A019.冒険者が生まれる理由
すらむがいを撤去し終えた俺達は村の強化活動へ戻る、防壁の上に敵を感知すると自動敵に矢を放つタレットやキメラ、番犬やエーテロイドの増量が急がれるも、維持費用を考えるとそこまで増産は出来ない。
村の東門も鉄製に変わった、更に門の上には破城槌攻撃を感知した時に自動的に熱油を上からダバーっと流してくれるゲーム中最悪の防衛兵器とも言われるオートフライヤーという物も配置。
「一日魔石15、肉12、鉄550、油200、飼料800の維持コストか。」と、俺はアドオンの電卓を叩きながらざっくりした計算結果を町の中心に新しく置いた掲示板へ書き込む。
町の中心には警鐘とコアの他に井戸と掲示板を設け、掲示板にはその日の襲撃人数と必要資材等が書き込まれる事になった。
井戸の作成が遅れ気味だったと言えるが、ここはゲームなので兵糧攻めが無い事を考慮すると生産に必要な分の水の確保だけで良い、「産業地区と町の中心にあれば良いんじゃないかな。」という意見で過半数を占めたために井戸は維持費が無いとしても二つだけ作った。
未だに酔っ払いロールプレイをしながらフラフラ歩くギルメンのがりるんが井戸の中に向かって「ギャルのパンティー!」と叫んでいるが、井戸の中にゲロをしないか落っこちないか不安だ。
掲示板の数値をロドリコと並んで見ながら呟きあう。「泥沼だな。」「維持コストが既にコアタイム丸々一人工っすよ先輩。」「俺ならソロで魔石15確保は無理だな。」「飼料800もきついっすね。」と二人で途方に暮れる、すると次にやる事は一つだ。
「エリーン、ジノー。君達には次に村の維持方法を教えます。」「遊びは終わりだっす。」という俺達の発言に対し少女二人は身構える。
「え?遊びじゃないの?村作り?」「維持費は掲示板で見ましたが、イマイチ実感が湧かないんです。」とこれまた他人事なご意見だが、ここはこいつらの為の村である。
「村の防衛、農場の管理、工房での生産、貿易、納税、村ではやる事がいっぱいあるんだ。」
「よくファンタジー物で若者が冒険者になるのもこういうのが嫌で村を出て行くのが動機っすね。」
「それは古いタイプだな、選ばれた血筋とか村が滅んだから、という動機のが割りと最近じゃないか?」「それも古いっすよ。親父時代の流行っす。異世界から来て冒険者も古いっす。」
「つまり、どういうことだってば?」
「村仕事、全部覚える。分業や専業はあてにしない。言いだしっぺが最後まで面倒を見る。」
「私は素敵なお家が作れればそれで満足だったんですけど。」とジノーが逃げに回る、これはエリーンを売るフラグか、これには後でトドメを刺しておこう。
それを身長は低いが高みの見物を決め込んでいたロドリコには他人事である、奴はそしらぬ顔をしながら設計図のカタログを眺めて「あ、この置物いいっすね。」と草地で寝転がりながら呟く。
こいつはアテにしてはいけない部類の人間だが、そうなると他のメンバーも最終的にはアテに出来ない。
そして、村長や副村長が逃げ出したり維持が回らなくなった村はあっさりと滅ぶ、それは仲良しグループがノリで作ったギルドの崩壊に近いものを感じる。
人間の集合組織にはある程度の責務が無いと成立しない。そして、トップは賢いかマメでなければ組織は成り立たない。とギルマスが以前呟いていたが、あの人はマメだが賢い馬鹿であるからどうもなあ。
エリーンとジノーに産業地区の工房で魔石や布や鉄、火薬の製造方法を教え。次にタージリンさんの農場へ赴き、農業のルールについて学ぶ。
なんと、このゲームには連作による土地の痩せ肥えのシステムがあると言うのだ、確かにスラム街の荒地を花畑にする時は満開にならなかったが、そこまで手の込んだシステムがあったのは俺も知らなかった。
最後には耐久力の減った建造物の修理方法と納税の方法。納税については、こちらからゴリラシマムラァ連合首都のローラントへ遠出しなくても、ここからすぐ東隣にある対永久凍土への監視村へ鉄の物納で良いらしい。距離も遠くないのでそれなら山賊に恐れる心配もなくありがたい。
「お兄ちゃん村長、これ忙しすぎ!」「あ、村長だけど、今からジノーが村長な、」「え!?ナンデ!?」とジノーを藪から棒に縫い止める作戦に出る。
「いや、うら若く賢い女村長の方が受けが良いからな。それに俺はギルドでは兵士枠だ。ウォーデルタやフェーダの副都市防衛に回らないといけない。それに考えても見ろ、俺達がここ三日、コアタイムをフル以上に村に張り付きっぱなしだ。」
「いいか、女子が夜更かししてまでネットゲーをするとああいう風になるんだぞ?」と俺はロドリコを指差しこの二人の未来の一つを提示する。
「言われればコラーダさんの眼の下っていつもくまっぽいですよね。」「ロドリコちゃんの場合だと分からないけど、今もほら、眠そうだね。」
「よし、仕事を覚えたらさっさと寝ろ。」と俺は手をパンと叩き二人を急かしに行く。しかし、この村長プレイはすぐに日常を侵食し始めた。
翌日の夕飯時。
「マロンと紅葉ちゃんがね、学校で居眠りして先生に怒られたんだって。」と母から衝撃の発言が出た。
俺は母の発言にグッっと米を喉に詰まらせる、噴飯しなかったのはよく堪えた俺。
「やだもー、ちょっと船を漕いだだけだよー。」と妹は手を横に振って笑顔で誤魔化す。
間違いなくその船は泥舟だ、これはいかんな。妹が落ちる所まで落ちるのは問題ないが、その原因が俺とゲームだとバレるのはまずい。ネットゲームは人生で一番の生き甲斐だからな!
