択肢は無くなった。

「FPS視点なら問題ないがTPS視点だときついなこれ。」と俺はローチャーのアバターをぐりぐり回転させながら呟く。

「半日もゴキブリ人間の背中を眺めて生きるのは人生の間違いっすよ。」とロドリコはごもっともな事を言うがお前に人生について説教はされたくはない。

「仕方ない、この強そうな亜竜を選択する。」と俺は密かにカッコ良さそう!と思っていた本命の種族をしぶしぶという形で選択する事に成功する。

「人型から離れるのはお試しなら有りっすね。」とロドリコは言うが、せっかくの魔王軍プレイならば思いっきり人型とは離れたいと思っていたのだ。

よっし、ランダムメイクでサイズ最大の出るまでランダムを選択してと、表情キャプチャ?なんでそんなものがあるんだ?ドラゴンだぞ?

「あれ?スワンプマン、たまにキャラの形が崩れるよ?」と妹は人型であろうスワンプマンに疑問を持った様だ。

「絶対それ変な種族だよ。」と紅葉も俺と同じ感想を言う。

「んじゃ、キャラメイク完了、スタートポチー。」「「はーい。」」「僕も大体決まったっす。」と各々はキャラメイクを終えゲーム開始を選択した。


一瞬視界が暗くなり、再度光がHMDに広がると、そこは青い空の上であった。

眼下には草原、森林、巨大な湖、山脈が壮大な絵画の様に広がっている。

『気が付いたか、雛竜。これからお前に竜の誇りと狩りの仕方を教える。』という声が隣から聞こえ、そちらに視線を向けると、そこには巨大な蝙蝠の様な翼を持つ飛竜が黒い翼をはためかせ、瞳孔が爬虫類の様な瞳で俺の顔を見つめてくる。


「お兄ちゃん!ここどこ!?見渡す限り沼地と雷ドッカンなんだけど。」

「お兄さん、こっちのスタート地点は綺麗な森ですよ。シルフがいっぱいいます。」

「…ピラミッド?」

「俺は上空スタートだ、種族毎にチュートリアルが違うって手の込み方おかしくないか?」

『雛竜よ、まずは空を支配する事を覚えよ』隣の亜竜の響く声の他に『矢印とマーカーの位置へ移動して下さい。』と副音声でガイドが入る。俺はそれに従いハンドコンソールを操作し移動すると。

「げ、亜竜の操作方法、フライトシムだ。飛行機のゲームと移動方法が同じだよ。」と俺はそこまでやり込んでいないジャンルのゲームになるのかと戸惑いを覚える。

「あ、シルフも空を飛ぶ種族みたいです。こっちも操作が難しいですよ。」とジノーのシルフもフライトシムゲーになっているらしい。

「沼地からいきなり人が出てきたと思ったらあっちまで走れって言われたー。」

「こっちも走れって言われたっすね。陸と空の種族があるみたいですが、水中もあるのかな。」

エリーンとロドリコはキャラが人型に近い為か三次元的な要素は無い様子だ。


『次は獲物の狩り方を教える、陸上に這いつくばる惨めな獣をお前の無慈悲な爪で切り裂くがいい。』

『亜竜の攻撃方法は上空からの強力な爪攻撃がメインとなります。陸上にいるマンモスを倒してみましょう。』とNPCと副音声は指示を出してくるが。え?チュートリアルでマンモー倒すの?亜竜どんだけ初期能力高いんだよ、と疑問に思いながらそれに従う、これで返り討ちにあったら笑う。


