1.突然の失恋
「寺石桐子さん。悪いけど、君の気持ちには応えられない」
不躾にそう言われ、私はただ呆然とするしかなかった。言っている内容も不明なわけだが、まず第一に彼は一体どこの誰なんだ。
ちなみに私は高校二年の女子高生。私と同じ高校の制服に身を包んでいるところから、同級生か上級生か、はたまた下級生だということはわかるけれども。
彼は私より頭一つ分近く高い身長で(私は155センチくらいだから170センチはあると思われる)、 少し天然パーマっぽいボブカットの焼き栗色の髪。垂れ目とまでは言わないけれど、物腰の柔らかそうな瞳。雰囲気からは上級生のような大人っぽさが窺える。しかして、まったく見覚えがない。
しかも、めちゃくちゃ真剣にこちらを見つめてくるもんだから、私は対応に困った。「一体、何の話でせう?」そう口にしようとしたところで、ふと周りの視線に気付く。
……あれ、なぜだか注目を浴びている?
別に私が変な仮装をしているとか怪しい踊りをしているとか、そういうことではない。今いる場所が問題なのである。何しろ校庭のど真ん中なのだ。清々しい朝日に照らされ、生徒が多数登校しており(私もその中の一人だった)、突如彼が私の目の前に姿を現して現在の状況に陥ったのである。結構目立つオーラ放ってる人だし、声も無駄にハキハキとした口調だから、完全に彼の言葉は筒抜けだったようだ。
周りの学生のひそひそ話に耳を傾ければ、
「振られたの?」
「振られたんじゃない?」
「振られたな」
「振られたんだ」
…………って、おい。
思いっきり、私が告白して振られた可哀想な人になってるんですけど!?
「ちょっと待った! あなた一体――」
これではあまりに不本意すぎる。慌てて誤解を解こうとするが、彼は至って落ち着いた様子で、私にみなまで言わせず手のひらをこちらに向けた。
待てのポーズである。犬じゃないが思わず口をつぐむ。
そして彼は真剣な眼差しのまま、ゆっくり口を開いた。
「それじゃ、オレはこれで」
…………はあ!?
思わず固まってしまったが、いやいやいやいや、それはないでしょうよ、お兄さん。
マジで立ち去ろうとする彼を引き留めようとし手を伸ばすが、これでは振られたのに諦められない哀れな女にしか見えないだろうと言う、どこか冷静な自分がいた。颯爽と校内へ向かう彼を逡巡しながら眺めつつ、結局伸ばした手を引っ込める。
奴は絶対誰かと勘違いしているに違いない。確かに私の名前を呼んではいたようだが、私は生まれてこのかた、彼氏と呼べる存在がいたこともなければ、告白をしたこともない。片想いをした覚えもないほどだ(別にまったく興味がないわけではなく、ただ自分の感性に合った人物に出会ったことがないだけ……だと思う)。身なりもあまり気にしていない。化粧はしないし(血色はとてもよい)、爪も伸ばさないし(清潔感はある)、髪も染めないし(きれいなミディアムヘアの黒髪だと自負はしている)。
とにもかくにも、恋愛とは縁遠い生活をしてきたこの私が告白するなんてありえない! しかも見知らぬ男に!! なぜ、こんな羞恥プレイを受けなければならないのか……!?
周りの視線が痛い。この場に留まるのはあまりにも居たたまれない。
――取り敢えず、逃げよう。
そう決意した私は、引っ込めた手を震えるほどに握り締め、猛ダッシュで学校に向かった。
おのれ、あのテンパ男!! この怨み、晴らさでおくべきか~!!




