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30 活動開始

 作戦会議も終わり、俺達は王都の南門を抜ける。

 冒険者がいたらどうしよう……と思っていたがそれは杞憂に終わる。

 冒険者の姿が一人も見えないのだ。好都合とはいえ珍しい。


「さて、このへんでいいだろう。ユズル君、この服の上に爆弾を置いてくれ」


 バサッとルカの無防備に置かれた。

 風は特に無いので風向きを気にする必要もなさそうだ。

 爆弾の強さがどれくらい強いかがわからない。そして爆弾を取り出した瞬間爆発する可能性もある。

 なので「離れててくれ」といって、爆弾の遮蔽物となるように服と俺達の間にトラックを配置する。



 俺も少し距離を取り、爆弾を服の上に荷物噴出で設置した……が特に爆発する様子は見られない。

 爆弾が設置されたのだろう。カチッと無機質で、なんとも不快感のある音が聞こえた。

 ミリアの方を見ると頷いてくれた。準備は出来ているのだろう。


「それじゃトラックをもとに戻すぞ。爆弾は服の上に置かれているから注意してくれ」


 トラックを送還する。広い草原にポツリと異質な爆弾と服が不気味さを際立たせる。

 ふぅ……とミリアが一呼吸し、前に出る。


「では起爆始めます。みんな下がっててください。……下がりましたね。行きます。――ファイヤーボール!」


 ブォッと音が鳴り、バレーボールくらいのサイズの火の玉が素早くミリアの手から離れる。

 ミリアは急いでその場を離れる。

 ファイヤーボールが爆弾に触れたその瞬間――

「ドォォオン!」と鈍い音が出たと同時に服が燃え始めた。

 まるで電子レンジで加熱した生卵のように爆弾が激しく爆発し、その爆弾に込められた底知れぬ悪意に背筋が凍った。

 鼻を突くツンとした焦げ臭さと、肌を焼くような熱風が遅れてやってくる。

 爆心地に目を向ければ、そこには不気味なほど大きなクレーターが口を開けていた。もし街中でこれが起きていたら――そう想像するだけで背中に冷たいものが走る。

 

 少し時が経ち、火が沈下して落ち着いてきたので近づくとかなりボロボロになったルカの服がそこにあった。

 服自体に炎耐性が付与されているのか、服の原型は残っていた。

 プリンターのインクも鮮やかな赤色から生々しい赤色へと変貌し、実際にルカがつけている時に起爆していたところを想像すらしたくもない残酷な豹変ぶりだ。


「爆弾から魔力は感じなくなってるっす。もう爆発することは無いっすねー」


 この場にいる全員が安堵する。無事終わったんだな……

 

「よし、一旦回収して館へ戻るっすよー」


 ノアが服と爆弾を回収し、みんなで足並み揃えて王都へと戻る。


 

 館へ戻り、再度俺達は話し合いを行う事に。

 しかし先程までの堅い雰囲気はなくなり、みんなで和気あいあいとしている。 

 

「さて、これからについてなんだがノアには今夜幹部に偽の情報提供を行ってもらう予定になっている」


 ディッツさんが指と指を交互に組み合わせ、思考を整理するように固く結んだ。

 自信があるのだろう。ノアがやけに自信に満ちた顔をしていて「それくらい任せろ」と言わんばかりの風格を見せつけてくれる。


「まぁアルベルト商会の諜報員だし、それくらいは余裕でしょ。舐めてもらっちゃ困るよ、ウチはこれでもBランクの冒険者だからね」


――!?


 ノアから聞いたことのない声が聞こえてきた。今まではずっと少し高い声が出ていたが、どことなくお姉さんみたいな低い声だ。

 その事に驚いたのか、ルカもノアのことをじっと見つめている


「いやぁーそんなにまじまじと見られると照れるっすよ~。あと地味にウィッグも持ってるっすから、作戦を実行するときは赤い髪になるっす。諜報員として正体だけはバレちゃいけねーっすからね」

「とまぁこんな感じでノアのことを俺は信用しているんだ。今夜この作戦を実行させたらルカ君もユズル君も自由に動けるようになるだろう。それまでもう少し辛抱していてくれ」

「すっすー♪」


 俺はつい呆気にとられてしまう。異世界って本当に何でも有りなんだな……

 そういえば以前ディッツさんは人を亡き者にした場合必ず魔力が残るという説明をしていた気がするが、今回の場合どうなるのだろう?


