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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
花束を掲げて
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A018.シムシティ式地上げ

コアタイムが終わりかける夜0時、町の中心にて暫定長会議が始まった。

村長になってしまった俺はそれらしいメンバーを集めて今夜の成果と対策をしなければならない。

「まずは産業担当、ロドリコ君。」

「うっす、製鉄施設までは完成したっすけど資材は木炭と硫黄と宝石以外は枯渇したっす。今から集めると泥沼の夜更かしになるっすよ。」うむむ、と周囲から唸り声が響く。ここでひとつ区切りを付けなければ学業や仕事のある人間は現実でえらい目に合うので今日これ以上の資材確保は難しい。


「次、防衛担当、SIVAさん。」呼ばれたSIVAさんは美人さんのエルフなのに大きなあくびをし美人台無し。

「ぐあーねみぃ、時間が無かったから地雷作成を切り上げて石壁作成に集中した、南側の要塞も完成してないから村の壁はほぼ完成だが防御力はイマイチ、火薬は倉庫に貯蔵、明日頑張ろうぜ。」と手をヒラヒラさせながら寝転がるモーションを取った後に「寝落ちしそー!おやすみー。」と発言をしてからログアウトしていった。


「次は農場管理のタージリンさん。」

「とりあえずは綿畑と大麦畑の拡大が完了だな、資材として優秀なコーンと麻は次回に見送るぞ。産業担当殿には次回に繊維工房を作って頂こうか。」と麦藁帽子をかぶったトロルの大男は笑顔で答えた。

「どの道、風車と機織り機は必要になるっすね。大規模な村になるなら川の近くのが良かったかもっす。」

とロドリコは割りと効率厨らしい発言をするが、こいつは間違いなく効率厨である。


「つぎー、副村長。」と俺は投げやりに発言を求める。この村のマイナスコストは間違いなくこいつだが、文化とか愛着みたいなものを考慮すると集客力としての効果はあるんだろうか。

「はーい、一番かわいくなかった工房をお花だらけにしましたー。お花を外から取ってくるのは時間がかかるのでお花畑が欲しいでーす。」と発言、お花畑はお前の頭の中だぞ。という突っ込みは堪えて、農場担当のタージリンさんの顔を伺う。


「花か、目下ヒマワリと紅花の畑なら良いと思うぞ。油が今後大量に必要になるからな。黒猫のお嬢さんがそれで納得してくれるなら、次回の畑は分散配置だな。」

エリーンは「大変けっこー!」と胸を張ってその返事に納得をした様だ。


「次、区画長。ジノー君。」この人選は本気で村を作るなら間違いだが、頭の良いジノーに経験を積ませるならば有りだと思い任命した。

「はい村長、丘の上にある4軒を基準に周囲斜面に木造民家を12軒建築されました。産業地区が拡大している為に村の西側に家を建てるのはもう無理なので、まだ完成していない北か南の外壁をもう一段広げないと一人一軒の土地確保は難しいと思います。」とジノーは真面目な事をおっしゃっている。


その発言を聞いた周囲のギルメンは顔を見合わせ「おい、家持つ気あったか?」「いや、俺は今まで軍事施設しか作ったことないぞ。」「家は軽いトラウマなんだよな。」と言い合ったが、やはり大体の人は家を持つ気がなく、ただ秘密基地を作ることに熱中していた様子だ。家より秘密基地、その気持ちはよく分かる。


「出来れば皆さんには一人一軒、もしくは共同で生活する様な家を持って欲しいと私は思います。その為の用地確保は必ず必要です。」とジノーは珍しく熱弁しているが、これは打算的な発言である。

要するにジノーは一時の流行で村に集まったギルメン達を固定したいのだ。

今ここに集まっているギルメンの半数以上は一日のごっこ遊びであり、確定した村民ではない。


俺は村を作るという事とそれの弱点をよく知っている、ジノーも連日の山賊襲撃と木造建築のモロさにこのゲームのハウジングの弱点に薄々気づいたと思う。村長にするならこいつなんだけどな、と俺は目を瞑りながら話を聞く。


「お兄ちゃん、寝ないのー。」とエリーンが声を掛けてくるが、この時間に座椅子でゲームは本当に眠くなる。眠る前の最低限、村長としての仕事はしないといけないか。


「今日の大きな行動はここまでとして、皆さんもう眠りましょう。現実へ食い込むと村作りは泥沼ですから。明日もまた頑張りましょう。お疲れ様でした。」と俺は手を叩き解散宣言をする。

