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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
戦場の花を捕まえて
13/95

013.踊る大選挙戦

西暦2036年 エーテロギア暦第二期957年停滞の月14日。

マギライゼイション2公式ページのメンテンナンスが明け、その度々行われるロクでもない公式イベントがでかでかとウザったいポップアップページ付きで始まりを告げた。

それを見たユーザー達は一様に「ひぃ!」「オブホ!」「ヌフゥ!」といった悲鳴を上げる事になった。


今週の内容は『九大神選挙イベント』の告知である。マギラ2のサービス開始から過去に2回あったとされるこのイベントだが、ユーザーサイドからは「運営ふざけんな!」と悪評名高い迷イベントの三度目が行われてしまうらしい。

要約すると、いつもの立候補神達が地上へ光臨するに至っては『九大神の座』を勝ち取らなければならない。神座の獲得方法も信者ユーザーからの得票率を競ってという神様達には厳しい内容だ。

だが、神様達がなんでそこまでして地上へ光臨したいかの動機は未だに不明である。

神国ワルハラは飽き易い所なのだろうか。


このイベントを「ふざけんな!」と言われる理由は簡単だ、このゲームのプレイヤーは大体信仰魔法を取る、だって便利だもん。


脳筋ぶつりこうげきしょくは戦神を選択肢、ソロぼっちは時空神の単体魔法を好み、Debuffてきじゃくたいかの頼りは現状で竜神くらい、CC特化いやがらせは心神か運命神、回復と魔法攻撃は光神、ペット職は狩神や死神、南方軍は国からして森神頼み。


信仰魔法によりプレイスタイルが変わるか?当たり前だ、信仰魔法を取らないのは三国最強ギルド『ノーザンライツ』の攻撃職(DPS)くらいだからな。


しかも選挙後には『バランス調整』と称して信仰魔法の効力が全ていじられる、これにはプレイヤーの99%が関係する死活イベントであり、ネットゲーム外交戦争の始まりでもある。


公式ページをじっくり見た後にログインをし、ギルドホーム広場に入る。

中央に暖炉が配置されたギルド大広間でギルマスが「せーんきょ、選挙、明るい選挙ー♪」と、よく分からない歌をコサックダンスしながら歌っている。


その横でチビパンさんとキールさんとアニタさんとSIVAさんがすごい速さで情報交換をしている。跳び陽炎さんはギルマスの後ろで一緒にコサックダンスをしている。


そこへロドリコが意味の無い緊急回避ドッジ連打でコロンコロンと転がりながら近寄ってきた、戦闘で無意味なドッジ癖付くからやめなさい、あざといなあ。

「先輩!神様選挙っすよ!街の中心に選挙ポスターも貼ってあるっすよ!」

「え?ポスターあんのぉ?」自分はこのイベント初体験な為にポスターまであるのは知らなかった。


そこへキールさん達が声を差し込む「なかなか良い出来のポスターだったぞ、毎回凝ってきているのは笑える、しかも今回は動画と音声付きだ。」

「そこお金掛ける所じゃないよね。」

「ちょっと頭おかしく無いとこのゲームは作れないさ。」と古参の方々は苦い顔を作る。


わくわくとした顔のロドリコが「先輩!見に行くっすよ!」と催促した瞬間にギルド広間へ珍客が二人訪れる、それを見てコサックダンスをしていたギルマスは「もう来たのか。」と呟いた。


緑髪の美しいエルフ女と初老の肌緑色の豚人間オークの二人組みである、エルフの彼は有名人なので名前が『エールート』とすぐ出るが、オークの方は戦場でたまに見かける顔だが名前までは暗記していないなあ。

「エールート、アルカントス、南方は流石に必死の様じゃな。」ギルマスはニヤリとサディスティックな顔を作りながら口元を歪めた。


珍しいお客なので選挙ポスターを見に行くのを後回しにして遠巻きに見学する事にした、ポスターを見に行く為に逸るロドリコに『襟首を掴む』モーションをして止めると「いやん」と変な声を出した、そういうプレイは無いです。


ギルマスを前にエールートは少し強張った顔をして言った。

「単刀直入に言う、森神へ組織票の手伝いをして欲しい。」やっぱりそうですよね。

そこへ続けてアルカントスと呼ばれたオークが「条件は、フェーダワールド内の南方首都『フィルモア』をゴリラ及びシマムラァ連合から貴公等のフェーダ連合へ引き渡すという事だ、これで今貴公等が持っている南方副都いなかまちマラーナと併せれば貴公らはフェーダワールドの南方をほぼ制圧する事になる。」


