パンの香ばしい匂い
ドタドタドタッ!!
騒々しい足音が、朝のアトリエに響き渡った。
二階から続く白亜の階段を、二つの影が転がり落ちるみたいに駆け下りてくる。
「やばいやばいやばい!!」
「る、ルナ! 待ってよ! 寝癖すごいよ!?」
先頭を突っ走るのは、髪を豪快に跳ねさせたルナ。
その後ろを、防具を鳴らしながらネスが慌てて追いかけてくる。
「乗合馬車に乗り遅れちゃう!!」
「みなさん、おはようございます!」
悲鳴を上げるルナの横で、ネスがロビーで寛いでいる人たちにまで律儀に頭を下げる。
そのままの勢いで、二人はカウンターへ滑り込んだ。
「『疲れたらこれ』ってやつと、花蜜採取クエスト用のおすすめポーションちょーだい!!」
バンッ、と。
ルナが使い込まれた木のカウンターへ身を乗り出して叫ぶ。
「こ、これ、お願いします……っ」
ネスが横からひょっこり顔を出し、走り書きされた紙片のメモを差し出した。
「かしこまりました。おはようございます、お二人とも」
リヒャルトが完璧な営業スマイルを浮かべ、流れるような手つきで棚から小瓶を見繕う。
メモを受け取る前から、すでに彼の手元には目当ての小瓶が数本、整然と並べられていた。
「ルナさん、ネスさん、おはようございます!」
奥の厨房から、朗らかな声が響いた。
レッターが、湯気を立てる小さな紙包みを二つ抱えて小走りでやってくる。
「あ! レッター! 三日ぶり!」
「おはようございます!」
「朝ご飯、まだですよね? これ包んだので、道中でどうぞ」
レッターが、温かな包みを二人の手へ押し付けた。
焼き立てのパンと、香ばしく焼けた肉の匂いがふわりと広がる。
ルナとネスの顔が、ぱぁっと輝いた。
「「やったー! 飯だ!!」」
リヒャルトが手早く包んだポーションを置く。
ネスが財布を開き、硬貨をカウンターへ滑らせた。
コト、と。
木の上で、静かで重みのある音が鳴る。
「お釣りは結構です!」
ポーションと朝ご飯の包みを胸に抱え込み、二人は踵を返した。
「行ってきまーす!!」
嵐みたいな勢いのまま、扉を押し開けて外へ飛び出していく。
朝の眩しい光が、一瞬だけアトリエに差し込んだ。
カラン!
扉が閉まる。
「気を付けてなー!」
「行ってらっしゃい!」
ロビーで朝の茶を飲んでいた人たちが、笑いながら陽気な声を背中へ投げた。
嵐が去ったあとのような、不思議な静寂が落ちる。
ゴリ、ゴリ、と。
「……朝から元気だな」
店主が、呆れたように鼻を鳴らす。
その手は止まることなく、乳鉢へ一定のリズムを刻み続けていた。
「若いって素晴らしいですね。……虫除けの香は、少し多めに入れておきました」
リヒャルトが硬貨を静かに回収し、ふふ、と優雅に笑う。
壁際で。
メテスが音もなく腕を組み、二人が消えた扉を見つめている。
その口元が、ほんのわずかに緩んでいた。
「きゅ!(パン落とすなよ!)」
「……わふ(……騒がしい奴らだ)」
床で微睡んでいたルゥの背中でクリムが鳴き、ルゥが目を細めて低く喉を鳴らした。
青苦い薬草の匂いと、微かに残ったパンの香ばしい匂いが、静かな朝に溶けていく。
みなさま( ՞. ̫.՞)"おはようございます!