「午後11時前には寝ろ、宿題があるならそれをゲームより優先しなさい。」と俺はゲーム中で説教をするというこじれた状況に陥った。案の定、ブーイングが響くが、それが三人分なのは気に入らない。
三人目のブーイング元へ「ロド、お前進級出来んの?」と俺は核心を突くと「ひぅ!@2遅刻を維持です。」と一学期と同じ末路を辿っている。
「義務教育の頃は数ヶ月休んでもテストで良い点取って教師に媚びてればなんとかなったんすけどね。」と妹達の教育に悪い発言をする。こいつが大人になったら型にはまるのを極端に嫌がるギルマスみたいな人間に育つんだろうな。と感想は抱いても口には出さない、怒るだろうから。
「お兄ちゃん、そんな事より村だよ!」と妹は俺の説教を数秒で否定する。
「村の維持は二人で協力して4時間あれば足りる。後は好きにしていいが、宿題と寝る時間は守る事。寝る前にゲームすると睡眠にすぐ入れないから。そうだな、午後10時前にはログアウトはするように。」
「でも、お兄さんは結構夜更かししてますよね。」「俺は睡眠が短時間で良いらしいんだ、俺の持ってる数少ない特技だな。それに、俺だってこんな説教なんてしたくない。」
「お兄ちゃん、なんか村に変わった施設が出来てるよ!」と妹はブレない、こいつの行動基準はまさに本能である。
やれやれと思いながら、その変わった施設とやらに一同で向かうと、そこにあったのは『食堂』であった。歴史オタクの幼馴染曰く「外食の発明はかの太公望の時代くらいまで遡る。逆に言えばここ数千年前までは存在しなかった歴史的には新しめなサービスだな。」という言葉が思い浮かんだが、人口規模30人未満の村で食堂は必要なのだろうかと思う。これもまたロールプレイだろうなあ。
暖簾をくぐると「ヘイラッシャイ!」と獣人店主の威勢の良い声が響く、内装はファンタジー酒場だな。いつかオフ会で行った酒屋に近い物を感じるがテーブルの上に置かれたメニューは実に貧弱である。そりゃ、この村では大麦とコーンとヒマワリくらいしか作物が無い。更にステータスUP効果のある食事は表世界から大量に持ち込んでいるので切れる心配はまずない。
「ナ二ニシマスカー?」と女エルフモードSIVAさんがウェイトレスさんスタイルで注文票を持ちながら歩いてくるが、お前は地雷とタレットを量産するんじゃなかったのか。
「たぶん、維持費でもう回らなくなるよ?予備のタレットは倉庫にしまったから壊れたら交換してね。」とこちらの心を読んでくる。でも、たぶん飽きたんだと思う。
『メニュー』エール、ヒマワリの種、ポップコーン、麦飯、焼き鳥、牡丹鍋、紅葉鍋、ヘンプスープ。
「野菜がないっすね。」「野菜なんてフレーバーです、女方にはそれがわからんのです。」「いや、お野菜は大事ですよ。」
俺はメニューから視線をそらし、部屋の隅っこを目をやると、奥の席で元スラム街の住民がやっぱりカードゲームをしている。あのスタイル本当に好きなんだろうな。
「それじゃー、このヘンプスープってのとエールと焼き鳥でお願いしまーす!」とエリーンが注文する。
「おい、ヘンプってなんだ?」「ぐぐったら麻の実らしいっす。」「この村の次の目標は決まりですね、野菜畑ですよ。」「そんな余裕はない。」と言い合っていたら素早く卓上に料理が並ぶ。
さて、エールが麦酒だと知っていて頼んだのだろうか妹よ。
「ゲームの料理って何時味わえる時代になるんだろうね。」とよく出来たテクスチャの料理をツンツンと突きながらエリーンは尋ねてくる。
「僕等がお婆ちゃんになった頃っすよきっと。未来には夢があるけど、遠い道のりだと思うっす。」
「その昔、古代のギリシアでは贅沢な食事をしては吐き、また食事をするのがブームだったとエンが言ってたが、科学が進歩してもやる事は似たような事になるんだろうな。」
「お兄さん、食事中に言う話じゃないですよ。」「そう考えると古代ギリシア人は肝が太いな。」と料理を囲んで雑談をしていると。
