始業3分前。
――桜が舞い散る春、私たちは高校二年に進級した。
クラス名簿を手にしたとき、私は飛び上がってしまうかと思うくらいの嬉しさを、しばらく堪能していた。
「おーい。菜乃花!!早くいくよー。」
「んー。」
中学からの友達、琴葉に声をかけられて我にかえる。
琴葉とはクラスが離れてしまったが、休みにしょっちゅう会うからあんまり関係ない。何より嬉しかったのが、恋人、彰人と同じクラスになれたことだ。
「あ、そうだ。」
「何?」
「今日、彰人君と帰るでしょ?その時にこれ、拓に渡してって頼んで欲しいんだけど。」
「また?いい加減、自分で渡したら?」
「だって私が行ったって、特に喜ばないだろうし、だったら彰人君が行った方が断然良いし、それならついでに渡して貰おうって。っていうかいいなー、拓と同じクラスで。」
琴葉は拓という彰人の親友に想いを寄せている。
拓は2ヶ月前、ある女の子をかばい、交通事故に遭ってしまった。
優しくて、そんなに顔も悪くない拓は、意外とモテるようで、一年生のときもよく女の先輩から呼び出されていた。
そんな訳で拓のお見舞いに行く女の子は多く、琴葉はそのなかに入るのが気まずいらしい。
「ふーん。まあ、分かったよ。」
こんな琴葉の初々しいセリフを聞いてると、あの頃の自分を思い出す。めちゃくちゃひた向きに彰人を想っていた、あの頃。
「ありがと!よっ。彰人の彼女!」
「あ、あんまデカイ声でいうな!!」
「ごめんごめん。」
「分かればよろしい。」
下らないことをしている時も、大切な事を学んでいる時も、つまらない事をしれいる時も、時間は刻々と進む。
誰がどうもがいてもそう。時間は止まらない。今こうしている幸せな時間も、あっというまに過ぎる。
「あ、時間。」
ふと時計を見ると、すでに8時27分を回っていた。始業の3分前だ。
クラスの違う私たちは、別々の道を歩み、それぞれのクラスへ時間に余裕を持たせて戻った。
小説とかでは、話している途中でチャイムが鳴って、ギリギリアウトで戻って来るのが正解なのであろうか?
多分正解だと思う。でも、私たちにそんなストーリーはない。私たちには日常的な物語がぴったりなんだから―――。




