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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
花束を掲げて
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A020.ロールタイムストラジー

「日産、肉30、鉄6000、油10000、飼料30000、石材6000、木材30000、魔石15、宝石50。」最近はジノーの発言が暗号めいてきたが、これでも十分村民には通じる。奴は今日も電卓と睨めっこしている、あれは将来何かの役に立つ経験だとは思うが楽しいゲームプレイには見えない。


「大縄跳び回した方がマシっす。先輩、冒険しましょう。ファームだけど。」とロドリコも最近は村にべったりとは居なくなり、俺をレイドクエストや戦争へ引き回そうとする。


エリーンは相変わらず可愛い村づくりと野菜畑を作ろうと努力している様だが賛同者がきまぐれに発生する程度なのでほぼソロ活動で村の飾り付け等を工夫している。何気にこれも労働の類に見える。


「ゲームで労働するくらいならバイトした方が良いと思わないかね。」と俺は相棒に話しかけるも、「中学生の労働ごっことしてなら適正じゃないっすかね。」と、こいつはあの二人の活動に肯定的だ。

「でも、お前ならああいうプレイはしないだろ?」「ありゃーやりたくないっすね。世の中には自由気ままを良しとしない人種が結構いるのが分かるっす。」


乱開発により残り面積の少なくなった村の草地で寝転がりながら青空とロドリコ相手に雑談をしていると、そのタイミングで俺にメールが届いた。「ギルマスからメールだ。」「そんなもの即ゴミ箱にシュートっすよ。」「題名、赤紙。どういうこった?」「ヒマワリの種油でも一気飲みします?」


ざっくりした内容は、表世界ウォーデルタと裏世界フェーダワールドの副都がニッチナ村に人数を取られて防衛が厳しくなってきた、それによりフェーダ副都マラーナにニッチナ村から無人兵器を大量に援軍として送るか、ウォーデルタの防衛戦に出て欲しいなーという文面である。

政治家は大変だな、と思いながら俺は新しい素材で作られた愛刀『オオスズメ』を軽く振って村から旅立った。

「あれ?行くんすか先輩、じゃあ殺しに行きますね。」と物騒な事を隣の相棒は口にして消えていった。


*

「お兄ちゃんがいなくなったー!」とマロンちゃんが錯乱しているけど、正直私も頭が痛くなってきました。村の規模がもう既に村じゃありません。人口は確かに30人弱ですが、ネットゲームで30人が製造業に従事するとゲームの都合上とはいえ、一人頭で現実の20倍以上の労働効率を出してしまうので実質600人弱の生産出力が出ている事になります。

そりゃー中世ファンタジー世界より科学の発達した現在の生産力の方が優れている可能性はありますが、現状での様々な物資在庫管理をするのは遊びの領域か分からなくなります。


ギルドからも物資の提供を求められています。ゴリシマ連合に支払う分の税金を考えると、これって二重課税って奴なんじゃないかと思います。どちらも踏み倒した場合はどうなるかは少し興味がありますが、ここまで村営に苦労するならそれが原因で村が燃えても良いかなあという黒い気持ちが少しあります。


とはいえ、未だに村作りやハウジングを楽しむ人がいるのも確かです。その人達の期待と努力をここで裏切ってしまうのは不義理ですから、皆が飽きるまで頑張るしかないですね。でも、皆は本当に村作り楽しんでるのかなあ、不安だな。お兄さんは最初からこうなる事がわかっていたんでしょうね。

ああ!私だって可愛い内装の家をじっくり作りたいのに。

おっと、そろそろ愛ちゃんが来る頃かな。あっちからの貿易頻度が多いから、よほどあっちは大変みたいですね。吹っかけて見るのも手なのかなあ。


翌日

*

「お頭、あそこですぜ。」「あれが『いんぺりある苦労する』と永久凍土の補給基地か。」お頭と呼ばれたストライダーの男は顎に手を当てて考える、ゴリラ防衛網を引き付ける為の36人の歩兵隊と、別に永久凍土の副都への攻撃隊。そして、この補給基地を破壊する為の工兵部隊が48人。フェーダの戦力としては上々だが、更にギルド『いんぺりある苦労する』からの攻撃に耐える兵力も本国へ残さなければならない。


暗黒世界フェーダワールドに堕ちた人々が集うギルド『全てはFになれよ』の総兵力は300人前後、コアタイムならば動員数230人。やり方次第では皇帝城も落とせるはずの勢力なのだが、うまく事が進まず、我々が東方の辺境に追いやられているのは味方のモラルの問題か、他ギルドとの外交力の差か。


「ハハッ!お頭ぁ!天下統一なんてしちまったら燃やす村が無くなってしまいまさあ!」とメンバーはよく口にするが、主な原因はここなのだろう。意識改革が必要なのだろうか?