暖簾をくぐってきたトロルの大男、タージリンさんが「ビータ君、キャラバンが来たよ。城門外に待たせている。」とわざわざ報告しにきてくれた。村専用のチャットチャンネル作らないといけないなあ。
後、この村は城じゃないですから。
東門の少し離れた位置、アロータレットの射程外にその一行は居たが、名前の表示を見ると真っ赤である。敵対ギルドか山賊所属の人です、こんな辺鄙な所までよく来たものだ。
「あれ?愛ちゃんとナイトウィンドさんじゃないですか。」とジノーとエリーンは無用心にその一行へ駆け寄る。まぁ、倒されても復帰地点近いからいいけど、俺はその後に続いた。
「ごきげんよう、果たし状村長。今日はギルド『いんぺりある苦労する』から貿易打診の為の使者として着ました。」とデビルの少女は少しはにかんで小首を傾げた。こいつもあざとい系女子だよな。
「村長はもうこのジノーに任せたんだ。しかし、他国にもこの村の情報が回ってるのは驚いたよ。」
「ゴリラや山賊共が新しい玩具を見つけた、スパイからその情報を得た…。」と黒衣を纏ったダークエルフは呟いた。
「となると、この村にはそちらが欲しがる資源があるという事だな。」
「はい!東方は山賊と我がギルドが全面戦争を日々勃発させている地域です。するとキメラ維持の為の飼料とフライヤーの油が足りなくなります。畑は防壁内に作ると規模が狭いですし、防壁外に作るとすぐに焼き討ちされてしまいます。」
「まるで戦国時代だな。」「よく作りこまれたゲームは現実に近くなりクソゲーになる。それを楽しめる者もいるがな…。」
「えと、ナイトさんの言う通り、東方は現状酷い事になっています。資源のバランスが崩れているので、貴方達の村から飼料と油の輸入、こちらからは魔石の提供はいかがでしょうか?」
「出来れば岩も欲しいな。レートは俺が商談するが、GOサインを出すのは村長か副村長だ。どうする?」
「愛ちゃんが困っているなら私は協力したいよ!」と副村長が即承諾。
こいつら、副村長がエリーンだって事を知っていて面識のあるデビル娘を送ったんだろうなと思う、あのギルドのマスターである王様はマメだからな。
「商談成立だな…。愛微笑、握手でもしておけ…。」と言われ愛微笑はエリーンと握手をする。
「今日は魔石50個をお持ちしましたが、石材は以後お持ちします。村にある在庫の飼料と油はいくつですか?」
「油1700、飼料3000くらいが備蓄だな、魔石にすると28個でどうだ?」
「分かりました、今回はそれで勉強させて頂きます。」「次回はもう少し値引いてくれ…。」と二人はトレードを済ませもう一度握手をした後に、遠巻きに隠れていた隠密部隊と共に南東へ走り去った。
山賊からの防衛はまだマシだ。問題は貿易が始まると政治的な話が絡む。貿易は村を大きく富ませるが、拡張主義を目的としなかった村がこの方向に流れると牧歌は遠く聞こえる事となる。
魔石が生産量を超えて輸入となると、それをエネルギー源とする優秀な兵器を余剰に確保できる、奪われる側から奪う側に回れる村になったのだ。そうなると輸出品の為に農場を拡張し、大農園になる。
野菜畑なんて作ってる余裕はない。
「後に引けなくなったぞ。」と、俺は腕を組みながらマイハウス兼監視塔の展望台から肥大化した村を見下ろして隣に立つ相棒へ呟くが「オラこんな村出て冒険者になるっす!」と獣人の相棒は脱村計画を企てた。
「お前後二回遅刻したら留年な。」
バイトとネットゲーに明け暮れる筆者が学生時代に教師からリアルに言われたセリフである。
通常単位がこれであるなら学科単位はどうやって維持した?とよく友人に言われたが、苦手な科目の教師のお手伝いをしたり学校行事のボランティアを率先してこなすことで評価1や2から逃げ回っていた。
この頃の睡眠時間は平均4時間であり、毎日リゲインを飲んでいたが今なら考えられない生活だ。
現在では立派なロングスリーパーになってしまったが、これは病気らしい。