有志の一部が深夜まで残ると言ってくれるが無理はしないで欲しい。

ロドリコが「後もう1ターンだけ…。」と言いながら産業地区に走っていくが。「もう寝ないと留年するぞ。」と釘を刺しておく。


なんだかんだあって眠る事が出来たのは午前1時を回った頃だった、これはまずいパターンだ。


次の日の帰宅後、僕らが眠っていても世界は動いているのだと教えてくれる状況になった。

「お兄ちゃん!村が被害受けてる!」と妹が俺の部屋に押しかけて来る、という所にドアに付けた新しい鍵が作用して、ゴン!という音で妹が俺の部屋のドアに頭を強く打ち付けたのがよくわかる。あいつ、これ以上頭悪くなったらどうしよう。

「ゲームでやれ!」と俺はドア越しにヒンヒンと泣く妹に伝えHMDを装着する。


「ロド、状況説明。」「先輩おかえりなさいっす。」と俺よりログインの早いロドリコは状況を説明する。

「東門がラムで突破されたみたいです。畑は無事っすね、焼くの面倒くさいっすから。後は東側にあった家屋の2軒が放火済みで周囲の家屋の被害はなしっす。キメラは6体全滅でエーテロイドが損傷して犬は無事っす。その他建造物に異常なしっす。」その報告に俺はふむ、と顎に手を当て考える。


「ラムは運用必要人数が4人以上だから賊は4人以上、キメラ以外が生き残っているという事はやっぱり4人くらいだな。」「うっす、コアタイム外でレイド山賊なんてまずないっすから4山賊が基本単位になるっすね。」うーん、と俺は悩みながら集まってくる人々を見て考える。


「今日は警備力を上げようと思います。設備の強化はなしで生産重視でお願いします。」と集まるギルメン達へお願いする。

「「ほいさー」」とギルメン達は快く承諾してくれるが、今日は方針を少し丸投げ方向にする。

「SIVAさん。」「ふっふっふ、何用かね。」「地雷作成を今日は諦めてアロータレットの生産をお願いできますか?」と頼むと、「おーい!ヤイ公、ルナ公ー、鉄と魔石集め手伝えー。」と自発的にチームを作り協力姿勢を見せてくれる。


「あれ、ところでSIVAさん、がりるんさんは?」と結構よく見かけるペアの片割れが今日は見かけない。

「ああ、あいつ『等』なら。」とSIVAさんが説明してくれそうな時に、

「お兄ちゃん!左下に変なのできてる!」とエリーンが東門から走りながら叫んでいる。

エリーンは東門から入ってきて左下と叫ぶ、防壁の南西か?と思いながら俺はその産業地区と要塞予定地の南西に当たる防壁の外へ来ると、確かにそこには変なのがあった。


周囲は荒れ果てた土地、ボロボロの平屋の群れ、入り口には木製のアーチがかかり『すらむがい』とひらがなで書かれ、汚い通路の上に座敷を引いた半裸で変な兜をかぶった男が「右や左の旦那さま~」と物乞いロールプレイをし、路地裏に立つビキニアーマーでこれまたバシネットヘルムを装着したエルフだろう女性が「あら、お兄さんいい男ねー。あたいと遊んでいかない?」といいながら娼婦ロールプレイかと思ったら決闘を挑んで来たので却下。


少し大きめな平屋の西部劇で出てくる様なスイングドアの中からはスキットルを持ったがりるんが『*ヒック*』と文字チャットを表示させながら「部長がなんじゃらべらんめえ!」と言いながらフラフラと出てくる。時折、通路には西部劇に出てくる様なコロコロ転がる草が通過していく。


がりるんが出てきたスイングドアの上には『ばー』と書かれている。

俺とエリーンは意を決してそのドアを潜ると、中はこれまた汚いテーブルと瓶の並んだカウンターがあり、半裸に蝶ネクタイを付けバケツ型の兜をかぶったバーテンダーがコップを磨いて、その奥のテーブル席ではゴリラとノーザンライツのメンバーがカードゲームに興じている。

「ウほーカード。」「悪いな、ストレートフラッシュだ。」「ウホのシマではフォーカードのが上だウホ。」「いや、それローカルルールだから。」と、こいつらは土地ぐるみで退廃的な遊びに耽っている様だ。


「あの、これはなんでしょうか?」と俺は恐る恐る尋ねると。「お客さん、ここは酒を飲む場所ですぜ。それともミルクでも注文しやすか?」とバーテンダーが答えてくれるがそうじゃない。

その後バーテンダーは「一度言ってみたかったんだ、このセリフ。」と小さく呟いた。


そこへ「なんでこんなとこ作るのー!?」とエリーンが恐れも知らずに叫ぶと、バーテンダーとゴリラ達は顔を見合わせ。「「スラム街プレイ?」」と異口同音にそのマニアックな遊び方を口にする。

