A006.爆裂妹隊
ジノーをほぼ見棄てる形で3人は漁船に乗り一路西へ向かう。洋上はまず安全だが、問題は妹が瀕死の状態で更に我々の装備が心許ない事だ。まずはどこかへまた上陸して武装を整えなければならない。
「先輩、どこに乗り付けるか決めておいて欲しいっす。」とロドリコが急かしてくるが俺はゲームマップを見ながら悩んだ挙句に、マップど真ん中の少し南にある太陽光発電所にマップマーカーを表示させ「ロド、少し博打になるが中心に寄る」と伝える。
「了解っす、出だしが大失敗ならリスクを取ってでも他人の取りこぼし狙いか戦うか選択しないといけないっすからね。」
「ああ、漁船で中心の瀬戸を北に突っ切る自信もないからな、これ以外の選択肢はほぼ無い。」
漁船で海からそのまま浅い川に入り太陽光発電パネルの近くへ乗りつける、上陸後は周囲を確認しつつパネルの裏に全員身を隠し、まずは妹の回復をする。
「妹さん、この包帯を使ってて欲しいっす。」と言いながらロドリコがエリーンに包帯を渡し、
背中には近接武器のスキーストックを背負いと両手にはP90サブマシンガンを構え周囲の警戒をする。
俺は周囲のアイテム集めを開始する。
<ゴリラ13がM16A4でアットアルファスリーを気絶させました。>
<ゴリラ13がM16A4でアットアルファスリーを殺害しました。>
戦闘ログを見る限り段々と殺害用の武器レベルが高くなっている。残り生存者は61人。我々も早急にまともな武器を見つけ揃えなければならない。
太陽光発電パネルをあらかた探索し終えたかなと思った頃にいきなり、ばったりと敵に出くわした。
なぜお互いにこの接近に気づけなかったのは謎だが、俺はすぐにショットガンを構え、敵も俺にショットガンを向けて両者がほぼ同時に発砲。ババン!
何!?お互いにこの距離ではずすだと!?初撃をはずすと敵は素早い動きでパネルの裏に隠れる、それを俺は追いかけるが、今度は素早くパネルの上に登った敵から発砲を受けるがこれも当たらず、反撃の発砲、これも当たらず空を撃ち抜く。お互いに銃弾をはずし逃げたり追いかけっこしたりしている、この辺りから敵に対して奇妙な親近感が湧いて来たが決着の時は来た。
突如別方向、俺の横腹へ別の敵から銃弾を数発叩き込まれたのだ。
血しぶきが自分から表示されるのが見える、このゲームそういえばR-18だったなぁ。
<ルナーンがUDP-9でビータを気絶させました。>
あ、やばい。「ロド、やべえ助けて。」「今向かってるっす先輩!」
俺が倒れた場所はパネルの近くだったので、そのパネルの影に四つんばいモードで逃げ込み敵のトドメから逃れようとする。
もう敵による追撃の突撃か手榴弾を放り込まれたら俺はあっさり死んでしまう状況だ。もう駄目か、せめてベスト10には入りはしたかったな。
と、その時「お兄さーん。」というVCと共に激しい爆音と炸裂が目の前で起こった。
<ジノーが105mmライフル砲でルナーンを気絶させました。>
<ジノーが105mmライフル砲でヤイコーンを気絶させました。>
え?砲撃?ってことは前に言ってた乗り物って…。
そこへロドリコが俺に駆け寄り気絶状態から回復をしてくれる。
気絶から立ち直った俺は包帯で自身を回復し始め、ロドリコはその間にP90を構え急ぎ敵のトドメを刺す。
パララララ!という音と共にログが流れる。
<ロドリコがP90でヤイコーンを殺害しました。>
<ロドリコがP90でルナーンを殺害しました。>
今更だが敵さんは誰かと思ったらルナさんとヤイコさんじゃないか、同じギルメン同士なのに殺しあうのは悲しいなあ。
そして、ジノーが乗り付けてきた乗り物はドライブを満喫するにはちょっと無骨な16式機動戦闘車だった。ぶっちゃけタイヤの付いた戦車の類だ。たぶんゲーム中一番強い乗り物である。
確かにこれなら東の島から堂々とマップ中央の橋を渡ってここまで来れるわな、普通は戦車なんぞに手出しはせんから。
「ジノー、ありがとう。マジでありがとう、見直した。」と俺は敵の死体を漁りながら礼を言う。
UDP-9マシンピストルとLv2背嚢とLv1フルフェイスヘルメットをゲット。
敵は砲撃によるダウンだったので防弾チョッキの類もあまり耐久力が減っていないから俺の装備しているLv1防弾チョッキを死体のLv2チョッキと交換、後はエリーンやジノーにあまった防具とショットガンを持たせれば武装は安定か。
