刺激が欲しい夜ほど、舌は疲れている
カラン。
「もう普通じゃ満足できない身体になってしまった!」
「店、間違えてるぞ」
「違う!!
辛味が足りなくて……!!」
真っ赤な顔の男が、懐から香辛料の小袋をじゃらじゃら出した。
「何にでもふりかけてたら……
彼女に“気持ち悪い”って振られそうになってる!!」
クリムが「きゅ……(過剰摂取)」、
ルゥが「わふ(胃が泣く)」と距離を取る。
俺は腕を組む。
「で、何のためにそんなに辛くしてる?」
男は一瞬、黙った。
「……普通の飯だと、
一日が終わった感じがしなくて……
刺激がないと、満たされないんだ」
なるほど。
舌の問題じゃない。余韻不足だ。
俺は小瓶を三つ並べる。
⸻
◆一本目
【舌と胃を休ませるポーション】
「まずこれ。
辛味は“快感”じゃなく“痛覚”だ。
使いすぎると、感覚が鈍る」
男がごくりと喉を鳴らす。
「休ませないと、
もっと強い刺激しか感じなくなるぞ」
クリムが「きゅ(下げると上がる)」。
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◆二本目
【味覚リセット・ポーション】
「次。
辛味以外の“うまい”を思い出すやつだ」
瓶を軽く揺らす。
「甘い、旨い、香ばしい。
刺激だけが満足じゃないって、
舌に教え直す」
ルゥが「わふ(肉の旨味)」と鼻を鳴らす。
⸻
◆三本目
【一日の達成感を別ルートで満たすポーション】
「最後がこれだ」
男が身を乗り出す。
「“辛くしないと終われない”ってのは、
一日の締め方が他にないってことだ」
俺ははっきり言う。
「これは、
運動、入浴、音楽、静かな時間――
刺激以外で“今日はやった”って感覚を作る」
男はしばらく瓶を見つめ、肩の力を抜いた。
「……俺、
辛さで誤魔化してただけか」
「大体そうだ」
俺は付け加える。
「彼女が嫌がってるのはな、
辛さそのものじゃない。
“止まれなくなってるお前”だ」
男は深く頷いた。
「……全部ください。
彼女と、普通に飯食いたい」
「おう。
刺激は敵じゃない。
主役にするな」
男は軽く頭を下げて出ていった。
扉が閉まる。
俺は帳簿に書く。
【辛味依存:満足の代替行動不足】
肩を回して、ぼそっと。
「……次は来るな。
『山椒がないと眠れません』って」
クリム「きゅっ(来る)」
ルゥ「わふ……(確定)」
……やれやれ。
でもまぁ、舌も心も、
休ませればちゃんと戻るんだよな。