「そりゃー発展した村にはスラムでしょ?」「スラム街作るの憧れだったんウホ。」「老後はこういう貧相な酒場の隅っこで遊んで暮らしたいじゃない?その練習さ。」「貧相な酒場で申し訳ないですな。」と各々は好き勝手に拘りについて話合うが。


「だーーめーー!スラム街禁止ー!」とエリーンは叫ぶも、こいつらが素直にこんなおもしろい玩具を手放すはずがない。案の定、奴等は「でも、おもしろいぜスラムプレイ。」と否定的だ。


そこへ突如、酒場の入り口から重装備のエルフ部隊が突入してきたので俺とエリーンはササっと横に避ける。

「治安維持隊だ!ノーザンライツ及びそこと癒着するゴリラ共!全員なで斬りにする!」と物騒な事を口にしながら抜刀した。

「ウキャー!官兵だ!」「オラ!こいよ権力の犬共め!」「我等を愚弄するか、者共かかれ!」と安酒場は唐突に修羅場となった、酒瓶が飛び交い、白刃が乱舞する。しかし、いくらシマムラァの治安維持隊とはいえ相手はゲーム中一番の変人集団のノーザンとゴリラだ、彼等はエルフ達をおちょくるような戦いや動きをしながらその乱闘を楽しむ。


「お兄ちゃん。」「何かね妹よ。」「ここ、燃やそう!」「気持ちは分かる。」と俺はエリーンが修羅道に一歩足を踏み入れたのを感じた。


「え?スラム街が出来たからそれを追い払いたい?」と門の東で農作業に打ち込むタージリンさんへまずは相談をする事にした。「個人的にはおもしろいから有りなんですが、副村長が嫌がるのでスラム街を無くしたいんです。」と伝えると、トロルの大男は大きく笑い。「簡単さ、ちょっと付いてきな。」と言いながら大量のヒマワリと紅花の種を確保してスラム街へと向かった。


タージリンさんは乱闘騒ぎが続く『すらむがい』の周囲を回りながらヒマワリと紅花の種を撒き始めた。

するとゲームの都合上に促成する農作物はすぐに芽が出て、すらむがいの周囲が荒地から植物の芽で覆われた。

「はい、後は勝手にここからスラム街は消えるよ。」とタージリンさんは笑いながら農場へ戻っていった。


タージリンさんが去った後には廃人相手に疲れたエルフの部隊がとぼとぼとスラム街から出てきた。エルフの隊長へ俺は税金について話をしたく近づくと、「永久凍土も考えたな、資源的立地は悪いが政治的に最高の位置に後衛基地を作ったもんだ。」と妙な評価を送ってきた。

「いや、そうじゃないんですよ。普通に村が作りたかっただけなんです。所で税金なんですが。」と俺は食い下がると。

「税金は一人頭に一週間で鉄100個、これが基本だ。普通の村にしてはちょっとおかしいぞココ。将来的に和平が終わった時の事も考えておくんだな。」と真面目に答えてくれるので助かった。

でも、真面目な人程ネットゲームでもリアルでも苦労するよね。と俺は思っても口には出さず、エルフ部隊の去り行く姿を見送った。


防壁の中に戻り、SIVAさんと防衛計画について話し合いとロドリコにキメラの再生産を依頼すると、タージリンさんがやってきて「そろそろスラム街が滅ぶぞ。」と笑顔で教えにきてくれたので、俺とエリーンとジノーとロドリコで見に行くことにした。


すらむがい、がある辺りの周囲は見事に花畑へ変貌していた。土地が痩せていた為に満開とは言えないが、見まごうことなき花畑である、これがどういう効果なのだろうか?と思っていたら。

花畑の中のすらむがいで変人達が呆然とし口々に「地上げだ!」「これシムシティで見た!」「線路まで引かれたらお手上げだな。」と大混乱をしている。効果は抜群らしい。


「駄目だ、地価が上がってしまう。」「ここもいずれハイトップの住宅に飲まれてしまう。」と言いながら彼等は何処かへ散じて行った。

「あいつらは基本的に衝動で動いてる連中だから、こういうほんわかした精神攻撃に弱いんだよ。」とタージリンさんは笑いながら奴等の攻略方法を教えてくれた。

あいつら、人は蹂躙できても花畑は踏みにじれないらしい。


「さて、副村長?」と俺は隣にいるエリーンに目だけ向けて尋ねると。

「MO、YA、SE。」とカタコトに副村長はスラム街の撤去を指示した。

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ビータ君は腰フェチなので腰つきを見れば何の種族か一発で当てれます。

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