012.ムーンウォーカーハイ
7月22日、東京都新宿区某地下カラオケバー内ニテ。とはいえ東京都はそのうち州になるかもしれないという話だが今はあまり関係無いな。
オフ会場はそこそこの人が入っている。既に10人以上はいるが誰がどのキャラの中身だかわからない。
自己紹介タイムが無いのはギルマスが「自分で聞いてみれば?その方がおもしろいから。」とシャイな年頃に容赦の無い返事をしていたからだ。
長身の三十路前後くらいの女性であるチビパンさんに誰が誰だか教えて貰おう、この人はリアルでもバーチャルでも頼りになる。いや、恐らく全員頼りになる人なんだろうけど、チビパンさんは割りと本質をズケズケ言っても敵を作らなさそうなので後腐れなく頼りになりそうだ。
「んー」とその頼みに少し考えてからチビパンさんは快く答えてくれた。
「まずは、あの隅っこ老人麻雀部。ギルマスと、真面目そうなおじさんがキールさん、おばちゃんがマグミさん、盆栽おじってそうなおっちゃんがタージリンさん。ギルマス以外は3人ともギルマス以上の年齢だよ。アニタさんも年上のはず。」
おいおい、親衛隊は老人クラブだったのかよ。
「その隣の車椅子の美人なお姉さんは?」自分はつい車椅子のお姉さんの個人情報を聞きたくなっていた、だって男の子だもん。
「アレにちょっかいかけるのはやめた方がいいよ少年。跳び陽炎ちゃんだよ。」
「ウッソ、ギルマスにいつも張り付いているクソ強い変人があんな美人で車椅子属性!?」
個人的には一番衝撃のある現実だ。
「お姉さんにはその属性がよくわからないよ少年。」チビパンさんはやれやれと首を振った。
跳び陽炎の中の人は顔立ちはやや男顔だが小顔でとても長い髪を束ね垂らし、ニコニコと微笑みながら老人麻雀でマグミさんと一緒にボコられているギルマスを注視している。
え?ちょっと歪んでませんか?このギルド。
「ククク、マグミがやられたか。」「奴は親衛隊の中では最弱、最年長だ。」「貴方達酷い子ね。」
ゲーム内でもよくされるやり取りが老人達から聞こえてくる。
「その他は、と。」チビパンさんがくるりと体の向きを変え、さっきチビパンさんが向かっていこうとした大食い若者集団を指差し「あの青い服装のあんちゃんがSIVA君、隣の赤い服のお兄ちゃんがにょっきり大臣。おい、にょの字ー。」え?そいつギルメンじゃない上に他国民なんですけど?
赤い服のお兄さんは振り返り「なんでしょうパンツの姉さん。」と言った、確かにこの顔には見覚えがある、ゲーム内のにょっきり大臣ピエロアバターにすごい似てる。キャラの顔面をキャプチャー機能で反映してイケメン補正をかけずに作っていたのか、未来に生きてるな大臣。
「パンツじゃねえよ。ほら、この子が果たし状のビータ君だよ。」と微妙に接点が無い、いやキルカウントは取ったり取られたり数回しているか、引き合わせをしてくる。
それを「おお!」とチャージスキルの如くこちらに接近し自分の手を神速の速さで取り握手しぶんぶんと昔のトロッコを動かす奴みたいに握った手を上下させた、こいつは肩を壊しに来てる。盤外戦?
「ビータ君!君の果たし状が叶う事を願うよ。コラーダ嬢は未だ西方で見かけないけど、死んではいないだろうさ!元気を出して!」と言った。
この人は良い人なんだろうけど脳内物質の出がちょっと多いよね。
その励ましに失礼になるかもしれないが、素直な疑問を投げてしまう。
「大臣さん、なんでここにいるんですか?」
「え?だってオフ会でしょ?しかもタダで私のバイト先に近い。ギルド限定じゃないんでしょ?」
「あっ!」確かにログにはオフ会はするけどギルド限定とは書かれていなかった!