「ディッツさん。一つ疑問に思ったんですが、リースの護衛が直接リースに手をくださなかった理由として殺害者の魔力が残るから……という理由を聞いた覚えがあるのですが、今回は魔力の心配などしなくても大丈夫なんでしょうか?」

「そのことなら問題はない。殺害者の魔力が残るのは『死体』にだ。基本的に衣服に残ることはない。ただ、今回の爆弾といったように魔力を込められた道具……つまり魔道具であれば作成者の魔力が残るが、ミリア君の魔力が爆弾に残ることもなければルカ君の死体も無いので問題ないと見ている。もっとも、あの爆弾の火力だ。そもそもヴォルフも魔力が残らないように強力な爆弾を仕込んでいたのだろう。恐ろしい話だよ」


 ルカが小さく震える。自分のことを道具としか見てなかったことに対してか、チリも残らないレベルの爆弾をつけられていたことかはわからないが、恐らくその両方に対してだろう。

 無意識のうちに俺はルカの頭に手を持っていき撫でている。ルカは落ち着いたのか、目を細めながら蕩けきった顔をしている。

 

「ということだ。他になにか気になることとか聞いておきたいことはあるか?」


 誰も反応しない。時計の針だけがカチカチと鳴る。

 

「ま、大船に乗ったつもりで吉報を待っておくっすよ」


 ノアが手をひらひらさせながら部屋を出ていく。

 その姿は歴戦の勇者をも彷彿とする、これ以上になく頼りになる姿であった



 ◇ ◇ ◇


 夜。私は王都のとある飲み屋が見える場所にいる。

 ユズルさんから受け取った爆弾とルカさんの前の服があることを確認する。


(よし、ちゃんとあるっすね。)


 あたりを見回すと飲み屋街独特のガヤガヤとした空気が流れ込む。

 夜にもかかわらずここは昼なんじゃないか そんな錯覚を起こしそうなほどあたりは明るく、上を向くときれいな星が並ぶ。

 赤い髪のウィッグも完璧だ。誰も私がノアだとはわからないだろう。

 

 手持ち無沙汰になりながらもネイマール商会の幹部が来るのを待ち続ける。

 数分待つと、目的としていた人物が二人並んで飲み屋に入っていった。

 あー、あー。よし、声の調子も悪くない。そろそろいきましょう。

 さて、ミッション開始ですね!


 店の中に入ると仕事終わりの人たちやクエスト上がりの冒険者がガヤガヤと盛り上がっている。

「エールをこっちに追加してくれ!」と頼み込むものや「もう呑めないよ……」とギブアップするものまで多種多様だ。

 あー、こういうのを見ると焼き鳥つまみながらエールを一気飲みしたくなるなぁ。だけど今は仕事だ、酒に溺れてはいけない。

 

「しかしヴォルフの旦那今日やけに機嫌が良かったが良いことがあったのか?」

「アレだろ。アルベルトの娘の暗殺に失敗した原因になった人間の始末と厄介な猫娘を始末できて機嫌が良くなっているんだろう。まぁ機嫌が悪いと平気で奴隷雇って痛めつける趣味あるからな旦那は。あの痛々しい姿は正直見ていられない」


 なんか裏事情みたいなの話してますね。

 だけど良い土産話が出来ました。ネイマールは既にユズルさんとルカさんは死んでることになってる可能性が高そうだ。

 

「ねぇ、嫌なもの見ちゃって1人で呑むの寂しいから付き合ってくれない?」


 二人揃ってこちらを見てくる。当然だ、席なんて開いているのにわざわざ声をかけに来たんだ。怪しいと思われても仕方がない。


「嬢ちゃん一人かい? 俺は大丈夫だがお前はどうだ?」

「あん? 俺等は楽しく飲んでるんだ。あっちいってくれ」


 断られました。ですが断られる事を当然想定しています。

 なので私は一言言いながらその場を立ち去ろうとする。


「はー、なんか変な男と猫みたいな娘が相打ちして両方死んだ所見てしまったし、ほんとついてないな。この爆弾と服も売れないしどうしよう」


 それを聞いた幹部達が目の色を変えて食いついてきた。

 わかりやすいのは嫌いじゃないよ。


「おい嬢ちゃん今の話詳しく聞かせてくれよ。奢ったるからよかったら一緒に飲もうや。おう、店員さん。キンキンに冷えたエールと適当にツマミをこっちに一個追加してくれや」