顎撫でながら考え「工兵隊、前へ。」と、お頭は山賊気質のメンバーから選抜した数少ないストイックな兵士達へ号令を下した。


*

「敵襲!位置は南!」「やっぱり南から来やがったか!」「オイル、バリスタ用意。」「敵の数、3レイド強。」「わわ!なんで平和な村が襲われちゃうの!?」警鐘が鳴り響きデストロイヤーエーテロイドと番犬達が村中を走り抜け警戒モードに入る。村民も駆け回り防衛兵器の準備に周り、射撃が得意な人には敵兵器運用者の狙撃をメインに行ってもらう。


ジノーは薄く優美な線を持つ下唇を嚙んだ、お兄さんの想定より少し遅かったが、敵は来た。

この日の為にお兄さんは色々と教えてくれた、現実世界で平和に暮らしていればまったく無意味だと言える知識の数々。人が人を襲う理由、政治的な衝突事故、襲撃タイミングと数の確保、防戦講座、講和の仕方、中立の維持。村とはいえ、長になるという事はこれらも考えなければならない。


古来、悪代官に虐げられる村にも知恵はあり、山賊を払う村にはその力がある。両方を備えない村は貧困と不幸に苛まれる。

例え世界に魔法と科学が溢れても、夢や善意で満ちない限り争いは生まれる。


「て、徹底抗戦です!打って出る戦力は無いのでゴリシマと永久凍土の援軍を待ちます。」

焦るな私、立地的には完全に優位だとお兄さんに言われている。この村が落ちるとしたらゴリシマからの攻撃以外に無いと太鼓判は押されてるんだから。


*

「「にょっきり大臣と!カラシニコブのー。ウォーデルタ動画はいしーん!」」<パーフーパーフー>

「なんか仕事終わって帰ったら表と裏でウチが4正面攻撃受けてるんじゃが?」

「知りませんよ、ギルメンに聞いたらどうです?」

「表はインペとシマムラァの連合攻撃か、珍しいな。お前さんも勝ち馬乗りか?」

「いいえー、私はほら、今丁度、果たし状のペアがまた見詰め合ってるじゃないですか?所で両者とも武器を新調しましたね。あれがエルチウム合金の武器ですか?」

「ああ、あいつらの剣はワシが作ったよ、B太の得物は『オオスズメ』。コラーダの得物は『レコンキスタ』と銘を希望していたな。」

再征服レコンキスタ!はぁ、彼を再征服するという意味ですね。これまた大胆な決意表明ですねえ。」

「え?そういう意味かよ、あいつも趣味が悪いな。」


今日も周りの敵や味方が余計な気を使わせて円陣を組み、囃し声や口笛を撒き散らす。

「やっぱり私はこれが一番好きです。」とコラーダは大振りな曲刀を構えて俺と対峙する。

「お前のダンスレッスンは寿命が縮むんだよ。俺を早死にさせたいのか?」と俺は言いながら新しい得物の野太刀を上段に構える。

「責任、取りますよ?」「いや、結構だ。」と二人は感動の再会の様にお互いに突進し、銀ギラと白刃を閃かせ合う。


「始まりましたねぇ。」「ああ。」「日に日に人間離れした動きになってますよね、あの二人。」「若いって事はそういうことだ、大人の視点から見れば子供は人間から離れているってもんだ。」


「ピータンパーズはフェーダに参戦してないのですが、情報だけは手に入りましたよ?」

「ああ、こっちも事情は聞けた、色々と援軍要請が出てるが。実に嫌な状況だな。」

裏世界フェーダワールドでは永久凍土と握手をして表世界では攻めに転じる王様と女王様のコンビ。フェーダでは山賊が補給基地を破壊出来ればゴリシマと永久凍土の安全保障問題に波紋。山賊が負ければフェーダでインペが山賊へ攻勢を開始。」

「一石投じて波を読み二羽を得るか。ネトゲ廃人には惜しい人材だよ王様は。」


*

「援軍の無い拠点防衛はいずれ落ちる。補給の概念が薄いこのゲームではなおさらだ。」お兄さんの言葉が頭の中でリフレインする。戦うのはいいんです、なぜ人は戦うの?なんて言いません。ただ、この終わりの見え無いディフェンスが本当につらいんです。


ゴリシマ連合の動きはいつもより鈍くゾーンチャットで援護要請をしてもむしろ周囲の山賊が物見がてらに加わり侵略者が増える。

永久凍土からの援軍は表世界の事情ですぐに来られないと言われた。

南側の防壁が削られていき要塞が剥き出しになる、その後ろにある家をやむ無く潰して新しく防壁を築き上げる。これはエリーンちゃんに頼んでいる。いつも能天気で明るい彼女も今が危ない時期だとは分かってくれている。ただ、あの子は戦なんて出来る子じゃないから、こうやって防衛施設の増築や修理に回ってもらっている。

ヒュンヒュンと敵の矢や魔法が光の放物線をえがきながら私の横を通り抜けていく、石材の防壁が崩れ第一の備えが無くなる、その事に残念という気持ちより安堵を覚える。私はこの村が焦土になる事を本当に望んでいるのだろうか。