ギルマスは、んーっと少し考えた後に応えようとするが、ギルマスの視線は右上を向いている。

視線を右上に向けえる人間は『騙そう、嘘を付こうとしている特長。』

視線を左上に向けていれば『真面目に計算している状態。』という「本当かよ。」と疑いたくなるトリビアを以前ギルマス本人から聞いたが、言った本人がそれを対策出来ていないのは少し笑える。


「モンゴル人にいきなり蜀郡をあげるよ。と言ったレベルの話だな。」

「島津に西海道を渡す、くらいの価値はあると我々には思いますがね。」

ギルマスの発言にすらりと切り返せたのは初老のオークである、この人苦労してそうだなあ。

「フェーダの国を維持する為にわし等は表舞台から下がる、お前等は表ウォーデルタの防衛が楽になる、見え透いた一石二鳥じゃ。」

とギルマスはいい歳して舌を出してからおどけた様な顔を作った。

「貴方はノーザンと取引しているでしょう?これで表も裏も三国バランスが取れると言うものです。」

ゲームバランス的にはこの人が正論を言ってるけど、勝てる内に勝ちまくる方が楽しいからなあ。

「それに、カラシ。あなたちょっと表で勝ちすぎ、もう少し負けなさい。」


その割りと核心的な批判にギルマスは、んーっとまた少し考えてから敵国首脳陣による直接的かつ誠意あるこの外交使節団への返答をした。

「信仰は、まぁ、未定派ノンポリを煽る工作はする、南方首都フィルモアは頂く、ウォーデルタからは少し下がる、それと足場固めの為にフェーダでは一時休戦。これでどうだ?」


エールートは溜め息を少し付き「森神の九大神座維持がされればそれを履行しましょう。契約成立です。」と『エア握手』のモーションをした。


「所で、西方扇動者アジテーターの王様と大臣はなんと言ってた?」

「西方は見えざる手に信仰を委ねる、我が国はそれしか出来ないのでアテにするな。だとさ。」

エールートも交渉が成立したからか、その強張った表情を崩して苦い顔をする。

「少し学のついた若造が言いそうなセリフじゃな。それとエールート!」

「なんですか。」とエールートは眉を跳ね上げるが、これは一言多いギルマスからの金言だろう。

「溜め息をつくと幸せが逃げるというが、それは人前でつくからだぞ。」というギルマスのお節介に対してエールートはその声を背中に受けながら手をヒラヒラと振り、お供と一緒に魔法で呼び出したポータルの中へ消えていった。


それを見守っていたギルドメンバー達は広間にまた雑談の渦を広げる。

「問題は心神と蜘蛛神うんめいしんだ、こいつらは役割が被ってるから『ほっといても片方落ちで済むだろ』と皆が思って両方落選なんてありえるぞ。」

「竜神はタンクと元素以外で取る奴あんまりいないから安定でもないな。」

「戦神、時空、光神は安定、死神と森神と狩神もグレーゾーンか。」


「先輩、なんか外交イベントも終わったみたいだしポスター見に行くっすよ。」今度はロドリコが自分に『襟首を掴む』のモーションをしようとしているが、キャラクターの身長差でエアキャッチになる。反撃なの?執念深いな。


東方副都ノヴォハン、町の中心広場にて犯罪プレイヤーが『晒し台の刑』に処されているすぐ横に選挙ポスターの看板が立っていた。

犯罪プレイでは逮捕された時、罰金刑をプレイヤーが金欠でNPCに支払えない場合はプレイヤーが留置所に入る代わりにこういう刑に処される。

晒し台の刑に処されるとキャラクターが動けなくなるので刑期終了までログアウトするかサブキャラに代わる人間が多いはずだが、今日の逮捕者は「俺を見ろー!見てくれー!」と意味不明な事を叫んでいる。

その横に選挙ポスターが貼り付けられており、ポスターを『選択』すると音声と動画付きで神々の公約マニフェストが見られる。実にシュールな光景だ。



ポスターの最初は暑苦しい声と外見とカッコ良いと思い込んでそうなポージングをする戦神からだ。

<1.戦神テイガー「我は戦の神!戦う者を高みへ押し上げ、怯む者にムチを打つ者である!我と共に戦道を歩む勇者に祝福あらん!攻撃系の補助魔法が得意です。この戦神テイガーに清き一票をお願いします。」>