 気前よく幹部の1人がエールとおつまみを注文してくれた。

 奥から店員さんの「はーい!」という声が店に響き渡る。


「一緒に呑ませてくれるのか? ありがとう。さっきの話っていうのは何のことかしら?」

「今相打ちしてどうのこうの って言わなかったか? それについて分かることがあれば是非教えてほしいんだ」


 にっしっし。今日の魚はちょっと餌垂らすだけででかい口空けてくれるので楽勝ですね。

 言葉を整理しようとすると店員さんが冷えたエールと焼き鳥を数本持ってきてくれた。


 うおおおお!! 焼き鳥っす!! エール!! エール!!! カーッって飲んでガーッって食べたいっす!!

……いや、違う。突然の焼き鳥に語尾が戻ってしまうところでした。

 仕事が終わったら別の店に行ってしっかりと呑み直そう……


「その話ねぇ。今日クエストから帰ってる時に南門付近で変な格好の男の人と、なんかマント付けた猫人族が戦っててさ。男の人がファイヤーボールを猫人族に当てたと思った瞬間あたりに大きな爆発が起きて2人ともそれに巻き込まれたのを見ちゃったのさ。

 何が起きたのか分からなかったけど、ほら、死体の付けてた装備とかって見つけた人が好きなようにしても良いみたいな権利あるじゃん? だからなんか貰おうと思ったらボロボロの服と起爆した爆弾みたいなものしかなくってさぁ。売ることも出来ないしどうしようかなって憂鬱になってたんだよ」


 幹部2人が目の色を変えてこちらを見つめてくる。だけどわるいね、今は君たちよりも目の前の焼き鳥の方が興味があるんだ。

 ガツガツ食べたいけどここは我慢だ我慢……店主が出してくれたものとはいえ、幹部の注文方法に何らかの暗号が含まれててこの中に毒が入っている可能性も限りなく0に近いが0ではない。

 つまり今私は焼き鳥が食べたいのだよ。キンキンのエールが呑みたいんだよ!!


「ちなみにその服と爆弾って今見せてもらうことは出来るか?」

「ほら、コレだ。服はかなり汚れてるから触るときは気をつけてくれ」


 私はマジックバッグから服と爆弾を取り出す。

 幹部達は「この服……間違いない!」と興奮気味に話している。そうだ、そのままどんどん騙されてくれ。

 するとすごく申し訳なさそうに幹部がこちらにお願いをしてくる。

 

「嬢ちゃん、この爆弾と服譲ってくれないか。謝礼ならいくらか払うから頼む」

「服は大丈夫だけど爆弾はちょっともっていきたいところがあるんだ。知り合いにレアな魔道具集めてる人が居て、もしかしたらその人が欲しがるかもしれないんだ。服だけでいいなら汚れてるしあげるよ。せっかく愚痴付き合ってくれたその御礼だ」


 そうして私は彼らにルカの服を渡した。

 幹部たちはやいのやいのと騒いでいる。恐らく確実にユズルさんとルカさんが死んだ証拠としてもっていくのだろう。

 私は爆弾を返してもらって軽くお礼を言う。


「ありがとう、愚痴聞いてもらったからスッキリしたよ。お兄さんたちちょっとかっこいいからまたどこかで会えるといいね」

「おう、俺達はよくここで仕事終わりに酒飲んでるからよかったら遊びに来てくれ!」


 ガヤガヤとした店内から私はそっと表に出る。

 さて、エールと焼き鳥を別のお店に行って頂くっすよー!

読了いただきありがとうございます。

本編投稿は毎週月水金の3日、閑話投稿日は前話の翌日投稿となります。

詳しい投稿日時については活動報告書を参照ください。


投稿時間については全編一括18時半となります

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