帰る場所は、ここ
店の扉が、カラン、と鳴った瞬間――
空気が一気に“いつものやつ”に戻った。
「うおー!生還祝いだ生還祝い!」
ガイルが両腕を広げて入ってくる。
「声でかい」
「生きて帰ったんだぞ!?」
ハイドは棚を眺めながら、勝手に座る。
「……これ、前より増えてない?」
「増えた」
「だろうな」
エドは無言で頷き、
ミスティはカウンターに肘をついて深呼吸。
「……ああ、落ち着く……」
「わかる」
ミーナは店内を見回して、少し笑った。
「……本当に、戻ってきたんですね」
クリムが棚の上から「きゅっ」と鳴き、
ルゥは入口でどっしり構え、尻尾を振る。
完全に“我が家”の顔だ。
そこへ、どやどやと常連が雪崩れ込んでくる。
「店主!二日酔いのやつ!」
「雨の日だるいの残ってる?」
「例の集中のやつ、三本!」
「子ども寝かせる香、ください……」
「はいはい、並べ。命は一列で頼む」
パーティの面々が顔を見合わせる。
「……いつも、こんな?」
「いつも、こんな」
その時だった。
バーン!!
扉が勢いよく開いた。
「店主!!
俺は!!
人生を変えたい!!!!」
入ってきたのは、
ヒョロヒョロの男。
筋肉?
ない。
覇気?
ない。
声だけ、でかい。
「今すぐ!
ナイスミドルなボディが欲しい!!」
俺は瓶を拭く手を止めて、言った。
「何年かかるか、聞く覚悟はあるか?」
「……え?」
「ポーションは“補助”だ。
主役はお前の継続だ」
「……」
「まずは寝ろ。
次に食え。
それから動け」
「……ポーションは?」
「最初は【三日坊主防止】だ」
男は、深く、深く頷いた。
「……人生、舐めてました……」
「知ってる」
男は静かに去った。
店内に、沈黙。
そして――
「……ぶはっ」
ハイドが吹き出す。
「あはははは!!
ナイスミドルって!!」
「もうやめてよ!」
ミスティが笑いながら肩を叩く。
ガイルが腕を組んで頷く。
「……でも、正論だったな」
ミーナがくすっと笑う。
「ここ、人生相談所でしたっけ?」
クリムが「きゅっ」と鳴き、
ルゥが「わふっ」と同意する。
俺はため息をついて、肩をすくめた。
「……ポーション屋だよ。
ただし――」
棚を見渡す。
「疲れたやつが来る場所で、
ちょっとだけ前に進む手伝いをするだけだ」
みんなが笑う。
ふはっ。
あははははは。
くっ。
もうやめてよ。
だって。
きゅっ(筋肉)。
わふっ(鍛えろ)。
やれやれ。
今日も、平和だ。
俺は新しい瓶にラベルを書く。
【今日をなんとかするポーション】
――やっぱりこれが、
一番よく売れるんだ。
「いらっしゃい。
疲れた身体には――」
カラン、と扉が鳴る。
「……やっぱりこれ、だな」