最初は強気だった割りに最後は弱いな戦神、自分はこいつを信仰してるからこいつに投票するけど。


次はみんなのアイドルスーズー・タン。アジアン顔なエルフ女で灰色と透明色が基調な美エルフだ。

<2.時空神スーズー・タン「私は時空を操る神です、自己の生存力アップとトリッキーな魔法がある程度使えます。一人ぼっちの貴方、私と共に戦いませんか?神としては新参者ですが。どうかこのスーズー・タンへ皆様の一票をお願いします。」>

ぼっち救済神と言われるだけあって自覚もあるのかすずたん、あざとい。でもお前サービス開始からいるから古参NPCだよね。


(背景音晒し台より)

<俺を見てくれー!もっと見てくれー!>


次は大きな蛇の様な生き物が移っているが、これは縮尺何万分の一だろうか。

こいつは世界の海を長い胴体で包み込み、人類の遠洋漁業と大航海をことごとく妨害している世界龍、ミドガオゾだ。

<3.竜神ミドガオゾ「Zzz.Zzz.敵の弱体化と範囲攻撃が得意じゃよ。ムニャムニャ。」>

こいつ、こんな設定と発言でよく前回の選挙に勝ったな。


4番目、こいつは運命と蜘蛛の神であるハヅネヒカ。黒い服装と大きなスカート、黒髪長く美しい顔立ちで眼が複数あるのだが、上の眼は切り揃えられた前髪で隠されているので一見ただの美人さんに見える。

<4.運命神ハヅネヒカ「愚民共よ、我を崇めなさい。豚共よ私にかしづき足をお舐めなさい。私の足は8本あるわ、奪い合わなくても事足りる。得意魔法は嫌がらせよ、そういうの好きでしょ?」>

めっちゃ高慢だがこいつには狂信者がいっぱいいる、微妙に役割がかぶっている心神とぶつかったら恐らくこいつが人気で勝つだろう。


5番目、心神。こいつは信仰魔法がとても優秀だ、見た目が中年のお医者様みたいな感じなので外見でマイナスボーナスが激しい。

<5.心神サイオスト「皆さんの心の隙間をお埋めし、明るく、仲良く、幸福な生活が広がる様な世界を目指しております。得意魔法は準回復系と催眠系足止め魔法です。皆様の快い一票をお待ちしております。」>

地味に強いがパンチが足りない、たぶん神々でかなり強い方なんだけどなあ。


6番目、長いからそろそろ巻いて行こう。狩神フンブート。ウォーデンやハンターや罠師の守り神。動物使役と弓と罠系にボーナスが付く魔法が使える。外見は痩せて足の長い巨大な獣人。


7番目、光神ネーレスライト。光の女神様だけど外見はよくファンタジーに出てくる古典的な女神様。現在の回復魔法と言えばこいつだし、攻撃系の魔法もあるので魔法使いは大体こいつを信仰する。こいつから取得出来る目潰しの魔法が凶悪な妨害スキルだ。


8番目、森神ユグドラズル。南方御用達の神様。

設定としては元々南方首都のフィルモアに位置に生えていた神木なのだが、国民がご神木を家や砦代わりに使い過ぎた為に枯渇。その跡地にフィルモアが建てられたという可愛そうな神様。でも肉体?を失っても神体のまま未だ存在している。特技はドルイド魔法と呼ばれる複合術ばかりで単品性能はパッシブスキルや自然回復向上系で地味。南方が支えないとまっさきに落選しそうな神様。基本的に喋らない。


9番目、死神ノーズドゲイツ。死の門と呼ばれる骨や骸骨で出来た門の管理システム。この世界ではあの世に裁判も地獄も天国もない。幽界ヨモガルズで魂を一時保持した後にさっさと転生させるシステムを採用しているので神というよりは駅の自動改札機に近い。

ネクロマンサー系魔法やトリッキーな魔法を使う、一部で大人気だがこいつも無言系で喋った事は一度もないらしい。


10番目、ここからが知らない神だ、山神ボヤヅミ。自身中心からの範囲スキルや地形魔法と動物使役が出来るらしい。外見は火山で生まれたトロルとゴーレムの間くらいの見た目である、こいつも無口。


(背景音晒し台より)