ちょっと安心した所で。パラララン!とロドリコが北にある家屋へ向かって突然発砲開始。直後に、
<ロドリコがP90でコスモデカを殺害しました。>とログが出る。
コスモデカさんは気絶ではなくそのまま即死したので、気絶状態から復活させる仲間がもういないという事が分かる。恐らくこれでルナさん達のチームは全滅だろう。冷静に考えると今回のゲームって半分は同じギルドのメンバー同士の戦いなんじゃないだろうか。
「ロド、ルナさん達は『3人しかいなかった』から16式に乗って奪われないように操縦していてくれ。」とロドリコには現在最強の装備である16式を維持して貰い、装備の弱いエリーンとジノーでコスモデカさんの死体を調べたり近場の家屋を探索する。
3人しかいなかったという事は、一人既に死亡していて、ルナさんはより強いチームの攻撃から逃げてきたという事だ。ここも既に危ない。
各々は適当なライフルやサブマシンガン、ショットガン等と回復アイテムと防具をここで揃える事が出来た、これで序盤の難関を大きく遅れたが突破したのだ。
その直後にマップの中央から激しい銃声が飛び交う。パァン!タタタン!トトトト!パズンパズン!
1つのチーム同士ではないくらいの大戦だ、ログには。
<エールートが村田銃でカラシニコブを気絶させました。>
<アルカントスがG3A3でカラシニコブを殺害しました。> あ、ギルマス死んだ、ざまぁ。
<ゴリラゴゴウが2006Mでオークンシールドを気絶させました。>
<アイドリングファンがベネリM3でゴリラNo.1を気絶させました。>
<アイドリングファンがベネリM3でゴリラNo.1を殺害しました。>
<ゴリラ13がM16A4でアルカントスを気絶させました。>
<チビパンがWA2000でゴリラゴゴウを気絶させました。>
<チビパンがWA2000でアルカントスを殺害しました。>
ゴリラVSギルマスチームVSシマムラァの戦いか、とても熱い対戦カードだが近寄りたくも無い。
民家でアイテムを回収中にロドリコに次の安全エリアの当たりと行き先を考えていて貰う。
「んー、北西の山の中が次の安全エリアだから早めに道路で移動しないとまずいっすよ。16式は山岳や森林に弱いんすよ。」
東の方角からも銃声が遠く聞こえる様になってきた、安全エリアに逃げ込もうとするチームが東の島から西の島へ一斉に移動を開始した為だ。生存者は残り43人。
ここら一帯のアイテム回収が終わったので全員16式へ乗り込み北西へ向かう。
車載のM2機銃の付いた席に俺は着き、周囲を警戒する。道路上を最高速度で加速する16式の前方に倒木が見えるがたぶんロドリコなら避けるだろう、と思っていたが甘かった。
「なんすか!?」とロドリコの叫びと共に16式は大きく車体が跳ね上がり、ガツン!と音がしたその後に見事仰向けになった亀の様に16式はひっくり返った、物理法則真面目に仕事しろ。
「ロド君、目の前に倒木がありましたが、なぜ避けませんでした?」と俺は少し怒りをぶつけるも「いや、僕の画面には表示ナカッタッス。バグジャナイッスカネ。」とすっとぼける。
そして16式から全員が脱出し途方に暮れんとした時に「あれを試すっすか。」といいながらロドリコは突然、手榴弾のピンを抜いて16式に向かって投げ付けた。「あぶねえ!下がれ!」と俺が叫ぶと「きゃー。」と言いながらジノーとエリーンは後ろへ逃げ出す。
手榴弾が爆発し16式が軽く揺れた。「あれー?16式はこれでひっくり返らないんすね。」と言い出したがそりゃ無理だろ。「他の車両は戻るのかよ。」と尋ねると「たまにー。」みたいな返事ではぐらかしやがった。
こいつに運転は任せられん、と思いながら山の中を見回すと路肩に運よくミニバンが止まっていた。
「あったよ!ミニバン!」「でかしたっす!」
思い返すとこの試合は運100%の結果だったと言っても過言ではない。
ミニバンへ4人が走り寄るとロドリコが運転席に着いたので。「ロド、一回降りろ、お前に運転はしばらく任せん。」と伝えハンドルを奪う。
ロドリコは涙目になり「天狗の仕業じゃったんす。」と言い訳をしているが無視してそのまま安全エリアの一番北西を目指す。
