臭いの正体は鼻じゃなくて頭
店の扉がカラン、と鳴った。
「店主! 臭い消しあるか?」
入ってきたのは、
鎧も服もちゃんと洗ってそうな冒険者。
汗臭さも、獣臭も、正直感じない。
「どこ用の臭い消しだ?」
「わからん」
「は?」
冒険者は真顔で言った。
「自分が……
常に臭いと感じる」
……あー。
これは、鼻の問題じゃないやつだ。
クリムが「きゅ?」と首を傾げ、
ルゥは一歩下がって、念のため距離を取る。
※無意識の安全確認。
俺は腕を組んだ。
「まず確認する。
他人に言われたか?」
「言われてない」
「避けられたか?」
「ない」
「風呂は?」
「毎日」
「服は?」
「洗ってる」
「……じゃあ、臭くない」
冒険者が固まる。
「でも……
どこ行っても、自分の周りだけ
変な臭いがする気がして……」
⸻
俺は淡々と整理する。
「それな、
嗅覚過敏+疲労+自己監視だ」
「……自己監視?」
「人前に出る時間が長いか、
失敗続きか、
気を張りすぎてるか、
どれか当てはまるだろ」
冒険者は、ゆっくり頷いた。
「……最近、
新人と組まされてて……
ミスできないと思って……」
「はい正解」
クリム「きゅ(原因発見)」
ルゥ「わふ(鼻は無実)」
⸻
俺は棚から小瓶を三つ並べた。
最初の一本を軽く叩く。
「これは、
嗅覚の“過剰反応”を落とす」
「鼻を鈍くするのか?」
「違う。
“危険じゃない臭い”を
脳がスルーするようになる」
冒険者は安堵の息を吐いた。
⸻
二本目。
「こっちは、
自分をチェックし続ける思考を止める」
「……ずっと
“大丈夫か?”って考えてました」
「だろうな。
臭いは原因じゃなくて、
結果だ」
⸻
三本目。
「最後は、
現実確認用だ」
冒険者が首をかしげる。
「飲むと、
“今の自分の体臭が他人にどう届いてるか”
一瞬だけ分かる」
「え、それ怖くないですか?」
「怖い。
でもな、
“問題ない”って分かると
一気に楽になる」
クリム「きゅ(勇気)」
ルゥ「わふ(真実は強い)」
⸻
冒険者は三本を見つめ、
しばらくして小さく笑った。
「……俺、
臭いんじゃなくて、
追い詰められてただけか」
「そうだ」
俺は最後に言った。
「本当に臭いやつは、
自分で気づかねぇ。
気づきすぎる時点で、
もう十分まともだ」
冒険者は深く息を吸い、
瓶を受け取った。
「……助かりました。
鼻じゃなくて、
頭を洗ってきます」
「洗うのは風呂だけにしとけ」
扉が閉まる。
⸻
俺は棚を整えながら、ぼそっと呟く。
「……人間、
一番きつい臭いは
“自分への疑い”なんだよな」
クリム「きゅ(納得)」
ルゥ「わふ(いい匂いは安心)」
さて次は、
「他人の匂いが気になりすぎる」か、
「香水つけすぎ問題」か。
……どっちも来そうだな。