*

「おい、報告よりも硬いぞ。」「へぇ、発見初日辺りは明らかにNoobの集落だったんですがねえ。」「永久凍土のてこ入れが極端なだけか。」「ちげぇねえです。あそこはホントに極端ですからねえ。」「兵器の数は足りているな?」「勿論ですお頭ぁ!ノヴォハンやデイハンすら攻略出来る分を持ってきてやす!」

しかし、本当に硬いな。素直に別動隊と共にの永久凍土副都に全力攻撃するべきだったか?だが、インペが資材の輸入を出来る様になる状況はまずい。いっそ素直にインペと手を組んで2ギルドで裏世界を二分統治した方が早いんじゃないのか?とお頭は考えながらながら「お頭!東より敵部隊出現でさあ!」という緊急な報告を受けて一つの思案に辿り着いた。


*

「え?山賊から講和の使者ですか?」正直このパターンは読めませんでした。先ほど敵の攻勢が弱まった時に、矢文がこちら側へ撃ち込まれたと言うのだ。

「わざわざボイスチャットではなく矢文って所は山賊もやっぱロールプレイヤーなんだな。」とタージリンさんが笑いながら矢文を渡しに来た。

「内容は、この村と『いんぺりある苦労する』との貿易取り止め要請と、油と飼料の在庫をあるだけ渡せば撤退をする。今後は我々を貿易相手とするならこの村には攻撃をしない。だそうです。」

「うむ、山賊なら約束を反故ほごする可能性が高いから信用は出来ないな。ただし、分の悪い賭けでもあるが、後ろ盾が用意出来れば乗っても良さそうだ。ただ、政治的に分断作戦でもあるがな。」

「どう分断されるんですか?」

「この村には攻撃をしないと書いてはいるが、他の施設に攻撃はしないと書いてはいない。山賊ギルドと接地しているのはインペと我等のギルドだからな。村を取るかギルドを取るかの選択がある。」

「ここに来て講和をするメリットはなんでしょう?」

「そりゃー、敵さんの敵が来るか来たかだろう、あいつらの攻勢が弱まったろう?つまりなんか来たんだ。」

「ゴリシマや永久凍土なら連絡をくれますよね?」「そうだ、つまり別の勢力が助力に来たんだろ。」

ウェイトレスさん姿のままのSIVAさんがチャットで「伝令、東よりエーテロイドの軍団を発見、旗印はインペだな。」と伝える。私とタージリンさんは顔を見合わせて首を傾げた。


*

「なんだ、やっぱり壮大な自作自演じゃねえか。」

「その風聞を流してスキャンダルにします?インペの権威ガタ落ちですが。」

「馬鹿馬鹿しい、さっさと全方位講和だ、何が面白くて世界大戦なんてしなきゃいけねえんだ。」

「そうなれば困るのは人口の少ない南方と東方ですからね、ゲームとしては盛り上がりますが?」

「それは一時の盛り上がりだ、その後ゲームバランスが崩れたらマギラ2はマジで終わるぞ。」

「仕方ありません、王様には私が諫言かんげんしておきましょう。」

「ワシは南の女王様をなんとかしておこう、天下統一を目指すゲームは統一されればゲームオーバーだからな。」


*

「えと、徹底的に山賊を叩きます。」と村長の発言に周囲は驚いた後に「お嬢ちゃん、やるじゃないか。」と称えあった。

「戦闘職の方は皆打って出てください、番犬、キメラ、エーテロイドも全て出撃させます。」これは完全な逆張りである。

村の東門より打って出た村民の戦士と番兵達は別の方角から来た敵の敵とは距離を置きつつ山賊達に突撃を仕掛ける、なぜ兵力の負けている寡兵かへいで突撃をするか。それは、このギルドには突撃以外の策が似合わないからだ。敵の篭絡ろうらくに惑わされる必要も無い。ただ一心突撃。


山賊は包囲戦とゲリラ戦は上手いが野戦には弱い。更に村からの突撃をフォローするようにいんぺりある苦労するの軍団も敵を挟むように南側へ、そして南西へスライドし完全な包囲殲滅網を組み上げる。


「お頭ぁ!もう持たねえでさあ!」「ちっ、野郎共!引き上げるぞ。」「畜生!覚えてやがれ!このNoob村ぁ!」と山賊達は喚きながら蜘蛛の子散らす様に消えていった。

ジノーは援軍を指揮していたダークエルフ、ナイトウィンドに対し「恩を着せるつもりだったのでしょうけど、ギミックが少し陳腐じゃありませんか?」と憎まれ口を叩くも。「善意と悪意で我がギルドは一枚岩では無い。巻き込んだ事には容赦して欲しいが、遅かれこうなることは分かっていただろ?」と涼しげに返される。


村を守りきれてしまった、それによりまた一人。ネットゲーの溝にハマる人間が生まれた。


一方その頃、

「ほぉら先輩!三段フェイントですよぉ!」「なんの距離を取るさ!勝手に踊ってろ!」「はは!この縮地バックステップとチャージスキルの連打を回避できますか!?」「リソースの差で凌げばいいんだよ!」と既にネットゲーへドハマリしている二人は今日も舞踏会を繰り広げていた。

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