北西の果てを目指したのは、ここが一番敵の来ない場所になるだろうと考えたからだ。船を使うにも敵は東からのみからしか安全エリアの都合上でもうこれず、陸路を使うにも南東か真南からしか来ない、我々の後ろに回ればNPCと交戦になるので銃声で接近が分かる。
初心者二人を連れての試合だ、戦闘なくして勝利を目指したい。問題は恐らく現時点で最弱の武装チームは我々だろうという事だ。しかし、弾除けにすらならないとしても4人がまだ揃って生き残っている事は幸運である。
後は行き先で既に待ち伏せをしている同じ考えの敵がいるかどうかだ。しかし、北西は一番奥に村があるものの、その後の経路に家屋が少ないので4人分のアイテムの入手が厳しく、序盤で向かうメリットはあまり無い。
と思った所で、道路の合流地点で別の乗用車が接近、俺達の横に車を並走させ発砲の構えを取る。
俺は助手席のロドリコに「タイヤ。」と伝えるとロドリコは助手席から身を乗り出し、敵乗用車のタイヤに向かってP90をフルオートで射撃を開始した。
敵はこちらのタイヤではなく乗員の方を狙ってきたが、ミニバンは乗員に対する防護が厚い。よって、ダメージは受けるものの一人の気絶者を出さずに逃げ切る事に成功。敵の車はタイヤパンクにより走行困難に陥る。後は奴等の後ろから来る別のチームが処分してくれるだろう。
後ろに遠ざかる車に向かいロドリコが右腕だけ外に出して何かのモーションを出したが手にモザイクがかかってて見えない、恐らく中指でも立てるモーションでもしたのだろう。
道路をそのままミニバンで進むとミニバンがまた16式の様にひっくり返った。「んー?」「うひゃあ!」「先輩、何やってんすか。人の事言えないじゃないっすか。免許持ってんすか?」「無いです。」
今度の事故は何に引っかかって車がひっくり返ったのが真面目に分からない。
ひっくり返ったミニバンから脱出して道路を確認すると。あったよ、道路中央線の追い越し禁止のもりあがってる奴。
「え?こんなので車がひっくり返るのかよ、物理法則なめてない?」と現実的な言い訳をするも。
「あーもう、偉そうな事言ってた先輩のせいでもう歩くしかないっすね。」と言いながらロドリコは山の方へ向かった。
山岳へ入り北西の交戦地帯を背中にし安全エリアにギリギリ入るようにして体力の回復やアイテムのシェアを開始する。
ロドリコは相変わらずのP90サブマシンガンとゴールデンベアという狙撃銃を装備、P90の弾は残り少ない。
俺はUDP-9マシンピストルとグローザと言う消音アサルトライフルを装備、あまり狙撃は得意じゃないからアサルトライフル系でいいのだ。
妹とジノーもショットガンとサブマシンガンという初心者でも扱いやすい銃を持たせている。初心者に狙撃はまず無理だろうからな。
回復アイテムも各々に、一撃で気絶させられなければ助かるくらいは持たせた。
後の懸念はここいらに我々と同じ発想の敵がいるかいないかだが、案の定いた。
「ロド、前方の木陰に二人、残り人数は不明。」
「ここからは見えなくて狙撃できないし実質、2vs4になる可能性が高いっすからやり過ごしましょう。皆伏せたままで移動して欲しいっす。」と言いながらみんなで芋虫の様に匍匐前進を開始した。
安全エリアは着々と縮まる、そこでその『お隣さん』がどうやら事故か敵に見つかったかで交戦エリアにうっかり入ってしまったらしく、NPCドローンからの攻撃を受け始めた。
その音を聞きつけてか最初から知っていたか、少し遠い東の方の山からお隣さんへ別チームの狙撃が開始された。
その挟撃により、お隣さんはあたふたしながらも体力を削られて行き、結局二人とも倒れた。気絶なしの殺害ログが流れたのでお隣さんは二人しかいなかったのと、ここにもうチームはいないだろう。というメタ情報を周囲に知らしめた事になる。
俺達はそのお隣さんの『もう全滅しているだろうと思われた地域』の乗っ取りに成功した。
「東の山にいるスナイパーに警戒してギリギリで進もう。」
「うっす、たぶん狙撃しあったら負けるっす。近接戦まで粘りましょう。」
生存者残り26人。
南東で銃撃戦が起こる、民族大移動の風物詩である大戦争だ。その紛争へ東の山にいる狙撃チームがビシビシと横槍を入れて大移動中のチーム達を脱落させていく。恐らくラスボスはこいつら東山チームになるだろう。