俺はマーカーに従って陸上でうろうろしているマンモスへ滑空し攻撃ボタンを加える。ザシュ!という音が生々しく耳に響く。

『攻撃直後に浮上をすれば攻撃力は落ちますが、再度上昇し安全に陸上からの攻撃を回避できます。攻撃力を上げる場合はそのまま浮上せずに攻撃を続けてください。』

『雛竜よ、獲物が逃げるぞ。我等の誇り高い勝鬨かちどき咆哮ほうこうを上げ、哀れな生き物へのトドメとせよ。』

『種族スキルの『咆哮』を使用することで、一部の敵に対し恐怖状態を数秒与えます。』と言われたので俺はスキルスロットに表示が増えたコマンドを選択する。

『グォォォオオオアアア!!』咆哮のスキルを使用すると自分のキャラが禍々しい雄叫びを上げた。

周囲の木々が震え、小鳥や野うさぎが逃げて行くのが見える、よく作りこまれているな。

この咆哮によりマンモスは恐怖状態のアイコンを頭上に表示させる、心なしか震えている様なモーションも出している。

追加攻撃によりザッシュザッシュ!爪の刃で八つ裂きにしたマンモスの巨体に対して自分の爪もまた巨大である、TPS視点にして自分のキャラを確認してみると、足元にあるマンモスの死体と比べ二倍は自キャラがでかい、でかすぎだろ。

…亜竜ってダンジョンとかどうやって入るんだろ。


『雛竜!林から小ざかしいチビ共がお前を撃とうとしているぞ、すぐに上昇し我等の居城へ戻れ。』というNPC亜竜の声の後、バスンバスン!という音と共に画面が一瞬赤くなる。すると上昇キーを押しても空へ戻れなくなった。

『飛行ユニットは羽に敵の強力な攻撃を受けるとしばらく飛行不能状態に陥ります。その場合は再飛行可能まで回復を待つか陸上を移動して敵を撃破してください。』と副音声さんに言われる。

俺はイベントの都合上で飛べなくなったので、ノッシノッシ歩きと林の中にいる人間種だろう射手へ向かって爪撃をその逃げる背中へ加える。

『よし、雛竜よ獲物を『喰らえ』。」と説明亜竜に言われるとスキルスロットに『噛み付く』というスキルが追加されたので、目の前で血を流し横たわる人間種へ容赦なくそのコマンドを使用する。

PvPでこれやるのちょっときついな。と思いながらスキルキーを押すと、自分のキャラは咀嚼そしゃくをせずに敵をそのままペロリと丸呑みにした。こいつら小石とか飲み込んで咀嚼代わりにする鳥タイプの消化方法かな、と以前教養番組で見たどうでもいい知識から考察をする。

『雛竜よ、我等はこの世界で最強の種族!それを努々忘れずに空の覇者として君臨するが良い。』

本当かよ。

『チュートリアルを終わります。では、広大な世界へ旅立ってみましょう。』


「結構大雑把なチュートリアルだったなあ。」

と俺は感想を漏らした後に、まずはワールドマップを開く。どういう理屈か不明だがマップ見れるんだ?マップ表示が前作の様に色あせた紙ではなく、青白いもやっとしたマップ表示なので、これは記憶を参考にしているという演出だろうか。

次にステータスを確認。

『名前:ビータ 種族:亜竜Lv1』え、Lv制?

装備部位、頭、胴、背中、首、指輪、指輪、爪。うーん、この縛りプレイ。


「お兄さん、私もチュートリアルが終わりましたから集合しましょう。」

「こっちも終わったっす、グループinviteしょうたい送るっすね。」

「沼地見飽きたー。」

かくして新たな世界でもこの4人のグループは再結成された、しかし。

「見事に全員の位置マーカーがワールドマップの端っこだな。」

「たぶん、なんか理由があるんすよ。んじゃ、先輩のお迎え待ってますね。」

「いや、エリーンが一番方向音痴だからお前も走るんだよ、マップ北東の沼地らしき場所に集合な。」と俺は集合地点を定めて合流の旅を急ぐ。

「沼地おもしろい所じゃないよ。」とエリーンは言うが、お前がうろつかれたらすごい困るんだよ。

と、人ならざる者となった4人の初旅が始まった。

・設定

スワンプマンとドッペルゲンガー

敵の姿と能力の他に勢力やMPバー等も偽装します。

イメージや役割としてはTeam Fortress2のスパイに近いです。

敵のグループ回復や補助魔法も受け取る事が出来ます。弱点は真面目に意思疎通をすれば看破される所。

味方のフリをして後ろからズブリとやるバックスタブも有るよ!

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