<俺だよ!ポスターより俺を見るんだよ!!> やかましいわ。


11番目、血神パッシルジュ。こいつは有名だ、回復魔法特化である。こいつが前回謎の落選をしたお陰でヒーラーという単語がゲームから消えたくらいだ。赤い服装と真っ赤な口紅を塗った青白い顔の女神である。貧血なの?「血を捧げよ、血を流せ、血を求めよ、さすれば救われん。」みたいな事を言ってる、怖い。


12番目、夜の神ゲッシャーン。こいつはDebuffてきじゃくたいかと暗殺の神様である。過去にこいつが当選した話を聞いたことは無いが、姿は口元をマスクで隠した青年で黒いマントをはおり、マントの内側には月と星々の輝きが瞬いている、見た目はかっこいいんだけどなあ。お前も無言かよ。


13番目、果て神サウズドゲイツ、南方ドラゴンズラヤを越えた果ての砂漠より遥か南から来た神で死神の兄弟設定であるらしい、つまりこいつもシステム神だ。

魔法は全てトリッキーで、相手の使用スキルを封じる、相手をバグらせる等の対人タイマン特化の神である。しかしその戦術は今時流行らんよ。


これで立候補の13柱が揃った、説明が長くなったがこの中から9柱が選挙の得票数で選ばれる。泣いても笑ってもこのイベントで大仕様変更は免れないと言われている。


ロドリコがポスターを見ながらぶっちゃけた感想を口にする「ねえ先輩、これって喋る順に当選してないっすか?」

「前回はそうだったらしい、いくら優秀な神でも設定とアピール次第で変わるんだ。主に西方の投票率のお陰でな。」

「それで見えざる手の話なんすねー。」と他人事な発言をしたこいつが真っ先にこの仕様変更で影響を受ける事になるなんて、この時は思いもしなかった。


一週間後。


ロドリコのステータスも完成し装備も揃い始め、戦争に慣れた一週間後の公式ページより。

『皆様の投票参加により九大神選挙の結果発表です!当選の9枠は戦神テイガー!時空神スーズー・タン!運命神ハヅネヒカ!光神ネーレスライト!森神ユグドラズル!死神ノースドゲイツ!そして新たに山神ホヤヅミ!血神パッシルジュ!夜の神ゲッシャーン!が当選しました。九大神は上記の9柱と決定しました。』


荒波の月26日いや、竜神が落選したので暦も変わり寒星の月26日か。


「嘘だろ?」この単語が三国中に響き渡った。心神と狩神と竜神が落選しただと!?

その理由はギルマスからの調査結果で判明した。「ゴリラとノーザンが手を組んで票操作したらしい。」との事、あいつらが手を組んだら大体の勢力は負けるがそれはゲームとしておもしろくない、それをあえて行った理由があるはずだ。


「理由?簡単だよ、夜の神は暗闘特化、つまりノーザンやゴリラ暗殺系ギルドが支持して当選安全圏を見定めたら山神の対集団信仰へサポート。血神は西方のヒーラー志望が団結したようじゃな。」

と、ギルマスの分析ではそういう事らしい。


「あいつら俺ツエーする為に大規模な工作をしたのか。」とチビパンさんが漏らし。


キールさんが渋い顔で「心神が落ちたのは痛いな、血神が当選した現在は音楽スキルの需要も下がるかもしれない。」と呟いた。


重苦しい雰囲気の中に突然ギルド広間へロドリコが慌てて転がり込んできて叫んだ!「狩神様落選でオイラ無宗教になっちまったからダッシュで死神信仰に変えてきたっすよ先輩!」


その大慌てなロドリコへ自分は冷静に突っ込みを入れる。

「なんで死神信仰なんだよ。」

「だって、ウォーデンクラス死亡確認っすよ!一番近いネクロマンサーに転向するしかないじゃないっすか!」と言いながらロドリコはネクロマンサーの召喚魔法を詠唱し始めた。

その召喚が終わるとロドリコは「これ、バビエカです…」と言って呼び出されたボーンビーストを指差した。お前のジョークセンスはやっぱおかしい。


「あのな、よく更新履歴パッチを調べろよ。山神信仰でもウォーデンのペットは召喚できるんだぞ。」


それを聞いたロドリコは「え?マジっすか。」と言いながらすごい速さでボーンビーストに跨り神々の神殿の方向へ消えていった。

Q.新しい神のスキルリストは作ったか?A.無いです。

ちょっと引き伸ばし回に見えますが、こういうシステムのネットゲー欲しいなあってことのアピール回です。


10/4 少し改定 13柱の能力は大体完成したんだよなあ、と振り返り思います。

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