「先輩、南東からの囮が全滅する前に東へ牽制狙撃するっすか?」と尋ねてくるが。
「東がマジになってこっちを攻撃し始めたらやばい。南東の奴等を信じよう。」と答える。
運があるか無いかとは言え、南東から来るのは修羅道を勝ち進んだ猛者達だ、簡単にやられず後に東の山の狙撃チームへその攻撃の矛先を向けるだろう。
生存者残り16名
「先輩、ここ東の山から丸見えっす。」
「南側の山へ向かって匍匐で進もう、南東の奴等がこっちに逃げてきたら戦うしかないが接近戦だ。」
「お兄ちゃん、さっきから芋虫みたいに動いてばっかりだよ。」
「そういうゲームなんだ、これは。」
匍匐前進で南の山に向かうと山頂から南東組だろう1チームがこちらへ向かってきた。そして、明らかにそいつらと目が合った。
「やるぞ!」「うっす!」俺とロドリコは木陰に身を隠しながら発砲開始、敵は追われて逃げてきたとはいえここまで生き残ったかなりの猛者だ。こちらの攻撃に怯むことなく応戦を開始。あかん、ヘッドショット食らった。
<チビパンがWA2000でビータを気絶させました。>
「くっそ、チビパンさんか。ロド、後は頼んだ。」と言いながら木陰で四つんばいになっているとジノーが匍匐状態を解除し俺に駆け寄り気絶からの回復を施してくれる。
うほお、ちょっと友好度上がっちゃったじゃないか、あざといぞジノー。
「ありがとう、ジノー。」
「お兄さんだいじょ!?」と自分を復帰させた瞬間に、ジノーは敵に頭を撃ち抜かれダウン、その直後に容赦ないチビパンさんの狙撃がジノーを再起不能へ追いやる。
ジノー、お前の戦車砲と、この蘇生は本当に大金星だったぞ…。本当にありがとうジノー。今はそれしか言えない。
<チビパンがWA2000でジノーを殺害しました。>
<ロドリコがゴールデンベアでキールを気絶させました。>
「お兄さん、後は頑張って下さい。」とジノーはVCで呟いた。
ロドリコがこちらに狙撃を集中しているチビパンさんへ手榴弾を投げあぶり出しにかかる、するとチビパンさんは山の斜面からショットガンを構えながらこちらへ突撃を開始し、俺のトドメを狙いに行く。実に男らしいお方だ!俺自身の体力回復は間に合ったが俺の持つマシンピストルや消音ライフルで近接したショットガンの相手はきつい。
人の走ってくる音とパズンパズン!という音がしたと思ったら、俺が撃たれたのではなく。
<エリーンがS1897でチビパンを殺害しました。>と表示が出た。
助かった。草むらの中で匍匐したままのエリーンが横からチビパンさんに向かってショットガンを連射したのだ。
ジノー、エリーン、初心者だと思ってなめててごめんなさい。運は人に等しく腕に降りない物なんだな。
しかし、こちらの生存は残り俺とロドと妹か。俺はジノーとチビパンさんの死体から回復アイテム回収し、マシンピストルをショットガンに切り替える。
ロドリコは既にキールさんの死体を漁り周囲を警戒している。
生存者は残り8人、俺達以外に後2チームぐらいの敵がいる。
南東の生き残りと東の山にいたチームが銃撃戦を続けている。残り2チームいると分かっていても、南東の奴等には俺達からの挟撃を気にする余裕は無いだろうか。
山頂にロドリコだけ登り顔をチラリと出し戦況を確認すると、ターン!ズドォン!という音と共に。
<ハッチマンがMAS36でロドリコを気絶させました。>
<まろいサザンクロスがAT-4CSでロドリコを殺害しました。>
と表示された。やばい、一番強いロドリコが一瞬でやられた。しかもラスボスはノーザンライツか。
ロドリコは「まじっすか、狙撃からバズーカって本気過ぎやしませんか。」とVCでボヤしてる。そして、ロドリコの装備を回収するのも危険だ。南東の奴等頑張ってくれ!と山頂ギリギリ手前で匍匐しながら祈っていると。
<エールートが村田銃でまろいサザンクロスを気絶させました。>
<アイドリングファンがG3A3でまろいサザンクロスを殺害しました。>
<ハッチマンがMAS36でエールートを気絶させました。>
<ハッチマンがMAS36でアイドリングファンを殺害しました。>
<ハッチマンがMAS36でエールートを殺害しました。>
と一気に決着がついた。
生存者は俺と妹と敵1名の残り3名。敵位置はほぼ発覚、のラストスタンド!