「そもそもカラシさん、『いんぺりある苦労する』にも加入しているから西方側とも言えるよ?主催者が東西人ならオッケーじゃない?」
あのおっちゃん、スパイ行動を自分でしてたのか?いや、単純にあのギルドが巨大過ぎる為にギルドショップや素材取引の為に加入しているのか。
このゲームはアカウント単位でギルドを5つ掛け持ち出来るとはいえ、所属国不問ギルドである『全国商人組合』『素材屋マルガッパ』『紳士淑女の社交場』等と言った物流と情報交換専用ギルドで加入枠が埋まってしまうはずだ。
ふと脳裏にその他の全国ギルド『秘密結社†灯無夜』や『全てはFになれよ』(フェーダワールド専用ギルド)も過ぎったが、永久凍土は普通にフェーダワールドに橋頭堡を保持しているので対人ギルドは自前で事足りる。他人がどういう裏の顔(浮気用ギルド)を持っているかがこの時から妙に気になり始めた。
そう考えていると、にょっきり大臣とチビパンさんから挟まれるようにビシビシと肘打ちをされ始めた。なんなの?ボックス戦術なの?意味ありげな肘ウチをガードしつつチビパンさんの顔を見上げると、彼女は顎でクイッと老人麻雀卓の隣のテーブル席に座りながらうつむき気でジュースをチビチビ飲むロドリコ中身へ向けた。
「「行け!少年!」」と挟んでいる二人からほぼ同時にそう追い立てられた。
いくらかの料理とオツマミを青年組から拝借し、ロドリコの方へ向かう。「座ってもいい?」と自分は料理をテーブルに置きながら尋ねる、答えは分かっているはずだ。「どうぞ先輩。」とちょっと暗い声で返事をしてきた。こいつは嫉妬深く執念深く、ちょっとワガママだ。よく知っている、ゲームと変わらない。
座りながら老人麻雀卓へ視線をチラリと向けるとギルマスから殺気を感じた。
あれは「泣かせたらやっちまうぞ!」という顔だろうか、笑いでは無い歯の見せ方をしている。
向かい合う二人、少しの沈黙、視線交わらない。ユウリカが口を開く。「先輩、話をしましょう。」
「ゲーム内でもよく馬鹿話をしてたじゃないか。」「いいえ、ネットゲーム内ではネット上の線でしか喋れませんでした。私は先輩の話をもっと聞きたいんです。」
「そうか、そうだなあ。まずは自分の家族の話で良い?後は生い立ちとか、リアルの友人とやった馬鹿な事とか…学校の話は微妙かなあ。」「はい!そういう話が聞きたかったんです!」ユウリカはゲーム内の「先輩先輩!」と転がってくる時の様な微笑を見せて返事をした。
「まずは両親と妹が居て。」「先輩の家は両親が揃っているんですか、羨ましいです!」「いきなり重い話で腰を折るなよ。」
(背景音)
<王様が来れるか分からない?ああー、王様の顔目当てで私はここに来てるのもあんだよ!>
<酒も博打も女も抑えてバイトとネットゲーですよ。Die学生の本懐とは思いませんか姉さん。>
<おい、チビパン。マグミさんが泣きそうだから卓に入ってくれ。>
<わかった、やるよ!>
騒がしい背景音で二人の世界は作られていく。
「3歳年下の妹は最近親に反抗的になってきてるけど、俺の事は好いてくれてると思う。自分がマギラ2を始める時にマシンを新調したんだけど、お古のHMDとパソコンとか一式妹にあげたら見事にハマってる様でさ、人と戦えそうな性格じゃないからマギラ2には来なさそうだけど、そもそもあいつ金銭の計画性ないからマギラ2出来る環境作るの無理じゃないかなと思ってるんだ。」
「へぇー、私は一人っこだから兄妹とか羨ましいな、お兄ちゃん欲しかったな。お兄ちゃんって呼んでいいですか?先輩。」
「やめろやめてくれ、肉親以外からお兄ちゃんと言われるのはちょっとトラウマになっているんだ。」
「大丈夫っすよ。ボクはムキムキマッチョマンじゃないっすから!」
(背景音)
<リーチ一発タンピンドラドラァ!>
<ぎにやぁー!ワシ4位に転落するんですけど!?>
<黙れ不能老人、跳ね満ぐらいでガタガタ抜かすな。>
「リアルの友人は小学校からの腐れ縁の奴らでさ、頭の良さも見事全員腐れ縁だからネットゲーしている以外はよく遊んでる。ボードゲーム系とかシミュレーションゲームで友情を壊したり壊したりけど壊れないな。マギラ2始めてから目つきが悪くなったとか、獲物を見る眼は止めろと言われる様になったけどな。」
「そういう友達、私も欲しかったけど。周りはみんなカワイイとかオシャレとか彼氏がーとかで最近は疎遠になってきてるの…先輩には彼女とかいるんですか!?」
「無いです。」
「そっかーそうなんだー。」
「その安心した様な納得は実に心に刺さるぞロド。」
「ユウリカって呼んで下さい、それが第二歩です。」
「なんの歩みだよ、人類の大きな一歩でもあるまいし大げさな。」
「私にとっては月面を歩くよりも大きな歩みですよ先輩。」
(背景音)
<王様が着たぞー。>
<あ、どうも。La-Ryo-Oです。>
<王よ、遅いじゃないですか。さあ、まずは駆けつけ一杯ぐぐっと。>
<そう言ってテキーラをストレートで出す大臣よ、それはどうかと思うぞ。>
<あ、イケメェン!イケメェン!?>
