A007.ドラゴンかまぼこの伝説
唐突なVRFPSブームのお陰で腰を折られたが、マギラ2でエリーンとジノーのスキル上げはしないといけないし、このゲームの素晴らしさも教えないといけない(使命感)。
雪で覆われた杉林の大地で二人を中型のクマタイプモンスターと戦わせる、東方内では中級者入門用のこの狩場は通称『シベリア送り』と言われている。
俺とコラーダは相変わらず二人のお守りだが、最近では補助やポーションで支援するのが面倒になってきたので、二人でアドオンソフトのテーブルゲームばかりやっている。
ネットゲームの末期って本編と関係ない事しだすけどそれかな、と少し不安になる。
エーテロギア暦第二期957年 熱風の月11日、ロドリコと出会っておよそリアル4ヶ月か。
ジノーとエリーンをほぼ放置してコラーダと『ラー』というボードゲームのパクリ作品プレイをしているが大丈夫、ジノーは死神信仰と音楽スキル持ちで、エリーンは血神信仰を選択したから自力でも回復出来るし、戦闘不能になったら俺達が復活させるだけだ。
妹は相変わらずドン臭くて中型のクマからくまさんパンチと呼ばれる右手左手をフックの様に交互に繰り出してくるガードも緊急回避もし易いスローな重攻撃を全部被弾するという哀れな状態だが。ジノーは敵に接近すらを許さない魔法使いとして完璧な戦い方をしている。
問題はエリーンとジノーで殴られると上がる耐性スキルが被弾数の関係で3倍くらい差が出た所だな。
うーん、耐性80とらないプレイヤーってどうやって立ちまわるんだろうなと考えていた所にエリーンが。
「お兄ちゃん、遊んで無いで何かお話してよ。」と10年ぶりに聞くだろうその言葉を口にした。
そうは言うが、お前はまずくまさんパンチ防げる様になれよと思いながら。お話かあ、とも考える。
そこへジノーがクマにスケルトンソルジャーと元素魔法を叩き込みながら。「あ、お兄さんたちの『果たし状の伝説』は知っています!ロマンチックですよねー。」とうっとりした顔をしているけど、あれそんなに知名度が高い上にロマンチックだったの?脚色され過ぎて広めてませんかギルマス。
「お話、伝説か。ああ、ドラカマがいいな。」と俺は呟き、急ぎゲーム内ポップブラウザを表示し
『マギラ2Wikiマニアクス』よりこのゲームの小話集を選択し、その物語を見つけるとなんとカバーソングまであるじゃねえか、世の中暇な人間が多いなと思いながらその動画ファイルを再生しBGMだけをVC越しで流す。
(前奏)
『彼はドラゴンの肉より練り生まれ、人かたを成したと自身を触れまわった。』
「補足だが、こいつは変なロールプレイヤーだったんだ。今で言うとゴリラやノーザンライツみたいな奴だったらしい。」
『おお、かまぼこよかまぼこよ、我は竜のすり身、ユグドラズ恩寵木の板に乗りし者。』
『人々は彼を気の触れた戦士として哀れと蔑みの視線を投げたが彼は己が道を進んだ。』
『彼には信じる人も神もおらず、ただただカマボコであるという狂気に身を投げ打った。』
「こいつは3国で初の信仰魔法を取らない洗練されたスキル構成を作ったと言われる狂戦士でもあったんだ、頭は良かったらしい。」
横目で妹を見るとまたクマの連続パンチをボッコボコとまともに受けている、あいつ耐性スキルが一番高いに違いない。
『彼の持つ奇抜な熱意は人々からの冷笑を受けたが、それも次第に変化が訪れる。』
『彼と共に正気を失いし戦いをしよう、と志す者が彼の元へ集い始めたのだ。』
『これは現実社会における窮屈な生活に対する反動とも後に社会学者のプレイヤーは語る。』