戦場は半径50m以内の安全エリア内。
勝てるか?いや、相手はあのハッチマンな上に味方はど素人の妹だけだ。ぶっちゃけ負けそう。
「あっとひっとり、あっとひっとり。」とロドリコとジノーが囃してくるがうるさいわ。
もう一か八かの手しかない。俺はある決意をし、愛する妹に向かって残酷な宣言をする。
「マロン。」「なぁに、お兄ちゃん。」「まず素手になって移動速度を上げろ。」「うん。」「その格好になったらひたすら木から木の裏へ走り回れ。いいか、絶対に立ち止まるなよ。」
と、その発言に頭の良い死人二人は素早く反応し。
「あ、先輩最低っす。」「お兄さん最低。」とボロクソになじってくるがこれ以外の手がマジで思いつかない。
「わかった、お兄ちゃん。私を助けにきてね。」と泣ける言葉を妹は口にするがそれは無理な相談だ。
妹の操作する赤髪モヒカン黒人男は山頂から北東に向かって全力で走り出した。
それを狙うように銃声が響き始めた。
1発、妹が被弾するも即死せず走り続ける、その走りに怯みはない。飼い主信じきった忠犬の様な走りだ。
俺は山頂から真東に移動し木陰を探し、そこへ走りこみ手榴弾のピンを抜き、敵の居るだろう木陰へ投擲。数秒遅れて爆発音。敵が木陰の一つからお尻を少しだけ見せた。
今の俺の心はメロスを信じるセリヌンティウスだ。悪い王様の尻をこの消音銃で撃ち抜くのだ。
俺は銃を構えスコープ越しに木陰からはみ出ている敵の尻を撃ち抜いた。音速に近い銃弾が敵の尻を横に貫くがダウンならず!尻にも防弾チョッキ判定があるのか!?
その発砲で敵がこちらに気づいたが北側には妹が狂ったように走り回り、こちらは消音銃なので敵はすぐに反撃出来ないだろ!と思ったら、敵はこちらに狙撃を確実に当ててきた。体力が9割削られる。
やっぱあいつクソ強い、ダウンしなかったのが救いだ。
自分の回復をするか?時間を敵に与えて良いのか?敵も回復するだろうし射撃技量はあちらの方が格上だ。
そんな時に妹が狂った様な声で「おにいちゃああん!」と叫びながらショットガンをハッチマンの方向へ乱射しながら走り向かい始めた。その状況にハッチマンの挙動がめっちゃびびってるのが分かる。
だってオープンチャットだもんあれ。
俺だって黒人のモヒカン男がショットガン乱射しながら女の子の声でお兄ちゃんと叫びながら突撃してきてらビビる。
そのタイミングで、一瞬だけ、敵の銃を持つ腕が見えたので俺は銃を構え歩きながらそれを針の穴に糸を通す様に撃ち抜く。
<ビータがグローザでハッチマンを殺害しました。>
<ゲームフィニッシュ!>
「少年、少女よ、見事だ…。」とハッチマンからのVCが聞こえた気がした。
『やった!勝った!今夜はカツ丼だ!』
というマヌケなテロップと共に表示される得点とキルカウントは1。ぶっちゃけ1キルで優勝とか恥ずかしいレベルだけど勝てばいいんだよ。
「優勝したけど微妙な心境っすね。」
とロドリコが口にしたが、それに俺は返す言葉もぐうの音も出なかった。