<おい、チビパン!勝ち逃げすんな!>
<王様!その顔でゴリラプレイする時ってどんな気持ち?どんな気持ち!?>
<俺だってキ○ガイゲージは溜まるんですよ。>
「…学校は公立の普通だと思う高校に通ってる、でも隠れたネットゲー部なんてある程度のオツムの学校だよ。あいつらとはゲーム性が合わないから自分は入っていない帰宅部だけど、その時間を友人と色々馬鹿やって過ごして風呂と夕飯の前と後にマギラ2をやって、ちょっと勉強してから寝るくらいの日常だよ。よくいる高校生さ。」
「私はちょっとちょーっとぼっち気味で担任の先生に「筑紫、お前後2回遅刻したら留年な。」って言われる程度の女です。ゲーム内ではロールプレイが大好きです。遺憾っていう感じなんですけど、そこは父親似なのかなぁと自覚はあります。」
「ギルマスのあれはロールプレイじゃなくて天然じゃないの?」
「いえ、パパはああ見えても寂しがり屋で仕事も窓際族からの地方単身赴任で、今日も青森から新幹線で来たそうです。豪快なのは見せかけだけ、ママに逃げられても食い下がらない臆病な人。」
「すごい重い話なんですけど、俺にどういう感想を持てと言うのだユウリカ君。」
「いえ、ありのままを伝えたかったので感想は心にしまって置いて欲しいです。」
そこへ第三者の声がかかる、車椅子に乗った美人さんが話しかけて来たのだ。ユウリカの顔がちょっと強張った。
「こんばんは、ビータ君、ユウリカちゃん。私は跳び陽炎のプレイヤー、伊地知サアラと言います。よろしくね。」ニッコリと笑うその顔はゲーム内の無表情で常に闇を纏うギルド最強の凶手とは思えない。
さっきの話を聞いてたのだろうか、跳び陽炎の中の人はユウリカへ「ユウリカちゃん、ママが欲しいなら私がママになるよ?」とちょっと怖い事を言い出した。
ユウリカはムッっとした表情をして「パパとママが別れたのはそんなのじゃないんだから!」と声を荒げ叫んだ、こいつが本気でキレる所をゲーム内外でも初めて見た。
「ユウリカ、恥ずかしいから少し声を下げろ。後サアラちゃんは親友の娘だ、間違っても誤解は生まれないしワシはサアラちゃんの幸せを願ってる。良い男をさっさと見つけろよサアラちゃん。」とギルマスが苦々しい顔で声を掛けてきた。
(背景音)
<まーた始まった。おい、もっと知らんぷりして飲めよ。>
<あれはギルド唯一の暗部や、ほっとけほっとけ。>
<跳び陽炎さんは趣味が悪いからな。>
またしても沈黙が訪れるも跳び陽炎さんは「二人の邪魔しちゃってごめんなさい、またね。」と言い麻雀卓のギルマスウォッチングへ戻っていった。
気まずい席になってしまったが、自分は勇気を出して仕切りなおす、それが先輩の努めだ。
「お前の周囲が複雑なのはよく分かったよ。でも、俺は今まで通り変わらずにゲームをするよ。大人の事情や裏の顔なんて見たくはない、ゲームを楽しみたいからな。これからもよろしくな、ロドリコ。」
そう答えるとユウリカは曇り顔から晴れ顔に戻り。
「はい、先輩は今のままでいて下さい。あの眼差しのままでいて下さい。」と答えた。
あの眼差し?なんの事だろうか。
設定
ゲームキャラクターと中の人
・完成ロドリコ レース:獣人男
スキル
狩神信仰100 召喚魔法90 格闘90 弓80 天然100 耐性80 冒険80 料理100 トータルスキル720
ウォーデンの鉄板構成である、後はもう有料サービス地獄と装備集めが待つ。
中身は筑紫ユウリカ(16歳)
・チビパン レース:トロル女
スキル
死神信仰100 召喚魔法90 強化魔法100 魔力操作30 投擲100 天然80 暗闘80 耐性100 冒険100 トータルスキル780
大柄な三十路女、チビパンの名前の由来は昔飼っていた犬の名前らしい。最初は獣人にしようとしていたが、トロルかっこいいよね、ってことになりトロルサマナーとなる。ギルド永久凍土切り込み隊長。
妹がいるらしい。
・跳び陽炎 レース:ノーマッド男
スキル
運命神(蜘蛛神)信仰100 強化魔法100 両手武器100 片手武器50 盾40 暗闘100 耐性100 吸血80 錬金90 トータルスキル760
25歳車椅子の女性『伊地知サアラ』、親の保険金と障害年金で生活している。家族の突然死による傷心の最中で舎人戸にあれこれ書類手続きして貰って惚れてしまう。
その戦闘スタイルは一見ストイックに見えるが玄人が見たら「こいつサディストじゃね?」という感想が出る戦い方をする。「本人曰く、本当の恐怖を植えつける為。」だとか。足が動かないのでフットペダルが使えなく手札は単調になりがちだが反射神経のすごさでカバーしている。ギルド永久凍土親衛隊。
・キール レース:ノーマッド女
スキル
心神信仰100 両手武器100 弓80 音楽100 戦術100 耐性90 冒険100 錬金90 トータルスキル760
ネットゲー黎明期に超人気Blogを運営していたが突如フラリと消えた人、カラシニコブの師匠の一人。
ギルド永久凍土親衛隊だが客将扱いが正しい。中身は50代後半の男
10/20 少し改訂




