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2.うごめく陰謀?

「あ~、恥ずかしかった……!」

 何とか校内に逃げ込みはしたものの、私の憤りは収まるはずもなく、先に校内へと向かったはずの奴も見当たらず。

 大多数の人に見られたから、噂になるのも時間の問題だ。陰鬱な気分のまま自分の教室にたどり着き、溜め息をつきながらドアを開く。

「桐子、振られたんだって!?」

 いやいや時間の問題どころか、すでにクラスに伝達されてるし!?

 キラキラした目でこちらを凝視してくる女子は、私の友人の安藤夕香(あんどうゆうか)だ。活発でポニーテールがよく似合う美人だが、ミーハーなのが玉に(きず)。ことさら、他人の恋バナというやつには目がない。

 確実に面倒なことになるので、できれば彼女には知られたくなかったけど、今の状況を打開するには誰かしらには相談する必要がある。その適任者はやはり考えたところ、夕香しか思い当たらない。気を許せる友人であることは事実だし、こういう相談には持って来いな気がする。

 私は思い直して彼女に打ち明けようと口を開きかけるが、

「あんたが告白ってのも驚きだけど、まさか相手があの神代(かみしろ)先輩とはね!」

 夕香の無駄に生き生きとした表情で語る言葉の一部が引っ掛かった。

「かみしろ……?」

 聞き慣れぬ名前に、まさかそれが奴の名前なのかと思わず眉をひそめる。

「何よ、そのビミョーな表情は。……って、当たり前か。振られたんだもんね、ごめんごめん」

 軽すぎる。しかも半笑いだし。それが振られた友人に対する態度か? いや、振られたつもりはさらさらないんだけど。そうだ、まずはその誤解から解かねば。

「夕香、ちょっと待った!」

 私は仁王立ちになって、高らかに声を上げた。

「私、告白してないから! あの人誰かも知らないし!」

 途端、キョトンとする彼女――並びにクラスメイト達。

 お~い、何だよ皆して。というかクラス全体に私の話は筒抜けなわけ?

 すると、夕香は乾いた笑いで肩をぽんぽん叩いてきた。

「あんた、今さらそんなこと言っても」

 そんなこととはどんなこと?

「もう全校生徒が知ってる勢いなんだから。桐子が神代先輩にラブレター渡して振られたことは」

 クラスメイト全員が私に哀れんだ瞳を向けている。

 ほほう、私はラブレターを出したのか。そしてそれを全校生徒が知って……

「はあ!?」

 私は思わず肩に掛けたカバンを床へと落とす。

 それはおかしくないか!? ついさっき振られたばっかなのに!?

「な、なんで全校生徒が知ってんの……!?」

「え……いや、学校来た時にはもう瞬く間に噂になってたし。ねえ?」

 周りの皆に同意を求め、うんうんと頷く一同。

「学校来た時には……っておかしいでしょ!」

 今さっきの出来事が、どうやったら一瞬で全校生徒に知れ渡るのだ。

「う~ん、そう言われればそうかもしれないけど。でも、振られたのは事実なんでしょ?」

「それは……」

 事実だ。だけど、告白してないんだから無効である。

 言い返そうとしたところで、チャイムが鳴り響く。席に戻り始めるクラスメイト達に、これ以上何を言っても無駄だと私も大人しく席へと向かった。

 ただ一つ、わかったことがある。

 私は完全に嵌められた。どこかの誰かに。

 神代という人物にラブレターを渡し、私が振られたという噂を広めた第三者がいるのだ。

 何がなんでも突き止めて、この汚名を返上せねば……!!



 まず何をするかだけど、そんなのは決まってる。

 あのテンパ男こと神代先輩に接触し、誤解を解く。私が宛てたというラブレターを見せてもらえれば、筆跡などからも差出人は別人だということがわかるはずだ。そこから犯人の手掛かりも出てくるに違いない。

 昼休み、さっそく彼のもとへと馳せ参じようとしたのだが、クラスもわからない。「お弁当食べよ」と誘ってきた夕香を見て、とりあえず彼女から情報収集することにした。

 席を向かい合わせてお弁当を机に広げ、私はすぐさま本題に入る。

「神代先輩って何年何組? そして何者?」

「…………ねえ、ほんっとーに告白してないわけ?」

 顔を近付けて聞いてくる彼女に、私は大袈裟なほどに首を縦に振る。

「大体、私が告白なんてすると思うの? 何年の付き合いしてんの!」

「まだ一年ちょっとですが。まあ確かに、桐子は恋愛疎いし、聞いた時は信じられなかったけど。とりあえず先輩って言ってるんだから、三年に決まってるでしょ。確か一組だったかなぁ。ちにみに、生徒会の副会長ね」

「生徒会副会長!?」

「ホントに知らないんだ……。あたし、桐子にかなり熱く語ったこともあるのに」

 確かに、ちょっとした(?)問題が起きたことがあるくらい、夕香は生徒会メンバーにハマッていた。私も彼らについて当然聞かされてはいたけど、顔と名前なんて一々覚えてないし、興味もなかった。そうそう生徒会と会う機会もないのだから、仕様がない。

「どっちかというと優男な雰囲気だったんだけど、どんな人?」

 呆れ顔の夕香に私は構わず質問を続けると、途端、彼女の表情がぱっと明るくなる。

「とりあえずイケメンね! この学校で生徒会長と一、二を争う人気があるの。秀才だし、運動神経もいいみたい。ただしかなりの変人でもあるって噂。体育祭にパン食い競争を強制的に導入させたり、文化祭ではメイド喫茶や執事喫茶を全面的に協力したり。んで、優男な見た目に反して、ファンの女子には結構クールね。付き合っても長続きしないみたいだし」

 淀みない説明に少し気圧されつつ、何だか面倒そうな人物と関わってしまった気がしてきた。

「夕香のタイプなの?」

「いや、あたしは遠くから眺めるだけで十分。それに、生徒会長の前園(まえぞの)先輩のほうが好みかな。ちょっと影がある感じなんだけど、成績は学年一位で、温厚な性格の人格者! 眼鏡がポイントね。神代先輩とも仲良くて、二人並ぶと壮観なのよね~」

 本当にこういうことには(特に生徒会について)、やたらと詳しい友人だ。

「それにしたって、これからどうする気なの桐子」

 ふと真顔に戻られ、言葉に詰まる。だけどすることはやはり一つだ。

「神代先輩にラブレターを見せてもらう」

 私はそう断言した。

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