いきなりファンタジー路線からはずれて現代病の話をするなよ、台無しだな。
『ドラカマは東方のトロルの戦士であった。どうみてもその岩の様な肉体はかまぼこに見えないが、彼は「イワシのツミレってトロルっぽくね?」と自己の正当さを曲げなかった。』
『やがてその狂気は東方草原帝国のプレイヤー全てを飲み込んだとも言われる、元々好戦的かつ色物キャラクターの多い東方では戦士達が次々にドラカマの元へ集う、その大波はウォーデルタ地帯を飲み込んだ。』
『常に最前線に立つ狂戦士ドラカマ、率いる軍勢は当時最大勢力であった西方王国連合を退け、南方を蹴散らし、ほぼ全ての城や要塞を東方色に染め上げた。そして、ドラカマは皇帝城の玉座について味方の所属ギルド同士で何処が皇帝城の管理ギルドになるかと揉め始めた隙に、あっさりと『かまぼこ帝国』というソロギルドで城を占拠し皇帝に就任した。』
『三日天下かまぼこ朝の誕生だ。』
『この行いにより東方の大手ギルド達は大いに怒り、人々はドラカマを口汚く非難したが、ドラカマは「かまぼここそが至高の存在である。」と言い放ちその狂気を崩さなかった。』
『東方はこれにより分裂期に入った、あるギルドはフェーダワールドに篭るようになりウォーデルタから関心を捨て、あるギルドはそのままドラカマを支援した。そして、多数の人々は混迷の最中に放り込まれた。』
『その狂気的な行いに味方が激減してしまったドラカマは自らの皇帝城の前に立ち、迫り来る西方や南方の人間を倒して倒して倒して倒し散らした。』
『彼はもはや三国最強の戦士である、神に頼らず、かまぼこに祈り、自らの技量と皇帝の力の限りを尽くし三日三晩皇帝城をほぼソロで守った。』
『しかしやがて彼も力尽きる時が来て、最後にこう言った。「わさび醤油が無かった。」そして、彼はこのゲームから永遠に姿を消した。』
『彼の狂気はその後小さくはない変化を世界へ与えたと言う。』
『そうだ、狂気だ、狂気こそが人間性の本質であり、正気の維持である。と獣人の男は叫び、同志を引きつれ南方へ向かいその勢力と思想を広めた。』
『フェーダワールドへ篭ったギルドは語る。そこまで狂って良いのなら、我々も北の空に輝くオーロラの様に狂わん、と。』
『狂気の風を纏い、玉座の高みから消えた戦士ドラカマ、彼は何者で今何処にいるのだろう。』
(チャララーン、ジャン)
「んー、先輩。この話って何気にゴリラやノーザンの設立に関係してるから重要な事だったりします?」
と俺よりゲーム古参のはずのコラーダが初歩的な質問をしてくる、お前も狂戦士だからそういうの調べないよな。
「ああ、ギルマスが言うにはドラカマを支援したギルドの残党が永久凍土らしいからな。西方主体だったお前には知らない話だったか。」
妹は相変わらずクマにボコられながら「えー、そんなすごい時代にこのゲームやりたかったなぁ。」とぼやいてるがまずは回復か防御をしろ。
「真面目にプレイしていた人が多かった時代に突き抜けた変人が出た事に意味があるのだから、生きてれば似た様なもんは見れると俺は思うぞ。今はもうこのゲームは変人だらけだけどな。」
「お兄さん、そんな変な話より私はロマンチックな話が聞きたいです。」
「ロマンチックか、数々の男プレイヤーを魅了したネカマの王女の話や、チビパンさんの武勇伝はどうだ?」
「あらすじだけ聞いても酷そうな内容ですね。良い話が無いなら私とお兄さんでロマンチックな話を作り上げませんか?」
とジノーが頬を赤く染めながら言うと、突然コラーダは縮地を連打しながら周囲のモンスター全てのターゲットを取り、ジノーの近くでファストハイディングを使用しMPK活動にいそしみ始めた。